「運転は人の性格を表す」とよく言われる。100人のドライバーを仮定すると100通りの性格があり、実際に運転スタイルも100通りに上るだろう。
こうした運転スタイルは運転タイプとして類型できるが、こうした人間の運転データを自動運転システムに反映させるとどうなるのか。学習能力を持つAIの進化によって自動運転車が「性格」を持つのだろうか。
将来における自動運転システムの在り方の一つとして、さまざまな性格を持った自動運転システム(AI)の誕生を想定してみよう。
記事の目次
■人間と運転
人間のドライバーには、制限速度をしっかり守りのんびり運転するタイプや慎重なタイプ、我先にと言わんばかりにスピードを出すタイプ、メリハリの利いたキレのある運転をするタイプ、燃費を考慮したアクセルワークやルート設定を徹底しているタイプなどさまざまなタイプが存在する。車間距離の取り方も人それぞれで、近年問題となっているあおり運転なども性格に起因するものだ。
技能や経験、知識によっても運転は変わるが、その根本を支える部分も性格・気質によるところが大きい。
理想は交通全体を最適化するような運転を心がけることだが、十人十色の性格を持った不特定多数のドライバーが顔の見えない状態で道路を共有するため、手動運転で全体最適化を図るのはほぼ不可能に近いだろう。
■AIに複数の「運転タイプ」を学ばせてはどうか
達成するのが困難な交通全体の最適化だが、自動運転であればその問題を解決することができる。基本的に自動運転は「周囲と協調して交通全体の効率化を図りながら安全運転を心がけるタイプ」だからだ。
高速道路などの合流時の推奨マナーとされるジッパー法はお手のもの。走行経路の前方にある信号データや車列データ、道路の勾配などを事前に解析して無駄なアクセル・ブレーキワークをなくすことで交通の流れを円滑にする。
自動運転は、道路交通において模範となり、推奨されるべき運転方法が採用されるのだ。
ただ、画一化が進むとパーソナリティも消失し、クルマを所有する楽しさが失われることになる。自動運転車であっても、サービス面以外の「運転」における差別化・区別化を求める声が一定数上がってもおかしくはないだろう。
では、運転をつかさどるAI(人工知能)に「性格」を持たせてはどうか。人間の運転データを参考にいくつかの運転タイプを用意すれば、オーナーの性格が反映された個性が少しは発揮できるのではないだろうか。
自動運転は制限速度以内で安全性を最重視した運転を行うことを前提に、いくつかの運転タイプについて見ていこう。
■将来AIに搭載されるかもしれない「運転タイプ」
のろのろ運転型
いわゆる「石橋を叩きまくってから渡る」自動運転タイプで、見通しの良い幹線以外、例えば住宅街を通過する際などは制限速度を大幅に下回る速度で走行する。極限までヒヤリ・ハットの回避を追求するため、AIが手に汗握りながら慎重にハンドルを握っているようなイメージだ。高速道路走行時も、サービスエリアが近付くたびに「休憩しますか?トイレは大丈夫ですか?」と尋ねてくるかもしれない。
制限速度を下回るため、後方に車列ができた場合は速やかに道を譲る機能も必須となる。安定した乗り心地でのんびり移動したい人に向いているタイプで、ベッドのようなシートアレンジが可能な自動運転車に適していそうだ。
速度優先型
制限速度以内が前提となるため過度な速度は出せないが、可能な限り制限速度ぴったりで走行するほか、抜け道などを積極的に利用して目的地までにかかる所要時間を少しでも短くするタイプだ。
前出の「のろのろ運転型」が前方にいる場合は、積極的に追い越し・追い抜きを図る。必要十分な安全水準を満たしつつも、その水準ギリギリまで安全レベルを下げた走行になる可能性もある。
また、この発想が飛躍すると「違法改造車」にたどり着く。違法改造と言っても、著しく車高を下げたりマフラーを切断したりするものではない。自動運転に係るソフトウェア・プログラムの不正な改変を行う自動運転特有の改造で、制限速度に関する走行ルールを捻じ曲げるのだ。速度のリミッターを解除するようなものだ。
将来、こうした行為を行う悪質オーナーが出てくる可能性は決して低いものではない。
2020年に施行予定の改正道路運送車両法に「自動運行装置に組み込まれたプログラムの改変による改造などに係る許可制度」の創設が盛り込まれているが、プログラムの改変がV2V(車車間通信)によってつながる周囲のクルマにも影響を及ぼし、交通全体の協調を脅かすことにもなる。
セキュリティ機能の強化はもちろんのこと、車検時などの対策をはじめV2VやV2I(路車間通信)、開発メーカーなどのサーバーを通じてリアルタイムでプログラムの違法改変を察知し、速やかに対処できるシステムが不可欠となりそうだ。
【参考】改正道路運送車両法については「改正道路運送車両法が成立 自動運転車の安全性確保へ制度整備へ」も参照。自動運転におけるデータ通信については「自動運転とデータ通信…V2IやV2V、5Gなどの基礎解説」も参照。
自動運転とデータ通信…理解必須の4大規格、基礎解説&まとめ AIやLiDARが膨大な情報生成、自動車イノベーションの鍵握る|自動運転ラボ https://t.co/Tbo2uSLgPW @jidountenlab #自動運転 #データ通信 #4大規格
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) October 7, 2018
燃費優先型
効率性を重視する自動運転システムは基本的にエコな運転を心がけるが、燃費優先型は特に燃費にこだわったタイプだ。
アクセル・ブレーキワークはもちろん、走行ルートを選定する際、最も効率良く一定速度で走行可能で勾配がなく、かつ他車の影響が少ないルートを選ぶ。燃費に影響を及ぼす車載装備の類も極力軽量化が図られている。
自動運転車はEV(電気自動車)がスタンダードとなる見込みだが、航続距離をいかに伸ばすかは永遠のテーマだ。バッテリーの性能のみならず、自動運転システムの力によって航続距離を伸ばす取り組みも進められそうだ。
■自動運転運転システムを育てる
自ら学習能力を持つAI。この特性を利用し、将来的には自動運転車の使用を重ねるうちに各オーナーに適した運転タイプを構築していくシステムが誕生しそうだ。
自動車分野では、ゲームサービス事業やライフエンターテインメントサービス事業を手掛けるエディアとAI開発を手掛けるSPJ が、AI技術を活用した次世代カーナビ・ゲームなどの開発を目的とする共同研究開発を2018年に開始している。
ユーザーの現実世界やサービス上における行動履歴や趣味・趣向をAIに学習させ、ユーザーごとに最適化した世界観・キャラクターを自動生成する機能などの開発を進めている。いわばカーナビに人格を持たせるような技術だ。
また、トヨタが開発を進めるAIエージェント「YUI」は、モビリティエキスパートとして一人ひとりのニーズに合わせた特別な移動体験の提供を目的に掲げている。自動運転システムとは独立しているものの、こうした技術の応用が車両制御全般に生かされる時代が将来訪れるかもしれない。
【参考】YUIについては「NTTのAI技術、トヨタの自動運転車「LQ」の車載エージェントに」も参照。
■【まとめ】将来は自動運転システムのパーソナル化が進む?
「暴走したAIが人類を襲う」――といった映画があるが、AIに人格を持たせ過ぎるとそういった思考にたどり着く可能性があることは否定できない。人類滅亡はさすがに飛躍し過ぎだが、違法改造AIが道路上を暴走し始めたとき、他のAI自動運転車はどういった行動をとるのか。
警告音を鳴らして周囲に危険を促す行動に出るかもしれないし、ともすれば交通の全体最適化を重視して暴走車を制止する行動に出るかもしれない。性善説を前提とした人格形成が行われることに期待したい。
話がそれたが、一定の枠組みにおいて各自動運転システムがパーソナリティを持つことは、従来の自動車ユーザーにとっては有意義なものとなる。社会という枠組みの中で協調しつつも個性を重視するのが人間だからだ。
自動運転システムにおいて、どこまでのパーソナル化が可能なのか。こういった研究開発も今後加速し、自動運転社会が市民権を得た後に新たなビジネスとして世の中に登場しそうだ。
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