自動運転車の事故、米国で月平均13件 最多はGoogle子会社

2021年7月から集計、死亡事故はゼロ



出典:NHTSA公式サイト

米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)はこのほど、最新のクラッシュレポートを発表した。自動運転車や自動運転レベル2のADAS(先進運転支援システム)搭載車両が起こした衝突事故を取りまとめたデータで、2021年7月からの集計期間において、自動運転車は1カ月平均13.1件、レベル2は同41.9件の衝突事故が発生したようだ。

実証・実用化が進む自動運転やADAS。同データをもとに、米国における走行状況に迫る。


■クラッシュレポートの概要
NHTSAが報告義務付け

NHTSAは2021年6月、レベル2のADAS以上の機能を備えたクルマを対象に、衝突事故の報告義務を開発事業者に課した。高度なADASや自動運転技術の普及を見越し、安全に関わる情報を収集する目的だ。情報収集は2021年7月に開始された。

自動運転システムやADASが衝突事故に関与、あるいは関与しようとしたもので、直前の30秒以内に使用されたモノが対象となる。レベル3以上は物的損害や傷害が生じたもの、レベル2は歩行者や自転車などが巻き込まれた事故や死亡事故をはじめ、車両の牽引やエアバッグが展開されたような事故を対象としている。

なお、追突された事案なども含まれており、自動運転システムやADASが被害者側となっているケースもある。

【参考】NHTSAの取り組みについては「自動運転の事故「24時間以内に報告を」 米NHTSAが発表」も参照。


■自動運転車におけるレポート
事故件数は1カ月平均13件、カリフォルニア州に集中

2021年7月から2023年5月14日までの期間に報告された衝突事故件数は計302件で、1カ月平均13.1件となった。

出典:NHTSA公式サイト

州別では、カリフォルニア州が199件と群を抜いて高く、アリゾナ州40件、テキサス州15件、フロリダ州14件、ネバダ州13件と続く。いずれも自動運転実証が盛んな州で、自動運転の車両数や走行距離などに事故件数が比例している格好だ。

出典:NHTSA公式サイト
Waymoが最多でTransdev、Cruiseが続く

メーカー別では、グーグル系列のWaymoが132件で最多となり、交通事業者の仏Transdevの自動運転サービス部門Transdev Alternative Servicesが83件、Cruise62件、GM54件、Zoox37件と続いている。

こちらも公道実証の多寡と概ね比例した結果となっている。Cruiseの親会社GMが別個で取り組んでいる点も興味深い。


2番手となったTransdevは世界各国で自動運転プロジェクトをサポートしており、米国ではバージニア州で仏EasyMileと、ノースカロライナ州でフォード子会社とそれぞれ提携してパイロットプログラムを行っているほか、フロリダ州やカリフォルニア州の当局などと連携した取り組みも進めている。

衝突対象は自家用車が134件と全体の4割ほどを占める。自転車は6件、動物との衝突も2件あったようだ。

出典:NHTSA公式サイト
負傷者なしの軽微な事故が多い一方、重傷事故も1件発生

怪我の程度別では、262件で負傷者が報告されなかった一方、1件で重傷者が発生している。死亡事故は報告されていない。

出典:NHTSA公式サイト

車両の損傷個所は、後部153件、左後部138件、右後部127件とリア部分の損傷が際立っている。フロント関連は、前部60件、左前部79件、右前部70件で、サイドは左側方39件、右側方35件となっている。

出典:NHTSA公式サイト

リア部分の損傷が多いのは、自動運転車のバック時によるものなのか、他車からの追突によるものかは不明だ。

■レベル2ADASのレポート
レベル2が関わる事故は1カ月平均41.9件

レベル2のADASでは、2021年7月から2023年5月14日までの期間に計963件が報告された。1カ月平均41.9件の計算だ。

州別では、自動運転車同様カリフォルニア州が333件で最多となっている。テキサス州85件、フロリダ州79件、ニューヨーク州50件と続く。自動運転のケースと相関度が高く、もしかしたら自動運転実証におけるレベル2走行も含まれているのかもしれない。

出典:NHTSA公式サイト
テスラがダントツの1位

メーカー別では、EV(電気自動車)大手テスラが799件と抜きん出た。ホンダ108件、スバル23件、トヨタ17件、BMW8件と続いている。

「AutoPilot」や「FSD」といったレベル2システムを積極展開するテスラが上位に来るのは納得だが、それにしても圧倒的に多過ぎる印象だ。テスラのシステムに問題があるのか、あるいはテスラの喧伝に乗せられシステムの能力を誤認・過信したテスラオーナーが多過ぎるためかは不明だ。

また、ホンダをはじめとした日本勢が2~4番目というのも解せない。ハンズオフ機能を筆頭としたレベル2はGMやフォードも実用化を推し進めており、米国市場に出回る台数ベースでは日本勢より多いものと思われる。

もしかしたら、各社の報告基準などに差異があるのかもしれない。レベル2は基本的にオーナーカーに搭載されているが、コネクテッド技術で自動的にメーカーに事故情報が収集される場合もあれば、オーナーが連絡しない限りメーカーが把握できていないケースもある。こうした差が数字に表れている可能性がある。

出典:NHTSA公式サイト

【参考】テスラ車の事故については「テスラのAutoPilot関連事故、2019年以降に736件/17人死亡」も参照。

事故の状況は自動運転と異なる

怪我の程度別では、不明が816件と圧倒的に多い。また、重傷14件、死亡22件と自動運転に比べ重大事故の割合が少し高い結果となっている。負傷者の報告がなかったものは79件にとどまる。

車両の損傷個所は、前部423件、左前部424件、右前部352件とフロント側が多く、リア側は後部79件、左後部135件、右後部86件となっている。こうした点も自動運転車と傾向が異なっているようだ。

出典:NHTSA公式サイト
レベル2にも課題あり

自動運転車とレベル2における衝突事故を比較すると、事故発生率は不明だが、自動運転車の方が被害の程度が小さく、また車体後部の損傷が多いことからおそらくもらい事故、あるいは急停止による追突事故が多いのではないかと思われる。

自動運転車はオーナー車に比べ速度が遅い場合が多く、事故の際の被害も抑えられているのだろう。

一方、レベル2は車両の縦制御・横制御を両立させる運転支援システムだが、これを過信・誤認するドライバーが一定数いるほか、センサーによる検知とAI(人工知能)の判断が自動運転に比べ未熟なため、想定外のシーンで急ブレーキをかけるといった事案も発生している。テスラ車では「ファントムブレーキ」という異名まで付けられるありさまだ。

ドライバーがレベル2を正しく取り扱っていても、予測不可能な急制動に対応できるとは限らない。あくまで運転支援システムであっても、まだまだ課題はありそうだ。

■衝突件数最多のカリフォルニア州の動向
41社が自動運転実証、ベンツもサービス許可取得

自動運転、レベル2ともに衝突事故が最多のカリフォルニア州。レベル2はともかく、自動運転に関しては世界の開発企業が集結していることもあり、走行頻度や距離も他州に比べ相当多いものと思われる。

同州道路管理局(DMV)の発表によると、2023年4月時点で41社が自動運転車の公道試験の許可を得ている。日本関係では、日産とウーブンプラネットの名が見られる。

このうち、ドライバーレスの無人走行のパーミットホルダーはAPOLLO AUTONOMOUS DRIVING USA、AutoX、Cruise、Nuro、Waymo、WeRide、Zooxの7社となっている。

また、サービス許可は、Cruise、Nuro、Waymoに加え、新たに独メルセデス・ベンツも取得している。

事故件数は累計600超に

同州における自動運転車の事故件数は、2014年以来計619件に上る(2023年6月27日時点)。2022年は151件、2023年は今のところ74件の状況だ。

事故の全件がレポート形式で公表されている。掲載情報は限られているものの、どういったシチュエーションでどのような事故が発生したのか、業界で情報を共有するのに役立つほか、業界全体の現状を第三者が把握する際にも有用だ。

開発事業者としては積極的に公開したくはない情報かもしれないが、真に交通安全社会の実現を望むのであれば、どんどん開示していくべき種類の情報と言えそうだ。

■【まとめ】自動運転車の安全性示すデータの登場に期待

実用化後も実証が続く自動運転。走行台数や走行エリアなどはどんどん拡大しており、比例して事故件数も増加することが予想される。過渡期はまだまだ続く見込みだ。

ただ、オーナーカーをはじめとした手動運転に比べれば事故率は低く、事故の際の被害も小さいことが多い。近い将来、レベル2搭載車両などと厳密に比較したデータが出てくるものと思われる。自動運転車の安全性を裏付けるエビデンスが続々と登場する段階に達すれば、本格的な自動運転時代が到来した――と言えるのかもしれない。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

【参考】関連記事としては「自動運転車の事故(2023年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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