ソフトバンクの自動車・自動運転事業まとめ(2023年最新版)

CASE分野において通信技術をグローバル展開



出典:ソフトバンクグループ公式ライブ中継

CASE分野におけるソフトバンクの存在感がますます高まりそうだ。同社はアイルランドのIoTプラットフォーマーCubic Telecomに出資・子会社化し、コネクテッドカーやソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV:Software Defined Vehicle)市場向けのグローバルIoT事業へ本格参入していく。

コネクテッドカーのスタンダード化や自動運転車の普及が始まる今後、同分野における通信事業の市場は大きく拡大し、通信事業者間のビジネスもいっそう激化しそうだ。


通信事業者としてソフトバンクは同分野でどのように存在感を高めていくのか。通信分野での覇権を目指すソフトバンクを中心に、グループ各社・各事業における自動運転・モビリティ分野での取り組みをまとめてみた。

■Cubic Telecomを子会社化

ソフトバンクはCubic Telecomとのパートナーシップにおいて、同社へ約4億7,300万ユーロ(約747億円)を出資し、同社株式の51.0%を取得することで合意した。

ソフトバンクによると、Cubic Telecomは2016年にコネクテッドカー向けIoTプラットフォームの提供を開始して以来急激な成長を遂げており、90以上の移動体通信事業者(MNO)との契約を通して世界190カ国・地域以上で1,700万台以上の車両に同社のソリューションを提供しているという。1日あたり10億件のモバイルインターネットによるデータ通信を可能にしている。

自動車メーカーは、同社のプラットフォームを利用することでモバイルネットワークを通して車両や機器をグローバル規模でリアルタイムに監視・管理し、関連する機能をアップデートすることが可能になるという。


ソフトバンクは主にアジア太平洋地域においてグローバルIoT事業を展開しているが、コネクテッドカー向けIoT業界のリーダーであるCubic Telecomとの新たな戦略的パートナーシップにより、急成長するコネクテッドカー市場やSDV市場向けのグローバルIoT事業へ本格参入し、新たな収益機会の創出を図っていく。なおSDVとは、主にインターネットに接続されたソフトウエアを通じて機能を更新することができる車両のことを指す。

一方、Cubic Telecomはアジア太平洋地域で幅広い顧客基盤を持つソフトバンクとのパートナーシップによって新たな販売チャネルを開拓し、市場リーダーとしての地位をさらに強化していく。

また、両社はシナジー創出や新規サービスの開発にも取り組むこととしている。衛星や成層圏での非地上系ネットワーク(NTN)ソリューションを活用し、従来の地上ネットワークでは通信が届かない地域にある車両やIoTモビリティにもシームレスな通信サービスを提供する取り組みなどについても検討してく方針という。

出典:Cubic Telecomプレスリリース
2030年までに新車の95%がコネクテッド化

マッキンゼー・アンド・カンパニーが2021年に発表したレポートによると、2030年までに世界中で販売される新車の約95%がコネクテッド化され、このうち約45%は中級および高度な接続性を備えるという。


▼Unlocking the full life-cycle value from connected-car data
https://www.mckinsey.com/industries/automotive-and-assembly/our-insights/unlocking-the-full-life-cycle-value-from-connected-car-data

富士経済が2023年に発表したレポートでは、2035年にコネクテッドカーの新車販売台数は9,230万台に達し、自動車メーカーなどによるCASE関連投資の活発化が続き市場は拡大していくという。

富士経済によると、コネクテッドカーの通信形態は、車載セルラーと車載DSRC(専用狭域通信)、モバイル連携があり、複数の通信形態を採用するケースもみられるが、車両側にセルラー通信モジュールを装備する車載セルラーが増加しており、2023年でコネクテッドカー販売台数の86.2%に車載セルラーの採用が見込まれるという。

▼コネクテッドカー(つながる車)の世界市場を調査
https://www.fuji-keizai.co.jp/file.html?dir=press&file=23035.pdf

出典:富士経済

自動車分野においても5G通信の主流化が進むとみられ、2035年には車載セルラーの採用率は90%近くまで上昇すると予想している。

車載DSRCは、車車間・車路間無線通信といったV2X用途で欧州を中心に商用化が進んでいる一方、中国はセルラー通信の全面採用を打ち出しており、米国でもセルラーによるV2Xシフトの動きが鮮明になっているという。広域移動が大前提となる自動車は、携帯電話同様セルラーとの相性が良いようだ。

今後通信事業者が自動車・自動運転分野で躍進

現在実装されているコネクテッドサービスの多くは、オーナー所有のスマートフォンの通信回線で代替可能なものが多いが、専用の車載通信機を搭載するモデルも増加している。サービスの高度化が進めば必然的に通信量・頻度が増加し、専用の通信回線が必要となってくる。

こうした流れは、通信キャリアにとって追い風となる。IoTの中でも自動車における通信量は膨大で、自動車そのものの市場も非常に大きい。

SDVが主流となり、OTAによるソフトウェアアップデートでクルマが進化するサービスやエンターテインメントサービスなどがスタンダード化すれば、必然的に移動体通信の需要が増す。

また、実用化が始まった自動運転車においては、高速大容量かつ低遅延の通信技術は必須となる。この部分は自動運転開発事業者単体では対応できない領域のため、通信事業者の活躍が期待される。

こうした需要に対し、いかにグローバルな規模・視点で対応していくかが通信業界におけるさらなる成長のカギを握っているようだ。

【参考】自動運転と通信技術については「自動運転と5Gの関係性を全解説 コネクテッドカーでも大活躍」も参照。

■ソフトバンクの取り組み
2017年にホンダとの共同研究に着手

ソフトバンクがコネクテッド分野における取り組みを加速し始めたのは、2017年と思われる。同年、本田技術研究所とともにコネクテッドカー技術強化を目的とした共同研究の検討を開始した。

高速移動中の自動車において、通信基地局を安定的に切り替える技術や車載アンテナの開発をはじめ、弱電界におけるデータ送受信性能を確保する技術やデータ処理技術の開発、さまざまなユースケースを想定した技術開発などに着手した。

2023年には、NEXCO中日本の「高速道路の自動運転時代に向けた路車協調実証実験」に参加し、コネクテッドカーや交通インフラなどの情報連携によって事故リスクの予測や情報通知を行うユースケースの検証を開始している。

高速・低遅延の5G活用を促進
出典:ソフトバンクプレスリリース

こうした通信技術の開発は、自動運転分野への活用も視野に入れたものだ。同年、総務省の「高速移動時において1msの低遅延通信を可能とする第5世代移動通信システムの技術的条件等に関する調査検討」を請け負い、トラックの隊列走行や車両の遠隔監視、遠隔操作に5Gを活用する実証もスタートしている。

2020年には、5Gの新たな無線方式「5G-NR」の無線伝送技術に基づく車両間通信を活用し、新東名高速道路で車間距離10メートルの自動運転トラック隊列走行の実証に成功した。

また同年、西日本旅客鉄道(JR西日本)と自動運転と隊列走行技術を用いた「BRT/バス高速輸送システム)の開発プロジェクトを開始したことも発表している。

2021年10月に専用テストコースでの実証を開始し、2023年11月ごろからは広島県内の公道で実証を進めている。

テストコースでの実証では、連節バスの自動運転やRTK-GNSS・磁石を使用した自己位置推定、先頭車両レベル3・後続車両レベル4相当の異なる車種の組み合わせ・順番での自動運転・隊列走行、隊列走行での正着制御、BRTの位置情報に基づいた単一車線区間での交互通行制御、専用道と一般道の交差部を想定した信号・踏切制御、運行管理システムからの指示による隊列形成・解除、遠隔地からの車内外監視、高い安全性・低遅延のプライベート5Gを使った車車間通信、光無線を使った車車間での直接通信など、広範な研究を積み重ねている。

新たな公道実証は、電波状況や勾配など自動運転に影響を与える走行環境の検証や、連節バスと大型バスの2台による自動運転・隊列走行の実証と課題の検証、実証実施によるBRTや自動運転・隊列走行などの新技術に関する社会受容性の変化の測定などを行う予定としている。

【参考】隊列走行に関する取り組みについては「自動運転の「連節バス」、公道デビューへ!ソフトバンクが実験実施」も参照。

自動運転バス実証にも参加

自動運転バス関連では、東日本旅客鉄道(JR東日本)などとともに気仙沼線BRTにおける自動運転バス実証に取り組んでいるほか、慶應義塾大学SFC研究所の「デジタルツイン・キャンパス ラボ」とともにデジタルツインを活用した自動運転バスの運行の高度化に向けた実証を2023年に開始している。

走行経路設計や遠隔監視による運行業務をAIで完全無人化

2023年1月には、本社を構える東京都港区の竹芝エリアで自動運転の走行経路設計や遠隔監視の運行業務などをAI(人工知能)で完全無人化する実証を開始した。

レベル4解禁などを見据えた取り組みで、車外の遠隔監視AIによる自動化や自動運転車内の運行支援システムの開発、シミュレーションによる経路設計の自動化、自動運転の運行システムへのフィードバックなどについて検証を進めるとしている。

米May Mobilityと業務提携
出典:ソフトバンク・プレスリリース

ソフトバンクは2022年6月、自動運転開発スタートアップの米May Mobilityと5Gネットワークなどを活用した自動運転サービスの早期社会実装に向け業務提携契約を締結したと発表した。

May Mobilityは、自社開発した自動運転ソフトウェア「ADK(Autonomous Driving Kit)」による自動運転サービスの実証・展開を北米や日本の9都市で実施している。トヨタも同社に出資しており、今後日本への本格進出にも期待が寄せられる1社だ。

【参考】May Mobilityとの提携については「ソフトバンク、自動運転の米新興May Mobilityと提携」も参照。

高精度3次元地図の作成にも通信技術が活躍

ソフトバンクは2019年、ダイナミックマップ基盤(現ダイナミックマッププラットフォーム)と高精度3次元地図に関する実証を行った。

車載センサーから道路の3次元情報を取得し、測定データをセキュアなソフトバンクの閉域網内のMECサーバー上で処理・逐次解析することで、遮蔽物などによって正確に測定できなかった地図情報について、走行中の車両内や遠隔地で準リアルタイムに確認する内容だ。

高精度測位サービス「ichimill」
出典:ソフトバンク・プレスリリース

また、ソフトバンクはRTK測位により誤差数センチメートルの高精度な測位ができるサービス「ichimill(イチミル)」も提供しており、建設機械メーカーによる土木施工現場やトヨタによる港湾物流業務DX化の実証などに活用されている。

ソフトバンクの基地局を活用することで、RTK測位に必要となる独自基準点は全国3,300カ所以上に設置されている。短時間で安定した測位とハンドオーバーが可能となるため、自動運転領域への活用・応用にも期待されるサービスで、2020年にはスバルと取り組んだ5GとセルラーV2X通信システムを活用した安全運転支援や自動運転制御に関わるユースケースの共同研究でも活用されている。

【参考】スバルとの取り組みについては「ソフトバンクとスバル、自動運転で「世界初」の成功!どんな内容?」も参照。

■BOLDLY
自動運転サービス実用化のけん引役
出典:BOLDLY公式Facebook

ソフトバンクグループの中で、自動運転サービス実用化の先頭に立つのがBOLDLYだ。ソフトバンク社内のビジネスアイデアコンテストから立ち上がった子会社で、自動運転技術の導入・運用に関するコンサルティング業務などを担っている。

各地の自動運転実証に積極参加してノウハウを蓄積し、さまざまな自動運転システム・自動運転車に統合可能な運行プラットフォーム「Dispatcher」を開発するなど、自動運転車の「運用面」を重視した戦略で存在感を高めている。

仏NAVYA(GAUSSIN MACNICA MOBILITY) の自動運転バス「ARMA」をいち早く導入し、基準緩和のもと公道走行許可を得て実証を重ね、2020年9月にHANEDA INNOVATION CITY、11月に茨城県境町でそれぞれ定常運行をスタートさせた。実質レベル2での運行ではあるものの、自動運転車を活用した定常公道運行として大きな注目を集めている。

2023年12月現在、定常運行は北海道上士幌町、愛知県日進市にも拡大している。2023年度中にARMA11台、エストニアの自動運転開発企業Auve Tech 製「MiCa」13台、BYD製EVバスをベースにした車両2台の計26台が導入・実用化される予定としており、その他のエリアでも実用化に向けた取り組みが着々と進んでいるようだ。

ARMAのほか、Auve Techとの提携のもと、新型の自動運転車両であるMiCaの日本仕様車の開発にも着手しており、2023年10月にナンバープレートを取得し、同年12月には境町がMiCa1台を導入した。

境町はさらに2台を導入する予定で、ARMA5台、MiCa3台の運行体制を確立していく方針という。

地域における公共交通の意義を刷新し、持続可能なサービスとして自動運転車の運行ノウハウを高め続けるBOLDLYの動向に引き続き注目だ。

【参考】BOLDLYの取り組みについては「BOLDLY(ボードリー)の自動運転戦略(2023年最新版) ソフトバンク子会社」も参照。

■SVFをはじめとした投資事業
海外の有力企業に積極投資
出典:ソフトバンクグループ公式ライブ配信

ソフトバンクグループとしては、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)を中心とした投資事業が際立っている。

2017年に運用を開始した第1号ファンド「SVF1」は、2023年9月末時点において73件に投資している。2019年にスタートした第2号ファンド「SVF2」は273件、ラテンアメリカ市場に特化した「LatAmファンド」は90件の状況で、計436件となっている。

自動運転関連では、米Aurora InnovationNuroを筆頭に、Cruise(売却済み)、DiDi Autonomous Drivingなど、有力開発企業への投資実績を誇る。

モビリティ関連では、配車プラットフォーマーのDidi ChuxingやGrab、Ola、Uber Technologies(売却済み)をはじめ、Rimac Automobili(EV開発)、Auto1(中古車売買プラットフォーマー)、TRUSTY CARS (Carro/同)、Guazi(同)、Full Truck Alliance(トラックドライバーマッチングサービス)、Fair(自動車向けフィンテック)、Getaround(カーシェア)、Netradyne(ドライバー向けのAIカメラ開発)、Platform Science(フリート管理システム)、TIER(マイクロモビリティ)、Robotic Research(自律型ロボット)、Züm(バス高速輸送システム)、XAG(ドローン)、Keenon Robotics(自動配送ロボット)、Gaussian Robotics(清掃ロボットや自動配送ロボット)、CloudMinds(クラウドロボットシステム)など、非常に多岐にわたる企業を支援している。

ロジスティクス関連では、Alibaba Local Services、AutoStore 、Agile Robots 、Berkshire Grey、DoorDash、Flexport、Flock Freight、Full Truck Alliance 、Forto、JD Logistics、Loggi、Nauto、REEF、RightHand Robotics、Sendcloudなど、倉庫自動化ソリューションやオンデマンドデリバリーサービスを手掛ける企業などが名を連ねている。

出典:ソフトバンクグループIR資料

このほか、AI関連ではBrain Corporation、半導体関連では子会社Armをはじめ過去にはNVIDIAにも投資していた。幅広いポートフォリオを組んでおり、Aurora InnovationやDiDi Chuxingなど、投資後に上場を果たしたケースも少なくない。

世界経済などの情勢に左右され浮き沈みが激しい投資事業だが、自動運転関連株が花を咲かせるのはまだ先だ。来るべき時まで、できる限り保持し続け、また各社の開発を後押ししてほしい。

IoT向けで業績伸ばすArm、今後はモビリティ領域で躍進

特に、子会社化しているArmは、ソフトバンクグループにおいて「アーム事業」としてセグメント化されるなど中核事業の一翼を担っており、さらなる躍進が期待される一社だ。

回路の設計技術・情報をライセンス化するIPベンダーとして独特の存在感を発揮してきたArmは、2016年にソフトバンクグループが総額約240億ポンド(約3.3兆円)で買収し、傘下に収めた。

低消費電力で高性能を発揮する設計技術は、スマートフォンをはじめとした小型IoT機器で重宝され、これらデバイスの普及とともに右肩上がりの成長を遂げ続けている。

2020年にグループの自己株式取得と負債削減のためNVIDIAへのArm売却計画が進められたものの、世界各国の規制当局が懸念を示し、2022年に売却契約を解消するなど混乱が生じた。

しかし、孫正義会長はすぐさまArm再上場計画を打ち出し、株式市場の動向を慎重に見極めながら2023年9月、米ナスダックへの上場を果たした。

初日の終値ベースで時価総額は652億ドル(約9兆6,100億円)に達した。為替変動など考慮せず単純比較すれば、買収時の3倍近くまで価値を高めたことになる。

投資事業としての成功も大きいが、Armの半導体設計事業そのものの未来も明るい。これまでは小型IoTデバイスがターゲットとなっていたが、膨大な消費電力を要するクラウドや自動車、そして自動運転などの各分野でも省電力化が強く求められるようになり、Armの省電力技術への注目が高まっているのだ。

SDVが主流となれば、それだけ自動車のデジタル化が進み、搭載される半導体の数も増加する。ADASやデジタルコックピットの搭載などもスタンダード化し、コネクテッド化も浸透し始めてきた。自家用車市場がさらに膨れ上がり、さらなる需要が生まれることが予想される。

そしてまだまだ未開拓の自動運転分野も視野に収める。Armも自動運転分野進出の意欲を強めており、2019年に自動運転車量産化に向けたプラットフォームの標準化を推進するコンソーシアム「Autonomous Vehicle Computing Consortium(AVCC)」を設立したほか、TTTechが設立した標準化団体「The Autonomous」に参画するなど、ネットワークの拡大を図りながら業界が求める規格を取りまとめている。

自動運転対応プロセッサー「Arm Cortex-A76AE」をはじめ、「Mali-G78AE」や「Mali-C78AE」などすでに製品群も充実し始めている。今後の成長領域として要注目だ。

【参考】Armについては「半導体大手Armの自動運転戦略(2023年最新版)」も参照。

SBGとしても積極出資

SVFとは別にソフトバンクグループとしても投資も行っており、近々ではArgo AIの創業者らが新たに立ち上げた自動運転トラック開発スタートアップのStack AVを支援している。

Argo AIは米GMや独フォルクスワーゲングループが支援していた有力スタートアップだったが、開発進捗の遅れなどを理由にGMなどが資金を引き上げ2022年に事業停止となった。

ブライアン・サレスキー氏ら創業者の動向に注目が集まっていたが、同氏らが2023年に設立したStack AVを立ち上げ時から支援していることが明らかにされた。出資額などは明かされていないものの、今後の動向に高い注目が集まることは間違いなさそうだ。

このほか、2023年にはパレットの取り扱いを無人化する自動運転フォークリフトを開発する仏Balyoにも株式公開買付けにより出資し、子会社化している。

孫会長のAI戦略においても重要な位置づけ

AIで次世代の覇権を狙う孫会長は、たびたび自動運転に言及している。

2019年3月期第3四半期決算説明会では、孫会長はAI革命を説明する中で、ニューヨーク5番街の2035年の未来図を示し「たった今から十数年でAIによる自動運転だらけとなると思う。一気にパラダイムはシフトする」と説明した。AI戦略の重要性を説く中で、自動運転を代表例に挙げたのだ。

2021年3月期第2四半期決算説明会では、冒頭からモビリティの話題を展開し、「AI を使って自動車が完全自動運転をする時代があと数年で始まる。完全自動化には5年から10年かかると思っていたが、投資先でグループ会社のCruiseとNuroの経営陣トップと話をしたところ、ほんの数年先には自動運転車が大量生産され世の中に出回り始めるという」と話し、AI による完全自動運転の世界が目前に迫っていることを示唆した。

2021年3月期決算説明会では、NVIDIAへのArm売却計画の途中ということもあり、AIコンピューティングで最も重要となるGPUに言及し、「今までハイテク製品の代表はスマホで、世界一のアップルは時価総額でも世界一となった。これから先、その中心は自動運転の世界に入っていく」とした。

自動運転向けの車載チップの処理能力が今後どんどん進化し、自動運転の高度化・普及を推し進めていく未来を描いており、その際、半導体業界ではNVIDIAが覇権を握る……といったイメージだ。

2022年3月期第3四半期決算説明会では、Arm事業の説明の中で「EVの世界において一番電力を食うのがコンピューティングパワー。これから自動運転の世界が来ると、間違いなくアームアーキテクチャでないと電池を食いすぎて話にならなくなる」「自動運転するにもクラウドコンピューティングでコンピューティングする。クラウドの使う電力需要はどんどん増える」など、Armの優位性を強調した。

AIの活用は多方面で期待されるが、その中でも孫会長は自動運転を重要なビジネス領域に位置付けているようだ。

■MONET Technologies
自動運転時代を見据えモビリティイノベーションを模索
新会社設立の発表会で握手するソフトバンクの孫正義会長(左)とトヨタ自動車の豊田章男社長(右)=トヨタ自動車プレスリリース

自動運転を視野に入れたモビリティサービス関連では、2019年に事業を開始したトヨタとの合弁MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)の存在も大きい。MaaS時代におけるモビリティイノベーションのけん引役として多方面から期待を寄せられている。

モビリティイノベーションの企業間連携を図るMONETコンソーシアムには、2023年9月時点で780社が参画するなど、業種の枠を超えた広いネットワークを形成している。

効率的な予約・配車システムなどを提供するオンデマンドサービスをはじめ、医療MaaS、行政MaaSといったソリューションを展開しており、さまざまな企業を交えながら自治体などにモビリティサービスを提供している。

自動運転関連では、東広島市、広島大学、イズミとともにスーパーマーケットなどと連携した小売りMaaSを自動運転車で実現する「Autono-MaaS(オートノマース)」実用化に向けたプロジェクトを東広島市で2021年に実施している。May Mobilityの自動運転シャトルによる定路線運行などが行われた。

今のところ自動運転車を用いた取り組みは少ないが、オペレーションの最適化など、将来訪れる自動運転時代を見据えた開発や研究が進められている。

トヨタが提唱する「Autono-MaaS」が本格化する際、その受け皿としてMONET Technologiesのネットワークやモビリティサービスに関する実績が大きく生きてくる。今後の動向に引き続き注目したい1社だ。

【参考】MONET Technologiesについては「【独占インタビュー】新時代は「サービスを運ぶ」!MONET Technologies」も参照。

■その他グループ企業
コロナ禍を契機にロボット関連事業の注目度も増す

ロボット関連では、ソフトバンクロボティクスとアスラテックが活躍している。ソフトバンクロボティクスは、ソフトバンクモバイル(現ソフトバンク)が担っていたロボット事業を分割する形で2014年に設立され、ヒューマノイドロボットやサービスロボットの開発・販売などを手掛けている。Pepper(ペッパーくん)の取り扱いでもおなじみだ。

近年は、除菌清掃ロボットや業務用全自動床洗浄ロボット、自律走行式スクラバー、配膳・運搬ロボットといった、自動運転技術により自律走行可能なロボットの展開が際立つ。清掃ロボット「Whiz」など、SVFが投資している米Brainの自動運転技術「BrainOS」を搭載したモデルもある。

配膳・運搬ロボット関連では、KEENON RoboticsやBear Robotics、Gausiumといったパートナー企業のロボットを取り扱っており、コロナ禍を機に一気に普及が進んだ。

【参考】ロボット関連事業については「Pepperに続くロボティクス事業の全貌(ソフトバンク×自動運転・MaaS 特集)」も参照。

ロジスティクス関連では、ノルウェーのAutoStoreが手掛ける自動倉庫型ピッキングシステム「AutoStore」を取り扱っている。格子状に組み上げたグリッド内に専用コンテナを隙間なく格納し、グリッドの上を移動するロボットが必要なコンテナを回収し、作業者が待つポートまで自動で搬送する仕組みだ。

2021年には、アイリスオーヤマとの合弁「アイリスロボティクス」を設立し、法人向けのサービスロボット事業を本格展開している。

一方、アスラテックはロボット制御システム「V-Sido」の開発・販売をはじめ、ロボット開発支援事業やコンサルタント事業などを展開している。

2020年には、香港Rice Roboticsとパートナーシップを結び、同社が開発した自動配送ロボット「RICE」の国内展開をサポートしている。

日本郵便が実施した複数台の配送ロボットによる屋内配送実証や東京ポートシティ竹芝オフィスタワーでのセブン‐イレブンの商品配送実証、セブン‐イレブン・ジャパン本社ビルでの配送実証、トヨタモビリティ東京有明店への導入など、実証を通じてさまざまな用途への展開を加速させている。

なお、ソフトバンクも自律走行ロボット「Cuboid」を開発しており、アサヒ飲料と実施した「動く自動販売機」の実証の中で活用している。

■【まとめ】多彩なアプローチで自動運転市場を開拓

自動運転分野においてはBOLDLYの活躍が際立っているが、グループの中核を担うソフトバンクも通信技術を武器にグローバル市場での覇権を目指す構えのようだ。

多彩なアプローチで次世代モビリティ領域への関わりを深めるソフトバンクグループ。各社の動向、そしてグループを率いる孫正義会長の一挙手一投足に注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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