世界各地で開発が進む無人航空機「ドローン」。エンターテインメントを飛び越し、その役割は各種観測や農業、警備、災害対策、点検、危険区域における作業など、幅広い分野での利活用に期待が持たれている。
中でも、物流や人の移動を目的とした開発は「空のモビリティ革命」を巻き起こすインパクトを持っており、高い注目が寄せられている。
こうした自律航行するドローンが検知すべきデータや備えるべき技術にはどのようなものがあるのか、解説していこう。
記事の目次
■気象に関するデータを逐一解析す必要性
空中を飛行するドローンの運行は、風や気象条件に大きく左右される。物や人の移動を担うドローンは大型化されるとはいえ、エネルギー効率を高めるため可能な限り軽量化されているからだ。
低空と中空の風速の違いをはじめ、山間部やビル風といった特有の環境によってドローンを取り巻く風速は刻々と変化する。この風の影響をリアルタイムで検知し、自機位置や進行方向などにずれが生じないよう制御する技術が求められる。
同様に、雨や雪の影響も決してゼロではない。円滑に自律航行するため、気象情報を逐一データ化し解析する必要がありそうだ。
■鉄塔や高層ビル、鳥などの空の「障害物」を検知
地上に比べ障害物が少ない空中においても、当然周囲に気を配らなければ重大事故を引き起こしかねない。
生活環境域、特に都市部においては高層ビル、地方においては鉄塔などの構造物に注意する必要があるほか、空特有の障害物として「鳥」が挙げられる。
ジェット機においても、エンジンが鳥を吸い込むバードストライクによって緊急着陸する例は後を絶たないが、ドローンにおいても鳥がプロペラに巻き込まれることによる事故などが懸念される。
また、鳥以外にも他者が操縦する小型ドローンが向かってくる可能性もある。航空法や条例などで規制されてはいるものの無許可の飛行は後を絶たない。個人向けのドローンも高機能化しており、自律航行ドローンと同じ空域を飛行することは可能だ。
高速で空を飛び交う鳥などをセンサーで検知して回避行動をとるのは大きな困難を伴うが、周囲を検知するセンサーは欠かせない機器となる。
■侵入禁止空域や障害物多発地域などのデータ
地上の自動運転における高精度3次元地図同様、自律航行ドローンにおいても立体的な3Dマップが必要となる。地上の構造物のほか、高低差のある山などの地形を正確にマッピングしたものだ。
大まかな自機位置特定のほか、衝突などの事故を未然に防ぐため欠かすことのできないデジタルインフラとなる。侵入禁止空域や障害物多発地域といった情報をデータとして組み込むなど、将来的には既存の3Dマップがより高精度化・ダイナミック化され、自律航行においてマップと協調したシステムが必要になりそうだ。
■常時位置データをやり取りしながら飛行
目印の少ない空中を航行するドローンだが、正確に自機位置を特定する必要がある。GPSをはじめとしたGNSS(全球測位衛星システム)をベースに、固定基地局で受信したGPS電波を利用して誤差を最小化するDGPS(相対測位方式)や、DGPS同様2つの受信機を用い、衛星までの距離を搬送波の波数と位相差から求めるRTK(干渉測位方式)などの活用が求められる。
衛星システムにおいては、2018年11月に日本のQZSS(準天頂衛星システム)「みちびき」のサービスが始まり、より高精度で安定した衛星測位サービスが実現した。GPSとの互換性もあり、従来のGPSと一体的に活用することで安定した高精度測位を行うことを可能にしている。
自動運転同様、位置情報は可能な限り誤差を最小化する必要があるため、ドローンは常に位置データをやりとりしながら自律航行を行うのだ。
【参考】みちびきについては「国産衛星みちびき、自動運転の誤差を10cm以下に 2018年11月に活用スタート」も参照。
■無人航空機管制システムとのデータのやり取り
自律航行ドローンの実用化が本格化すると、従来の航空機のほかパーソナル向けの航空モビリティなども多数登場し、新たな航空管制システムが求められることになる。空は広いとはいえ、比較的狭域を複数の自律航行ドローンが飛び交うと、ニアミスする場面も多発するケースが増加するからだ。また、離発着場も急増することからこうしたデータベースも必要となり、運行管理者はこうしたシステムと逐一データをやり取りする必要が生じる。
運行管理をめぐっては、ドローンをはじめとする無人機の社会実装に必要な施策や社会基盤整備のあり方を検討する日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM)が2016年に立ち上がり、研究や実証などを進めている。会員には東京大学やANA、NTTドコモ、日本郵便、ヤマトホールディングス、日立製作所、SUBARUなどが名を連ねている。
また、ドローン事業に力を入れる楽天は、2017年に楽天AirMap社を設立し、無人航空機管制プラットフォームの開発・提供を行っている。広大な土地を所有する組織や個人がその空域を管理するためのシステム「空域管理ダッシュボード」をはじめ、ドローンを飛ばせる空域情報を網羅した操縦者向けのツールやアプリ開発者向けのツールなどを提供している。
【参考】楽天の取り組みについては「楽天、無人島の観光客へドローン配達 空のラストワンマイルサービス、西友と開始へ」も参照。
離島へのドローン配達、楽天が1回500円で提供開始へ 空の配送イノベーションに注目 https://t.co/8PGFPqCFv1 @jidountenlab #楽天 #ドローン #空のラストワンマイル
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) June 19, 2019
■航続距離に関するデータをリアルタイムで把握
基本的に搭載したバッテリーによって自律航行するドローンは、その容量によって航続距離などが大きく変わる。気象条件などによってエネルギー効率なども変化するため、航続距離に関するデータをリアルタイムで把握しなければならない。
また、電波障害や急なシステムダウンなどによって航行継続が困難な場合は、近隣の離発着場にアクセスするなど、安全に着陸できるシステムやインフラなども求められる。
機体の異常診断システムや耐故障性の向上などは当然として、落下時を想定した安全対策も必須となるだろう。
■仮想インフラの構築へ、各ドローンの飛行データの収集・分析も
自律航行ドローンは空を自由に飛び回ることが可能なイメージが強いため忘れがちだが、飛行するルートを生成する必要がある。基本的には現在地から目的地を一直線で結ぶことになるが、他の飛行物との関係なども考慮しなければならないからだ。
将来、目に見えない空中の道路が誕生する可能性も考えられそうだ。比較的安全に飛行できそうな河川上空を「幹線」に位置付けたり、特定の空域を「一方通行」とするなど、多数のドローンが飛び交うことを想定した空中交通規制が設けられるかもしれない。
こうした仮想インフラの構築に向け、各ドローンの飛行データを収集・分析するのも有用だろう。
■【まとめ】物流で実証に着手 空のモビリティ革命始まる
このほかにもセキュリティ対策などは必須で、安全性の向上に向けあらゆる観点から研究開発が進められている状況だ。
国が設置した「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」が取りまとめた「空の産業革命に向けたロードマップ2019」によると、自律航行ドローンを活用した離島や山間部における荷物配送を2019年度に開始し、2020~2021年度にはビジネスのサービス拡大、2022年度以降に都市を含む地域における荷物配送の実現を目指すとしている。
人の移動についてはまだまだこれからとなりそうだが、着実に技術開発と環境整備は進められているのだ。課題は山積みかもしれないが、地上の自動運転開発で培われた最新技術が貢献する場面も多々あり、新たなモビリティ革命に向けた動きは今後ますます加速しそうだ。
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