物流2024年問題、頼みの綱は「自動運転化」と「トラックGメン」 緊急対策を閣議決定

トラックやフォークリフトの無人化が鍵



出典:首相官邸

物流環境の整備に向け、政府はこのほど「物流革新緊急パッケージ」を閣議決定した。自動運転トラックや物流施設の自動化をはじめ、荷主・消費者の行動変容や商慣行の見直しに至るまで言及した内容となっている。

2024年問題が迫る中、即効性のある対策と未来に向けた物流DX化を迅速に進め、輸送力不足の解消を図っていく構えだ。


物流革新緊急パッケージはどのようなものか。自動運転関連に焦点を当てながら、その中身に迫っていく。

▼閣僚会議決定|我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議|内閣官房
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/kettei.html
▼「物流革新緊急パッケージ」(令和5年10月6日我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議決定)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/kettei.html

■物流革新緊急パッケージの概要
13項目の施策を実施

物流革新緊急パッケージは、2023年6月に閣議決定した「物流革新に向けた政策パッケージ」の流れをくむもので、物流停滞が懸念される「2024年問題」を前に速やかに各種施策に着手し、必要な予算確保も含め緊急的に取り組むべき事項についてまとめたものだ。

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「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が2024年4月からトラックドライバーにも適用されることとなり、ドライバー不足・労働力不足に拍車がかかることが懸念されている。


このため、荷主企業や運送・倉庫業をはじめとした物流事業者、一般消費者が協力して物流を支える環境を整備すべく政府は「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」を設置し、検討を進めている。

物流革新緊急パッケージは、大きく①物流の効率化②荷主・消費者の行動変容③商慣行の見直し――に施策を3分類し、全13事項に渡る対策を盛り込んでいる。

以下、各施策を見ていこう。

■①物流の効率化
即効性のある設備投資・物流DXの推進
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物流事業者や荷主企業の物流施設の自動化・機械化を推進するほか、ドローン利用をはじめとした配送の効率化・省人化により人手不足に対応する。


港湾物流においては、「ヒトを支援するAIターミナル」の深化や港湾物流手続などを電子化する「サイバーポート」を推進し、効率化を図っていく。

また、高速道路においては、自動運転トラックを対象とした路車協調システムなどの実証実験を推進することとしている。

物流のDX化においては、自動運転やドローン物流、自動配送ロボット、自動フォークリフトやAGV(無人搬送車)、ピッキングロボットなどを導入した自動倉庫など、さまざまなソリューションを連動させて無人化・省力化・効率化を図っていくことが重要となる。

「物流革新に向けた政策パッケージ」では、自動運転トラックや自動運航船、ドローン物流などの実用化に向け着実に対応し、実証段階から実装への移行を加速化するとしている。

具体的には、「デジタルライフライン全国総合整備計画」を 2023 年度内に策定し、2024 年度から先行的な取組み=アーリーハーベストプロジェクトとして、送電網などにおける150キロ以上のドローン航路の設定や新東名高速道路の一部区間における100キロ超の自動運転車用レーンの設定などを進めていく。

また、高速道路上の車道以外の用地や地下を活用した物流専用の自動輸送についても調査を行うこととしているほか、自動運転技術などの新技術の導入期、個別の事業者で新技術を用いた車両を保有するハードルが高いため、これらの導入を促進するようなスキームを具体化する。

【参考】自動運転車用レーンについては「自動運転専用道路・レーン導入の最新動向(2023年最新版)」も参照。

自動フォークリフトやAGVなどは基本的に私有地内での使用になるため、すでに導入が始まっている。ピッキングロボットや自律走行可能なAGV・フォークリフトなどを連動させることで自動化・無人化の幅を広げ、業界全体の省人化・効率化などを推し進めることができる。

さらには、ドライバーや運送事業者が事前にバースでの入荷時間を予約するバース予約システム導入など、さまざまな面からDX化を図っていくことが肝要とされている。

AGV関連の開発は、トヨタL&Fやリコーといった大手から、ティアフォーとヤマハ発動機の合弁eve autonomyや東京大学発スタートアップのTRUST SMITHグループ、2020年設立のLexxPlussなど新規参入も目立つ。

今後、競争激化とともに飛躍的な技術の向上が見込まれる分野で、普及が一気に進む可能性もありそうだ。

【参考】TRUST SMITHグループについては「東大発の自動倉庫ベンチャーRENATUS、米国上場に挑戦 「超高効率」に強み」も参照。

モーダルシフトの推進
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鉄道(コンテナ貨物)や内航(フェリー・RORO船等)の輸送量・輸送分担率を今後10年程度で倍増させる。31フィートコンテナの利用拡大を優先しつつ、中長期的には40フィートコンテナの利用拡大も促進していく。

トラック長距離輸送から鉄道や船舶へのモーダルシフトを促進し、最適なモードを活用したモーダルコンビネーションの展開を図っていく構えだ。コンテナ専用トラックやシャーシなどの導入を促進するとともに、貨物鉄道の輸送余力をより広い対象に可視化したシステムの導入や、フェリー積載率についての定期的調査・荷主企業への情報提供を行い、鉄道や船舶の利用促進・積載率の向上を図っていくとしている。

トラック運転手の労働負担の軽減、担い手の多様化の推進
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荷役作業の負担軽減や輸送効率化に資する機器・システム導入などにより、働きやすい職場環境の整備を促進するほか、車両を運転するための免許の取得などトラック運転手のスキルアップを支援する。

物流拠点の機能強化や物流ネットワークの形成支援

中継輸送の推進など農産品などの流通網の強化を図るほか、非常用電源設備の導入促進などによる物流施設の災害対応能力の強化推進、モーダルシフトに対応するための港湾施設の整備推進、高規格道路整備や渋滞対策、IC・空港・港湾などへのアクセス道路の整備に対する支援による物流ネットワークの強化、SA・PAにおける大型車駐車マスの拡充や駐車マス予約制度の導入などを推進する。

標準仕様のパレット導入や物流データの標準化・連携の促進

パレットやコンテナの規格統一化を図り、業界を通した全体最適化を図っていく構えだ。

燃油価格高騰等を踏まえた物流GXの推進

物流拠点の脱炭素化や、車両のEV(電気自動車)化などを促進していく。

高速道路料金の大口・多頻度割引の拡充措置の継続

トラックドライバーの労働生産性向上のため、大口・多頻度割引の拡充措置を継続し、利用しやすい高速道路料金を実現する。

道路情報の電子化の推進等による特殊車両通行制度の利便性向上

特殊車両通行制度に関し、ドライバー不足解消などに資するため、通行時間帯条件の緩和を行うとともに、手続期間の短縮に向け道路情報の電子化を推進して利便性向上を図る。

■②荷主・消費者の行動変容
宅配の再配達率を半減する緊急的な取り組み
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ポイント還元を通じ、コンビニ受取など柔軟な受取方法や余裕のある配送日時の指定を促す仕組み実現に向けた実証を実施する。

インセンティブを付与することで、消費者の意識改革・行動変容を促す取り組みのようだ。2024年度に不足するだろう輸送力を補うため、再配達率を半減する緊急的な対策を講じる方針としている。

政府広報やメディアを通じた意識改革・行動変容の促進強化

物流負荷の軽減に向けては、消費者や荷主の意識改革・行動変容が不可欠のため、単なる広報活動にとどまらない新たな取り組みが求められるところだ。

■③商慣行の見直し
トラックGメンによる荷主・元請事業者の監視体制の強化

トラックGメン(仮称)を設置し、荷主による違反原因行為の調査を踏まえた要請などの集中実施を図っていく。11~12月予定の「集中監視月間」も創設する。

現下の物価動向の反映や荷待ち・荷役の対価等の加算による「標準的な運賃」の引き上げ

トラック運送業においては、依然として荷主企業に起因する長時間の荷待ちや、運賃・料金の不当な据え置きなどが解消されていないことから、トラック法に基づく荷主企業などへの働きかけや要請をはじめ、標準的な運賃の引き上げを年内をめどに対応する。

適正な運賃の収受、賃上げ等に向け、次期通常国会での法制化を推進

大手荷主・物流事業者の荷待ちや荷役時間短縮に向けた計画作成の義務付けや、大手荷主に対する物流経営責任者の選任の義務付け、多重下請け構造是正に向け下請状況を明らかにする実運送体制管理簿の作成、契約時の(電子)書面交付の義務付けなどを推進する。

■【まとめ】喫緊の課題を乗り越える施策に注目

物流需要そのものは当面減少するとは考え難く、労働力不足をはじめとした喫緊の課題をどう乗り越えていくかがカギを握ることになりそうだ。

高度な自動運転技術が普及すれば物流にまつわる多くの課題は解決するものと思われるが、真の意味で人の手を介さず持続的なサービスを提供するにはまだ時間が必要となる。

過渡期を迎えた物流分野において、実効性のある施策をどのように打ち出していくか。国の取り組みに要注目だ。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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