【最新版】MONET Technologies(モネテクノロジーズ)とは? トヨタとソフトバンク出資、自動運転やMaaS事業

2020年代半ばに「e-Palette」本格展開へ



新会社設立の発表会で握手するソフトバンクの孫正義会長(左)とトヨタ自動車の豊田章男社長(右)=トヨタ自動車プレスリリース

自動運転や新しいモビリティサービスを見据えた戦略的提携を発表し、世間を驚愕させたソフトバンク株式会社とトヨタ自動車株式会社。2018年度内に新会社「MONET Technologies」を設立し、オンデマンドモビリティサービスを皮切りに事業に着手する。

日本の株式市場で時価総額1位と2位を誇る巨大資本同士の提携は何を目的とするのか。新会社の狙いは何か。設立趣旨や両組織のトップスピーチから、その全貌を探ってみた。


■会社概要

MONET Technologies(読み方は「モネテクノロジーズ」)株式会社は2018年度中の設立を予定しており、本社は東京都港区に構える。資本金は20億円で、将来的に100億円まで増資する。株主構成はソフトバンクが50.25%、トヨタ自動車が49.75%。

代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)には、ソフトバンク代表取締役副社長執行役員兼CTOの宮川潤一氏が就任し、代表取締役兼COOに柴尾嘉秀氏(トヨタ自動車コネクティッドカンパニー MaaS事業部主査)、取締役に山本圭司氏(トヨタ自動車常務役員)、湧川隆次氏(ソフトバンク技術戦略統括先端技術開発本部本部長)がそれぞれ着任する。

社名には「全ての人に安心・快適なモビリティを届けるMobility Networkを実現したい」という両社の想いが込められている。

■事業内容

事業内容には「オンデマンドモビリティサービス」「データ解析サービス」「Autono-MaaS事業」を掲げており、トヨタが構築したコネクテッドカーの情報基盤である「モビリティサービスプラットフォーム(MSPF)」と、スマートフォンやセンサーデバイスなどからのデータを収集・分析して新しい価値を生み出すソフトバンクの「IoTプラットフォーム」を連携させ、車や人の移動などに関するさまざまなデータを活用することによって、需要と供給を最適化し、移動における社会課題の解決や新たな価値創造を可能にする未来のMaaS(Mobility as a Service)事業の展開を目指すこととしている。


【参考】「Autono-MaaS」とは、Autonomous Vehicle(自動運転車)とMaaS(モビリティサービス)を融合させた、トヨタによる自動運転車を利用したモビリティサービスを示す造語だ。詳しくは「トヨタのAutono-MaaS事業とは? 自動運転車でモビリティサービス」も参照。

将来的には、トヨタが「2018 International CES」で公開した、電動化・コネクテッド化・自動運転技術を活用したMaaS専用次世代EV「e-Palette Concept」を活用し、自宅の前まで商品が運ばれてくる移動コンビニや場所を選ばないオフィス、調理ロボが出来立てを届けるフードデリバリー、診察前検診を受けながら移動できる病院シャトルなど、さまざまなサービスを想定しているが、規制緩和や自動運転技術の成熟など環境が整うまでは、第一フェーズとして一般車両を用いたオンデマンドモビリティサービスを推進し下地を作っていく。

オンデマンドモビリティサービスは、高齢化・過疎化が進み、買物困難者の増加や地方交通の弱体化などが懸念される現状に対し、戦略特区の導入など地方自治体との連携を進め、次世代モビリティによる地域活性化の可能性を探っていく。モデル地区として、100地区での展開を目指す。

その後、2020年代半ばをめどに第2フェーズとして「e-Palette Concept」の本格展開を図っていく構えだ。

■設立の背景

両者の思惑の一致は、自動車製造業として日本一の地位を築き上げてきたトヨタと、通信事業を主力にさまざまなサービス展開を図ってきたソフトバンクの成り立ちの違いからもうかがえる。

自動車製造メーカーではないソフトバンクは、米Uber社、中国DiDi社、シンガポールGrab社、インドOLA社などライドシェア事業者をはじめ、米GMの自動運転開発部門Cruise、AIチップ開発の米NVIDIA、3D空間認識技術開発の米light、AI運行管理サービスを手掛ける米nauto、半導体大手の英armなど、数々の企業に出資を行ってきたが、自社で本腰を入れて自動運転車の開発をおこなう米Googleなどとは異なり、自動運転分野に本格進出するためには、既存の自動車メーカーなどとしっかりと手を組み、走行車両からデータを収集してAI開発や新たなサービス開発につなげていく必要がある。

また、後述するスピーチにも出てくるが、自動運転車の完成時に最も需要があると見込んでいるのがライドシェア分野で、市場の将来性を見越してライドシェア事業者への出資を強めている向きもあり、その際には自動運転車の供給側との関係もしっかりと構築しておきたいはずだ。

一方、製造業から脱却しMaaS分野への本格進出を図りたいトヨタは、日本国内においてはタクシー業界などとAI配車サービスの開発やオンデマンド通勤シャトルサービスの実証実験などを進めているが、厳しい規制が妨げになっている感は否めず、海外勢の後塵を拝すことになりかねない。積極的に海外勢とネットワークを築いてきたソフトバンクとは対照的で、新たなネットワーク構築と新たな発想力が大きな課題といえる。

ソフトバンクとトヨタが次の時代に歩みを進める際、それぞれが欲しているものを最高の形で手にしている国内企業がまさに両社だ。ソフトバンクの孫正義会長とトヨタ自動車の豊田章男社長が初めて出会った20年前は、残念ながら両社の商談は不成立に終わったという。しかし時代は移り、様変わりする自動車業界の将来を生き抜き、一大産業になるであろう自動運転分野で覇権を握るには、タイプの違う両社が手を携える必要があるのだ。

■両社代表の思い

共同記者会見の席では、ソフトバンクの孫正義会長とトヨタ自動車の豊田章男社長の両者がスピーチを行い、自社の戦略や今回の提携に関する思いをそれぞれ語っている。

AI群戦略で新たな展開(孫会長)

孫社長は「(共同出資会社設立は)両社の若手同士の話から始まり、最初は本当かと驚いたが、同時にいよいよかという思いもあった」と切り出し、「AIはすべての産業を再定義する。モビリティのトヨタとAIに力を入れるソフトバンクの両社が提携することで、新しい時代のモビリティ、進化したモビリティが生まれる」と今回の提携を喜んだ。

ソフトバンクの戦略に関しては「AI群戦略をとっている。10兆円のファンドを作りいろいろな会社に投資しているが、中でもモビリティは中核をなすほど大きなものになっている。例えばライドシェアのウーバー、ディディ、グラブ、オラ、これらの会社には筆頭株主として事業展開している。トラックではフルトラック・アライアンス、自動運転ではGMクルーズ、AIではNVIDIAとビジョンを分かち合い、これからのAIの世界について話し合っており、それぞれの群が協調しながら新たな展開を図っている」と話した。

モネは両社の提携の第一弾(孫会長)

続けて、孫社長は「自動運転のクルマが最初に市場に出るとき、おそらく数千万円くらいすると思うが、それを買うのはどのような客か。おそらく一般人の20倍走行するプロ。その意味でライドシェアが自動運転の市場として圧倒的最大になるのではと思う。運賃の取扱高も急激に伸びて現在は約10兆円規模になっており、今後10年を経たずして現在のアマゾンの取扱高に追いつき追い越す規模まで伸びるのではないか」とライドシェア事業に力を入れる意義を語った。

「トヨタはモビリティの世界で一位だが、AI分野の群でソフトバンクグループは急速に存在感を示すようになった。トヨタとソフトバンクが互いの群で提携し合い、モビリティとAIが足される。モネは両社の提携の第一弾で、これから第二弾、第三弾のより深い提携が進むことを願っており、そういう状況を思うとワクワクする」と話し、さらなる展開に希望を込めた。

モビリティ・カンパニーにモデルチェンジ(豊田社長)

一方、豊田社長は「自動車業界は今、100年に一度と言われる大変革の時代を迎えており、その変化を起こしているのはCASEとよばれる新技術。コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化といった技術革新によってクルマの概念が大きく変わり、競争の相手も競争のルールも大きく変化している」と自動車業界を取り巻く変化について説明し、「これからのクルマは、情報によってまちとつながり、人々の暮らしを支えるあらゆるサービスとつながることによって社会システムの一部になると考えている。トヨタを、クルマをつくる会社からモビリティに関わるあらゆるサービスを提供する会社、モビリティ・カンパニーにモデルチェンジする」とこれからのトヨタ自動車の在り方を話した。

未来のモビリティ社会を現実にするための提携(豊田社長)

続けて「未来のモビリティ社会を創造するためには、仲間という概念が大切だ」とし、デンソーやアイシンなど同じルーツを持つグループ企業との連携強化、他の自動車メーカーとのアライアンスの強化、そしてモビリティサービスを提供する新しい仲間とのアライアンスの強化といった三本柱を挙げ、「ウーバーやグラブ、ディディ、ゲットアラウンドなどとの提携が第3の柱にあたり、多くは孫さんの群戦略の仲間になっている。私たちの仲間づくり戦略の第3の柱を進めていくためにも、ソフトバンクとの提携が重要なカギを握っている。ソフトバンクには、モビリティに関わる新しいサービスを生み出し、もっと楽しいモビリティ社会を生み出そうと闘い続けている多くの仲間がいる。今回の両社の提携は、こうした仲間を巻き込んで、まだ見ぬ未来のモビリティ社会を現実のものにするための提携だと考えている」と述べ、孫社長とともに次世代のモビリティ社会の創出に弾みをつけていく構えだ。

■MONET関連の最新ニュース
丸の内エリアでオンデマンド通勤シャトルの実証実験

MONET Technologiesは2019年2〜3月にかけて、東京都内の丸の内エリアを発着地点とした「オンデマンド通勤シャトル」の実証実験を実施した。丸の内エリアに勤務する人をユーザーとして想定し、スマホのアプリで選択した場所から勤務地付近まで送迎するという形態で行った。実証実験は三菱地所と連携して実施した。

オンデマンドサービスの提供へ、17自治体との連携を発表

MONET Technologiesは2019年2月18日、次世代のオンデマンドモビリティサービスの提供に向け、17自治体との連携を開始することを発表した。

連携を発表した自治体は北は北海道の安平町、南は熊本県の菊池市までさまざまで、横浜市と豊田市、福山市では2018年度中にオンデマンドバスの実証実験を開始することも明らかにした。

【参考】関連記事としては「MONET Technologies、横浜でオンデマンドバスの実証実験」も参照。

日野自動車とホンダと資本・業務提携

MONET Technologiesは2019年3月28日、日野自動車と本田技研工業と資本・業務提携に関する契約を締結した。提携の目的は「MaaS事業の価値向上を図ること」などとされ、「モビリティサービスユーザーへのサービス向上を図ること」も掲げられた。

日野とホンダはそれぞれ2億4955万円を2019年5月末までに出資し、9.998%の株式を取得するとされている。

MONETコンソーシアムを設立

MONET Technologiesは2019年3月28日、「MONETコンソーシアム」を設立したと発表した。

モビリティ業界におけるイノベーションを加速させるため、企業間の連携を推進するための枠組みで、目的としては「次世代モビリティサービスの推進」と「移動における社会課題の解決や新たな価値創造」の2点を掲げた。

設立を発表した同日時点でさまざまな業種の88社が同コンソーシアムに参加している。

■自動運転開発や新サービスの主導権奪取へ

自動運転の分野では異業種提携や買収は日常茶飯事のように行われているが、大半はその事業者が持つ特定の技術を見込んだものであり、今回のソフトバンクとトヨタの提携は一味違った印象を受ける。

クルマをつくる会社からモビリティに関わるあらゆるサービスを提供する会社への進化を望むトヨタを、ソフトバンクが一体となってコーディネートしていくような、まるでソフトバンクというソフトウェアによってトヨタがモビリティ・カンパニーにモデルチェンジするような印象だ。

ヘタな例えはさておき、海外勢に主導権を握られている自動運転の分野において、技術力や影響力、企画力を備えた日本の二大巨頭が今後どのような新風を巻き起こすのか。MaaS事業からのさらなる発展にも要注目だ。


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