ヤマハ発動機の自動運転戦略とは? コンセプトや方針は?

MaaSで高い需要見込む



ヤマハ発動機といえば二輪車のイメージが強いが、マリン事業や産業用機械・ロボット事業など幅広い分野で製品開発を進めており、自動運転開発にも積極的に取り組んでいる製造メーカーだ。


米ラスベガスで2018年1月に開催されたCES2018には、自動運転サービス提供者に向けたワンマイルモビリティシステム「Public Personal Mobility (PPM:パブリック・パーソナル・モビリティ)」を初出展し、話題を集めた。

自動車メーカーとは異なるヤマハ発動機の自動運転はいったいどのようなものなのか。コンセプトモデルを取り上げ、その技術に迫ってみよう。

■ヤマハの自動運転
パブリック・パーソナル・モビリティ:低速ワンマイルモビリティシステム

歩行者が混在する数キロ四方での利用を想定した、安全・安心・快適・便利なオンデマンド型の低速ワンマイルモビリティシステム。車両はゴルフカーをプラットフォームにしている。

スマートフォンで最寄りの場所まで自動運転で呼び出すことが可能で、車両内部のタブレットからも目的地を設定でき、クラウド技術を使った高スケーラビリティな管制サーバを一体化したシステムで、Web-API(ネットワークを介してプログラムからアプリケーションを操作するための仕組み)によってサービス提供者が独自のMaaS(Mobility as a Service:移動サービス)アプリケーションを構築できる。


自動運転技術では、アスファルトなどの路面の特徴により自車位置同定を行う自動走行システム「VGL(Virtual Guide Line)」を採用。車両底部に設置されたカメラで撮影した路面画像を、事前に記録したマップデータベースの情報と照会することで、車両の位置姿勢情報を取得する自車位置同定機能を備えている。

また、ナビゲーションシステムによって求められた目的地までの経路と自車位置情報に基づき、最高時速20キロで経路を追従走行する機能に加え、3D-LiDAR(ライダー)により経路上に障害物を見つけた際に、車両を減速または停止させる障害物認識機能も備えている。

ヤマハ発動機は、パブリック・パーソナル・モビリティの活用例として、コミュニティの大きさや現在のインフラに合わせた柔軟な公共交通サービスや、リゾート地におけるゲストの移動、広告やまちと連携したサービスモデル、観光ガイドサービスなどを挙げ、さまざまなMaaS需要に対応可能としている。

今後、マーケティングに向けたデータマイニング基盤として、完全マネージド型プラットフォーム「Amazon Sagemaker」を導入予定という。


MOTOROiD(モトロイド):自立走行可能なAI搭載の二輪車

「人とマシンが共響するパーソナルモビリティ」を目指した概念検証実験EVモデルの二輪車で、アンリーシュド・プロトタイプ(常識からの解放)をコンセプトに開発したという。

二輪の車体を電子制御で安定化することを目指した技術「AMCES (Active Mass CEnter control System)」により、車体をアクティブ制御することで常に車両の姿勢を最適に維持し、車両自身で不倒静止・前進することができる。

顔認識機能によりオーナーのみに反応する顔認証AI(人工知能)システムのほか、ジェスチャー認識機能も備え、手招きなどの仕草により走行動作の開始・停止が可能。情報は常時メイン統合基盤へと集約し、車両制御にフィードバックする。

MOTOBOT Ver.2:モーターサイクル技術とロボティクス技術を融合したライディングロボット

モーターサイクル技術とロボティクス技術を融合し、未知の領域を開拓する自律ライディングロボット。車両そのものには手を入れず、ヒトの側から見た車両操作にフォーカスし、高速でのサーキット走行を可能にした。

2017年の開発マイルストーンとして「時速200キロメートル以上でのサーキット走行」と、MotoGPのトップライダー、バレンティーノ・ロッシ選手とのバトルを設定。MOTOBOTの開発で得た高度な要素技術や知見を、既存ビジネスの新たな価値創造や新規ビジネスの開拓に生かしていく構えだ。

■ヤマハ発動機の最近のニュース
一般公道での遠隔型自動運転の実証実験へ電動小型車両を提供

経済産業省・国土交通省の高度な自動走行システムの社会実装に向けた研究開発・実証事業における「専用空間における自動走行などを活用した端末交通システムの社会実装に向けた実証」が2017年12月に石川県輪島市で始まり、ヤマハ発動機が提供する電動小型低速車両を用いた遠隔式自動運転実証実験が行われた。

輪島市内の規制のない約1キロメートルの一般公道の走路において、他の一般車両や歩行者などとの共存区間における自動走行を遠隔監視・操作システムを搭載した車両で走行した。

ヤマハモーターアドバンストテクノロジーセンターを開設

ロボティクス、知能化、IT領域の先進技術開発と高度人材の獲得・育成、オープンイノベーションの推進を目的に、ヤマハモーターアドバンストテクノロジーセンターを2018年6月に神奈川県横浜市に開設した。

ロボティクス領域のAI・IoT・モーションコントロール・画像処理といった先進技術の開発拠点として次世代ロボティクス技術開発を進めるとともに、データサイエンス、デジタルマーケティングなどの知能化領域やIT領域の技術活用を進めるため、各分野の高度専門人材を順次投入・獲得・育成していく方針。

また、同センターをオープンイノベーション拠点として位置づけ、先進技術領域における知見・強みを有する企業や大学、研究機関との連携・協業を推進していくこととしている。

NVIDIAとの協業発表

研究開発中の製品群のインテリジェント化を目的に、AIコンピューティングを牽引する米NVIDIA(エヌビディア)社と協業することを2018年9月に発表した。

この協業を通じてヤマハは、AIやロボティクス、エッジコンピューティング向けに開発されたNVIDIAのGPUコンピューティングシステム「NVIDIA Jetson AGX Xavier」を採用。ラストワンマイルの旅客・運搬での活用が期待されるラストマイルビークルをはじめ、産業用ロボットや産業用ドローンなど当幅広い製品群に搭載することで、知能化による自動化を進めることとしている。

■低速自動運転車に高まる期待

主力の二輪車をはじめ、ゴルフカーをベースにした手軽な低速自動運転車の開発がメインのようだ。高速走行せず、一定範囲を自動で運転する遠隔操作タイプは比較的制御しやすく、一般乗用車に比べ価格も抑えられる可能性が高いため、MaaS分野における高い需要も期待できる。

自動運転レベル4(高度運転自動化)に相当するシステムを有しており、公道走行を前提としなければ、思いのほか早期に実用化される可能性も高そうだ。


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