トヨタ、Googleやテスラに負けじと「市販の自動運転レベル4」発売へ

開発他社もe-Paletteビジネス展開か



出典:Flickr / DennisM2 (CC0 1.0 : Public Domain)

トヨタe-Palette(イーパレット)の販売を開始すると発表した。当面は自動運転レベル2相当に対応可能な車両として提供していくようだが、2027年度を目途にレベル4に準拠した自動運転システム搭載車の市場導入を目指すという。

市販レベル4についてはこれまでもトヨタに対する期待はあったが、トヨタは沈黙を守ってきた経緯がある。今回の発表でトヨタ製自動運転車の市場化が現実味を帯びてきた格好だ。トヨタはe-Paletteを契機に新たなモビリティビジネスの道を拓き、そして未来の自動運転サービスにつなげていく算段かもしれない。


自動運転分野では、商用無人タクシーの展開などでGoogle系Waymo(ウェイモ)やTeslaテスラ)に先行されていたが、商用のレベル4モビリティの販売で「自動運転企業の大本命」の座を獲て、いよいよトヨタの追い上げ・追従がスタートするのか、注目だ。最新動向に迫る。

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■市販版e-Paletteの概要

e-Paletteの価格は税込み2,900万円!

出典:トヨタプレスリリース

トヨタは2025年9月15日、さまざまなモビリティサービスに活用可能なBEV「e-Palette」の販売を開始した。CES2018でコンセプトモデルが発表されて以来、実に7年半の時が経過した。満を持しての発売だ。

トヨタとしては、まず「TOYOTA ARENA TOKYO」およびその周辺エリア、「Toyota Woven City」から導入を開始し、輸送サービス用途や物品販売を行う移動型店舗など、さまざまな取り組みを進めていくという。

加えて、一部地域では販売店や自治体、自動運転パートナーと連携した自動運転実証などを進め、2027年度にはレベル4準拠の自動運転システム搭載車として市場導入を目指す方針としている。


販売価格は消費税込み2,900万円からで、別途オプション費用が必要。環境省による「商用車等の電動化促進事業」において補助金の対象となっている(2025年9月15日時点)。受注生産のため、当面はトヨタが直接注文を受け付ける。

多機能なユーティリティ・モビリティとして期待

車両のスペックは以下の通りだ。

  • 全長4,950×全幅2,080×全高2,650mm
  • 室内長2,865×室内幅1,780×室内高2,135mm
  • 車両重量 2,950kg
  • 定員(座席+立席+運転手)17(4+12+1)人
  • 最高車速 時速80キロ
  • 最小回転半径 6.5m
  • 航続距離 約250キロメートル
  • 動力用主電池 リチウムイオン電池
  • バッテリー容量(総電力量) 72.82kWh
  • 電動機(モーター)最高出力 150kW 最大トルク 266N・m
  • 充電時間 急速(DC90kW・200A)40分程度(満充電量の約80%充電) 普通(AC6kW・30A)12時間程度

大きめの乗用車サイズで、立ったまま乗り込める。低床、大開口スライドドアで車高調整機能も有しており、電動スロープによって歩道高さ15センチの場合車いすでも介助なく自力で乗降することができる。


広い車室空間はカスタマイズ可能で、架装を行うことで多様な用途に対応することができる。例えば、遠隔通信や音響機材などを活用して移動しながら臨場感満載の空間でスポーツ観戦を楽しむことや、没入体験とともに観光を楽しめるエンターテインメント車両としての活用も可能という。

朝・晩はシャトルバスとして、また日中は充電しながら店舗営業を行うなど、さまざまな機器を搭載することで一日の中で異なる用途で活用することもできるとしている。マルチに活躍するユーティリティ・モビリティだ。

出典:トヨタプレスリリース

まずはレベル2対応車両として販売

今回販売開始したe-Paletteは運転席付きで、自動運転レベル2相当のシステムに対応可能となっている。2027年度を目途にレベル4に準拠した自動運転システム搭載車の市場導入を目指し、継続して機能実装していく。

トヨタの車両制御インターフェース(VCI)に対応して開発されたさまざまな開発企業による自動運転システムを搭載することで、自動運転に対応することが可能となる。

自動運転システムと車両制御システムの接続を標準化するとともに、システムの堅牢性や信頼性を高めるための冗長システムも搭載する。自動運転システムとセットで安心・安全な走行の実現に寄与し、トヨタの自動運転を実現する。スムーズな自動運転オペレーションを助ける運行管理システムとの連携も可能とする。

手動制御装置には、次世代の操舵感覚をもたらすステアバイワイヤシステムを導入し、ステアリング操作量を軽減することで運転手の負担を軽減するほか、異形ステアリングを採用し、先進的なコックピットを実現したという。

利用シーンに応じさまざまな表示が可能なデジタルサイネージも車内外に装備し、利用者自らが編集可能なサイネージソフトも提供し、さまざまな情報を発信することができる。車室内監視システムも搭載可能で、ドア周辺を監視することでドア開閉の安全確認をサポートすることができる。

自動運転開発事業者を交えたビジネス展開に?

一般的なマイクロバスなどと比べれば割高に感じるかもしれないが、補助金額も大きく、多用途に活用できる最先端のBEVをこの価格で手に入れることができる――と考えれば、意外とお得なのかもしれない。

自動運転・ADASに関しては、「自動運転レベル2相当のシステムに対応可能」とされていることから、レベル2システムが標準搭載されているわけではないものと推測される。仮にオプション設定されているとすれば、幾らくらいなのか。

また、e-Paletteはもともと多目的サービス専用の自動運転モビリティとして開発が進められてきた経緯があり、将来的なレベル4化はある意味既定路線と言える。

そこで気になるのが、e-Palette自動運転化ビジネスのスキームだ。現行モデルは、開示された車両制御インターフェースをもとに他社製自動運転キット・システムを搭載できる。つまり、第三者の改造によって自動運転化することができるのだ。

改造可能であることは一般自家用車やバスなども同様だが、e-Paletteはハード面・ソフト面ともに自動運転改造しやすい設えとなっている。つまり、サードパーティ製自動運転を歓迎しているのだ。

e-Paletteを活用した自動運転ビジネスを展開する自動運転開発事業者が登場し、自ら自動運転化したe-Paletteをリースしたり、他者が購入したe-Paletteを自動運転化したり――といった展開が想定されるが、その際、例えばトヨタのモビリティサービスプラットフォーム(MSPF)の利用が大前提となるのかなど、気になるところだ。

また、トヨタ純正レベル4システムが将来的に提供されることを見込み、これを待つ利用者も出てくることが考えられる。その場合、車両価格はどの水準に達するのか。また、現行BEVをアップデートして純正レベル4化する場合、追加費用はどの程度になるのか。月額オプション化されるのかなど、気になることだらけだ。

類似したサイズ・仕様の自動運転バスの価格が5,000万円~1億円ほどと言われる中、自動運転化されたe-Paletteは果たしてどのような金額・料金設定で世に送り出されることになるのか、大きな注目が集まりそうだ。

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国産トヨタ製モデルは信頼性が群を抜く

いずれにしろ、トヨタがついにレベル4自動運転車の市販化に道筋をつけたのだ。その影響は、今後じわじわと業界に広がっていくことが想定される。

これまでに国内で導入された自動運転バスの多くは、完成度の高い外国製だった。近年は、ティアフォーによるオリジナルモデル(Minibus)も勢いを増しているが、小型シャトル・バスの分野は大型バンやマイクロバスといった既存モデルより、自動運転に特化したオリジナルモデルが人気のようだ。BEVか否かも重要なのかもしれない。

ここにe-Paletteが登場することで、市場環境が大きく変わる可能性が考えられる。完成度の高い海外製はそれほど安いわけではなく、開発本拠地が遠く離れているため継続的な自動運転システムの精度向上の点でも不安が残る。場合によっては地政学的リスクもつきまとう。「完成度の高さ」というメリットは、今後時間とともに弱まっていく可能性が高い。

e-Paletteは、サービス車両としてのポテンシャルが高く、おそらくアフターサービスも充実している。信頼性・安心度が極めて高い。そこに一定水準の自動運転機能を備えることができれば、広範からの支持を得やすくなるのだ。

例えば、現在自動運転ビジネスの主要顧客となっている自治体なども手を出しやすくなるのだ。トヨタ製という信頼性と多目的に活用可能という汎用性は、漠然としつつも意思決定者らを説得しやすい好材料となる。自動運転開発・サービス事業者も営業しやすくなるのではないだろうか。

ARMA(Navya Mobility)やMiCa(Auve Tech)を主力とするBOLDLYや、オリジナルのMinibusを展開するティアフォーなどの国内先行勢がどのように動き出すか、大きな注目が集まるところだ。

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■e-Paletteの概要

2018年に初お披露目

e-Paletteは2018年、電動化、コネクテッド、自動運転技術を活用したモビリティサービス専用次世代EVとしてCES2018で発表された。箱型デザインによる汎用性の高い室内空間を持ち、車両制御インターフェースを自動運転キット開発会社に公開することでさまざまな自動運転システムを搭載したり、人の移動や小売などさまざまなサービスに使用したりすることができるユーティリティ・モビリティとしてそのコンセプトが固められていた。

当初は運転席などを備えない独自仕様の自動運転専用モデルだったが、2023年開催のテクニカルワークショップで運転席付きモデルの存在が明かされた。当時の予定としては、2020年代前半に実社会でのサービス提供を運転席があるタイプで開始し、その後運転席がないタイプをWoven Cityなどを通じて開発していく計画だ。時期は若干ずれたかもしれないが、今回のe-Palette発売は概ね計画通りと言えそうだ。

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運転席なくして普及はあり得ない?

この運転席の有無は非常に大きい。運転席がないタイプは、遠隔操作のほか専用のコントローラなど特殊な制御装置で手動運転を行うこともできるが、専用の訓練を受けない限り、一般ドライバーには扱えない。e-Paletteをレベル2として広く普及させるためには、運転席は必須なのだ。

レベル2は、自動運転ではなく運転支援システムに相当し、運転操作の主体は人間となる。アダプティブクルーズコントロールとレーンキープアシストを備えた自家用車と変わらないレベルだ。

普通に考えると、e-Paletteにも同様の機能が標準搭載されているものと思われるが、「レベル2相当の自動運転システムに対応可能な車両」とされているため、レベル2システムも後付けの可能性が考えられる。

また、LiDARや高精度3次元地図を併用し、特定エリアで精度の高いレベル2を実現できる可能性もある。例えば、シャトルサービスにおいてルート上を事前にマッピングし、一般道路においてもハンズオフ運転できるようにする――といった形だ。

こうしたハンズオフ運転がe-Paletteで広く行われるようになれば、トヨタは重要な走行データを効果的に収集することができ、レベル4実装が近づく。

ハンズオフ運転はあくまで人間のドライバーありきで、ドライバーが運転に対する責任を負わなければならないが、人間が介入しなければならない状況が限りなくゼロに近づけば、レベル4が見えてくる。語弊が生じそうだが、一切人間が介入する必要がなくなったハンズオフは、もはやレベル4と言えるためだ。

レベル4はすべての運転タスクをコンピュータが担い、人間の介入を不必要なものにする。無人化が可能になるのだ。この人間の介入を不必要なものにするという基準はあいまいだが、基本的には運行上想定される道路交通におけるすべてのシチュエーションに対応可能となる必要がある。

レベル4のハードルは高いが、地道にレベル2+で実証・走行を重ねるのも、進化に大きく貢献するのだ。

サービス用途で売り出し、定着した後に自動運転化を提案?

また、自動運転車ではなく多目的サービス専用BEVとして売り出す戦略も面白い。自動運転車として高額で売り出したとしても、当分の間それほど顧客はつかない。自身がレベル4走行したいと考えるルートに対応するには、マッピングや走行実証を重ねる必要があり、大きな手間を要するためだ。前例がないため、サービス実装後もしばらくの間は恐る恐るの運行となる。この点は、他社もトヨタも一緒だ。いきなりのレベル4販売は、先を見通しづらいのだ。

しかし、新規格のレベル2サービス向け車両としてみれば、需要は一定数見込まれる。将来的な自動運転化の有無に関係なく、純粋に多目的BEVとして活用してみたい層は少なくないはずだ。

ここで多くの顧客をつかんでおき、じっくりとe-Paletteによるサービス展開の可能性と裾野を広げておく。トヨタはその間、並行して自動運転技術に磨きをかけていくのだ。そして、e-Paletteによるサービス展開が一定程度浸透し、自動運転技術が確立された来るべき将来(2年後)、改めてレベル4化を提案するのだ。

e-Paletteの利便性がある程度浸透した段階で、新たに無人化技術によるポテンシャルが加わることで、想定以上の反響が生まれる可能性が考えられる。すでに車両を購入している人は比較的安価に自動運転化を図ることができるのもポイントだ。

新規格の自動運転車の販売は、こうした戦略が意外とマッチするのかもしれない。

■【まとめ】WaymoやTeslaへの追い上げ開始か

まずは新規格の多用途サービス向けBEVとして純粋にe-Paletteの反響がどれほど出てくるのか注目だ。また、今回の販売を契機に、e-Paletteを購入して自動運転実証を開始する事業者も出てくるものと思われる。

多用途サービスを目的とする事業者と、自動運転開発・サービスを目的とする事業者の二つの需要により、今後国内でどのような動きが見られるか。そしていずれは世界展開後にはWaymoやTeslaへの追い上げがスタートすることになるのか。必見だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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