インターネット社会の到来から早20数年が経過したが、近い将来、「情報銀行」の仕組みによって、データ流通の環境が大きく変わるかもしれない。
IoT技術の進展により、さまざまなモノがインターネットを通じてつながる時代が訪れたが、気になるのが個人情報や行動履歴などの流通だ。こうしたデータの流通の安全性を高めるとともに、効果的な流通を促進する仕組みが情報銀行だ。
この情報銀行の仕組みは将来、多くのデータを生成・活用する自動運転領域でも導入される可能性があることをご存じだろうか。
自動運転における数々の公益的なデータやパーソナルデータは、情報銀行の仕組みを活用することで、より効果的なビッグデータとしての価値やパーソナルデータとしての価値を生み出すからだ。
■情報銀行とは?
総務省の平成30年版情報通信白書によると、情報銀行は「個人とのデータ活用に関する契約等に基づき、PDS(Personal Data Store)等のシステムを活用して個人のデータを管理するとともに、個人の指示又は予め指定した条件に基づき個人に代わり妥当性を判断の上、データを第三者(他の事業者)に提供する事業」と定義されている。
昨今、氏名や住所といった個人情報をはじめ、ECサイトにおける購買履歴や閲覧履歴、・検索サイトにおける検索履歴、SNSにおける登録情報などをもとにしたパーソナルデータの取り扱いが良くも悪くも話題になっている。
ECサイトなどはこうしたデータをもとに「あなたにおすすめの商品」を提示したり、興味がありそうなジャンルの広告を表示させたりするなど自社ビジネスに活用しているが、これらのデータがいつどこで誰に利用されているか、といった「個人情報の安全な流通」面で不安を抱える人は多い。
こうしたパーソナルデータの取り扱い権限を消費者の手に取り戻す新たな仕組みが情報銀行だ。個人情報に紐づけられたさまざまなデータを情報銀行が個人から預かって一元管理し、各個人の意思・管理のもと流通が許可されたデータを他の事業者に提供する仕組みだ。匿名化することも可能で、データ提供から得られた利益は、クーポンなどの形で個人に還元される。
このシステムにより、パーソナルデータにかかる管理権限に本人の意思を働かせて「保護」を図るとともに、総体としてのデータ流通を促進して経済活性化や社会課題の解決などに結び付けていく狙いだ。
情報銀行設立に向けた取り組みはすでに始まっており、電通グループの株式会社マイデータ・インテリジェンスは2019年7月、パーソナルデータを預かり、独自開発したセキュアなプラットフォーム上で運用するマイデータバンク「MEY」の提供を開始している。
■自動運転車でもこうした仕組みが?
自動運転において生成されるデータは非常に多岐にわたる。LiDAR(ライダー)などのセンサーが取得したデータが自動運転の精度向上に役立てられるほか、パーソナルデータも数多く生成される。
インターネット上における検索や購買などの履歴が行動履歴としてデータ化されるのと同様、自動運転においては現実世界における行動履歴がまずデータ化される。自動運転車を利用した日時をはじめ、目的地や滞在時間、寄り道といった情報をすべてデータ化することが可能になるのだ。
また、好んで流す音楽情報などの車内における行動をはじめ、乗員数や性別、世代、さまざまなコネクテッドサービスの利用情報、実走行燃費といった車両情報に至るまで、さまざまな情報を生成することができる。
こうした情報は通常、コネクテッド技術によって自動車メーカーや通信事業者、コネクテッドサービス事業者などに渡り、有効活用を図るとともにサービス提供などが行われるが、これらのデータを第三者機関に送ることで、自動運転データやパーソナルデータの「データ取引」が活発になり、自動運転社会全体の最適化に資するとともに、個別サービスをより積極的に受けられる可能性が高くなるのだ。
■預けられたデータはどう活用される?
自動運転に関するデータとして需要があるのが、センサーが読み取ったカメラやLiDARなどのデータだ。高精細3次元地図の基として、またAIの学習用として利活用される。
オープンデータとして公開されることが多いが、3次元地図の製作において、私道や農道などの特殊な道路情報は貴重なデータになり得るほか、定期的に更新する必要がある。実際、自社のオーナーやADAS製品を取り付けたオーナーに協力を求めてデータを収集している企業は多い。
こうした情報を、情報銀行を経由して自動運転開発企業や自治体などに提供する形もあるだろう。無償提供が基本になりそうだが、提供データ数に応じて自社製品やコネクテッドサービスの割り引きなどを受けることができるかもしれない。
パーソナルデータでは、頻繁に目的地に指定する店舗情報などをもとに関連施設のクーポンが発行されたり、何かしらの情報を活用した企業がお礼としてクーポンを発行したりするケースなどが考えられる。
通常であれば、自動車メーカーやコネクテッドサービス提供企業に委ねられるサービス提供などの判断は、情報銀行を介することで、どのデータをどの企業・分野に提供するかを自分の意志で決定することが可能になる。従来、オーナーと自動車メーカー間に介入する余地のなかった企業も手を挙げることができるため、安全かつ積極的に情報の有効活用が図られるようになる。
【参考】3Dデータの無料公開については「静岡県、道路や施設の3Dデータを無料公開へ 自動運転時代の先進県に」も参照。
■【まとめ】自動運転専門の情報銀行も?
世界的に情報銀行設立の動きが加速しており、国内においても近くサービスが乱立する可能性がある。どの銀行に情報を預けるかによって、享受できるサービスも変わる可能性がありそうだ。
その意味では、自動運転に特化した情報銀行が登場すると面白いかもしれない。インターネット上における情報とリンクする部分もあるが、専門的要素も多く、移動を伴うモビリティならではのサービスを展開できるからだ。
次世代移動通信システム「5G」の実現により、流通するデータ量は格段に増えることが見込まれるが、将来訪れるデータ社会において、自動運転分野は一つのジャンルとしてしっかりと確立されるはずだ。
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