Appleの自動運転事業、「マル秘情報」の一部漏洩

Airbnbへ移籍した技術者が引き金



かつて、自動運転開発に熱を入れていたとされる巨大テック企業の米アップル。約10年に渡る水面下の開発はとん挫し、プロジェクトはお蔵入りとなった。


その間、さまざまなニュースが飛び交ったが、いずれも関係筋の話であり、現在に至る最後の最後までアップルが公式発表することはなかった。もはや都市伝説の類だ。

しかし、ここにきて思いがけないところからアップルの自動運転開発の社外秘情報が出てきたようだ。民泊プラットフォーマーのAirbnbだ。新CTOに就任したアフマド・アル・ダーレ氏を紹介するリリースにおいて、同氏が自動運転車プロジェクトに関わっていた経歴が明かされたのだ。

あらためてアップルによる自動運転開発の真相に迫る。

■アップルの自動運転開発プロジェクトの新証拠

Airbnb新CTOの経歴に「自動運転開発」

Airbnbは2026年1月、アフマド・アル・ダーレ氏を新CTO(最高技術責任者)に迎えたと発表した。アフマド氏は、AI分野における世界有数のエキスパートで、MetaからAirbnbに加わり、Generative AIとLlamaオープンソースモデルファミリーのチームを率いるという。


その経歴は実に華々しい。カナダのウォータールー大学で工学を学び、学生時代の2005年にアップルでiPhoneの開発に携わったという。iPhone発売の2年前だ。

卒業後は正式にアップルに入社し、iPhoneのディスプレイやマルチタッチシステムを支える中核技術者の一人として活躍した。その後、コアテクノロジープラットフォームグループに所属し、初代Apple Watchを含む10台近くのデバイス開発を手掛けた。

そして2014年、自律技術グループを設立し、同社の自動運転プロジェクトの中核となるAIシステムの開発を担ったという。Metaには2020年に移籍した。

さも当然のようにアップルの自動運転プロジェクトの存在に触れているが、これはアップル出身エンジニアにおいて珍しいことのようで、一部テック系メディアもこの部分を取り上げている。アップルとしては、自動運転開発プロジェクト「Titan(タイタン)」はあくまで極秘プロジェクトであるためだ。


いずれにしろ、エンジニアの採用面から開発プロジェクトの存在が証明される形となった。やはりアップルは自動運転開発を進めていたのだ。

以下、これまでに報じられたニュースなどをベースに、あらためてプロジェクト・タイタンの中身を紹介していく。

■プロジェクト・タイタンの概要

プロジェクト・タイタンは2014年ごろに始動

プロジェクト・タイタンは2014年ごろに始動したとされており、前述したアフマド氏の経歴と合致する。当初はEV(電気自動車)・スマートカー開発プロジェクトとして報道されたが、間もなくしてレベル4以上の自動運転開発を進めていることが明らかとなった。

言い出しっぺは今となっては不明だが、アップルが開発を進める自動運転車は「Apple Car(アップルカー)」と呼ばれるようになり、メディアやアップルファンの間で定着した。

この間、「ティム・クック氏がBMWを訪問していた」「トヨタから人材を引き抜いた」「アップル関係者が”apple.car””apple.cars””apple.auto”などのドメインを取得した」など、さまざまなトピックが報じられたが、アップルによる公式発表は一切なく、その進捗は依然として不明で、憶測含め関係者筋の話がたまに浮上しては霧散を繰り返していた。

ただ、クック氏はウォール・ストリート・ジャーナルのイベントで自動車業界の変化などに言及し、「我々が手がけていることは将来明らかになる」と含みのある発言を行ったという。こうした発言が、憶測を加速させる一因ともなった。

公的機関の公開情報から公道実証が明らかに

2017年には、米カリフォルニア州車両管理局(DMV)が、自動運転車の公道走行ライセンスを交付した企業の中に「アップル」を追加したことで、同社のプロジェクトが着実に進められていることが確実となった。クック氏も取材に対し、自律運転システムの開発を進めていることを認めたとされている。公道試験用に登録された車両数は、一時期WaymoとGM傘下Cruiseに次ぐ3位まで数を増加させていた。

同局のデータによると、アップルの公道実証距離は、2017年(2016年12月~2017年11月)に838マイル、2018年に7万9,754マイル、2019年に7,544マイル、2020年に1万8,805マイル、2021年に1万3,272マイル、2022年に12万5,096マイル、2023年に45万2,744マイルと推移している。2020年代に入り、取り組みをいっそう加速させている印象だ。

2019年には、アップルが米運輸省道路交通安全局(NHTSA)に提出したホワイトペーパー「Our Approach to Automated Driving System Safety(自動運転システムの安全性に関する考え方)」の存在も明らかとなった。

システムの仕組みや衝突安全性、システムの分析や検証などの各項目におけるアップルの考え方・取り組み方が示された内容だ。

その後、メディアの報道合戦のボルテージが一段と高まり、アップルが取得した自動運転関連の特許などを報じる動きも出てきた。

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エンジニア争奪戦も過激に

一方、2019年ごろには、アップルが自動運転関連のエンジニアを大量解雇することなども報じられている。アップルの広報担当者は2019年1月時点で解雇の計画を認め、その上で自動運転プロジェクトを継続する方針を示唆していたとも言われている。

先行きの不透明感が増す中、2019年にアップルが自動運転開発スタートアップの米Drive.aiを買収することが報じられ、大きな話題となった。Drive.aiは資金難に陥っており、身売り先を探していたとされる。

前年の2018年末にはライバルのグーグル系Waymoが自動運転タクシーサービスを開始しており、その影響を受けてか、路線変更や事業強化など暗中模索していたのかもしれない。

なお、2018年にはアップルの元エンジニアXiaolang Zhang氏が機密情報を持ち出した疑いで逮捕される事件も発生している。同氏は中国の新興EVメーカーXpeng(小鵬汽車)子会社のXMotorsに移籍しており、アップルによる自動運転車の回路基板設計図などを不法にダウンロードしていたという。同氏には2022年に有罪判決が下されている。

この頃には自動運転開発を手掛けるスタートアップも続々と立ち上がっており、Waymoやテスラなどを交えた自動運転関連エンジニアの引き抜き合戦が過熱していた。アップルもその渦中にいたということだ。

【参考】関連記事「Appleの自動運転技術、中国人による盗難が確定」も参照。

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実現時期や提携先への注目度も高まる

2020年代には、アップルカーの実用化時期や提携先となるメーカーにも注目が集まるようになった。関係筋やアナリストの予測では「2021年に発売する」「2024年にも自動運転車の生産を開始する」など、さまざまな情報が飛び交った。アナリストの多くは2024年以降と見ていたようだ。

また、2021年に韓国メディアが「アップルがヒョンデとパートナーシップを結び、2024年ごろに米国内で生産を開始する」旨報じたことから、製造パートナーへの注目も一気に高まった。

その後、韓国・起亜自動車(KIA)が2月中に提携を交わすと報じるメディアも現れ、ヒョンデ側は一連の報道を否定し、「複数の企業からEV共同開発の話が来ている」とした。

日産や台湾Foxconnなどの名も挙がった。日産の2020年度第3四半期決算の記者発表で「アップルからコンタクトやアプローチはあったか」という質問が飛び出し、当時の内田誠社長兼CEOは「従来の自動車産業の枠を超えた新たな分野・領域の活動が必須となる。そのためには、各分野で優れた知見や経験を持つ企業とのパートナーシップやコラボレーションも選択としてあり得る」と回答している。アップルの動向に各メーカーが巻き込まれた格好だ。

【参考】関連記事「Apple Car暫定情報 自動運転技術に注目」も参照。

レベル4からレベル3、最終的にレベル2+……?

開発動向も大きく変化している。当初はハンドルなどを備えないレベル4車両の開発を進めていることが報じられていたが、ブルームバーグは2022年、関係筋の話として手動制御装置を備えたレベル3市販車の開発にシフトしたことを報じた。車両価格は10万ドル(約1,360万円)未満を目指しているという。

その後、2024年1月にはレベル2+相当のADAS搭載車を2028年以降に発売するといった報道も出た。レベル2+搭載の市販はもはや自動運転開発事業者ではなく新興EVメーカーと同等レベルだが、「アップルブランド」の支持は高く、なおアップルカーの実現を待ち望む声は多かった。

しかし、その期待はあえなく打ち砕かれることとなった。2024年2月、ブルームバーグがアップルの自動運転開発中止を報じたのだ。報道によると、ジェフ・ウィリアムズCOO(最高執行責任者)と自動運転プロジェクト「タイタン」を統括していたケビン・リンチ氏が、開発に携わる従業員約2,000人に開発中止を伝えたという。

約10年間にわたり世界を賑わせたアップルの自動運転開発は、ここであえなく幕を閉じたのだ。公式発表ゼロにもかかわらず、ここまで世界を騒がせ続けたプロジェクトも珍しいだろう。

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極秘プロジェクトながら情報はだだ洩れだった?

10年間に渡り徹底して公式発表を行わなかったアップルだが、それにしても情報が洩れすぎ……と思った方も少なくないのではないだろうか。さまざまな思惑がありそうだが、おそらく意図的に流出させた情報も含まれているものと思われる。

極秘プロジェクトとしての体裁を保ちつつ、一部開発動向を漏らすことで市場の反応を見ることは、大手企業なら珍しくない行為だ。いわゆる公然の秘密のようなもので、クック氏も取材に対し開発プロジェクトの存在を否定しなかった。

事業化に結びつくことはなかったが、それは結果論だ。適時漏れ出す情報により、アップルとのパートナーシップを模索する動きも水面下であっただろうし、ライバルの動向にも影響を与えただろう。

また、完全な憶測だが、本物の極秘プロジェクトとしてアップルカーの開発が少数精鋭で進められていてもおかしくはない。グーグルはもとより、中国ファーウェイやシャオミが自動運転やEV開発を事業化して新天地を切り拓いたように、モビリティ分野は魅力的な市場だからだ。

研究開発成果は財産に

プロジェクト・タイタンは潰えたとはいえ、10年に渡り進めてきた研究開発は財産となる。例えば、カメラやLiDARなどのセンシング技術は、他分野への応用が期待される開発領域でもある。物体を認識するパーセプション技術もAI開発の大きな糧となる。

2025年に公開された映画「F1/エフワン」は、アップルのデジタルビデオストリーミングサービス向けに子会社が製作したものだが、高度なカメラ技術が使用されており、一部メディアは「プロジェクト・タイタンがなければ実現しなかったかもしれない」と絶賛している。

また、アップルは自動車分野において200を超える特許を出願していたと言われている。自動運転関連では、自動運転車の挙動・動作を周囲のドライバーや歩行者にカウントダウン付きで知らせる技術「Countdown Indicator」や、ジェスチャーで自動車を走行させる技術、隊列走行時にバッテリー電力を譲り合う技術「Peloton」などがある。

バーチャルキー技術やシートを通じて乗員に情報伝達する技術「Haptic feedback for dynamic seating system」や、音声アシスタント「Siri」で車両を操作する技術などのほか、エアバッグやバンパーシステム、スマートシートベルト、ウィンドウシステムなど車両設備関連の特許も数知れない。

こうした技術をアップルブランドとしてソリューション化すれば、コンタクトを図るメーカーは少なくないはずだ。自動運転ほどのインパクトはなくとも、新たな事業が水面下で動きだしていてもおかしくなさそうだ。

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■【まとめ】アップル発ソリューションで再びモビリティ業界へ……

プロジェクト・タイタンは、極秘プロジェクトながら約10年もの間世界を騒がせた。アップルブランドへの高い関心は、モビリティ分野における革新への期待へと変わり、多くのファンを一喜一憂させた。

自社事業としてのプロジェクトは潰えても、アップル発ソリューションとして再びモビリティ業界に新たな風を吹き込むことに期待する人は少なくないものと思われる。改めて同社の動向に注目したい。

【参考】関連記事としては「自動運転、米国株・日本株の関連銘柄一覧」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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