人手不足に終止符!?物流業界歓迎の「自動運転レベル4」解禁へ

宅配需要を満たすには無人化技術が必須に



出典:経済産業省資料

改正道路交通法が2023年4月1日に施行されることとなり、自動運転バスやタクシーといった移動サービスの本格実用化が大きく近づいてきた。赤字運営が常態化している地方公共交通の救世主となるか、大きな期待が寄せられるところだ。

一方、物流分野においても自動運転に対する期待度は非常に高い。宅配需要の増加とドライバー不足が慢性化するトラック業界をはじめ、運転業務を無人化する技術の恩恵は計り知れないためだ。


そして特に、ラストワンマイルで活躍する自動運転配送ロボットに対する期待感は非常に大きい。すでに海外勢に負けずに国内各社が開発を進めており、物流業界は歓迎ムードだ。

この記事では自動運転技術が物流分野でどのように貢献するのか、自動運転トラックなどに関する情報も含めて、物流の現状と未来に迫る。

▼自動配送ロボットの社会実装に向けて
https://www.nedo.go.jp/content/100956511.pdf

【参考】関連記事としては「ついに4月「自動運転レベル4」解禁!進化した道交法、要点は?」も参照。


■物流の現状
トラック運送業は人件費率が高い労働集約型産業

国土交通省や全日本トラック協会などの資料によると、トラック運送業の事業者数は6万2,000社(2015年)で、従業員数は188万人を数える。営業収入は14兆5,449億円に上る。運送コストに占める人件費の割合は40%前後で推移しており、タクシー事業などと同様典型的な労働集約型産業に当てはまる。

総務省によると、2021年時点のトラック運送業における就業者数は約199万人で、このうちドライバーは約84万人という。

ドライバーの待遇は、働き方改革が進められているものの年間所得額は全産業平均より大型トラックドライバーで約5%、中小型トラックドライバーで約12%低く、年間労働時間も平均と比べ大型で月36時間、中小型で月31時間長いなど、厳しい状況が続いている。

2028年度には約27万人ドライバーが不足するといった推計も

鉄道貨物協会の報告書によると、営業用トラック輸送量と営業トラック分担率から予測したドライバー需要は2028年度に約117.5万人と推計されているが、将来人口予測からドライバー供給量を予測した数値は約89.6万人となっており、2028年度には約27.8万人のドライバー不足が予測されるという。


▼本部委員会報告書|人鉄道貨物協会
https://rfa.or.jp/wp/pdf/guide/activity/30report.pdf

全日本トラック協会の調査によると、トラックドライバーが不足していると感じている企業の割合は、2011年の18%から2017年には63%へと増加しており、人手不足感が明らかに強まっているようだ。

物流の主役と言えるトラック運送業だが、労働力不足が慢性化しているのが現状だ。2024年度には働き方改革の一環として時間外労働の規制が強化され、労働力不足やコスト増大などに拍車がかかることが予想されている。

宅配需要は高まり続ける

2020年度の国内貨物総輸送量は約41億トンで、このうちの91.6%にあたる約38トンをトラックが担っている。1トンの貨物を1キロメートル運ぶ輸送規模の指標となるトンキロベースでは、総輸送量3,860億トンキロに対しトラックは55%にあたる2,130トンキロを占める。

宅配関連では、国土交通省が調査した2021年度の宅配便取扱実績によると、宅配便取扱個数は49億5,323万個で前年度比約2.4%増、メール便取扱冊数は42億8,714万冊で同約1.1%増となっている。宅配便のうち、98.6%はトラックで残りは航空等利用運送となっている。

宅配便取扱個数は、1991年が12億個、2001年が27億個、2011年が34億個……と右肩上がりが続いている。EC需要の増加などが背景にあるほか、この2年はコロナ禍による巣ごもり需要も数字を押し上げる要因となっている。

なお、この数字は、ヤマト運輸や佐川急便など一般貨物自動車運送事業の特別積合せ貨物運送、またはこれに準ずる貨物の運送などが対象となっており、スーパーやコンビニなどが近隣住民を対象に直接配送する宅配などは含まれていない。

小口多頻度化も進行

経済産業省によると、2021年のBtoCにおけるEC市場規模は20兆6,950億円(前年比7.35%増)となっている。このうち物販系が13兆2,865億円(同8.61%増)、サービス系が4兆6,424億円(同1.29%増)、デジタル系が2兆7,661億円(同12.38%増)となっている。

▼電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました|経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2022/08/20220812005/20220812005.html

サービス系にはフードデリバリーサービスなども含まれており、フードデリバリーは前年比37.48%増の4,794億円規模となっている。飲食店のフードデリバリーなども含めると、宅配需要はさらに膨大なものとなりそうだ。

このほか、個人間のCtoC-ECも前年比12.9%増の2兆2,121億円と数字を伸ばし続けているようだ。

こうしたEC需要などを背景に、物流の小口多頻度化も進んでいる。貨物1件あたりの貨物量は、1990年に2.43トンだったのに対し、2015年には0.98トンまで下がっている。

膨大な種類・数の商品を取り扱うECをはじめ、コンビニなどの品ぞろえも増加しており、小ロット化が進行しているようだ。配送そのものの非効率化は、当然労働環境や経営環境の悪化に結び付くこととなる。

■物流における自動運転モビリティ
自動運転導入でドライバー不足を克服

トラック運送業が抱えるこうした課題を解決する1つの手段が、自動運転技術による配送の「無人化」だ。ドライバーそのものを無人に置き換えることで、労働力不足を補うとともに人件費を圧縮し、収益改善を図ることができる。

T2が拠点間長距離自動運転技術の開発に着手
出典:T2公式サイト

タイプとしては、高速道路を主体とする長距離輸送型と、配送拠点や店舗などを回る中距離輸送型、宅配を中心としたラストマイル型に分けることができる。

長距離輸送型は、高速道路における後続車無人隊列走行の開発が進められている。有人の先頭車両と連携する形で無人の後続車両が走行する手法で、比較的実用化しやすい技術だ。

高速道路直結の物流ステーションなどが各地に設けられれば、隊列走行をはじめ高速道路限定のレベル4による無人トラックも実用化しやすくなりそうだ。

このタイプは、三井物産とPreferred Networksの合弁T2が開発を進めている。

中距離輸送は空白の様相

中距離輸送型は、日本ではあまり開発が盛んではない印象だ。店舗や拠点間の一般公道を中距離走行することを考えるとハードルが高いのは事実だが、特定のルートのみを走行するよう配慮すれば、エリアによっては比較的早期に実用化することができるかもしれない。

ラストマイルはロボットタイプが先行

ラストマイル型は、車道走行型と歩道を走行するロボット型が考えられる。ロボット型は車道走行型に比べ実用化面で優位で、注文受付後にすぐ発送するフードデリバリーや近隣小売店舗からの直接配送などに向いている。

一般的な宅配便用途では、荷室容量に限りがあるほか、従来同様再配達問題などもあり、回転数が落ちる懸念がある。到着後、すぐに受け取ってもらいやすい宅配パターンが現状は向いていそうだ。今後、スマートロッカーとの連携機能など、さまざまな工夫を重ね多用途に対応できるシステム構築がカギを握りそうだ。

ラストマイルの車道走行型は、乗用車タイプとやや小型のロボットタイプの2通りがある。小型のロボットタイプは低速で安全を確保しやすく、かつ荷室容量も大きいため、複数の荷物を積載してフレキシブルな運用ができそうだ。

車道走行型は、京セラコミュニケーションシステムが開発・実証を進めている。歩道走行タイプの自動走行ロボットはZMPやパナソニックなど開発プレーヤーが多く、サービス実証も加速している。LOMBYは自動混載機能を搭載し、複数地点に設置されたステーションにあるボックス間配送の実現などを目指している。

【参考】京セラコミュニケーションシステムについては「LINEが活躍!自動配送ロボのお届け通知で使用 北海道で実証」も参照。

■【まとめ】自動運転技術が物流事業に変革をもたらす

自動運転技術の高度化が欠かせないのは言うまでもないが、物流における無人化では、荷物の積み下ろし作業などの無人化も将来的には求められることになる。パレットの標準化や新たな積み下ろし技術の開発なども待たれるところだ。

宅配関連では、配送効率をどこまで高めることができるかがカギを握る。受取人不在で長く待たされることがあっては、せっかくの無人化技術も台無しになる。スマートロッカーとの連携をはじめ、さまざまな観点から費用対効果と利用者の効用を高める策を講じていく必要がありそうだ。

いずれにしろ、自動運転技術が将来の物流事業に変革をもたらすことは間違いない。どういった場面で自動運転による無人配送が最大限効果を発揮するのかなどをしっかり検証し、サービス性を高めていってもらいたい。

【参考】関連記事としては「レベル4トラックの自動運転成功!UDトラックスと神戸製鋼所」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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