営業停止に至ったGMの自動運転タクシー、「事故率は人間以下」は嘘だった?

規制緩和から一転、即時停止へ



出典:X(https://twitter.com/TerryMcSweeney/status/1709097787613487516)

カリフォルニア州道路管理局(DMV)と同州公共事業委員会(CPUC)は2023年10月24日、同州内で自動運転タクシーサービスを行っているGM傘下Cruiseの営業停止と無人走行試験許可の即時停止を発表した。

相次ぐトラブルで安全性を疑問視され、さらには安全性に関する情報を虚偽表示したことなどが理由に挙げられている。


その5日前には、ホンダがCruiseなどとともに日本における自動運転タクシーサービス計画を発表したばかりだ。ホンダにとっても最悪のタイミングと言わざるを得ない。今回の措置の背景には何があるのか。自動運転タクシーは時期尚早なのだろうか。

詳しくは後述するが、Cruiseの自動運転タクシーに関しては、過去には事故リスクが手動運転の半分以下だというレポートも発表されていたが、全く信用できないデータなのだろうか。

■Cruiseに対する措置
自動運転車の配備と無人走行試験の許可を一時停止

DMVの発表によると、Cruiseに対し自動運転車の配備と無人走行試験の許可を一時停止し、これを即時発効すると2023年10月24日付で通告したという。停止期間の設定はなく、DMVはCruiseに対し許可を回復させるための申請に必要な要件を示したとしている。

なお、セーフティドライバーが同乗する公道走行については従来通り可能という。


理由として、車両の性能が公道運転において安全ではないと判断した点や、車両の自動運転技術の安全性に関する情報を虚偽表示していた点などを挙げている。具体的な中身には言及していないが、何らかの虚偽表示も疑われているようだ。

どういったトラブル・事故が今回の措置の引き金となったかは不明だが、2023年8月にはカリフォルニア公共事業委員会(CPUC)がCruiseとWaymoに対し24時間運行の権限を新たに付与するなど、規制緩和の動きを強めていた。

なお、CPUCも同日、Cruiseに対する旅客運送許可の一時停止を明らかにしている。

【参考】Cruiseに対する規制緩和については「Googleの自動運転タクシー、「24時間営業」解禁でマネタイズに道筋」も参照。


人身事故事案が引き金に?

この経緯を踏まえると、それ以後に発生した事案が大きな影響を及ぼした可能性がありそうだ。Cruiseの無人走行車が10月2日、別の車両にはねられた女性をかわせず下敷きにする事故が発生している。過失割合は低いものと思われるが、社会的なインパクトは大きい。

同事故では、女性と接触した後、安全上路肩に寄るため再度動き出したが、その際女性を約6メートル引きずったという。この点が問題視された可能性も高そうだ。

このほかにも、緊急車両との衝突などさまざまな事案が積み重なっており、それらに対するCruiseの総合的な対応を問題視されたことも考えられる。

「車両の自動運転技術の安全性に関する情報を虚偽表示」も気になるところだ。こうした部分の詳細が明かされない限り、憶測が憶測を呼ぶことになりかねない。

なお、GM、及びCruise側は27日時点でこの件に関する公式アナウンスを発表していない。すでに弁明に向けたやり取りを進めているのか、これから行うのかなども不明だ。

【参考】Cruiseが関連する人身事故事案については「GMの自動運転車、ひき逃げされた女性を下敷きに 無人走行中に避けきれず」も参照。

ホンダも冷や汗?

ホンダは10月19日、GM、Cruiseとともに2024年前半に合弁企業を立ち上げ、2026年初頭にも日本で自動運転タクシーサービスを開始する計画を発表したばかりだ。それから一週間もたたずにカリフォルニア州における停止措置が発表されてしまった。

日本で導入する車両は、自動運転専用に設計されたオリジナル車両「クルーズ・オリジン」で、カリフォルニア州で使用されている自動運転車「GM・ボルト」とはタイプが異なるが、センサーやAI(人工知能)による認識技術や判断能力は共有しているものと思われる。

仮に、Cruiseがカリフォルニア州で起こしている事案と同様のものが日本国内の実証で起こった場合、おそらく企業としては都度実証を中止し、原因究明・対策を施してから再開することとなる。社会的責任の負い方・捉え方に違いがあるのだ。

現状を踏まえれば、相当ブラッシュアップを重ねないと日本での実用実証に耐えられない可能性がありそうだ。

【参考】ホンダの動向については「ホンダの自動運転タクシー、Googleすら未実現の「運転席なし」」も参照。

過去にはPony.aiも無人走行ライセンス停止

余談だが、DMVによる無人走行許可停止は、2021年にPony.aiも受けている。その後、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)が同社の自動運転ソフトをリコールする事態となった。2023年10月現在、Pony.aiの無人走行ライセンスは復活していない。

【参考】Pony.aiに対する停止措置については「自動運転許可、米加州で初の「停止」 トヨタ出資の中国Pony.ai、衝突事故で」も参照。

■自動運転車による事故やトラブルの現状
事故報告数はWaymoとCruiseが圧倒的多数に

DMVによると、自動運転車による公道走行中に発生した物損や人身事故は、2023年1月から10月6日までで122件報告されている。内訳は、Waymo46件、Cruise40件、Zoox14件、WeRide5件……と続く。

同期間における各社の総走行距離はまだ公開されていないため、走行距離に対する事故率などは導き出せないが、自動運転タクシーを実用化しているWaymoとCruiseが件数上突出する形となっている。

同様に、NHTSAのクラッシュレポートを見てみると、2023年1月から9月15日までの間に自動運転車による事故が192件報告されている。

集計を開始した2021年7月からの累計では431件に上り、企業別ではWaymo180件、Cruise128件、GM119件、Transdev97件となっている。Cruiseとは別にGMが多数報告されているのは謎だ。

人的被害としては、死亡例は報告されておらず、重傷も2件にとどまっている。また、重傷案件の責が自動運転にあるかどうかは不明だ。

Cruiseが2023年4月、無人走行100万マイルを達成した際に発表したレポートによると、100万マイル当たりの事故は手動運転50件に比べCruiseは23件と半分未満に収まり、重大なけがを伴うリスクも73%減少したとしている。

自動運転車は基本的に制限速度を守るなど意図的なルール違反を行わないこともあり、手動運転に比べ事故比率が低いのはやはり事実のようだ。

【参考】NHTSAのクラッシュレポートについては「自動運転車の事故、米国で月平均13件 最多はGoogle子会社」も参照。

オースティンではCruiseへの苦情が多数

テキサス州オースティン市の報告によると、寄せられた苦情43件のうち42件がCruiseだったという。同市ではCruiseが自動運転タクシーの商業運行、WaymoとVW系Volkswagen ADMTがサービス開始に向けたテスト走行を行っている。

走行台数や距離、走行形式などの差が影響しているものと思われるが、Cruiseが圧倒的に迷惑扱いされているようだ。ニアミスや交通遮断に対する苦情が多く、衝突も5件あったようだ。

【参考】オースティンの動向については「自動運転タクシー、「苦情の98%」がGM関連 米オースティン」も参照。

Waymoや中国企業は?

衝突を伴う明らかな事故以外の問題・トラブルも多く抱えている。当サイトでCruise関連の記事を検索すると、「進入禁止テープに絡まる」「深夜の道路封鎖」「舗装途中のアスファルトに埋まる」「緊急車両を邪魔」などいろいろと出てくる。

手動運転に比べ衝突事故が減少しているとはいえ、人間のドライバーのようにさまざまなケースに対し柔軟な対応を行うのはまだ苦手であるのも事実だろう。

こうした事案はCruise特有のものか?と言えば、そうではない。Waymoも「警察官の指示に対応できず交通を遮断」「立ち往生で大渋滞」「小型犬と衝突」などさまざまなトラブルが出てくる。

ネット検索上トラブル事案はCruiseのほうが多い印象だが、五十歩百歩と言えなくもない状況だろう。

では、中国で実用化されている自動運転タクシーはどうか。残念ながら、検索してもほぼ出てこない。米国に比べトラブル事例が少ないのか、それとも……と勘繰りたくなるが、SNSなどを調べると、「百度の自動運転車に接触され、そのまま逃げられた」といった事案などが出てくる。

やはり大なり小なり事故やトラブルは発生しているものと思われる。都会における自動運転タクシーの展開は時期尚早なのだろうか……。

■【まとめ】許容すべき点と厳守すべき点を明確化し、その上で実証加速を

日本の企業と異なり、海外各社はこうしたトラブルを自発的に発表する例が少ない。ゆえに実態の不透明さが増し、一部のトラブルがネットで炎上するたびに全体の安全性を危惧される事態に陥る側面もある。その逆も然りで、表ざたにならない限りそのリスクにふたをするようなケースもあるだろう。

正確な状況を把握できない限り、現時点の技術水準で自動運転タクシーを運行することの是非を図ることはできない。運行会社が発表した事故率に関するレポートも、第三者機関が慎重に分析する必要があるだろう。

また、技術を育てる観点から、現時点の自動運転に対し、事故やトラブルをどこまで許容すべきか、どういった事案に対しては厳しい対応を求めるべきか――といった線引きも行わなければならない。

本番に即したサービス実証を積み重ねない限り技術の早期向上は望めない。許容される点と厳守すべき点を明確に線引きし、その上で周囲の理解を得ながら社会実装を加速させていくのが1つの理想となりそうだ。

【参考】関連記事としては「GM Cruiseの自動運転戦略(2023年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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