自動運転専用道路・レーン導入の最新動向(2023年最新版)

新東名高速道路や東北自動車道など



出典:Cavnue公式サイト

経済産業大臣が議長を務める「デジタルライフライン全国総合整備実現会議」の中で「自動運転支援道」に関する取り組みが明らかとなり、自動運転向け道路への注目がにわかに高まっている。

自動運転の精度や安全性向上には、路側インフラとの協調システムが有用とされる。インフラに設置された各種センサーなどとリアルタイムで情報を送受信することで、自律走行の安全性を高めるのだ。自動運転支援道の取り組みでは、こうしたインフラ協調システムの在り方なども検討される見込みだ。


こうしたインフラ面の取り組みの究極的な形が自動運転専用道や優先道、専用レーンなどの設置だ。混在交通下をできるだけ避け、限定的な空間とすることで安全性の向上を図ることができ、実用化の初期段階では特に有利となる。

この記事では、自動運転専用道・専用レーンなどに関する国内外の取り組みについて紹介・解説していく。

■日本国内
新東名高速道路

約10カ年計画「デジタルライフライン全国総合整備計画」策定に向け議論を重ねている同会議において、早期着手するアーリーハーベストプロジェクトに「自動運転支援道」が盛り込まれた。

自動運転の安全性を高める運行環境の提供や、運行リードタイムを低減する仕組み、走行データの共有やヒヤリハット情報の蓄積などを行い、開発を加速するためのテスト走行が可能な道路と位置付けており、高速道路と一般道それぞれで先行して取り組むエリアが選定された。


高速道路は、新東名高速道路の駿河湾沼津SAから浜松SA間までの100キロ超の区間が選定され、2024年度から合流支援情報や車線変更を支援するための情報提供をはじめ、自己位置特定精度を向上する環境整備、V2X・V2N通信の環境整備などを進めていく見込みだ。

なお、同区間に含まれる遠州森町PAから浜松SAまでの約15キロの区間では、過去に後続車無人の隊列走行実証が行われている。

レベル4実装に向けた取り組みとは別に、無人隊列走行実用化に向けた取り組みも並行して進められるものと思われる。レベル4の開発を進めるのであれば隊列走行は必要なくなるのでは?――といった声も聞こえそうだが、単体車両によるレベル4と比べ、隊列走行はより簡易なシステムで後続車無人走行を実現でき、早期実用化の期待も高い。

それぞれがどのように進化し、実装されていくのか要注目だ。


東北自動車道

自動運転支援道のアーリーハーベストプロジェクトは、2025年度以降に東北自動車道の6車線区間(片側3車線)へ取り組みを拡大していく計画としている。

東北自動車道における6車線区間は、今のところ東京方面から栃木付近までのエリアに限られる。全国的に見ても6車線区間は都市部に限られ、過半数は4車線、2車線区間もまだまだ多い。米国やドイツ韓国など諸外国と比べ明らかに全体の車線数が少ないのだ。

車線数が多ければ、1つのレーンを自動運転専用、あるいは優先レーンに設定しても他の交通参加者への影響が少なくて済む。

しかし、既存の高速道路の拡張は容易ではなく、開発には膨大な予算や時間がかかる。レベル4による長距離移動・輸送の実現に向けては、最低でも4車線区間で自動運転を実現する必要がある。6車線区間における取り組みをどのように広げていくか、こうした点にも注目したいところだ。

茨城県日立市の一般道

一般道におけるアーリーハーベストプロジェクトには、茨城県日立市の大甕(おおかみ)駅周辺が先行地域として検討されている。

このエリアは、廃線になった日立電鉄線跡地を活用したBRT(バス高速輸送システム)が開通しており、バス専用路線として本格運行がスタートしている。

この道路を活用した自動運転実証も盛んで、産業技術総合研究所、日本自動車研究所、先進モビリティなどがコンソーシアムを組み、地域交通事業者のみちのりホールディングスや茨城交通、日立市と連携して自動運転バス実用化に向けた取り組みを進めている。

予定では、専用道内におけるレベル4の運行許認可を2023年度内に取得し、2024年度に乗務員付きのレベル4車両による定常運行、そして2025年度には最終目標となる車内完全無人のレベル4サービス実装を目指している。

一般車両が流入することのない道路のため、初期の自動運転実証・実用化に適したエリアと言える。将来、混合交通下におけるレベル4に横展開するための技術をどのように蓄えていくか、要注目だ。

【参考】ひたちBRTの取り組みについては「ひたちBRTで自動運転バスの実証実験!2022年以降に商用運行目指す」も参照。

Woven City内

私有地扱いとなるが、トヨタが静岡県裾野市で建設中の実証都市「Woven City」においても自動運転専用道路の設置が計画されている。

広大な工場跡地を活用し、自動運転をはじめとする次世代モビリティのテストコースとして一から都市づくりを進める試みだ。

Woven City内には、自動運転モビリティ用の道と歩行者用の道、歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存する道の3種類の道路を造成し、街区を形成していく計画だ。

e-Paletteなどトヨタ自らが開発を進めるモビリティをはじめ、パートナー企業の自動運転モビリティが登場する可能性もあり、参画企業の動向にも注目したい。

2024年度中に第1期工事を終了し、2025年度にも実証に本格着手する予定だ。

【参考】Woven Cityにおける取り組みについては「自動運転専用レーンをトヨタが計画!静岡で「日本初」濃厚」も参照。

第二青函トンネルの中にも?

北海道と本州を結ぶ青函トンネルの次期構想においても、自動運転専用道路案が浮上しているようだ。

1988年開業の青函トンネルは早30年以上が経過しており、老朽化による将来への懸念と、新幹線開通による貨物列車などとの供用問題を背景に、第二青函トンネル建設を構想する動きが活発化し始めている。

過去、さまざまな案が発表されているが、既存のトンネルを新幹線専用とし、新たに貨物列車用と自動車用のトンネルを造成する――といったものが多い。

日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)が2020年に発表した案では、自動運転車専用道路と鉄道貨物を併用したトンネル案が示された。

新たなトンネル開業時に自動運転技術が100%普及しているとは限らないことも考慮し、自動運転未対応車を積載するパレット台車輸送の併用にも言及している。

数千億円、工期10数年を超える超大規模プロジェクトのため現実感が乏しいかもしれないが、地元自治体らが「第二青函トンネル構想実現推進会議」を設立し、第二のトンネル造成に向けた取り組みを本格化し始めている。

同会議の中で、JAPICの案が有力視されているとする報道もあるようだ。

【参考】第二青函トンネルについては「第二青函トンネル、「自動運転専用道」が実現か」も参照。

東埼玉道路

埼玉県では、自動運転専用道路造成に向け自治体が動きを見せている。県東部の春日部市、草加市、越谷市、八潮市、三郷市、吉川市、松伏町の7市町は2022年12月、東埼玉道路における「自動運転専用道路の整備と新たな交通システムの導入」に関する要望を県に行い、賛同した県も国土交通大臣へ要望を行った。

東埼玉道路は、東北自動車道や常磐自動車道の補完を目的に建設が進められている道路で、一部区間の供用がすでに開始されている。要望には、八潮スマートIC周辺から春日部市水角までの区間を繋ぐ自動運転専用道路の整備や、BRTなど新たな交通システムの導入、パーク&ライドの実現に向けた支援などが盛り込まれている。

高速道路同様、既存の道路や車線を自動運転専用にするのはハードルが高いが、道路新設に合わせ計画的に専用道路・レーンなどを整備する手法は効果的だ。

今後、埼玉県に次ぐ要望や構想が他地域からも出される可能性は十分考えられる。自動運転専用道路・レーンの敷設に必要な要件なども早期に明確化したいところだ。

【参考】埼玉県における動向については「埼玉県知事、国交相に「自動運転専用道の整備」を要望」も参照。

■海外
米国:ミシガン州

米ミシガン州では、すでに自動運転車専用レーンの開発プロジェクトが進められている。グーグル系列のSidewalk Infrastructure Partners子会社のCavnueがミシガン州運輸省と提携し、州間高速道路にコネクテッド化された専用レーンを設置する計画だ。

Cavnueは、道路インフラのコネクテッド化を通じて自動運転をはじめとしたモビリティの安全性や効率性を高める事業に取り組んでいる。「コネクテッド化された自動運転車=CAV」専用車線に必要なインフラ技術の開発を進めているのだ。

同社のパートナーには、フォードやGMといった米自動車メーカーをはじめ、トヨタやホンダ、BMW、ヒョンデ、ステランティス、Motional、May Mobility、TuSimpleなどが名を連ねている。

構想では、デトロイトとアナーバーを結ぶ約64キロの州間高速道路に自動運転専用レーンを設け、2024年ごろをめどに試験運用を開始することとしている。

州議会でも自動運転道路に関する法案がすでに可決されており、開発は本格化しているようだ。どのような形で専用レーンを設け、運用するのか。しっかりと注目しておきたい先例となりそうだ。

このほか、ジョージア州のピーチツリー・コーナーズ市でも2021年10月から専用レーンによる自動運転実証サービスが行われているようだ。

一般道に並走する形で自動運転専用レーンを設け、仏NavyaのARMAや米Local MotorsのOlliといった低速モデルの運行を行っているという。

【参考】ミシガン州における取り組みについては「Google系企業、ミシガン州で「自動運転専用レーン」に着手」も参照。

中国:雄安新区など

自動運転開発で世界トップクラスに躍り出た中国では、政府主導のもと新興開発都市の雄安新区などで自動運転専用道や専用レーンの開発が進められているようだ。

雄安新区では、都市整備に合わせ自動運転専用道を整備し、すでに実証に着手している。また、同地区と北京を結ぶ京雄高速道路にも自動運転専用レーンを設置予定という。

2021年5月に全長70キロほどの高速道路区間が開通し、片側4車線のうち内側2車線が自動運転専用レーンとなっているようだ。路側に設置された街灯が、高精度測位情報や高精度デジタルマップ、車間通信の機能などを提供するという。こうした路側システムに街灯を活用するのは名案かもしれない。

このほか、テンセントが深セン臨海部の埋め立て地を活用したスマートシティ整備計画「Net City(ネット・シティ)」を立ち上げており、この中で一部区間は自動運転車などの走行専用道路にする方針のようだ。

【参考】雄安新区の取り組みについては「狙いは?小池都知事、中国の自動運転シティ「雄安新区」視察へ」も参照。

■【まとめ】自動運転支援道の取り組みが試金石に?

自動運転線道路・レーンに関する構想は、このほかにも英国などで持ち上がっているようだ。ただ、道路の新設には莫大な予算と土地、時間が必要で、専用レーン設置には既存交通への影響を考慮しなければならず、ハードルは決して低くない。多くは構想段階でストップしている状況だ。

スマートシティ構想や道路の再整備計画、都市計画などと結びつけ、中長期的視野で地域社会の全体像を見据えながら取り組む必要がある。

その意味では、多くの知見を得られるだろう自動運転支援道の取り組みは非常に有用と言える。専用道・専用レーンにかかわらず、自動運転車が走行しやすい環境構築に向け、有意義な研究開発と実証に期待したい。

【参考】関連記事としては「自動運転を含む日本の新「モビリティロードマップ」策定へ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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