BOLDLY(ボードリー)の自動運転戦略(2023年最新版) ソフトバンク子会社

運行管理に特化、地域戦略にも注目



出典:BOLDLY公式Facebook

世界で実用化の波が押し寄せる自動運転技術。数多くのスタートアップを擁する米国・中国が市場をリードしているが、日本にもその波は押し寄せている。

日本国内の社会実装をけん引しているのが、ソフトバンク子会社のBOLDLY(本社:東京都港区/代表取締役社長:佐治友基)だ。茨城県境町を筆頭に、独自の戦略で自動運転サービスを実現している。


自動運転開発企業ではない BOLDLYは、どのような戦略で自動運転を推進しているのか。同社の事業に迫る。

■BOLDLYの誕生
佐治氏の提案をきっかけに新会社設立
出典:ソフトバンク公式サイト

BOLDLYが設立されたのは2016年4月だ。その前年、ソフトバンクの若手社員だった佐治友基氏が社内のビジネスアイデアコンテストにおいて、新たに取り組むべき事業として「自動運転技術を活用した交通インフラ事業」を提案したことが始まりだ。

佐治氏は、ソフトバンクの事業の柱でもあるIoTについてイノベーションを考えた際、自動運転技術に目がとまったという。

ソフトバンクのオウンドメディアによると、佐治氏は「将来自動運転が普及した世の中では、ユーザーが好きな場所で車を呼び出せるアプリや、車の安全を遠隔で見守るなどの仕組みが不可欠。ソフトバンクが持つ通信インフラと、クラウド上のビッグデータを活用した技術が果たす役割は大きいと考え、自動運転技術にたどり着いた」と語っている。


2015年といえば、世界でもまだ自動運転の公道実証がそれほど盛んに行われていない頃だ。そうした時期に、将来の自動運転社会の到来をしっかりと見据えビジネス展開を考えていたのだ。

佐治氏のアイデアは、500件超のアイデアが寄せられたコンテストの最終審査で2位となり、事業化に向けた活動が始まったという。

ソフトバンクほか先進モビリティやヤフーも出資

2016年設立当時の社名は「SBドライブ」で、代表取締役社長に佐治氏が就任した。ソフトバンクの100%子会社として設立し、自動運転開発を手掛ける先進モビリティへの株式譲渡により両社の合弁として誕生した。

自動運転技術の導入・運用に関するコンサルティングと、旅客物流に関するモビリティサービスの開発・運営を事業内容に据えている。


東京大学生産技術研究所次世代モビリティ研究センターの技術をベースに持つ先進モビリティと、通信基盤やセキュリティ、ビッグデータ分析などのノウハウを有するソフトバンク、ヤフーなどが協力する体制の下、自動運転技術を活用したコミュニティモビリティや、隊列及び自律走行による物流・旅客運送事業などの社会実証・実用化に取り組むこととしている。

なお、ヤフー(現LINEヤフー)も2017年に第三者割当増資を引き受け資本参加している。

■BOLDLYの事業戦略
運行管理システムの構築に専念

自動運転分野の最前線に身を置くBOLDLYだが、基本的に自らが自動運転システムを開発することはない。自動運転の早期社会実装に向けては、交通事業者や自治体目線で「自動運転車の導入・運行管理」を推進するソリューション開発やサービス提供を行っている。

「餅は餅屋」ではないが、当時、世界各地で誕生したスタートアップの多くは自動運転システムの開発に傾倒しており、運用面にスポットを当てた開発は少なかった。

そこに勝機を見出したのかは定かではないが、開発された自動運転車を効果的に社会実装し、運用していくノウハウは当時未知数だった。BOLDLYは、このノウハウを早期に積み上げ、実用化を推進していく戦略を採用したのだ。

事実として、自動運転の普及には、開発スタートアップ各社による直営サービスだけでは限界があり、サービス提供エリアの自治体の協力をはじめ、交通事業者など運行管理に関するノウハウを有する企業の協力が不可欠となる。

こうした点に早期注目し、運行管理システムの開発や自治体・交通事業者らの協力体制構築を事業化したのだ。

車両運行プラットフォーム「Dispatcher」
Dispatcher=出典:BOLDLYプレスリリース

BOLDLYの自動運転運行管理における中心的なソリューションが自動運転車両運行プラットフォーム「Dispatcher」だ。

運行管理や安全管理、効率的運用管理の視点から自動運転による走行をサポートするフレキシブルなシステムで、遠隔地からの走行指示や状態監視、緊急時対応、走行可否判断などを行うことができる。

定路線走行はもちろん、走行指示を可能にすることで配車サービスのようなオンデマンドサービスも行うことができる。走行可否判断機能では、点呼や車両の機器点検、ODD(運行設計領域)確認などを迅速に行うことができるという。

状態監視では、車両の位置や状態、周辺の映像などを確認するとともに、車内の乗客の状況も確認することができる。緊急時には、車内通話などで乗客とコミュニケーションをとる機能も備わっている。AI(人工知能)が乗客の車内移動や転倒を検知し、注意ガイダンスを自動で流したり、着座前の自動発車を防止して乗客の転倒を予防したりするなど、安全確保機能も充実している。

遠隔監視は、安全かつ高速なプロトコルで通信そのものをコンパクト化することで、4G LTEでも大幅な遅延なくリアルタイムに監視できるという。ソフトバンクならではの技術と言える。

1人が複数台の車両を監視・操作することも可能で、万が一自動運転走行においてトラブルが発生した際、エンジニアや保険会社など関連各者にDispatcherのログを共有し、スムーズな後処理を行うこともできるという。

自動運転車両やさまざまなシステムを容易に接続可能な「Dispatcherコネクト」

Dispatcherは、開発各社のさまざまな自動運転車を同一のUIで運行・オペレーションすることができる。この点も非常に大きなポイントだ。

思い思いに開発を進める各社の自動運転車は、当然ながら車両操作に関する設計や仕様はばらばらで、利用者サイドはその都度各社独自の仕様設計・マニュアルを把握し、操作に慣れなければならない。将来的に複数社の自動運転システムを併用する可能性を考えた場合、これは大きなネックとなる。

Dispatcherはこうした問題点にも着目し、Dispatcherと自動運転車両やさまざまなシステムを容易に接続することができるアーキテクチャ「Dispatcherコネクト」をリリースしている。

NAVYA製ARMAやAuve Tech 製MiCa、Sensible 4製GACHA、PerceptIn製自動運転EVカートといった固有の自動運転車両をはじめ、乗用車や大型バス、トラックなど、30車種と接続済みという。

自動運転車のオペレーションを担うプラットフォームとして、今後のさらなる進化に期待したいソリューションだ。

実績ナンバーワンの自動運転実証

運行管理に重点を置いた戦略は、自治体や自動運転開発企業、交通事業者など多くのパートナーシップを生み出している。その成果は、国内ナンバーワンと言われる実証経験に表れている。

2023年2月時点で国内における実証は136回に上り、総乗車人数は9万1,119人を数える。運行管理におけるノウハウに加え、ARMAに代表される導入しやすい自動運転車両を完備している点や、Dispatcherによりさまざまな車種に対応可能とし、導入を検討している地域の要望に柔軟に応えられる点が大きい。

多くの実証経験が「実用化」を生み出す

多くの実証により積み上げた経験値は、実用化に向けた道を大きく切り開いていくことになる。

2020年9月に羽田空港に隣接する大規模複合施設「HANEDA INNOVATION CITY(HICity)」、同年11月に茨城県境町、2022年12月に北海道上士幌町でそれぞれ定常運行を開始したほか、2023年1月には愛知県日進市でも定常運行を見据えた公道実証を開始している。

2023年10月15日時点で、HICityでの累計走行便数1万2,292便、累計乗車人数6万3,722人、境町では同1万6,912便で2万986人、上士幌町では同1,047便で1,366人、日進市では740便で2,589人、総計3万991便で8万8,663人に達している。

上記4エリアではいずれもARMAが導入されており、その数は計4台となっている。BOLDLYによると、2023年度中にARMA11台、MiCa13台、BYD製EVバスをベースにした車両2台の計26台が導入・実用化される予定という。

4エリアに続き、現在実証を進めている地域の中から続々と定常運行に移行するエリアが誕生するのかもしれず、各地の動向に注目が集まるところだ。

交通にイノベーションをもたらす地域戦略

こうした実用化の背景にBOLDLYが蓄積してきた運行管理ノウハウがあるのは言うまでもないことだが、これを強力にバックアップする「地域戦略」が自治体などの支持を集めているものと思われる。

同社は社会実装における5箇条として、以下を掲げている。

  • 地域交通事業者を最優先する
  • 地域人材を育成し、自律的な運営を支援する
  • 地域が稼ぐ仕組みを構築し、経営を支援する
  • 地域社会に参加し、当事者として関わる
  • 過渡期における全てのリスクを自社が負う

運行管理に係る業務を自社で独占せず、地域の事業者や人材を交える形でその業務を徐々に移行し、地域で継続的に運営できる体制づくりを進めているのだ。

導入初期はBOLDLY自らが担わなければならない業務が多いが、地域人材の雇用や協力事業者のもと人材や事業者の育成を順次進め、徐々に業務を移管していく。

こうした地域移行を進めることで、地域住民や事業者は当事者としての意識を高く持ち、受け身ではなく積極的に自動運転モビリティに関わることにつながっていく。ひいては、公共交通の在り方に思いを巡らせていくことになる。

地方の公共交通は赤字が慢性化し、財政投入する場面もスタンダード化している。地域住民の足を確保する一種の「社会保障」として捉えられている面が大きく、それ故公的資金の投入も是とされているのだ。

しかし、BOLDLYは交通セクター単体で効果を見ず、波及効果を含めた地域経済全体の目線でその在り方を考えている。

例えば、赤字圧縮に向けバス運賃を160円から200円に上げても、おそらく赤字は赤字のままだ。値上げにより乗客数が減る可能性も高い。根本的な課題解決につながっていないのだ。

では、バス運賃を無料にした場合はどうなるか。交通セクター単体で見れば赤字は間違いなく拡大するが、乗客数は増加し移動総量が増える。人の移動が促進されれば商店街に出向く人の数は増え、経済活性化につながっていく。外に出ることによる健康増進効果やコミュニケーション機会の増加などもプラスに働くだろう。

このように、地域における公共交通の位置付けを明確にし、社会保障的役割にとどまらない存在意義をしっかりと見出すことで、持続可能性とともに地域活性化を図っていくスタイルだ。

BOLDLYは自動運転バスを「地域交通を支える横に動くエレベーター」となぞらえる。移動に利便性をもたらすソリューションが生み出す効果をしっかりと再考することが、公共交通が抱える課題解決に結びついていくのだろう。

【参考】自動運転バスの経済効果については「茨城県境町の自動運転バス、経済効果30億円規模に 2020年11月に定常運行開始」も参照。

■BOLDLYの動向

まとめると、BOLDLYは導入が容易な他社製自動運転車を柔軟に活用し、豊富な経験に基づく運行管理技術・サービスを地域とともに展開していく。ノウハウを有しない自治体や交通事業者らと知識・経験を共有しながら、地域交通そのものにイノベーションをもたらしている。

ソフトバンクという強力なバックボーンがあるのも事実だが、BOLDLYはこうした事業形態を一から構築し、今に至るのだ。

以下、BOLDLYの動向を順に追っていく。

自治体との連携をスタート、制限区域内での実証にも着手

設立初年度は、自治体との連携協定が目立つ。福岡県北九州市、鳥取県八頭町、長野県白馬村、静岡県浜松市などと立て続けに自動運転技術を活用したスマートモビリティーサービスの事業化などに向け連携協定を交わしている。

また、愛知県の「自動走行の社会受容性実証実験事業」を受託したアイサンテクノロジーから事業の一部を受託したほか、経済産業省の「平成28年度スマートモビリティシステム研究開発・実証事業」の「専用空間における自動走行等を活用した端末交通システムの社会実装に向けた実証」を受託した産業技術総合研究所からも事業の一部を受託し、それぞれ実証に参画している。

続く2017年も、戦略的イノベーション創造プログラムにおける沖縄でのバス自動運転実証や自動運転バス調査委員会への協力、東京23区内の公道では国内初となる自動運転車の走行及び試乗会を実施するなど、着実に経験値を重ねていく。

2018年は、全日本空輸とともに空港における自動運転バス導入に向けた取り組みを開始したほか、兵庫県の播磨科学公園都市にある理化学研究所での自動運転EVバスの実証、ひたちBRT路線で行われるラストマイル自動走行の実証に参画するなど、実証の場を広げていく。

また、中国における自動運転開発をリードする百度(バイドゥ)の日本法人と、自動運転システムプラットフォーム「Apollo(アポロ)」を搭載した自動運転バス「Apolong(アポロン)」の日本国内導入に向け協業することに合意している。

ARMAナンバー取得で公道実証を本格化

2019年は、所有するARMAを改造し、国土交通省から道路運送車両の保安基準第55条による基準緩和認定を受け、車両の新規登録(ナンバーの取得)を実現した。

これにより公道走行が可能になり、東京都多摩市の多摩ニュータウンや鳥取県八頭町、長崎県対馬市、神奈川県の江の島周辺、千葉県千葉市美浜区など、各地における公道実証が大きく前進することになった。

自動運転バス実用化へ

2020年4月には、社名をSBドライブから現在のBOLDLYに変更している。「より太い」交通網の構築に「大胆に」挑戦するという思いが込められているという。

この年の9月にHANEDA INNOVATION CITY、11月に茨城県境町でそれぞれ定常運行がスタートし、国内初の自動運転バスによる継続的な運行を実現した。セーフティドライバーが同乗する実質レベル2の運行ではあるものの、実用実証が重要な自動運転サービスにおいて大きな前進と言える。

このほか、フィンランドのSensible 4と協業し、Dispatcherを連携させた全天候型の自動運転バス「GACHA」をフィンランドで運行する計画が発表されている。また、香港のPerceptInとも、自動運転機能を備えた低速走行車両の国内実証に向けパートナーシップを交わしている。

【参考】Sensible 4との提携については「BOLDLYの自動運転車両運行プラットフォーム、初の海外利用!」も参照。

【参考】PerceptInとの提携については「SBドライブ、自動運転領域で香港PerceptInと協業 運行実証を実施へ」も参照。

数々の規制緩和も実現

2021年には、神奈川中央交通が実施する自動運転実証に参画し、顔認証による運賃決済を想定した仕組みなどを検証している。移動サービスに利便性をもたらす新たなシステムだ。

また、関係省庁への規制改革に向けた働きかけも実を結んでいる。これまでの公道運行では、ドライバー1人と保安要員1人の配置が求められていたが、同年4月、関係省庁などと保安要員の撤廃について合意したと発表した。

これまでにも、道路使用許可の取得プロセスの合理化や既存バス停の活用、歩行者用道路での走行などについても逐次規制緩和に向けた要望を行い、それぞれ実現を果たしている。多くの経験に基づくこうした取り組みも評価に値すべき功績だ。

スマート物流構築に向けた取り組みにも着手

2022年10月には、自動運転バスの定常運行を続けている境町においてドローンを交えた新スマート物流の実用化に向け実証を開始すると発表している。ドローンや自動運転バス、トラックなどを組み合わせて効率的に配送する物流システムの構築を目指す狙いだ。

また、エストニアの自動運転開発企業Auve Techと提携し、新型の自動運転車両「MiCa」の日本仕様車の開発を進めて国内展開することも発表した。2023年5月に境町がMiCaを購入する覚書を交わしているほか、2023年9月には神戸市須磨区の須磨海岸周辺でMiCaを活用した体験試乗会が実施されている。

【参考】スマート物流に関する取り組みについては「陸&空の連携!茨城県境町、配送革命へ実証 自動運転バスやドローンを活用」も参照。

【参考】関連記事としては「BOLDLY、エストニア製自動運転バス「MiCa」展開へ」も参照。

■【まとめ】一般車道におけるレベル4実現に期待

年を追うごとに、着実にステップアップを重ねている印象だ。今後の焦点は、純粋な自動運転レベル4の実現にあてられる。

おそらく水面下ではすでに動いているものと思われるが、セーフティドライバーを排する形での運行をどのタイミングで実現するのか。混在空間である一般車道におけるレベル4運行は国内ではまだ実現しておらず、その先導役としての期待も高まっている。

2023年度中のレベル4実現なるか……など、引き続き同社の動向に注目したい。

【参考】関連記事としては「自動運転「3つの日本No.1」をソフトバンク子会社が堅持」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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