アウディの自動運転戦略まとめ 車種一覧やA8が備える機能

手を緩めずレベル4へ邁進



自動運転レベル3(条件付き運転自動化)の技術を搭載した「Audi A8」の発売で大きな注目を集めたドイツの自動車メーカー・アウディ。レベル3の実用化においては、法整備が追い付かずやきもきした状態が続いているが、同社は自動運転レベル4(高度運転自動化)、自動運転レベル5(完全運転自動化)のコンセプトカーの発表・開発を進めるなど変わらず攻勢を続けている。


量産モデルにおける自動運転技術実装の先駆者としてその名をとどろかせるアウディは、どういったメーカーなのか。歴史を掘り返しつつ、同社の自動運転戦略を紐解いてみよう。

■アウディの企業概要
沿革:アウディの象徴的エンブレムの原点

フォルクスワーゲングループの中核を担うアウディ。その原点は、創業者のアウグスト・ホルヒ博士が1899年に自動車修理工場「ホルヒ社」を設立したことに始まる。1901年に自動車生産を開始し、1910年にアウディ社を立ち上げた。

世界恐慌の影響やアメリカ系資本の進出に対抗するため1930年代に自動車メーカー4社による自動車連合を結成。この4社協力体制は、4輪が連なるアウディの象徴的なエンブレム「Four Silver Rings(フォーシルバーリングス)」に表されている。

1959年にダイムラー・ベンツ、1964年からはフォルクスワーゲンの傘下となり、今に至る。


近年の業績:右肩上がり続く 2018年も過去最多のニューモデル投入

多彩なラインナップで一貫して販売台数を伸ばし続けており、2017年は過去最高となる187万8100台を記録した。8年連続で数字を伸ばしており、売上高は初めて600億ユーロ(約8兆円)を超え、過去8年間で2倍以上に増加した。特別項目計上前の営業利益は51億ユーロ(約6800億円)となっている。

また、2018年は過去最多となる20以上のニューモデルを投入することとしており、同社初のEV(電気自動車)「Audi e-tron」も発売される予定だ。

■アウディの自動運転戦略
これまでの自動運転開発:2000年代早期に開発着手

アウディの自動運転開発は2000年代早期にすでに始めており、2005年開催の米国防高等研究計画局(DARPA)のロボットカーレース「DARPAグランド・チャレンジ」において、スタンフォード大と共同開発した自動運転車が約240キロのコースを1位で走破した。

以後もサーキットコースなどで無人走行試験を繰り返しており、2013年には自動車メーカーとして初めてネバタ州から公道での自動運転試験の許可を得た。翌年にはカリフォルニア州とフロリダ州でも許可が下りている。


2015年には、Audi A7をベースにした自動運転実験車両「ジャック」で、米カリフォルニア州シリコンバレーからネバダ州ラスベガスまでの公道約900kmを自動運転実験車両で走破。自動運転レベル3以上のシステムを搭載しており、運転席にエンジニアが座らない状態での走行だった。ジャックはドイツのアウトバーンでも最高時速130kmを記録し、高速域での無人走行に成功している。

2016年には、自動運転レベル2の運転支援システム「トラフィック・ジャム・アシスト」をAudi Q7やAudi A4に搭載。低速走行時において、15秒間隔でハンズフリーでの走行を可能にした。そして2017年、市販車として世界初となる自動運転レベル3のシステム「Audi AIトラフィックジャムパイロット」を搭載した新型Audi A8を発売した。

今後の自動運転戦略:進化したレベル3システム 2020年導入目指す

2018年5月に発表された最新の企業戦略「Audi. Vorsprung. 2025」によると、2025年までに約400億ユーロ(約5.2兆円)をeモビリティ、自動運転、デジタル化といった戦略的分野に投下し、2025年に約80万台のEVとプラグインハイブリッドを販売する目標を掲げている。

eモビリティの分野でプレミアムメーカーのリーディングカンパニーを目指すこととし、すべてのモデルラインナップに電動化バージョンを設定する見込みだ。インフラ面では、2017年にアウディを含むフォルクスワーゲン(VW)グループやBMWグループなど6社が共同出資会社イオニティを設立し、2020年までにヨーロッパ各地に400カ所のEV向け超急速充電ステーションを設ける計画を発表している。

自動運転では、実験車両ジャックに搭載した技術と似たレベル3の「ハイウェイパイロット」を2020年から2021年に導入する予定。出入制限のある高速道路において制限速度内のハンズフリー走行が可能になり、車線変更や追い越しも可能になるという。

また、一部報道によると、2017年開催の各地のモーターショーで披露したコンセプトカー「Audi Elaine(エレーヌ)」を2019年に欧州、2020年に日本で導入することを目指しているという。限定された場所においてドライバーの支援や介入を必要としないレベル4の自動運転を実現するEVコンセプトカーで、搭載する「Audi AIハイウェイパイロット」は、高速道路において時速130km以下であれば車線変更を含む運転操作をシステムが自律的に行うという。

このほか、フランクフルトモーターショー2017で発表された「Audi Aicon(アイコン)」をベースにした完全自動運転EVを、2021年に発表することとしている。ステアリングやペダル類を排除し、ラウンジのようなインテリアデザインが特徴で、当初は都市間を結ぶシャトルとして公道における試験走行を開始し、2020年代の半ばに自動運転車として生産を開始する予定という。

■自動運転機能を搭載している車種
A8:量産モデルで世界初の自動運転レベル3実装

生産モデルとしては世界で初めて自動運転レベル3の技術を搭載したモデル。トラフィックジャムパイロットは、中央分離帯のある混雑した高速道路や自動車専用道路において、時速60km以下の速度であればドライバーに代わって運転操作を行う。

レーダーセンサー、フロントカメラ、超音波センサーに加え、生産車としては初めてレーザースキャナー(LiDAR)も採用しており、セントラルドライバーアシスタンスコントローラー(zFAS)がさまざまなセンサーからのデータを照合・分析することで、クルマの周辺の状況を常時把握している。

なお、各国の法整備が追い付かないため、現状は自動運転レベル2搭載車両として販売されている。
トラフィックジャムパイロットを公道で利用するためには、各国の現行法に照らして問題の有無を明らかにするとともに、実験を通じて安全性を検証しなければならない。

このためアウディは、各国における法対応を注視しつつ段階を踏んでシステム搭載を実施していくとしている。

Q8:自動駐車機能リモートガレージパイロット新装

2018年8月に欧州市場で販売が開始された新型は、アダプティブクルーズコントロール、予測効率アシスト、交差点アシスト、レーンチェンジ警告、縁石警告、360度カメラといった機能が搭載されているほか、2019年初頭には、スマートフォンのアプリを使ってQ8の車庫入れや出庫を自動化させる「リモートガレージパイロット」システムも導入される予定だ。

A7 Sportback:アダプティブドライブアシスト機能など新装

7年ぶりにフルモデルチェンジされ、2018年9月から日本でも販売開始されたモデル。最大で合計23個ものセンサーが搭載されており、セントラルドライバーアシスタンスコントローラー(zFAS)をはじめとする複数の車載コンピューターが、センサーからのデータを照合分析してさまざまな場面でドライバーをサポートする。

見通しの悪い交差点でのフロントクロストラフィックアシストや、車両の側面からの衝突に備えるプレセンス360、従来のアダプティブクルーズコントロール(ACC)とアクティブレーンアシスト(ALA)、トラフィックジャムアシストの3つの機能を統合したアダプティブドライブアシスト(ADA)などを新たに備える。

Elaine:自動運転レベル4相当のコンセプトカー

2019年に市販予定のアウディ第2の電気自動車「e-tron Sportback」を予告するモデルで、2017年開催の各地のモーターショーで披露された。

A8に搭載されているトラフィック・ジャム・パイロットの機能を拡張したハイウェイパイロットシステムが搭載されており、自動運転で対応できる走行速度の上限が時速130kmまで拡大されているほか、高速道路を離れた後もドライバーをサポートし続けるシステムを備えている。

■アウディの自動運転関連ニュース
空飛ぶクルマも開発中

2018年6月までに、ベルリン政府主導のもと「エアタクシー」の試験運用に向けたモデルケースを構築するプロジェクト「アーバン・エアモビリティ・プロジェクト」に参加表明している。

2018年3月に開催されたジュネーブモーターショーでは、アウディとエアバス、アウディ傘下のイタルデザインが、水平移動(自動車)と垂直移動(パッセンジャードローン)を組み合わせたEV自動運転コンセプトカー「Pop.Up Next(ポップ・アップ・ネクスト)」を発表している。道路と空中の両方を移動することが可能だ。

中国でも走行試験拡大へ

アウディの中国法人「アウディ・チャイナ」が2018年9月18日までに、中国東部の江蘇省無錫市で完全無人の自動運転レベル4(高度運転自動化)の走行試験ライセンスを取得した模様だ。

無錫市内に研究開発センターを設立し、2019年の第一四半期中には試験運転を開始する予定で、中国側の先端企業などと自動運転技術の「現地化」を進めていく方針という。

「25th Hour – Flow」プロジェクト

自動運転車が人間の日常生活をどのように変化させていくのかを調べる「25時間目」プロジェクトにおいて、完全に自動化されライドシェアリングの利用が進んだ交通環境では、道路を活用する人の数が10%以上増加すると見込まれているにもかかわらず、通勤の所要時間は3分の2に短縮されるという研究成果を発表した。

【参考】詳細についてはアウディジャパンのプレスセンター「アウディの研究:渋滞のない未来の都市を目指して」を参照。

■レベル4でも先陣を切る勢い

量産モデルの自動運転レベル3実装で先行した同社は、法整備を待たずにレベル4でも先陣を切る勢いがあり、まるで世界各国の政府を急き立てているかのようだ。

ライドシェアやタクシー、バスなどの商業車両でレベル4の実用化が先行する可能性が高いが、誰もがその魅力を味わえる量産モデルでの実用化はまた違った意味を持つことになるだろう。

かつてフルタイム4WDシステム「quattro(クワトロ)」で一世を風靡し、乗用車の常識を変えたアウディ。時代は移り21世紀となったが、今度は最新の自動運転技術によって再び世間を驚かせようとしているのかもしれない。

【参考】自動運転車に関する包括的な解説としては「自動運転車とは? 定義や仕組み、必要な技術やセンサーをゼロからまとめて解説|自動運転ラボ」も参照。


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