【インタビュー】世界水準のAI画像解析技術、自動運転業界から白羽の矢 サイバーコア・阿部英志社長

海外拠点開設、部品・チップメーカーと協業も



自動運転ラボのインタビューに応じるサイバーコア社の阿部英志社長=撮影:自動運転ラボ

画像認識と人工知能(AI)を組み合わせたソリューションで、自動運転業界を含むさまざま企業から注目を集めている会社がある。岩手県盛岡市に本社を構える株式会社サイバーコアだ。

優れた画像解析の技術は世界的にも評価が高く、2018年5月に米グーグルなどがパートナーとなって開催されたAI国際コンペティション「iMaterialist」では、同社のベトナム拠点のエンジニアチームが写真解析技術で準優勝という好成績を収めた。







自動運転ラボはサイバーコア社の阿部英志社長にインタビューし、現在の事業体制や同社が強みとする要素技術、自動運転業界との関わりについて話を聞いた。

【阿部英志社長プロフィール】あべ・ひでし 1952年生まれ、岩手県出身。法政大学地理学科卒。1976年に国家公務員試験合格を経て岩手大学に入職し、主に画像処理・画像認識課題に従事。2012年に株式会社サイバーコア(旧ユニテック)代表取締役に就任。

■岩手大学ベンチャーとして設立、国内における画像認識のフロンティア
Q 阿部社長のバックグランドを教えて下さい。

私自身、岩手大学で30余年にわたり、主として画像処理や画像認識の研究に従事し、特に衛星によるリモートセンシングが研究領域の一つでした。当初は衛星からのデータを画像に「見える化」すれば良いということでしたが、その後、その画像内で起きている現象を解析する「画像認識」や「事象抽出」の研究にシフトしていきました。

岩手大学は文部科学省からリモートセンシングの研究で全国的にも早くから特別予算がつき、研究センターも開設してほかの大学よりも画像解析の研究を早期にスタートさせています。岩手県には国立の岩手大学と公立の岩手県立大学がありますが、いまも両大学の先生方と弊社も懇意にさせて頂いております。画像認識やAI関連の研究をしている先生が多く、学生の方もアルバイトに来てくれて非常にいい仕事をしてくれています。

Q 御社(サイバーコア)と岩手大学はどういった関係にあるのですか?

サイバーコア(途中で社名変更)は、実は岩手大学発のベンチャーなんです。会社を設立したのが2007年3月で、私が退職したタイミングで盛岡駅前のビルに拠点を構え、エンジニアを採用し始めました。それが5年位前ですね。大学発ベンチャーですので、ゼロから会社を立ち上げたというイメージではありません。

資本金に関しては9975万円というギリギリに抑えてあります。税法上、中小企業という枠組みの範囲内という意味もありますが、設備投資も不要なので、資金ははっきり言ってしまえばあまり必要ありません。人件費が主ですので。出資したいという会社さんからいくつかお声掛けは頂いています。

■高精度解析技術で自動運転分野から引き合い、道路の「白線」に関する事業も
Q 自動走行センシング関連の事業も取り組んでいるとのことですね。

実際、自動車・自動運転関連の案件は一定数お声掛けを頂いています。

我々の会社が直に車載向けの自動運転技術を提供するというよりも、メーカーやティア1(1次サプライヤー)のAI部門と連携して取り組むというスキームですね。自動運転というのはソフトウェアだけではなく、ハードウェアに組み込みを行わないといけません。いま部品メーカーさんからチップメーカーさんまで色々とご紹介を頂いており、我々の画像関連アルゴリズムを載せていく話が出ています。

そういえば、内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)関連の自動運転に関する資料を拝見したのですが、日本ではセンシングにおける白線識別の精度が3センチ以下を目標としているんですよね。アメリカでは15センチですので、日本の方はかなり厳しく設定されているんです。

実はこの白線認識に関しても、自動車メーカーではないですが自動運転関連の技術開発に取り組んでおりまして、好評を頂いています。これにより目視による白線認識工程を省力化できています。

我々は基本的にはオーダーメイドで企業さんの要望に応えるという受託開発をしています。お客様によって業種も多種多様ですが、例えば大手ゼネコンや医療系の課題にも取り組んでいます。我々は既存のライブラリだけに頼らず、自社開発でゼロベースからシステムを開発できますので「かゆいところに手が届く」ということが強みです。

また弊社では動画対応に対応した暗闇・夜間画像の鮮明化ソリューションも提供しております。濃霧や霞の状態の画像もその先の様子を鮮明に確認できるようにする技術も有し、日々改善を重ねています。

元の画像(左)と鮮明化後の画像(右)=出典:サイバーコア公式サイト
■優秀なベトナム人エンジニアチームを現地で組成、社員ほぼ全員が技術者
Q AI国際コンペティションで御社のベトナム拠点のエンジニアチームが画像認識技術を披露し、準優勝するというニュースも話題になりました。

実は私も知らないうちに(笑)、ベトナムチームが参加していて、世界コンペで準優勝をしていました。アパレルに関する100万枚ぐらいの画像を200種類ほどに分類するという精度を競った大会でした。そこで弊社の画像解析とAI技術を活用したわけです。

Q 盛岡の本社と東京オフィスに加えてベトナムオフィスも構えているということですか?

そういう形です。

ベトナムではオフィスを借りて拠点を作っています。1年ほど前に開設して、採用しているのはほとんどPh.D(博士)やマスター(修士)以上のトップレベルの技術者です。米国州立大や英国ケンブリッジ大を卒業・修了して、結婚のためや家庭の事情でベトナムに戻ってきたというエンジニアの方もおります。こうした優秀なエンジニアがベトナムには十数人ほどいて、彼らが非常に強い戦力になっています。

ベトナムはオフィスの広さも3倍ほどに拡張し、現在は30人ほどのキャパがありますので、マンパワーが足りなくなったらどんどん採用していこうと考えています。

マネージャークラスは日本に時々出張させていて、日本語も一生懸命勉強してくれています。盛岡には昨年1人、ベトナムから連れてきました。日本語もだいぶ上達し、ベトナム拠点とのパイプ役として活躍してくれています。今後は転勤者を増やして、国内との連携を強めていきます。

ベトナムという地を選んだのは、実弟がベトナムで日系部品メーカーの現地法人の代表をしていたことがきっかけの一つです。ベトナム人の国民性、特に勤勉さを知り、去年思い切ってベトナム拠点を開設したという流れです。

インタビューに応じる阿部社長=撮影:自動運転ラボ
Q 盛岡と東京オフィスを合わせてどれほどの人員がいるのですか?

総勢で30人くらいで、ほぼ全員がエンジニアです。ちなみに私は営業を兼ねてほとんど東京におります。

事業拡大や情報収集を考えると、盛岡だけを拠点にしていると難しいのと、お客様も商談などのために私を盛岡から呼ぶとなると気が重いじゃないですか。そういった意味もありましてほとんど東京にいるようにして、月に1〜2回ほど盛岡に帰っています。

■次世代モビリティ分野で白羽の矢

自動運転車の無人走行は、さまざまな先端技術が集大成として連携して初めて達成されるものだ。その先端技術の中でも特にコアテクノロジーとして重要視されているのが画像認識やAIで、サイバーコア社が開発してきた技術に白羽の矢が立った形だ。盛岡に本社を構え、東京はもちろん、海外拠点を有するサイバーコア社。自動運転業界での躍進にも期待が高まる。







関連記事