自動運転の主力技術の一つに数えられる「画像データの解析」。自動運転は搭載したカメラなどのセンサーが映し出した画像をもとに周囲の車両や人、障害物などを素早く認識し、距離や対象の移動方向・速度などを計算して的確に自車を制御するが、画像に映し出されたモノが何なのか、そしてどのような挙動をとっているかなど、瞬時に解析する必要がある。
高速走行や夜間、悪天候をはじめ、無数の人や自転車が混在する場面などにおいても的確に対象物を測定するためには、高度な画像認識・解析技術が必要となる。
今回は、画像データ解析技術の開発を手掛ける企業をピックアップし、各社の取り組みに触れていこう。
記事の目次
- ■SenseTime(香港):ホンダと自動運転アルゴリズムを共同研究開発
- ■NVIDIA(アメリカ):DNNとコンピュータビジョン技術の両方を活用
- ■Mobileye(イスラエル):センサーフュージョン見据えEyeQ高性能化
- ■Preferred Networks(日本):トヨタと共同研究 内閣総理大臣賞も受賞
- ■PKSHA Technology(日本):トヨタも出資 画像認識エンジンHRUSなどを開発
- ■Idein(日本):高性能な画像認識をエッジで実現
- ■サイバーコア(日本):暗い画像を鮮明にするLynxEyeなどソリューション開発
- ■アラヤ(日本):未来創生2号ファンドから10億円調達 開発体制強化
- ■パナソニック(日本):独自アルゴリズムで画像認識能力向上
- ■【まとめ】自動運転ではセンサーフュージョン技術も課題に 開発競争はまだまだ続く
■SenseTime(香港):ホンダと自動運転アルゴリズムを共同研究開発
ディープラーニング技術を応用したサービスの企画・開発・運用を手掛けるSenseTime(センスタイム)は、世界レベルの顔認識・認証技術を駆使した車載組み込みソフトウェア開発などに取り組んでいる。
自動運転分野では、車載カメラで撮影した画像をリアルタイムで処理し、道路状況や車道、歩道、他車、街路樹、歩行者などを検出する解析技術とともに、車両間の距離やリアルタイムの相対速度、相対的および絶対的な衝突時間を算出してアラートを出すシステムなどを開発している。
2017年12月にホンダと自動運転システムへ適用するAIアルゴリズムやAIアルゴリズムを学習するための大規模計算技術などを共同開発する契約を締結したほか、日本法人も設立しており、茨城県常総市に旧自動車教習所を改修した自社テストコース「AI・自動運転パーク」構築している。
【参考】SenseTimeについては「中国センスタイム、自動運転向けのセンシング技術を紹介」も参照。
■NVIDIA(アメリカ):DNNとコンピュータビジョン技術の両方を活用
米半導体大手のNVIDIA(エヌビディア)も、自動運転ソリューションの開発に力を入れており、高性能なプラットフォームやソフトウェアを武器に攻勢をかけている。
画像認識分野では、DNN(ディープニューラルネットワーク)を生かしたWaitNet、LightNet、SignNetなどの技術を有するほか、高度な特徴密度制御アルゴリズムによって連続するビデオフレームにおけるピクセル単位での一致や変化を推定する特徴追跡技術なども提供しており、DNNとコンピュータビジョンの両方を組み合わせて最適な認識環境を構築している。
また、ディープラーニングを用いた最新の手法により、画質の悪い写真のサンプルを読み込むだけで画像を補正する技術なども発表している。
「DRIVE AutoPilot」など一定の自動運転を可能にするソフトウェアも提供しており、自動運転分野における存在感を年々高めている印象だ。
【参考】NVIDIAについては「NVIDIAの自動運転技術、完全解説&まとめ 動画で全世界に公開!」も参照。
■Mobileye(イスラエル):センサーフュージョン見据えEyeQ高性能化
画像解析技術を武器に早くからADAS市場を賑わせていたイスラエルのMobileye(モービルアイ)。もともとは単眼カメラによる認識技術を武器としていたが、自動運転の高度化に伴い高解像度カメラやレーダー、LiDARなどのセンサーフュージョン(融合処理)を可能にするため、システムオンチップ「EyeQ」シリーズの高性能化を図っている。
【参考】モービルアイについては「モービルアイ(mobileye)の自動運転戦略 インテル傘下、製品や技術は?」も参照。
■Preferred Networks(日本):トヨタと共同研究 内閣総理大臣賞も受賞
Preferred Networks(プリファードネットワークス)はディープラーニングやロボティクス技術の開発を進めており、自動運転分野では物体認識技術や車両情報解析などを2014年からトヨタ自動車と共同研究開発している。
2018年12月に深層学習に特化したディープラーニング・プロセッサー「MN-Core」を発表し、大規模クラスターMN-3を2020年春に稼働させる予定。大規模な分散深層学習により、自動運転やロボットの高度化などの分野で研究開発を加速させ、実用化に向けた取り組みを強化していくとしている。
【参考】Preferred Networksについては「自動運転技術でも注目!日本唯一のユニコーン「Preferred Networks」に内閣総理大臣賞」も参照。
■PKSHA Technology(日本):トヨタも出資 画像認識エンジンHRUSなどを開発
2012年創業のPKSHA Technology(パークシャテクノロジー)は、主に自然言語処理、画像認識、機械学習/深層学習技術に関わるアルゴリズムソリューションを展開しており、これまでにアルゴリズムモジュール「画像/映像解析モジュール_Recognizer」や動画像認識領域のアルゴリズムソフトウエア「PKSHA Vertical Vision」、業界やユースケース特化型の深層学習技術を用いた画像/映像認識エンジン「HRUS(ホルス)」などを開発している。
2017年にトヨタが約10億円出資したことが報道されており、自動運転やコネクテッドカーなどの研究開発で連携を図っているという。
【参考】PKSHAについては「PKSHA Technology、MONETコンソーシアムに加入 MaaS領域に注力」も参照。
■Idein(日本):高性能な画像認識をエッジで実現
2015年設立の国内ベンチャー・Idein(イデイン)は、ディープニューラルネットワーク(DNN)による画像認識などの推論技術をハードウェア製品に搭載するエッジコンピューティングの技術開発に取り組んでいる。
2018年2月には、アイシン精機とAIを組み込んだ製品開発において資本・業務提携契約を締結することに合意している。アイシン精機はこれまでにもイデインとドライバーモニターシステムなどの画像認識系の製品において技術協力を実施しており、この提携によってさらなる技術開発基盤の強化を目指すとしている。
■サイバーコア(日本):暗い画像を鮮明にするLynxEyeなどソリューション開発
岩手大学発のベンチャー・サイバーコアは、画像内で起きている現象を解析する「画像認識」や「事象抽出」の研究などから応用を進め、画像処理とAIテクノロジーを組み合わせたソリューションを提供している。
画像強化アルゴリズム「LynxEye」は、暗い画像やまぶしい画像のコントラストを高速で最適な状態に調整することが可能で、夜間や逆光時などにおける画像認識に役立ちそうだ。
【参考】サイバーコアについては「【インタビュー】世界水準のAI画像解析技術、自動運転業界から白羽の矢 サイバーコア・阿部英志社長」も参照。
■アラヤ(日本):未来創生2号ファンドから10億円調達 開発体制強化
エッジAIを中心にAIアルゴリズム・プロダクト開発に力を入れるアラヤは、ディープラーニングによるワンランク上の精度の画像認識技術を武器にAI導入に向けた最適な手法を提案している。
2019年5月には、ミナト・アドバンスト・テクノロジーズとインテリジェント・ステレオカメラ事業に関する共同開発契約を締結したことを発表しており、ディープラーニング技術を用いた画像認識アルゴリズムとインテリジェント・ステレオカメラの組み合わせにより、人物や障害物の距離、方向の検出といった機能を高めていくとしている。
同年10月には、未来創生2号ファンドなどから総額約10億円に上る資金調達の完了を発表しており、AI技術の開発を強化していく方針だ。自動運転分野においても今後注目の一社となりそうだ。
■パナソニック(日本):独自アルゴリズムで画像認識能力向上
パナソニックもAI開発に力を入れており、ディープラーニングを利用した人物検出技術などを発表している。
ディープラーニングを用いて画像領域ごとの「人物らしさ」を示す「尤度(ゆうど)マップ(人をそれ以外の概観風景と区分する確率分布マップ)」を計算する新たな独自アルゴリズムを開発し、傘を差した状態などでも確実に検出することを可能にした。
この方式を用いることによって、検出する対象をクルマや道路、標識など人物以外のものを識別処理する対象物として加えることもできるほか、開発した技術は計算処理を削減する独自方式を採用しており、リアルタイムな検出も可能にしていることから、自動運転への導入に期待が持たれるところだ。
■【まとめ】自動運転ではセンサーフュージョン技術も課題に 開発競争はまだまだ続く
このほかにも、デンソーなどの主要サプライヤーなども当然のように開発を進めている。医療など幅広い分野に応用可能な技術のため、スタートアップから半導体、電機メーカーまで開発の裾野は非常に広がっている。ディープラーニングの導入も必然となっており、AI開発企業の参入も多く技術の高度化は際限なく進んでいる印象だ。
センサーで取得したデータはクラウド側に共有されることもあるが、データ解析はリアルタイム性が求められるため、基本的には車載ストレージを保存媒体として解析が行われることが主流になると考えられる。そのため、画像データ解析の技術とストレージ性能の向上はセットで考えられるべきという視点も重要だ。
自動運転においては、カメラやLiDARなど複数のセンサーによるデータをどのように融合処理するかも問われており、まだまだ開発の余地がある。デジタルカメラで名を馳せたカメラメーカーやイメージセンサー開発企業など含め、今後の動向に注目したい。
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