自動運転分野、日本や海外の「IT系×自動車メーカー」重要提携まとめ

コングロマリット化の様相



自動車業界とIT業界の結びつきが強まっている。20世紀末ごろから世界経済を引っ張り続けているIT系企業は、インターネットを通じた情報通信産業から発展を遂げ、AI(人工知能)や半導体開発、新たなサービスの創出などその役割は多岐に及び、コングロマリット化の様相を強めながら今なお大きな存在感を示している。


このIT系企業が今力を入れているのが次世代に向けた自動車開発で、自動運転技術の開発やコネクテッドサービスなど、あらゆる分野で自動車関連企業と結びつきを強めている。

世界を股に掛けるIT企業と自動車メーカーの結びつきにはどのようなものがあるのか、まとめてみた。

  1. トヨタの自動運転戦略まとめ
  2. ホンダの自動運転戦略まとめ
  3. 日産の自動運転戦略まとめ
  4. ヤマハ発動機の自動運転戦略まとめ
  5. テスラの自動運転戦略まとめ
  6. アウディの自動運転戦略まとめ
  7. GMの自動運転戦略まとめ
  8. メルセデスベンツの自動運転戦略まとめ
  9. ダイムラーの自動運転戦略まとめ
■ソフトバンク×トヨタ 将来のMaaS事業に向け新会社設立

ソフトバンクは2018年10月、トヨタ自動車と共同で新会社「MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)」を設立し、オンデマンドモビリティサービスを皮切りに事業に着手することを発表している。

事業内容は「オンデマンドモビリティサービス」「データ解析サービス」「Autono-MaaS事業」の3点で、トヨタが構築したコネクテッドカーの情報基盤である「モビリティサービスプラットフォーム(MSPF)」と、ソフトバンクの「IoTプラットフォーム」を連携させ、車や人の移動などに関するさまざまなデータを活用することにより、移動における社会課題の解決や新たな価値創造を可能にする未来のMaaS(Mobility as a Service)事業の展開を目指すこととしている。



■Google(Waymo)×ジャガー・ランドローバーなど 無人配車サービス実現に向け車両販売の大型契約締結

グーグルは当初、自動運転車を一から作り上げようと開発を進めていたが方針を転換し、2016年に自動運転開発部門としてWaymo(ウェイモ)を分社化した。

ウェイモは、2018年3月にジャガー・ランドローバー、6月までにフィアット・クライスラーとそれぞれ提携し、合わせて8万台余りの車両を購入する方針が発表されている。2018年内に自動運転レベル4相当の自動運転車による有料配車サービスを開始することを発表しており、事業化に向けた動きとみられる。

なお、ウェイモは2016年にホンダと自動運転技術領域の共同研究に向けた検討を開始しており、最終合意も間近に迫るなどの憶測が飛び交う中、2018年10月にホンダが米ゼネラルモーターズ(GM)と同社の自動運転開発会社クルーズと協業を行うことが発表され、波紋を広げている。

ウェイモとGMは無人配車サービスで競合関係にあり、ホンダがGMを選んだとの見方が報道されているが、この件に関しホンダは声明を発表していない。

■マイクロソフト×フォルクスワーゲン(VW) コネクテッドカー向けクラウドシステムを共同開発

2018年10月2日までに、クラウドシステムにおいて独フォルクスワーゲン社と提携することが発表されている。今後、VW専用グローバルクラウドプラットフォーム「Volkswagen Automotive Cloud」の共同開発を進めることとしている。

ドライバーが運転中でもシームレスにデジタルサービスにアクセスできるコネクテッドカーを開発する上で、サードパーティプロバイダーによるアプリケーション連携などの課題を解決していく方針で、コネクテッドカーのクラウド基盤に、マイクロソフトが開発・提供するクラウドサービス「アジュール」を組み込む。

この提携に際し、VWは開発をスムーズに行うためマイクロソフト本社の近くにVWブランドの乗用車開発拠点を設けるという。

マイクロソフトはコネクテッドカー向けの特許ライセンスプログラムの提供を進めており、2017年にもトヨタ自動車などが採用を決めている。

■インテル×BMW モービルアイ吸収で提携加速

インテルは自動運転の開発に向け、独BMWと後に傘下に収めることとなるイスラエルのモービルアイ社と2016年に提携を結んでおり、自動運転開発用プラットフォーム開発などを手掛けている。

インテル子会社となったモービルアイはその後も高い人気を誇り、2018年10月には独フォルクスワーゲンとイスラエルで完全自動運転車を用いた配車サービスを行うことなどが発表されている。

Apple×フォルクスワーゲン 自動運転車を開発しシャトルサービス実施へ

独フォルクスワーゲン(VW)と自動運転車分野で提携を結んだことが2018年5月に報道によって明らかにされている。VWの商用ミニバン「T6 Transporter」をベースに無人の自動運転車を開発し、アップルの従業員を送迎するオフィス間シャトルとして活用するという。

同社はこれまで自動運転分野における開発を秘密裏に行ってきたが、カリフォルニア州における走行試験車両の許認可を担当する「カリフォルニア州車両管理局(DMV)」による車両認可状況の発表をきっかけに徐々に表立ち、ソフトウェアの開発状況などさまざまな取り組みが明らかになってきている。

DMVに登録している自動運転試験車両は、2017年4月時点でわずか3台だったが、2018年1月に27台、2018年5月に55台、2018年9月に70台と着々と台数を増やしており、メーカー別で3番目に多い水準に達している。

また、同社は隊列走行における電力共有技術や自動運転中のAI動作をカウントダウンして表示する技術など、自動運転分野における特許申請・取得なども精力的に行っているほか、一部のアナリストによると、同社が開発する自動運転車「Apple Car」が2023〜2025年ごろに市場投入される可能性なども示されている。

独特の高い技術力を持つ同社と水面下で交渉を進めている自動車メーカーの存在も否定できず、今後、世間を驚かせるような提携話が公表される可能性は高いものと思われる。

■アリババ×フォード 得意の販売網生かし提携加速 BMWなどとも協業

中国の電子商取引(EC)大手アリババ・グループも、自動運転分野での動きを加速している。2017年12月に米フォード社と戦略的提携を交わし、ECやクラウド、コネクティビティの分野などで協業の可能性を探ることとしている。

具体的には、オペレーティングシステムを開発する「AliOS」、クラウドコンピューティングプラットフォームを手掛ける「Alibaba Cloud」、デジタルマーケティング部門の「Alimama」、B2Cショッピングサイト「Tmall」の4つのアリババの事業部門と協力し、これらの分野とAI(人工知能)、IoTなどの可能性を中国市場で探ることとしている。

初期段階として、プリセールスからテストドライブ、ファイナンシャルリースのオプションまで自動車所有サイクルのさまざまな段階で潜在的なニューリテールの機会を模索することとしている。Tmallが2017年12月に開始した「車の自動販売機」事業では、アプリで試乗予約を行い、無人の自販機で顔認証システムなどを用いて本人確認し、気に入れば購入もできる新たな販売システムを試験的に行っている。

また、アリババは独BMW社とも2017年12月に提携を結んでおり、中国内での販売車にコネクテッドサービスを提供することとしている。

2018年9月には、自動運転やAI開発に向けた半導体企業の設立を発表したほか、無人バレーパーキングの導入に向けた独ボッシュ社との提携、スウェーデンのボルボ社とAIを活用したスマートアシスタントシステムの導入、フォード社向けに新しいAliOSの提供など、次々と自動車産業との協業を発表している。

■アマゾン×ホンダ クラウドサービスAWSを有効活用

アマゾンが自動車メーカーに活用を進めているクラウドサービス「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」を、ホンダがコネクテッドサービスのプラットフォームとして利用していることが明らかになっている。

これまでホンダは自社内のサーバーでコネクテッドサービスを展開してきたが、2013年ごろからAWSへの移行検討を開始し、クラウド化を図ってきたという。

AWSはBMWも利用しているサービス。AWSコネクテッドカーソリューションを導入することで、幅広いデジタルサービスを簡単に統合し、デジタルライフスタイルと融合させることができるほか、AWSサービスの包括的セットを使用することで、車両データの収集や処理、分析なども可能になるという。

アマゾンはこのほか、トヨタ自動車が開発を進めるモビリティサービス専用次世代電気自動車(EV)「e-Palette(イー・パレット)」のローンチパートナーに名を連ねており、次世代EV向けの新サービスの開発なども行っている。また、2018年中にもトヨタの一部車種に同社の音声アシスタントシステム「Alexa(アレクサ)」を搭載することも発表されている。

【参考】アマゾンのAWSについては「米アマゾンのクラウドAWS、自動運転やつながるクルマの開発に貢献」も参照。

百度のアポロ計画:メーカー参入相次ぐオープンソースの自動運転プラットフォーム

中国ネット検索最大手の百度(バイドゥ)が展開する、自動運転車向けのソフトウェアプラットフォームをオープンソース化するプロジェクト「Project Apollo(阿波羅)=アポロ計画」が次々と成果を出し始めている。

アポロ計画は2017年4月にスタートし、翌2018年7月に正式な始動が発表された。これまでに、中国国内の第一汽車、北京汽車、長安汽車、東風汽車、長城汽車、奇瑞汽車、江淮汽車、フォルクスワーゲンの中国法人をはじめ、独BMWやダイムラー、日本のホンダ、スウェーデンのボルボ、米フォード、韓国の現代、英ジャガーランドローバーなど海外からも多くの自動車メーカーが参加を表明している。

第一汽車は同社のSUVにアポロを搭載して自動運転レベル4クラスの車両を開発し、2020年末ごろから量産に乗り出す計画という。

ダイムラーは2018年7月、百度と自動運転・コネクテッドカーに関する戦略的提携を強化することを発表。フォードも2019年10月にAIの技術開発で業務提携を結び、北京で自動運転車の走行試験を開始することを発表している。

自動車メーカー以外でも、ソフトバンクグループのSBドライブ株式会社がアポロを搭載した自動運転バス「Apolong(アポロン)」の日本での活用を2018年7月に発表している。

SBドライブが開発中の遠隔運行管理システム「Dispatcher」とアポロをシステム連携させることで、日本の公道での自動運転バスの実用化を目指すこととしており、2018年度中に日本国内での実証実験をスタートする見込み。2019年初旬には日本に持ち込まれるアポロンが10台程度になるという。

■水平展開型事業でプラットフォーム開発などに強み IT系の提携はまだまだ続く

20世紀経済を引っ張ってきた自動車業界は、21世紀に入り大変革の時を迎えている。自動運転をはじめMaaS(移動のサービス化)といった波が押し寄せ、従来の製造業では対応できない局面に差し掛かっている。

そこに、さまざまなサービスや発想を持ったIT系が結び付くことで、両者に不足しているものを補いながら大きな相乗効果を発揮する新たな体制が誕生する。いわば時代の必然性だ。

Google(Waymo)のように早くから自動車業界の変革に注目しアクションを起こしていた企業は、すでに自動車分野においても大きな存在感を示している。他社もそれぞれの武器を磨き上げ、これに続けと言わんばかりに自動車業界への進出を加速している感が強い。

特に水平展開型事業を得意とするIT企業は、プラットフォームサービスやクラウドサービスなどにより強みを発揮する。今後もさまざまな分野で提携が進むのは確実だ。


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