タクシーへ広告掲載!主要な8形態まとめ 激アツは「後部座席タブレット」型

デジタルサイネージが業界の収益構造を変える



リーマンショック後に需要は落としたものの、近年は輸送人員数などほぼ横ばいで推移しているタクシー市場。一方で、低年収などを理由に乗務員数は不足する傾向にあるようで、タクシー各社が収益増や乗務員の待遇改善に取り組んでいる。


タクシー業における収入は当然乗車料金がメインとなるが、付帯収入となる広告収入や配車アプリの手数料収入に光明を見出す事業者も多い。人目を引くラッピングタクシーや車内に設置されたリーフレットといったタクシー広告は、誰もが目にしたことがあるはずだ。

このタクシー広告の中で、近年特に注目が高まっているのがタブレット端末を用いたデジタルサイネージで、スマートフォンを活用した配車アプリやキャッシュレス決済機能への対応とともにタクシーへの搭載数が飛躍的に増加している。

今回は、デジタルサイネージサービスを手掛ける事業者を中心に、さまざまなタクシー広告の世界を調べてみた。

■形態①:車内タブレット(デジタルサイネージ)

車内に設置されたタブレットなど、デジタルサイネージを活用したデジタル広告。平均乗車時間18分とも言われる乗車時間とパーソナルな空間を活用した注目の広告媒体で、高い広告到達率が期待される。


車内タブレットはスマートフォンによる簡易的な決済機能や訪日外国人を対象とした多言語対応なども可能なため、搭載車両は右肩上がりで増加しているようだ。

以下、代表的な事業者・サービスを4つ紹介する。

Premium Taxi Vision

タクシー配車アプリ「MOV」を手掛けるDeNAのタクシー向け動画配信サービス。2019年4月時点で東京都、神奈川県内の約8000台の提携タクシーにタブレットを搭載しており、10.1インチワイドの画面に高精細な動画広告を配信している。月間延べリーチ数は520万人という。

広告は、タクシー乗車後に料金メーターと連動して表示されるため、実車中以外のタイミングで表示されることはない。また、乗客側もいつでも画面を消すことができる。


タブレットには広告のほか、共同通信社と連携し、車内コンテンツとして多言語対応した最新のニュースも配信している。広告の合間にこうしたニュースを流すことで、タクシー利用者の視線を画面に自然に集めることができるという。このほか、電車遅延などのタイムリーな交通情報や運賃・料金表、降車時の支払い案内なども表示できる。

広告は、まず発車直後に再生される「Top Movie」が再生され、コンテンツを挟みながら2、3番目に再生される「Advanced Movie」、「Standard Movie」と続く。「Top Movie」はすべての乗客にアプローチすることができ、最大60秒までの長尺に対応しているためストーリー性のある動画を展開することも可能だ。

2019年7~9月期の募集要項では、「Top Movie」は1枠で、想定表示回数50万回、広告料金は250万円となっている。「Advanced Movie」は2枠で、同50万回、200万円。「Standard Movie」は6枠で、同60万回、150万円。掲載期間はそれぞれ1週間となっている。

なお、MOVは2019年1月に国際興業大阪、同年4月にアオイ自動車、ギオン自動車、都タクシー、ホテルハイヤー、洛東タクシーなどとの協業を発表しており、大阪府、京都府エリアでのサービスを近く開始する予定。タブレット搭載車両も順次増加する見込みだ。

【参考】Premium Taxi Visionについては「DeNA、タクシー後部座席の動画広告配信をスタート 1万台で配信」も参照。

Tokyo Prime

株式会社IRISが運営する動画配信サービス。同社は、新世代デジタルサイネージの開発や広告の販売を目的に、国内最大の配車アプリ「JapanTaxi」を手掛ける日本交通グループのJapanTaxiと、広告事業を手掛けるフリークアウトが2016年に設立した合弁会社。

Tokyo Primeのサイネージ導入台数は、東京都内5500台をはじめ、大阪、札幌、福岡、神奈川、埼玉、神戸、京都の全国主要8都市を合わせ計1万台に上る。月間延べリーチ数は700万人超という。

2019年7~ 9月期の媒体資料によると、広告枠はDeNAと同様、料金メーターと連動してスタートする「Premium Video Ads」をはじめ、コンテンツを挟みながら2~5本目に流れる「Collaboration Video Ads」、その後ランダムに表示される「Standard Video Ads」「Target Video Ads」がラインナップされている。

掲載期間はそれぞれ1週間で、「Premium Video Ads」は1枠で最大60秒、想定表示回数110万回、広告料金は600万円。「Collaboration Video Ads」は4枠で、同90万回、400万円。日経電子版との共同広告商品の掲載枠で、日経電子版記事横の静止画15秒と最大30秒の動画で構成される。

「Standard Video Ads」は10枠で最大30秒、同90万回、250万円。表示される台数が半分(5000台)の「Standard Video Ads[HALF]」(20枠)もあり、同45万回、150万円となっている。また、ターゲットの性別を絞った「Target Video Ads」(10枠)は、男性が同50万回で160万円、女性が同40万回で140万円に設定されている。

ニュース配信などのコンテンツパートナーには、日経新聞電子版やフォーブスジャパン、ディスカバー・ジャパン、ヒルズライフデイリー、ミルクジャポンが名を連ねている。

このほか、広告効果検証オプションとして、グロス1000万円以上(1回1期間あたり)を発注すると、マーケティングリサーチによる態度変容調査が無償提供される。調査項目はブランド認知、ブランド指標 好感度・来店意向・推奨意向(ブランド認知者のみ)、購入経験(ブランド認知者のみ)、広告認知率、広告きっかけのアクション―の5項目となっている。

なお、日本交通はIRIS立ち上げ以前の2015年にも、乗客が動画を視聴することで割引クーポンをもらえるサービスなどを実施している。

THE TOKYO TAXI VISION GROWTH

グリーンキャブ、国際自動車、寿交通、大和自動車交通、チェッカーキャブの都内タクシー会社5社とソニー、ソニーペイメントサービスの合弁企業「みんなのタクシー」も、PR会社のベクトルとともに2019年4月に後部座席IoTサイネージサービス「THE TOKYO TAXI VISION GROWTH(グロース)」をスタートした。

タクシー会社5社が保有するタクシー車両は現在都内最大規模の1万台を超えており、月間延べ700万人にリーチできるという。映像は「First View」「Business View」「Economy View」の3つのメニューで構成され、サイネージ映像以外にもさまざまな広告メニューの開発を進めており、順次公開予定としている。

2019年5月28日から同年7~9月期の広告枠の販売を開始しており、新たに商品認知から体験までを一気通貫で可能にする乗客向けサンプリングサービスや、放映課金式で時間帯や曜日指定が可能となる「TARGET VIEW」がメニューに加わった。

サンプリングサービスは、次世代タクシー「JPN TAXI」の限定300台で実施する。サイネージの映像放映とセットで、乗客の降車時に商材・サービスに関するサンプリング製品を提供する。

一方、TARGET VIEWは、「ピンポイントで広告情報を届けたい」という需要に応え、ターゲットを明確化し、時間帯・曜日の指定を可能にしている。例えば、平日朝の通勤時間帯に都内のビジネスパーソンに向けて広告情報を届けたい場合、平日×通勤の時間帯を指定することで限定配信が可能になる。

eyevision/iScene

タクシー広告やWEBなどの媒体事業を手掛けるアイマッチング社のデジタルサイネージサービス。eyevision(アイビジョン)は1枠30秒で、放映期間は月単位、エリアは東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県で、1カ月1台あたりの訴求人数は都内平均で1050人。月額は1台あたり1000円で、安価で利用することも可能なようだ。

一方、iSceneは新たなデジタルサイネージ広告のようで、他社と同様料金メーターと連動して広告やコンテンツが表示される仕組みだ。発車直後に再生される「The First Video ado」は1枠限定、最大60秒で想定表示回数45万回、広告料金は200万円。2本目以降の「Basic Video ado」は20枠あり、最大30秒、想定表示回数45万回、広告料金は100万円となっている。

同社はタクシーステッカー広告やリーフレット、ラッピングなども扱っており、こうした他の媒体とのシナジー効果にも期待できそうだ。

■形態②:車内ステッカー

車内にステッカーを貼る形式のシンプルな広告。運転席に取り付けられた防犯ボードに貼るアイキャッチステッカーやドアステッカーなどがあり、10~20センチ四方のステッカーを貼るだけなので手軽に扱える。

■形態③:アドケース

助手席や運転席後部に設置されたラックにリーフレットなどを入れ、興味を持った乗客が手に取って持ち帰ることができる車内広告。小型のカードサイズから20センチほどのサイズまで、いくつかの定格が用意されている場合が多い。

■形態④:ウィンドウ広告

サイドウィンドウやリアウィンドウに掲示する車体広告。歩行者や後続車のドライバーなどに訴求するもので、ウィンドウに貼るタイプのため比較的安価で済むようだ。

■形態⑤:ボディステッカー(ラッピング)

タクシーのボディを利用した広告で、遠目でも目立つため訴求力は高い。大型のイベントやキャンペーン告知などにもよく使用されている。

タクシーのほぼ全面を活用したラッピング広告などもあるが、タクシー業務適正化特別措置法などによりタクシーである旨の表示義務などが課されているため、タクシーとしての表示義務を守ったうえでのラッピングとなる。

また、車体広告は屋外広告に該当することになり、東京都屋外広告物条例のように条例で規制されている場合などもある。東京都の場合、4つドアと屋上のみ広告掲載が可能となっている。

■形態⑥:行灯(あんどん)

車両の屋根部分に立体的に取り付ける広告。ボディステッカーと一体的に設置される場合が多い。

■形態⑦:レシート

精算の際に手渡されるレシートの裏などに印刷する広告。乗客が自発的に手に取らなくても、さりげなく受け渡されるタイプの広告だ。

■形態⑧:サンプリング

小物や各種ノベルティなど、ドライバーから乗客へ直接サンプル商材を手渡す広告。積載量の観点からかさばるものは向かないが、意外と喜ばれる場合が多い。

■【まとめ】タクシー事業者の収益増→タブレット搭載率増→広告収益増の好循環も

デジタルサイネージサービスは、スマートフォンとの連動サービスを武器にし、かつ業界における横のネットワークを構築している配車アプリ事業者が主導権を握っているようだ。今後、配車アプリの浸透とともにタブレット搭載車両も増加することが見込まれるため、広告効果はさらに高まり、タクシー事業者にとって有力な収益源になるものと思われる。

現在はよくあるタイプの動画広告が主流だが、日本交通が取り組んだ乗客還元型(割引)サービスや、DeNAの0円タクシーなどといった応用も可能であり、差別化を図って顧客獲得につなげることもできる。

また、こうしたデジタル媒体と、昔ながらのアナログ的な広告やサンプリングを連動させることで大きな相乗効果も見込めるため、タクシー広告全体の底上げを図る効果も見込めそうだ。

配車アプリやタブレットの搭載は主要都市のタクシー事業者を中心に大幅増加しているが、収益に直結するサービスの登場によって地方事業者への採用も加速し、広告効果はさらに高まる――といった好循環が生まれる可能性も高そうだ。


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