
移動サービスや物流に変革をもたらすことが期待される自動運転技術。無人化技術による恩恵は、道路交通の安全性向上や事業のコスト削減、ドライバー不足の緩和など、計り知れないメリットを生み出す。
国内では、自動運転バス実用化に向けた取り組みが特に盛んで、各地で実証・実用化が進められている。自動運転バスはいつ実用化され、社会にどのようなメリットを生み出すのか。その導入にはどのくらいの費用が必要となるのか。
国内における自動運転バスの現状をまとめてみた。
記事の目次
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■自動運転バスの実用化はいつから?
ゴルフカート型車両での取り組みが先行
国内における自動運転バスの実証は、、まずゴルフカート型車両を使い、2010年代後半に大きく加速し始めた。車道における自動運転レベル4サービスは、2019年11月に秋田県北上小阿仁村の道の駅「かみこあに」で産声を上げた。一般車道を規制し、一部区間を専用道路としたうえでのレベル4実現だ。
正直なところ、上記は国の目標を満たすため無理やりレベル4を実現させた実験色が強い。ルートの一部1キロほどでレベル4を実現しても特段のメリットがなく、継続性が見いだせないためだ。事実、現在はレベル2で運行している。このため、同例は「実用化」としては一歩足りない。

その後、2021年の改正道路交通法や道路運送車両法において「自動運行装置」、いわゆる自動運転システムが規定され、2023年にはレベル4に相当する移動サービス「特定自動運行」が盛り込まれた。ここからが自動運転時代の幕開けだ。
福井県永平寺町では、廃線跡地を活用した遊歩道「参ろーど」を走行する自動運転バス「ZEN drive Pilot」が2023年3月に国内初のレベル4として自動運行装置の認可を受け、同年5月に特定自動運行の許可を取得して遠隔監視のみの無人走行を実現した。これが事実上の国内初レベル4サービスだ。
ただしこれらのモビリティは、自動運転バスというより、ゴルフカート型の自動運転シャトルという印象を持つ人も多いとはずだ。

茨城県境町のARMAに注目が集まる
ゴルフカート型よりも車体が大きなモビリティを使った取り組みでは、茨城県境町でのソフトバンク系BOLDLYやマクニカの取り組みが注目された。
2020年11月から自動運転バスを3台導入し、生活路線バスとして定時・定路線での運行をスタート。自治体が自動運転バスを公道で定常運行するのは、境町が国内で初めてだった。

レベル4の認可に関する動きも近年進む。2023年10月にティアフォーが神奈川県相模原市の物流拠点「GLP ALFALINK相模原」で開発・運用している自動運転システム「AIパイロット」と、BOLDLYらが複合商業施設「HANEDA INNOVATION CITY」で取り組む自動運転バス「ARMA」が、それぞれレベル4認可を受けた。
2024年3月には、JR東日本が宮城県登米市内の気仙沼線BRTの柳津駅~陸前横山駅間で実用化を目指している自動運転バスに搭載した自動運行装置「K-AITO」がレベル4認可を受けたと発表している。
さらに、同年5月には北海道上士幌町のARMA(BOLDLY)、同年10月には長野県塩尻市のAIパイロット(ティアフォー)、三重県多気郡多気町VISON構内を運行する「MiCa」(BOLDLY)、2025年2月に大阪・関西万博の来場者輸送用の自動運転バス(Osaka Metro)もそれぞれレベル4認可を受けたことが発表されている。

HANEDAの取り組みは2024年6月までに特定自動運行許可を取得し、レベル4サービスを可能にしている。塩尻市も2025年1月に特定自動運行許可を取得した。
2024年12月には、伊予鉄グループが愛媛県松山市内の松山観光港と伊予鉄道高浜駅を結ぶ往復約1.6キロの路線でレベル4自動運転バスの営業運行を開始した。公式発表されていないが、おそらく特定自動運行許可も取得済みと思われる。
また同月には、茨城交通も営業車両として国内で初めて特定自動運行許可を受けたと発表しており、特定自動運行による旅客運送の営業運行を2025年2月に開始している。自動運転区間は、茨城県日立市内のひたちBRT路線8.6キロのうち専用道区間約6.1キロとなっている。
一般車道や中型バスの自動運転も登場
全体としては小型バス・シャトルタイプが主流で、遊歩道や私有地内、BRT路線における許可が目立つが、塩尻市と松山市の取り組みは混在空間となる一般車道を走行エリアとしている。また、中型バスタイプも登場しており、着実に進歩を続けている印象が強い。
デジタル庁所管のモビリティワーキンググループで示された資料によると、2024年12月末時点において、補助事業などを通じて一般道における通年運行を行っているエリアは19カ所に上るという。
政府目標としては、2025年度に全都道府県で通年運行の計画策定または実施が行われ、同年度を目途に50カ所程度、2027年度に100カ所以上で自動運転サービス実現を目指すとしている。
今後も続々と自動運転バスの実用化が進んでいくことになりそうだ。
【参考】自動運転サービスの取り組み状況については「自動運転での通年運行、日本の一般道で「全国19カ所」に 2024年12月末時点」も参照。
■自動運転バスのメリットは?
自動運転技術で安全性が向上
自動運転技術の恩恵は、大きく「安全性の向上」と「コスト低減」に分けることができる。まず、安全性の向上効果から見ていこう。
警察庁交通局の資料「令和6年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況」によると、2024年中に発生した交通事故件数は29万0,895件(前年比1万7,035件減)で、このうちうち死亡事故件数は2,598件(同20件減)だった。

事故件数は年々減少傾向が続いている。10年前の2014年は交通事故件数57万3,842件、死亡事故件数4,013件で、こうした過去の数字と比べると一目瞭然だ。
▼令和6年中における交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000040249681&fileKind=2
死亡事故2,598件のうち、事故の主要因となった第1当事者が信号無視や最高速度、一時不停止、酒酔い運転、安全運転義務など法令違反を犯していたものは2,325件に上る。約90%が人為的過失によるものと言える。
交通事故件数の減少は、警察による取り締まり強化や安全運転意識の向上などが背景にあるものと思われるが、ADAS(先進運転支援システム)搭載車両の増加やADASの機能向上が寄与している面も大きいものと思われる。
スバルが2020年に発表したデータによると、2014年~2018年に販売したアイサイトVer.3搭載車における追突事故発生率は0.06%(販売台数45万6,944台で追突259件)という。2010~2014年販売のVer.2では0.09%、同時期のVer.2非搭載車は0.56%だ。ADASの事故抑止効果や進化がうかがえる。
交通事故の大半が人為的に起こっていること、またADASが事故抑止・被害軽減に一定の効果を発揮していることを踏まえると、自動運転技術の導入が交通安全に大きく貢献することがよくわかるだろう。
自動運転技術は、人間のドライバーが担う車両制御・運転操作のすべてをコンピュータが代替するものだ。基本的に交通違反を行わず安全運転するように設計されており、正常に動作すれば第1当事者となる事故は原則発生しない。
国土交通省所管のASV推進検討会の研究においても、自動運転車同士であれば89.5%の死傷事故を削減できるという結果が示されている。一方が手動運転車でも、第1当事者が自動運転車となる死傷事故は88.2%削減できるという。
もちろん、現状の技術では自動運転は完全とは言えず、実用化済みのレベル4による事故は発生している。それでも手動運転車に比べ事故や被害は減少しており、今後その効果はより高まっていくことが期待される。
【参考】ASV推進検討会の研究結果については「過去の死傷事故、「自動運転車同士」なら回避率89.5% 国交省調査」も参照。
ドライバーレスによる人件費削減効果で事業継続性がアップ
ドライバーがコンピュータに置き換わることで無人運行を可能とする自動運転は、コスト面でもその効果を発揮する。ずばり、ドライバーにかかる人件費の削減だ。
公益社団法人日本バス協会によると、諸経費の原価に占める人件費の割合は50%台後半で推移しており、2021年度は57.9%となっている。
おそらくこの数字には内勤などドライバー以外の人件費も含まれているが、国土交通省によるとバス事業の2021年度の従業員数は10万9,961人で、このうちドライバーは7万4,340人という。単純計算すると、バス事業の経費においては40%強がドライバーの人件費に相当することになる。

▼日本バス協会の資料
https://www.bus.or.jp/cms/wp-content/themes/bus/images/about/publication/2022_busjigyo.pdf
自動運転による無人化でこの経費を削減できれば、事業収支の改善に大きく貢献することは間違いない。2021年度の乗合バス事業において、保有車両数30両以上の228事業者のうち黒字事業者はわずか19者で全体の8.3%となっている。
大半が赤字経営を余儀なくされていることがわかる。それでも事業を継続しているのは、公共交通としての役割を全うするためだ。住民の足を確保するため、地方の自治体は税金を投入してでも最低限の移動サービスを維持しなければならず、路線縮小・統廃合を繰り返しながら細々と事業を行っている。
しかし、自動運転化により収支が改善すれば、バス路線を維持しやすくなるのは言うまでもない。イニシャルコストの増加やシステム整備、遠隔監視のオペレーターなどしばらくは別の負担が増すことになり、本質的な経費削減効果が出るのはまだまだ先の話だ。
量産化により車両コストが低下し、一人のオペレーターが複数台を管理する時代がいつごろ訪れるか、要注目だ。
ドライバー不足の緩和や渋滞・環境負荷低減などにも期待
自動運転による無人化効果は、ドライバー不足の緩和にも大きく貢献する。国内各地のバス事業が苦境に立たされている要因は収支だけでなく、ドライバーの確保が困難なことにも起因している。
仮に予算を確保することができても、ドライバーがいなければ運行することはできない。人やモノの輸送業界共通の大きな課題だ。
しかし、自動運転技術によりドライバーレスを実現できれば、状況は大きく変わる。専門職の要素が濃いドライバー不在で運行が可能になり、より柔軟なサービス展開が可能になりそうだ。
また、自動運転バスの柔軟な運行が可能になれば、渋滞の緩和や環境負荷低減にも効果を発揮することが期待される。都市部においては、路線拡充や本数の増加で細やかな移動が可能になれば、自家用車を所有する必要が薄くなっていく。
地方においても、路線バスが安定して運行され、オンデマンドバスも登場すれば、自家用車がなくても日常的な移動に困ることが少なくなる。
自家用車によるパーソナルな移動が減りバスに集約されていけば、道路上を走行する車両の数が減少し、渋滞が起こりにくくなると同時に、環境負荷も軽減される。こうした効果も自動運転バスの大きなメリットと言えるだろう。
■自動運転バスの導入費用は?
イニシャルコストは1億円クラスに?
さまざまなメリットが想定される自動運転バスだが、現段階においては技術的に発展途上であり、かつ量産効果も薄いため、導入費用は高額となる。
デジタル庁所管のモビリティワーキンググループで2023年12月に示された資料によると、海外製車両を導入している自動運転サービス事業者へのヒアリングの結果、車両費用は1台あたり5,500~8,000万円で、その他初期費用にも1,000~2,000万円が必要という。
本体価格には一部改造費用を含む。その他の初期費用としては、走行ルートのマッピング費用などが挙げられる。遠隔監視に係る費用や、BEVであれば充電設備の設置費用なども必要となる。

▼自動運転等新たなデジタル技術を活用したモビリティサービスの社会実装に向けた論点|デジタル庁
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/2b3315d1-5865-4712-99dd-84c54a396f9b/fdaf1653/20231211_meeting_mobility-working-group_outline_02.pdf
いずれは手動バス以下のコストに
一方、2025年1月開催の同ワーキンググループでは、自動運転車の運行管理などを担うBOLDLYが興味深い試算を発表している。
▼自動運転時代の市場創生 BOLDLY 株式会社
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/6936350f-a070-42d7-8ab1-3bbd9471bba8/44733a3c/20250128_meeting_mobility-working-group7_outline_03.pdf
同社によると、自動運転車を導入し、1年間運用した場合のコストは、車両本体やマッピング、各種調査、人材教育、充電設備などに1億5,700万円、システム利用料やメンテナンス、人件費などのランニングコストが6,300万円で、計2億2,000万円必要という。単純に考えると、2年目以降のコストは6,300万円だ。
一方、現在の公共交通の導入・維持コストは、手動バス(EV)がイニシャル4,580万円、ランニング1,680万円の計6,260万円、手動バスがイニシャル2,080万円、ランニング1,650万円の計3,730万円という。単純比較すると、自動運転バスは手動バスの6倍費用がかかることになる。
ただ、この計算はあくまで現状における試算だ。同社によると、自動運転バスのランニングコストは最終的に1,030万円まで引き下げることができるという。
その上で、車両価格が現在の3分の1まで低下すれば、10年間の運用で1億9,000万円となる。5分の1の場合は1億7,600万円、10分の1の場合は1億6,550万円だ。手動バスの10年間運用コストは1億8,580万円のため、車両価格が概ね3分の1ほどまで低下すれば、既存交通と変わらない費用で運用可能になる計算だ。
車両価格が3分の1まで低下するころには1,000台ほど、5分の1では6,000台ほどが既存交通から自動運転バスに置き換え可能になるという。

量産効果や技術のスタンダード化によりいかに車両そのものの価格を低下させるか。そして、遠隔監視オペレーターをはじめとするランニングコストをいかに低下させていくかが重要となる。
BOLDLYは、2025~2030年を量産目前の移行期(社会実装2.0)とし、サービスを浸透させていく時期としている。デジタル公共財などの基盤を整備し、徐々に国産比率や品質を高めていく時期だ。
そして2030年以後の普及期(社会実装3.0)に導入台数が飛躍的に伸びていく――と予測している。
【参考】BOLDLYの試算については「自動運転バスのコスト、導入6,000台で「手動バス」以下に 車両価格5分の1&10年運用で」も参照。
■【まとめ】競争企業・競争領域が拡大中
自動運転分野で先行する米国・中国では自動運転タクシーの開発・実用化が主流となっており、日本は独自の道を歩んでいると言える。
ただ、国内でも自動運転タクシーや自動運転トラック実用化に向けた取り組みが加速しており、海外開発企業の参入も発表されている。競争企業・競争領域が一気に拡大し、5年後の状況も見通せないほどだ。
大きく動き始めた自動運転分野。2025年中にどのような動きが飛び出すか、引き続き注目したい。
【参考】関連記事としては「自動運転タクシーとは?アメリカ・日本・中国の開発状況は?」も参照。