京セラコミュニケーションシステム(KCCS)とヤマト運輸が、北海道石狩市で自動配送ロボットを活用した配送サービス実証に着手した。国内では珍しい車道を走行するロボットの実証で、利用者への通知にLINEを活用しているのもポイントだ。
この記事では、実証の概要とともに、自動配送ロボットで必須となる到着通知などの利用者との接点について考察を深めていく。
記事の目次
■ヤマトの宅急便をロボットで配送
今回の実証は、国立研究開発法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)の「革新的ロボット研究開発基盤構築事業/自動配送ロボットによる配送サービスの実現」の取り組みの一環で、ミニカーに準じたサイズの中型中速配送ロボットを複数台利用し、多様な地域内サービス実証を行うとともに、雪上走行技術についても研究開発を進める。2024年度までの3カ年事業だ。
なお、KCCSは2021年度も同エリアで自動配送ロボットを活用したシェアリング型配送サービスの実証を行っている。
本年度は、KCCSが主体となって企画・管理・調整や無人自動配送ロボットの開発・運行管理を行い、ヤマト運輸が個人向け配送サービスの実施や事後評価の支援を行う。
【参考】KCCSによる2021年度の実証については「日本初!自動配送ロボットが車道走行 京セラ子会社、北海道で実証実験」も参照。
■荷物の配達予定を「LINE」で通知
石狩市の実証は2022年11月8日から同年11月下旬までを予定しており、総延長5キロの車道ルートを遠隔監視しながら走行する。荷物を受け取る停車スポットは、小売店舗前や高齢者住宅前、公園など8カ所に設定した。該当エリアの利用者は、LINEで「石狩自動走行ロボット実証実験(自動配送)」を友だちに追加することでモニター登録できる。
モニター宛の宅急便を受けたヤマト運輸スタッフは、無人の自動配送ロボットのロッカーに荷物を格納し、受取人宛に荷物の配達予定をLINEで通知する。ロボットは、受取人が事前に指定した停車スポットまで移動する。ロボットの到着を確認した受取人は、ロボットのタッチパネルを操作し、ロッカーから荷物を引き取る仕組みだ。
■荷物の受け渡しをどのようにスムーズに行うか
自律走行機能を搭載した自動配送ロボットを活用したサービス実証が各地で進められているが、1つのポイントとなるのがユーザーとの接点となるアプリケーションだ。ロボットは到着しても玄関でチャイムを鳴らせないし、荷物を取り出そうとする人が利用者本人かどうかを単純には識別できない。
こうした問題を解決するのがスマートフォン(パソコン)だ。スマートフォンを介することで、ロボットの走行状況・到着の通知や、到着後にロッカーを開けるデジタルキーを付与することが可能になる。宅配ロボットの利用には、スマートフォンが最適であることは間違いない。
ユーザーがこうしたサービスを受けるためには、専用サイトへの登録やアプリのダウンロードなどが必要となる。近隣の小売店舗などから即時デリバリーを行うサービスでは、多くの場合専用サイトを設け、そこで注文を受けて何らかの方法でユーザーに通知を行う手法が一般的だ。
一方、今回のような宅配便の場合は勝手が異なる。ECサイトなどの商品・荷物発送元と配送事業者が必ずしも連携しているとは限らないため、各配送業者が専用アプリを開発するなど何らかの手法を講じなければならない。ユーザーも各配送業者のアプリをインストールするなど、それぞれのサービスに対応しなければならない。
こうした際に、広く普及しているLINEを利用できるのは1つのメリットと言える。すでにインストール済みで使い慣れていれば、ユーザー側の視点においてロボット宅配利用の垣根が低くなる。つまり、単純に利用しやすいのだ。
ヤマトは2016年にLINEと提携し、公式アカウント内で荷物状況の確認や配達日時、場所の変更などができるサービスを提供している。この延長線上にロボットサービスをそのまま取り入れることで、開発面の負担もユーザー側の負担もなく新たなサービスを導入できたのかもしれない。
■ZMPは「SMS」を利用
ZMPやパナソニック×楽天などの取り組みでは、それぞれ専用サイトにアクセスして商品を選択し、注文する仕組みを採用している。宅配便とは異なり、地域の店舗の商品を取り扱っているため、注文後すぐにロボットが配達に出向く。商品提供先と配送事業者が一体、あるいは近い距離にあるため可能なサービス形態だ。
ZMPのケースでは、SMS(ショートメッセージサービス)を利用してロボットの到着とともにロッカーを開くための専用URLを通知する方法を採用しているようだ。拡張性の面で限定されるものの、ユーザー視点では最も利用しやすいサービスと言えそうだ。
■【まとめ】UI/UXに優れたアプリにビジネスチャンスが?
ユーザーとの接点に関しては、実証を通じてブラッシュアップを重ね、さまざまな手法が開発されていく可能性が高い。ただし、さまざまな手法が乱立すると、宅配ロボットサービス総体としてのUI/UXが低下する可能性も考えられる。
発荷主、着荷主、配送事業者の3者にとって利便性の高い統一的なアプリケーション・プラットフォームを開発すれば、予想以上に大きな支持を得られるかもしれない。こうしたところにもビジネスチャンスが眠っていそうだ。
【参考】関連記事としては「自律走行ロボットの種類は?(2022年最新版)」も参照。