自動運転関連の開発競争が激化している。既に海外では自動運転タクシーの商用サービスも始まり、日本では自動運転レベル3(条件付き運転自動化)も解禁される。
自動運転を成立させるためには、自動運転ソフトウェアやセンサーの開発も求められるが、最近特に重要度の高さが注目されているのが、自動運転に関連するさまざまなデータを保存するためのストレージだ。自動運転車は従来の自動車とは桁違いのデータを日々生成・通信するからだ。
そこで特集「深掘り!自動運転×データ」の第4回目は、「自動運転×データ」「自動運転×車載ストレージ」という切り口で行った対談企画の内容をお届けする。
対談にご登場頂くのは、半導体メモリー大手の米ウエスタンデジタルの車載用ストレージ部門でマーケティングディレクターを務めるラッセル・ルーベン氏と、埼玉工業大学で自動運転開発に関わる渡部大志教授。業界の最前線で活躍する両氏が語ったこととは?
記事の目次
【ラッセル・ルーベン氏プロフィール】ウエスタンデジタルのオートモーティブ向け組み込みストレージを統括する製品マーケティングディレクター。日本のみならずワールドワイドの自動車市場に注力した製品開発と展開、およびGTM戦略の責任者。
【渡部大志氏プロフィール】わたべ・だいし 東北大学大学院理学研究科修了。博士(理学)。専門分野は「自動運転」「画像工学」「バイオメトリクス」などの情報工学。自動車技術会、電子情報通信学会などに所属。埼玉工業大学発の自動運転ベンチャー「フィールドオート」の社長でもある。
■埼玉工業大学:自動運転開発から実証実験サポートまで
自動運転ラボ 今回は対談宜しくお願い致します。まずお互いに自動運転分野での取り組みやご経歴などを説明して頂けますでしょうか。
渡部氏 私は埼玉工業大学で教員として20年ほど勤めています。主に情報系の領域を扱っておりまして、ここ数年は自動運転関連に関わっています。実証実験などの取り組みを数多くのメディアに取り上げていただいておりまして、非常に期待とやりがいのある分野だなと思っています
2018年に埼玉工業大学発のベンチャーとしてフィールドオート社が設立され、社長に就任しました。この会社の主な事業は、全国各地で実施される自動運転の実証実験をお手伝いすることです。大学で開発した自動運転の技術を世の中に普及させるための窓口として事業に取り組んでいます。また現在は新体制の自動運転技術開発センター長として、埼玉県の支援により自動運転バスの開発も進めており、自動運転バスの市販化を目指しています。
ルーベン氏 自動運転バスはハードからソフトまで全て埼玉工業大学さんで手掛けておられるのですか?
渡部氏 埼玉工業大学だけで全てができるわけではないので、色々な所と協力しながら音頭を取って進めています。
【参考】関連記事としては「【インタビュー】「自動運転実証実験の総合プロデューサー」に フィールドオート渡部社長 埼玉工業大学発ベンチャー、ティアフォーとも連携」も参照。
■ウエスタンデジタル:2015年から車載用フラッシュストレージを販売
ルーベン氏 ウエスタンデジタルは主にストレージを扱っている会社です。車載ストレージには2002年に車載用ハードディスクで参入し、2015年より車載用フラッシュストレージの提供を続けています。
以前は車載用フラッシュストレージに大きな容量は必要とされていませんでしたが、ナビゲーションやインフォテインメントシステムなど車に様々な機能が搭載され、現在ではストレージの大容量化のニーズが増えてきています。そして将来的に車が自動運転化すると必要とされるストレージ容量は爆発的に増加すると言われていますので、弊社としては非常にフォーカスしている市場です。
弊社では、家電量販店などで一般的に販売しているSDカードなどのストレージ製品も扱っていますが、車載用ストレージはこのような民生品よりもさらに高いレベルでの品質が要求されます。振動など厳しい状況にさらされながらも故障しないことが求められ、温度環境もマイナス40℃からプラス105℃の間で安定して動作する品質が必要です。
【参考】関連記事としては「自動運転やコネクテッドカー、革新の鍵は「車載グレードの大容量ストレージ」だ 性能・信頼性の向上も必須」も参照。
■注目の「3D NAND」技術、生成データ増大に対応
ルーベン氏 埼玉工業大学さんは実証実験のサポートからソフトとハードも含めて開発に関わられていらっしゃいますが、自動運転車を作り上げるにあたってどういう性能を車載ストレージに求めますか?
渡部氏 先ほどおっしゃられたような品質面も含めて、標準的な車載器としての性能はまず必要になります。どれだけの容量が必要になるのかという点はまだはっきり見えない部分もあるのですが、例えば全国の高精度3次元(3D)点群地図を収めようとすると、800TB(テラバイト)は必要になるという試算もあります。
しかも地図は常に最新の情報にアップデートすることが必要になりますので、高速での読み書きもできなければいけません。
ルーベン氏 フラッシュストレージの容量は年々大きくなってきていて、1GB(ギガバイト)あたりのコストもどんどん下がってきています。最近では「3D NAND」という技術を使った製品も出ていまして、この技術に限界がなければ、数TB、数十TB、100TB単位くらいまで増えていく可能性は十分にあります。
ちなみに3D NANDはセルの垂直配置などによる高密度化によってストレージ容量を飛躍的に増やすことを実現できます。データの書き込み速度の高速化のほか、低消費電力や低コストであるなども特徴であると言えます。
弊社が昨年10月に発表した「iNAND AT EU312」や今年5月に発表した「iNAND AT EM132」は、ウエスタンデジタルの3D NAND技術を初めて採用した車載フラッシュストレージです。これらの製品はコネクテッドカーや自動運転はもちろん、AIデータベースやテレマティックス、V2V(車車間通信)やV2I(路車間通信)にも対応しています。
【参考】関連記事としては「自動運転やコネクテッドカー、革新の鍵は「車載グレードの大容量ストレージ」だ 性能・信頼性の向上も必須」も参照。
■完全自動運転時代、車内エンタメでもストレージは重要
自動運転ラボ 将来的に人が運転から解放される自動運転レベル4(高度運転自動化)や自動運転レベル5(完全運転自動化)が実用化したとき、これまでとは違った種類のデータが増えてくると思います。自動運転技術に精通している渡部教授から見て、どのようなデータが増えてくるか教えていただけますか?
渡部氏 完全無人での自動運転が可能な車両が登場すると、移動の概念が大きく変わります。それに伴い、車内で生成されるデータも増え、種類も増えてきます。
例えば自動運転で目的地まで移動している間は、従来はクルマを運転していた人が車内で映画を観ることもできるようになります。車内がそのようなエンターテイメントの場所になると、色々なエンタメサービスが提供されていくようになりますから、データを保存する車載ストレージの重要性は一層高くなりますよね。
自動運転ラボ レベル4以上の自動運転車ではハンドルやアクセルも必要無くなりますから、車内の空間デザインの自由度が増します。またAI(人工知能)がセンサーで周辺環境を認識して走行してくれますから、極端に言えば外が見えなくても問題ありません。こうしたことから窓をディスプレイ化したり、座席の位置も工夫したりできます。そういう意味でも、車内エンタメは高い可能性で広く浸透していきそうですよね。
ルーベン氏 そうなると、次世代通信規格の「5G」などを含めたデータ通信のコストも重要になってきますよね。通信量が無料になるかどうかは別として、自動運転を見据えたスマートシティなどが実現すれば、街中のWi-Fiスポットとデータのやり取りをするということも視野に入ってくると思います。
渡部氏 こうしたことを考えても、自動運転時代には高速通信に対応した大容量のストレージが求められてくると思います。
【参考】関連記事としては「自動運転車の中での行動、エンタメ58%、SNS57%、仕事56% インテル調査」も参照。
自動運転ラボ そのほかにも自動運転車を開発する上で、データについての課題などはありますか?
渡部氏 技術的な部分では例えば、自動運転でも使われるカメラの画素数は現在最高スペックでもおよそ1億画素くらいですが、人間の目は約5億画素とされています。その大きなデータを保存するストレージと処理するプロセッサがなければ、人間の目にはかないません。もし画像で全部やるならそこをどうするのというのは大きな課題の一つかもしれないですね。
ルーベン氏 ウエスタンデジタルとしてもこうした開発サイドからの要望に丁寧に耳を傾け、「大容量」「高速」「高品質」「高耐久性」といった、自動運転時代に求められる車載ストレージとしてのフルスペックに対応すべく、製品開発に力入れていきたいと思います。
自動運転ラボ 本日は対談ありがとう御座いました。
■【取材を終えて】車載ストレージは一層進化へ
我々が運転から解放される自動運転レベル4以上を実現するためには、高性能で大容量な車載ストレージが鍵となる。今回の対談では、自動運転車の作り手側とストレージの製造企業が密にニーズを確認し合っていくことで、車載ストレージは一層の進化を果たしていく可能性が感じられた。
車載ストレージの市場規模が拡大する中、ストレージ世界大手のウエスタンデジタルが今後どのような製品を世に出していくのかに注目だ。
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