過去の死傷事故、「自動運転車同士」なら回避率89.5% 国交省調査

第6期ASV推進検討会、事故削減効果を評価



事故削減効果の比較=出典:国土交通省公開資料

ドライバーに依存しない無人走行を可能にする自動運転技術。職業ドライバー不足の解消や道路交通の安全向上に資する技術として、開発と社会実装が世界で本格化している。

では、自動運転技術が大きく普及した将来において交通事故はどれほど削減されるのか。国土交通省所管のASV推進検討会において解析・推定されたデータによると、自動運転車同士であれば89.5%の死傷事故を削減できるという。


9割もの事故削減が道路交通に与えるインパクトは非常に大きい。この記事では、ASV推進検討会の研究成果やWaymoなどのレポートを参照し、自動運転車の事故削減効果に迫る。

■ASV推進検討会による研究成果
39パターンの事故で自動運転やADASの有無の影響を調査

自動運転システムの事故削減効果評価の検討は、第6期ASV推進検討会(2016~2020年度)において実施された。

自動運転車両が普及した将来、現在ドライバーが運転する車両で発生している事故のうち、どのような事故がどれほど削減されるか推定することを目的に、2018年の死傷事故データをもとに「ミクロ-マクロ」手法による解析を行っている。

2018年の死傷事故は43万601件で、これを「一般道・四輪車×四輪車・追突」「一般道・四輪車×歩行者・横断歩道」といった感じで48パターンに整理し、このうち発生状況が不明な事故や四輪車以外の当事者同士の事故などを除いた39パターンについて分析を行った。


前提として、自動運転・ADAS(先進運転支援システム)ともに作動率を100%とし、ADASは衝突被害軽減ブレーキと右折発進抑制、レーンキープアシスト・車線維持支援制御装置、リアビークルモニタリングシステム・後側方接近車両注意喚起装置を対象とし、自動運転は視認阻害時などに資する通信機能(V2X)の有無も考慮している。

これらの各機能や自動運転システムの仕様、事故パターンごとに作動条件などの詳細な前提条件を設定し、その上で各事故パターンのミクロ事故データ1件ごとに自動運転またはADAS搭載時の事故回避有無の解析を行い、パターンごとに事故削減率を算出した。これを集約し、全国の死傷事故に置き換えて事故削減件数を算出し、さらに死傷事故全体の事故削減率を求めた。

自動運転車同士は89.5%削減、ADAS同士は69.6%削減

事故の発生要因となった当事者をA当事者、もう一方をB当事者とすると、A・B双方が各機能を搭載していた場合、自動運転で89.5%、ADASで69.6%の死傷事故を削減できると推算された。

B当事者にADASや自動運転装備がなくA当事者に装備がある場合、自動運転で88.2%、ADASで62.0%の死傷事故を削減できた。


一方、A当事者に装備がなくB当事者のみに装備されている場合は、自動運転、ADASともに1割程度の事故削減効果しか期待できない結果となった。

事故削減効果の比較=出典:国土交通省公開資料

交差点における追突事故を想定するとわかりやすい。自動運転車が信号待ちで停車しているところ、後方からノーマルの手動運転車が突っ込んできたら、自動運転車でも回避は困難となる。

逆に突っ込む側が自動運転車だった場合、信号や前方の停止車両を早い段階でしっかりと検知し、滑らかに速度を落として衝突を回避する。ADASでも、衝突被害軽減ブレーキが作動することにより事故回避や被害軽減効果が期待される。

被害者側として避けられない事故はあるものの、本質的に加害者にはなり得ないのが自動運転車なのだ。

なお、現実世界では環境条件や運転者属性、交通流の状況などの影響を受けて各機能の作動率が低下する可能性にも言及している。

分析の詳細については、資料を参照してほしい。

▼自動運転システムの事故削減効果評価の検討に関する資料
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/01asv/report06/file/hokokusyo_2_jikosakugenkoka.pdf

■自動運転開発各社の分析
Waymo車両の衝突事故は手動運転と比べ85%減
Google系Waymoが展開している自動運転タクシー=出典:Waymo公式ブログ

ASV推進検討会における調査はあくまで推計だが、自動運転技術の実用化で先行する各社による実際の走行データに基づく調査結果も出始めている。

グーグル系米Waymoが2023年9月に公表した、スイスの再保険大手スイス・リーと共同調査した研究によると、Waymoがカリフォルニア州サンフランシスコとアリゾナ州フェニックスで無人走行した380万マイル以上の走行において、人身傷害の請求はゼロ、物的損害の請求頻度は大幅に減少したという。

出典:Waymo公表データ(※詳しい表の見方は「https://arxiv.org/pdf/2309.01206.pdf」を参照)

スイス・リーが保有する手動運転のデータでは、100万マイルあたりの物的損害賠償請求件数が3.26件であるのに対し、Waymoの自動運転システムWaymoDriverは同0.78件と76%件数を減少させた。

人身傷害の請求件数は、手動運転が100万マイルあたり1.11件であるのに対し、Waymoはゼロだった。

また、2023年10月末までにフェニックス、サンフランシスコ、ロサンゼルス全域で完全自動走行した714万マイル以上に及ぶデータにおいても、100万マイルあたりの傷害を伴う衝突事故が手動運転2.78に対しWaymoは0.41と85%も少なかったという。

Cruiseは65%減少、過失が大きいものは94%減少
出典:GM Cruise公式サイト

一方、GM傘下のCruiseも2023年9月、ミシガン大学交通研究所やバージニア工科大学交通研究所などの協力のもと作成したテクニカルレポートを発表している。

Cruiseの100万マイルに上る無人走行において衝突事故は36件発生し、このうち5件は歩行者や自転車利用者などの道路脆弱者だった。これら5件は自動運転車が停止してから衝突しており、負傷者は出ていないという。

出典:Cruise公開資料

負傷者が報告された衝突は四輪対四輪の1件で、自動運転車が左折(日本でいう右折)する際、対向車が右折専用レーンを制限速度を大きく超えて直進してきたため衝突を避けられなかったとしている。

手動運転と比較すると、衝突事故の発生率は65%少なく、Cruiseの責任が大きいものに至っては94%少ないという。

現時点で手動運転車よりも安全?

自動運転タクシーで先行するWaymoとCruiseだが、衝突事故以外にも「立ち往生した」「緊急車両の走行を妨害した」「警察官の指示を無視した」などの事案がたびたび話題となっている。

2023年10月には、サンフランシスコでCruiseの無人車両が他車がはね飛ばした歩行者を避けきれずに接触し、安全確保のため路肩に停止する際に約6メートルの間被害者を引きずる事故が発生した。この事故をきっかけに、Cruiseには営業停止と無人走行試験許可の即時停止の措置が取られた。

現時点における自動運転システムがまだ未成熟であることは事実だが、これらの事案は手動運転においても当たり前のように発生している。無人車両特有の事案も中にはあるだろうが、大半は手動運転でも発生しており、発生率も手動運転の方が高いものが多い。

自動運転車のトラブルは目を引きやすいが、こうした背景には、無人車両による事故・事案は話題になりやすい点と、自動運転車にはこうした事故・事案の報告義務が課せられている点を挙げることができる。数字上、現時点で手動運転車より高い安全性を確保しているのだ。

至らない点がまだ残っているにしろ、現時点で手動運転車より安全だからこそ無人走行許可を得ることができるとも言える。

■日本の交通事故発生状況
事故発生件数は減少傾向、ADASが貢献

2022年に日本国内で発生した交通事故は30万839件で、前年から4,357件減少した。このうち死亡事故は2,550件(前年比-33件)で、死者数は2,610人(同-26人)の状況だ。

近年は横ばいが続き、コロナ明けの2023年は増加に転じる見込みだが、事故件数は2004年の95万2,720件をピークに減少傾向が続いている。啓発や取り締まり強化などの影響に加え、ADASの普及が事故減少に一役買っているものと思われる。

スバルが2020年に発表したデータによると、2014年~2018年に販売したアイサイトVer.3搭載車における追突事故発生率は0.06%(販売台数45万6,944台で追突259件)という。2010~2014年販売のVer.2では0.09%、同時期のVer.2非搭載車は0.56%で、着実にADASも進化を遂げていることがうかがえる。

こうしたADASの進化の先に自動運転があると考えれば、自動運転によってより多くの事故を減らすことができる……というのも納得できるのではないだろうか。

■【まとめ】開発各社の事故関連レポートに注目

ADASや自動運転システムの実装・普及に伴い、事故削減効果のレポートが各社から続々と出てくる可能性が高い。調査方法にばらつきがあるため全てを鵜呑みにして同列比較することはできないが、一定の信頼性は確保できるのではないか。

こうしたデータに信ぴょう性が加われば、社会受容性もどんどん向上していくものと思われる。開発先行勢には、ぜひ率先してデータの公表をお願いしたいところだ。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

【参考】関連記事としては「自動運転の事故責任、誰が負う?(2024年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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