【インタビュー】「自動運転実証実験の総合プロデューサー」に フィールドオート渡部社長 埼玉工業大学発ベンチャー、ティアフォーとも連携

AIやセンサーで「動かすこと」にこだわる



自動運転の技術開発や新会社への意気込みを語る渡部社長=自動運転ラボ撮影

大学発ベンチャーとして株式会社フィールドオート(本社:埼玉県深谷市/社長:渡部大志)を2018年6月に設立し、私立大学としては国内初の自動運転の実証実験に関する産学連携事業を始動させた埼玉工業大学。同社の創業社長に就任して事業の舵取り役を担うのが、工学部情報システム学科の渡部大志教授(48)だ。

フィールドオート社の事業の柱の一つが自動運転の実証実験サポート事業。自動運転車を実際に走行させるためには、各社が縦割りで開発する人工知能(AI)や画像認識、自位置推定、高精度地図などのさまざまなコア技術を横軸で連携させなければならない。そういう意味で渡部社長はフィールドオート社を「総合プロデューサー」と例える。


各社の優れた技術を結集させ、1台の自動運転車を「動かす」という最後の砦を担うことに意欲を示す渡部社長。自動運転ラボは渡部社長に単独インタビューし、今後の事業展開や21世紀最大のイノベーションの一つとも言われる自動運転開発にかける想いを聞いた。

【渡部大志教授/社長プロフィル】わたべ・だいし 1970年7月11日生まれ、東京都出身。東北大学大学院理学研究科修了 博士(理学)。専門分野は「自動運転」「画像工学」「バイオメトリクス」などの情報工学。自動車技術会、電子情報通信学会などに所属。趣味はスキー。

■自動運転技術の「総合プロデューサー」として「動かす」ことにこだわる

Q 埼玉工業大学は自動運転の実証実験を東京都内や埼玉県内で実施してきました。報道発表では、新会社のフィールドオート社は自動運転実証実験のサポート事業を柱に据えることが掲げられていましたが、なぜ実証実験のサポート事業がいま自動運転業界で求められていると考えているのですか?

自動運転車を動かすことには、いわゆる「全体的なノウハウ」が独自に必要になります。画像処理や位置特定、AIなどのさまざまな技術が自動運転車には必要になりますが、一つ一つの技術やプロダクトに関する技術や知識がどんなに優れていても、それぞれの技術や知識だけでは自動運転車を動かすことはできません。良く準備して実験に臨んだつもりでもプロタイプにつきもののトラブルはゼロにはなりません。


このトラブルの解決には、全体を理解して問題を切り分けトラブルシューティングして最終的に動かす「総合プロデューサー」的な役割が必要になるわけです。フィールドオートは埼玉工業大学での自動運転車の実証実験の経験を活かし、最終的に車を「動かす」ノウハウを提供していきたいと考えています。

いまはAIやLiDARなどのコア技術が脚光を浴び、このような「総合的」「応用的」な役割にはスポットライトが当たっていませんが、実は、自動運転実証実験プラットフォームを販売している会社や、自動運転用ミドルウェアを開発している会社への実証実験のサポート依頼件数は現在急増傾向にあります。新たに立ち上げたフィールドオートでそのような社会の需要に応えていきたいと考えています。

【参考】埼玉工業大学は、政府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「自動走行システム/大規模実証実験」部門に参画し、東京都のお台場周辺で国内外の大手自動車メーカーなどと2017年10月から自動運転の実証実験を開始している。2017年12月からは埼玉県内初となる自動運転の実証実験を深谷市で取り組んでいる。詳しくは「AIやセンシング技術駆使 埼玉工業大学、自動運転実証実験の全貌 私大で唯一SIPに参画|自動運転ラボ 」も参照。

埼玉工業大学が実証実験で使用しているトヨタ・プリウスの改造車=出典:埼玉工業大学

Q 実証実験のサポート事業では「3年間で30件」の業務受託を目指すことが掲げられていました。どのようなクライアントからの受託を目指すのですか? また今後1年における受託件数目標を教えて下さい。


クライアントは、コアセンサーや自動運転システムの要素技術開発に取り組み始めている民間企業や、自動運転の実証実験実施などに取り組み始めている地方自治体などとなります。日本では現在、実証実験を受託できる企業は少ないという現状もあり、既に引き合いもあります。最初の1年では3社くらいからの受注を目指しています。民間企業からの受託の方が多いかとは予測しています。

■名古屋大発のティアフォー社と連携、中部・関東など広域で実証実験支援

Q 名古屋大学発の自動運転スタートアップであるティアフォー社が新会社の100%株主となっています。どのようなスキームで連携をしていくのですか?

ティアフォーが開発している自動運転ソフトウェア「Autoware(オートウェア)」などを活用した実証実験のサポートを進めていく予定です。ティアフォーは中部地域が拠点ですが、フィールドオート社は首都圏に近いということもあり、両社が連携することでより広い地域を対象に実証実験をサポートしていけると考えています。

ティアフォーの子会社としてフィールドオートは12社目です。既に自動運転に関連する技術開発に着手しているティアフォー子会社のベンチャー企業などとも連携し、事業を進めていきたいと考えています。

【参考】ティアフォー社は2015年12月設立。自動運転ソフトウェア「Autoware」はティアフォー社がAI技術なども活用して開発しているオープンソースの基本ソフト(OS)だ。愛知県における自動運転レベル4(高度運転自動化)の実証実験などでは、同社の自動運転システムが用いられ、脚光を浴びた。同社はトヨタ自動車などが参加する「未来創生ファンド」などから出資を受けている。ティアフォー社については「公式サイト」も参照。

Q 報道発表で明らかにしていた自動運転関連の教育事業はどのような計画になりますか?

当面はティアフォーが開催する「AI・自動運転テクノロジー体験塾(通称:ティアフォーアカデミー)」のサポートをしていく形になると思います。まず実験車両を動かせる知識を持つ技術者の養成に貢献したいと考えています。

Q 自動運転に関して、大学と新会社はそれぞれどのような役割を担うことになりますか?

大学内での研究チームは学生を入れると10数人くらいの所帯です。ざっくり言うと、実証実験が主な研究内容になります。大学側はフィールドオートに対し、実証実験を行う際の機材や人材を提供します。新会社側は民間企業や自治体などから実証実験を受託し、実験サポートをするという役割を担います。

求めるエンジニア像などについて語る渡部社長=自動運転ラボ撮影
■埼玉工業大学が2019年度に新設するAI専攻の全貌は!?

Q 埼玉工業大学はAI専攻も来年2019年度に新設するとのことですが、どのような⼈材に育成していきたいですか?

裾野が広く、不足しているAI人材に育てることが目標です。「ディープラーニング」を体系的に学べる環境を整え、「日本ディープラーニング協会」(松尾豊・東京大学特任准教授が理事長)が定める資格の取得を支援します。

同協会のエンジニア資格を取得するためには、協会による認定プログラムを修了することが必要です。埼玉工業大学では「人工知能概論」、「応用AIプログラミング演習」の他、「AIと自動運転」などといった科目をそろえることで認定プログラムとなるようカリキュラムを整える準備を進めています。ディープラーニング技術を担う人材とディープラーニングの可能性と限界を正しく理解し、うまく新事業や自動運転技術等に活用する人材の両方の育成を目指したいと思います。

自動運転や顔認証などのAIエンジニアは世界70万人不足していると言われています。そういった事態を解消できるように、民間企業にうまく送り込める人材を1人でも2人でも増やしていきたいと考えています。そしてコア技術だけではなく、冒頭でもお話した自動運転車を「動かす」技術を持った人材を育成していきたいと考えています。

■まとめ:「要素技術の持ち込み先」としてのフィールドオートの役割

渡部社長が何度も強調していたのが、「車として動かす」という技術の重要性だ。

100年に一度といわれる自動車産業の変革の時代に、完成車メーカーに部品供給をしている企業の中にも、自社で自動運転車両を動かし将来の需要や方向性を検討し始めている企業も多い。また、高齢化社会における交通弱者へのサービスの在り方を模索するために、自動運転車両を動かし問題を抽出したい自治体もある。

しかし、完成車メーカーのように全体を知っているエンジニアを擁していないことが多く、実験は難航することが多い。そのために、実証実験サポートの需要は最近急増している。その一端をフィールドオートは担っていくことになる。


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