電通の広告費調査、「タクシー広告は大幅増」の一文に注目せよ

無限の可能性、タクシーを制する者は広告を制す





電通はこのほど、日本国内の総広告費や媒体別・業種別広告費を推定した「2019年 日本の広告費」を発表した。インターネット広告費がテレビメディア広告費を抑え、初めて2兆円を超えたことが話題となっているが、自動運転ラボが注目しているのはそこではない。交通広告の概況で述べられている「タクシー広告は、大幅に増加」――この一文だ。







たびたび当メディアでも取り上げているが、このタクシー広告の伸びはモビリティ業界に訪れているターニングポイントを如実に物語っているのではないだろうか。

タクシー業界における変化をはじめ、MaaS(Mobility as a Service)や自動運転といった現在進行形の変化を交えながら、タクシー広告の未来について考察していこう。

■「2019年 日本の広告費」の概要

電通の発表によると、2019年の総広告費は通年で6兆9381億円となった。なお、2019年(1~12月)は新たに「物販系ECプラットフォーム広告費」と「イベント」領域を追加推定したため前年と単純比較はできない。前年同様の推定方法では6兆6514億円となり、前年比101.9%で8年連続のプラス成長となっている。

成長を続けるインターネット広告領域やイベント関連が総広告費全体を押し上げる結果となった。インターネット広告費はの2兆1048億円(前年比119.7%)となり、テレビメディア広告費の1兆8612億円(同97.3%)を超えた。

インターネット広告費は、新設した物販系ECプラットフォーム広告費1064億円の影響が大きいが、これを除外した前年同様の推定方法においても1兆9984億円(同113.6%)となり、テレビメディア広告費を上回っている。なお、テレビメディアを含むマスコミ4媒体は、新聞が4547億円(同95%)、雑誌が1675億円(同91%)、ラジオが1260億円(同98.6%)の状況で、前年割れが続いている。

プロモーションメディア広告費は2兆2239億円(同107.5%)で、このうち交通が2062億円(同101.8%)と堅調な伸びを見せた。総広告費に占める交通広告の割合を指す構成比は3.0%で前年から0.1ポイント低下しているが、これは新設項目の影響とみられる。

交通広告の細目では、鉄道において中づりや窓上、ドア横などの紙媒体が落ち込み、それを車内・駅構内のデジタルサイネージでカバーする傾向が継続しており、特に首都圏で車内デジタルサイネージが好調という。前年に続き、天気や気温、時間、位置情報などの外部データと連携した広告が展開される「ダイナミック・デジタルOOH(家庭外メディア)」を利用したサイネージの展開や、デジタルサイネージの車両・駅媒体との組み合わせが進化している。

空港は、外国人観光客の増加に伴い広告需要が伸長しているほか、タクシー広告は大幅に増加しており、新規参入もあって前年より飛躍的に市場が拡大している。首都圏を中心に地方にも普及を始めており、BtoB広告が多いもののBtoC広告も増加傾向にあるという。

■タクシー広告の動向
デジタルサイネージ需要が増加

タクシー広告はこれまで、車内に設置されるステッカーやアドケースをはじめ、ウィンドウ広告や行灯、ボディラッピングといった歩行者や後続車など外に向けたタイプの広告が主流だったが、近年はデジタル化の波が押し寄せ、後部座席に設置されたタブレットタイプのデジタルサイネージを利用した広告が急増している。

デジタルサイネージは、屋外や店頭、交通機関など、あらゆる場所でディスプレイなどの電子機器を使って情報を発信するメディアを指す。ディスプレイやストレージ、通信技術の発展などにより駅構内や空港、商業施設といった集客力のある場所への設置が進んでいる。

また、タブレット端末を活用したサービスの導入もタクシー業界を中心に進んでおり、搭載車数は激増の一途をたどっている。

配車アプリの浸透が要因に

タブレット型のデジタルサイネージの搭載がなぜタクシーで増加しているのか。その要因として、近年スタンダード化しつつあるスマートフォンを活用した配車サービスやキャッシュレス決済の増加が挙げられる。タブレットはこれらの機能と連動可能なため、ドライバーや乗客双方の利便性が増すのだ。

その上、デジタルサイネージ広告を導入することで収益を上げることも可能になるため、一石二鳥と言える。

配車アプリは、国内最大規模を誇るJapanTaxiがDeNAの配車アプリ「MOV(モブ)」と事業統合したほか、みんなのタクシーの「S.RIDE(エスライド)」、海外で配車サービスを手掛けるUberとDiDiの日本法人などが積極的にシェア拡大を図っている。

2019年12月にアプリダウンロード数900万件を突破したJapanTaxiは47都道府県を網羅し、MOVとの統合で配車可能な車両数は約10万台規模となった。みんなのタクシーは東京都内を中心に1万台を超えている。Uberは10府県、DiDiは25都道府県までそれぞれ勢力を伸ばし、デリバリー事業などにも注力している。

全国ハイヤー・タクシー連合会によると、2018年3月末時点における法人タクシー車両数は18万6247台で、個人タクシー3万3561台、福祉輸送限定車両1万3662台となっている。

これら20万台を超えるタクシーのうちどのくらいの割合が配車アプリやデジタルサイネージを導入しているかは不明だが、同連合会が発表した2019年3月末時点に決済用端末機導入状況によると、キャッシュレス決済非対応の車両は4万2017台となっている。

デジタルサイネージ非搭載車両数は、キャッシュレス決済非対応車両数よりも格段に多いことが予想されるため、タクシーにおけるデジタルサイネージ市場はまだまだ開拓の余地があり、成長が見込めるものと思われる。

デジタルサイネージ市場は1000億円規模へ

ネット広告大手のサイバー・コミュニケーションズと調査会社のデジタルインファクトが2019年11月に発表したデジタルサイネージ広告市場調査によると、2019年のデジタルサイネージ広告市場規模は749億円の見通しで、このうち交通関係が全体の約64%となる480億円を占めるという。

2023年の予測では、デジタルサイネージ広告市場規模は1248億円まで膨れあがり、交通関係も757億円まで拡大する見通しのようだ。

【参考】サイバー・コミュニケーションズらの調査については「1000億円規模へ!デジタルサイネージ広告、最大市場は”交通” タクシーや自動運転車でさらに」も参照。

■各社のデジタルサイネージサービス

デジタルサイネージによる広告は、Uberを除く配車アプリ大手4社がそれぞれ独自のサービスを展開している。

JapanTaxiが関わる「Tokyo Prime」は、2020年7月〜8月の媒体資料によるとサイネージ導入台数は東京都内1万500台、地方主要都市1万9500台の計3万台で、月間延べリーチ数は1800万人としている。

DeNAによる「Premium Taxi Vision」は、統合の影響について触れていないものの2020年7月〜8月の媒体資料によるとサイネージ導入台数は東京、神奈川、京阪神で計約1万8000台で、月間延べリーチ数は1155万人となっている。

みんなのタクシー系の「THE TOKYO TAXI VISION GROWTH」は、2020年7月〜9月の媒体資料によるとサイネージ導入台数は東京都内1万1000台で、月間リーチ数は750万人となっている。

DiDiモビリティジャパンが2019年12月にスタートした「DiDi TV」は、2020年3月〜5月の媒体資料によるとサイネージ導入台数は約5000台で、月間想定リーチ数は200万人となっている。

各社とも配車サービスなどを通じて提携タクシー事業者の増加を図っており、それに合わせてデジタルサイネージ搭載車両も増加し、より広告効果を高めていく流れだ。

なお、デジタルサイネージ広告未導入のUberは、車両の屋根に搭載した行灯をデジタルサイネージ化した広告サービスの実証を米国で進めているようだ。

【参考】各社のデジタルサイネージサービスについては「注目の新広告枠…タクシー内テレビの仁義なきシェア戦い」も参照。

■タクシーのデジタルサイネージ広告のメリット

不特定多数の視聴者向けにディスプレイを通じて漠然と映像を流すだけでは他のメディアと効果はほぼ変わらないが、タクシーの場合、短い移動時間で中途半端に暇を持て余す乗客の注目を集めやすい利点がある。

また、移動を伴うのも武器だ。配信するエリアや日時・曜日に工夫を凝らすことで、移動先周辺に関する広告を効果的に配信することもできる。プライバシーの問題などが想定されるが、乗客の年代や性別などを解析したうえで各層に有効な広告を表示させることもできるだろう。

このほか、ドライバーから乗客へ直接サンプル商材を手渡すサンプリングやステッカーなどの車内広告と連携させることで、相乗効果を発揮することも可能だろう。

今後は、「移動を無料に」をキャッチコピーに掲げるnommocのように、乗客とのマッチング度が高そうな広告をAIを活用して有効に配信するシステムの高度化が進むものと思われ、乗客の種別やエリア、時間などを総合的に分析した配信システムの導入が浸透していく可能性が高い。

また、都市に比べ地方に行けば行くほど配車サービスの導入率が低いが、これは新たな市場が眠っている状況といえる。今後、地方への配車サービスやデジタルサイネージの導入とともに、ローカル向けの広告サービスの展開なども考えられそうだ。

■将来は自動運転車やMaaSに派生

タクシーで隆盛を極めるデジタルサイネージ広告だが、今後はMaaS分野への応用も考えられる。さまざまなモビリティが連動するMaaSでは、デジタルサイネージ端末を有効に搭載できるモビリティがいろいろ登場することが見込まれる。

また、スマートフォンの活用を前提とすれば、利用者のスマートフォンに広告を配信することで料金を割り引くサービスなども増えそうだ。MaaSを構成する主力モビリティの一つであるタクシーの広告が、さまざまなモビリティへと派生していく可能性は十分考えられるだろう。

さらに将来、自動運転車の普及が始まれば、こうした流れはカーシェアなどにも波及していくものと思われる。運転という作業から解放され、移動時間の有効活用が模索される時代が到来すれば、広告連動型のサービスなどもどんどん進化を遂げていくことが予想される。

場合によっては、自動運転レベル3の普及に伴い、自家用車に搭載されたサイネージを通して広告を配信するサービスなどもさっそく登場するかもしれない。

完全自動運転が実現すれば、ウィンドウなどをディスプレイ化することも可能になり、車内外に向けた広告配信に拍車がかかることも想定される。デジタルサイネージ広告の伸びしろはまだまだ天井知らずのようだ。

■【まとめ】タクシーのデジタル化がサイネージ広告をけん引

デジタル化が進む社会においては、広告媒体も徐々にデジタル化が進行しているようだ。配車サービスやキャッシュレス決済対応のタクシー車両は、ある意味デジタル化されたタクシーと言うことができる。このタクシーのデジタル化の進展とともに、タクシー広告への注目もますます上がっていくものと思われる。

また、移動の利便性を高める自動運転車は、広告の利便性や汎用性も高める効果がありそうだ。自家用車やカーシェアにおいては従来のドライバーも乗員化することができ、移動サービス向けの車両は、従来のクルマの既成概念にとらわれないディスプレイ化を図ることが可能になる。

こうした未来の変化の急先鋒がタクシーだ。自動運転技術の実用化もタクシーが先行しており、タブレットに留まらない新たな広告手法を生み出す可能性にも今後注目していきたい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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