自動運転の事故、責任は誰が負う?

自賠法や製造物責任法の指針は?法律家の見解は?





自動運転の本格実現が間近に迫ってきた。2020年中に自家用車における自動運転レベル3が実用化されるほか、自動運転レベル4の移動サービスも実用実証の形で産声を上げる見込みだ。







身近な技術となりつつある自動運転だが、いまだに判然としない課題が残っている。自動運転における「責任」問題だ。

自動運転車が事故を起こした際、誰が責任を負うことになるのか。この問題が解決しない限り、自動運転の本格実用もまだまだ先の話となってしまうだろう。

今回は自動運転の責任問題に焦点を当て、国の方針や専門家の見解・論点などに触れていこう。

■国の方針
自動運転に係る制度整備大綱による指針

国は2018年4月に発表した「自動運転に係る制度整備大綱」の中で、事故時などにおける責任関係の在り方に言及している。

民事責任においては、自動車損害賠償保障法に関して、自動運転システム利用中の事故により生じた損害についても、従来の運行供用者責任を維持する方向で、保険会社などから自動車メーカーなどに対する求償権行使の実効性確保のための仕組みを検討するとしている。

なお、限定地域で導入を図る自動運転レベル4の無人自動運転移動サービスについては、車両の保有者である自動車運送事業者を運行供用者として、高速道路での隊列走行トラックについては、走行形態に応じて運行供用者を特定することとしている。

一方、ハッキングにより引き起こされた事故の損害に関しては、自動車の保有者が運行供用者責任を負わない場合は政府保障事業で対応することが妥当とし、また、自動車の保有者らが必要なセキュリティ上の対策を講じておらず保守点検義務違反が認められる場合においては、この限りではないとしている。

ソフトウェアに関する責任の所在に関しては、組み込まれたソフトウェアの不具合が原因で自動運転車による事故が発生した場合については、製造物責任法の現行法の解釈に基づき、自動運転車の車両としての欠陥と評価される限り、自動車製造業者は製造物責任を負うほか、ソフトウェア関発者が別途不法行為責任を追及される可能性があるとしている。

また、自動運転車においては販売後も車両に組み込まれたソフトウェアのアップデートが想定されるが、自動運転車の車両としての欠陥に係る製造物責任法の適用においては、引渡し時点を一般車と同様欠陥を判断する基準とした。他方、アップデートについては、技術的動向を踏まえた継続検討課題としている。

使用上の指示や警告と責任の所在に関しては、製造物責任法上、自動運転車の使用方法やリスクについて消費者が正しく理解するため、自動運転車には使用上の指示・警告が求められる。使用上の指示・警告が不適切な場合において「通常有すべき安全性」を欠いていると判断される場合があるため、「通常有すべき安全性」と使用上の指示・警告などの関係については、技術的動向を踏まえた継続検討課題とした。

刑事責任関連については、今後の交通ルールの在り方に応じて検討が行われるべきものであるとし、自動車事故により死傷結果を生じさせた者に対する刑事責任については、実際の事例ごとに注意義務違反や因果関係の有無などを判断するものとした。

注意義務違反や因果関係の有無などを判断するためには、事故原因を明確化するためデータ記録や原因究明体制を構築する必要性があるとしている。

今後、自動運転車を市場化する際には、交通ルールや運送事業に関する法制度などにより、運転者、利用者、車内安全要員、遠隔監視・操作者、サービス事業者といったさまざまな関係主体に期待される役割や義務を明確化していくことが重要であるとし、これらを踏まえたうえで「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」など刑事責任に関する検討を行うこととしている。

自動運転における損害賠償責任に関する研究会

自動運転レベル3~4における自賠法の損害賠償責任の課題について検討を進めてきた「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」では、このほかの論点として、運行供用者の注意義務や、地図情報やインフラ情報といった外部データの誤謬(ごびゅう)や通信遮断による事故の扱いなどについても議論している。

注意義務に関しては今後、自動運転システムのソフトウェアやデータなどのアップデートや、自動運転システムの要求に応じて自動車を修理することなどについても注意義務を負う可能性が考えられるとしている。

外部データに関しては、通信遮断などが発生した際も安全に運行できるべきであり、かかる安全性を確保することができていないシステムは「構造上の欠陥又は機能の障害」にあたる可能性があるとの考えを示している。

制度整備の進捗状況

ソフトウェアの更新に係る責任の検討については、経済産業省・国土交通省による委託事業「高度な自動走行システムの社会実装に向けた研究開発・実証事業:自動走行の民事上の責任及び社会受容性に関する研究」において技術的動向を踏まえ継続的に議論を行っているとするほか、「通常有すべき安全性」と使用上の指示・警告などの関係の検討についても、技術的動向を踏まえた継続検討課題として関係省庁と議論の上、進め方を含めて検討中としている。

また、2019年5月に改正道路交通法と改正道路運送車両法が成立し、「自動運行装置」の保安基準対象装置への追加や、自動運転車への「作動状態記録装置」の設置義務化が盛り込まれるなど、レベル3の実用化を見越した法改正は進展を見せている。

作動状態記録装置については、記録する内容の具体的項目が定まっておらず、国連WP29(自動車基準調和世界フォーラム)による国際的議論などを踏まえたうえで具体化されていくものと思われる。

■海外の事例

英国では2018年7月、議会において「自動運転と電気自動車に関する法律」が可決され、強制自動車保険の対象が自動運転車まで拡大された。

条件を満たす自動運転車の型式を運輸大臣がリスト化して公表することや、自動運転中に事故が起きた際は、保険会社が一次的に補償する責任を負うこと、保険を付保していない場合には責任を車両所有者が負うこと、自動運転車の事故についても過失相殺の原則を適用すること、違法改造が行われた場合や重要なソフトウェアの更新を行わなかったことに起因する損害については、保険会社はその支払責任の一部または全部を免れることができることなどが盛り込まれている。

各国ともに責任の所在について議論を進めている状況だが、WP29など国際議論の結果待ちの部分も多く、2020年内に大きく動き出す可能性が高そうだ。

■専門家の見解

法律家の見解としては、花水木法律事務所の小林正啓弁護士がJ-STAGEで公開している「自動運転車の実現に向けた法制度上の課題」が興味深い。論点も豊富で理解しやすい内容となっている。

【参考】小林正啓氏の「自動運転車の実現に向けた法制度上の課題」は「こちら」から閲覧することができる。

「自動運転車の運転免許制度」に言及

記事では、米グーグルとNHTSA(米国運輸省道路交通安全局)の間で、自動運転用ソフトウェアを「運転手」とみなせるかどうかが議論になった話題などに触れ、国内においては交通事故時の救護義務などコンピューターには履行できない義務が定められているためコンピューターを運転手に含めることは難しいとし、そのうえで、自動運転システムが法定基準を満たすか否かを公的機関が認証するための試験が実施されると推測している。

これを「自動運転車の運転免許制度」とし、自動運転車が刑事責任を問われる事故を起こした際、この運転免許制度に合格している限りは自動車メーカーの社長や開発者らが責任を問われることは基本的にはないとしている。

死亡事故が起きたときのメーカー側の責任は?

また、2016年5月に米国で発生した米テスラ車による死亡事故を取り上げ、運転手の遺族がテスラを相手取り損害賠償請求訴訟を提起した場合を仮定した論考を展開している。

この事故はドライバーの前方不注視が主な原因で、NHTSAもこの事実を認めている。そのうえで、自動運転レベル2に関する注意義務を盛り込んだ免責同意契約をテスラとドライバーが交わしていたと仮定した場合、テスラが一切の責任を免れるかどうかに関する法律家の見解は分かれるという。

メーカーに責任を転嫁することは不当とするのが一般的と思われるが、メーカーが自動運転による運転者の負担軽減をうたってシステムを販売し利益を得ているにもかかわらず,片時も注意を怠らない義務を運転者に求めるのは矛盾であり、少なくとも欠陥があった場合の責任をメーカーが全部免れるのは不当とする主張もあり得るとしている。

AIと事故責任

さらに、グーグルの自動運転車が起こした事故を持ち出し、AIの過失による事故の責任についても論じている。センサーが左後方のバスを認識せずに接触した事故で、事故の原因がAI自体にある場合にはオーナーが損害賠償責任を負う可能性は低いとし、自動車メーカーの責任については、そのAIが「運転免許試験」に合格しており、公道走行認証を受けたAIである限りメーカーには原則として過失はないことになると推測している。

製造物責任の観点では、AIが必ず誤った判断をするのであれば「欠陥」があると認定されるが、高度に知能化されたAIの場合は再現性がない場合も考えられ、このような場合は事故を起こしたA Iの「過失」は明白であっても、「欠陥」があると言えるかについては疑問が残るとしている。

最後に保険制度に触れ、任意保険においては、被害者が任意保険金を受け取るためには加害者の過失を証明する必要があるものの、完全自動運転車が起こした事故の場合、被害者がメーカーの過失を立証することは困難であるとし、自動運転車の普及に向けては、過失要件を緩和した保険商品の開発が必要となると指摘している。

■保険業界の動向

2016年6月発表とやや古いものの、一般社団法人日本損害保険協会が「自動運転の法的課題について」と題した報告書を発表している。

損害賠償責任について、ドライバーが存在するレベル3までは自動運転中の事故か否かを問わず自賠法の「運行供用者責任」の考え方を適用することに問題はないとする一方、ドライバーという概念がなくなるレベル4に関しては従来の自動車とは別のものとして捉えるべきとし、損害賠償責任のあり方については、自動車の安全基準や利用者の義務、免許制度、刑事責任のあり方など、自動車に関する法令などを抜本的に見直したうえで論議する必要があるとしている。

このほか、興味深い論点として「過失割合の複雑化」にも言及している。自動運転が高度化すると、当事者の過失以外にもシステムの欠陥や道路インフラの欠陥などが関係してくる可能性があり、これらを考慮すると責任関係が複雑化し、過失割合の決定が困難になることも考えられるとしている。
保険各社も自動運転を見据えた商品開発を進めており、現在は自動運転に関する技術や想定される事案などについて、自動運転関連メーカーや大学などと連携しながら知見を高めている段階だ。

ドライバー向けの任意保険の在り方をはじめ、サイバーセキュリティ保険や製造物責任保険など、さまざまな保険に変化が求められる。

自動運転レベル1~2のADAS(先進運転支援システム)が実用化された際も、事故の抑止効果や被害軽減効果などを踏まえ一定の条件を満たせば保険料金が割引されるサービスが登場し、一般化している。

まもなくレベル3が実用化される見込みだが、部分的に自動運転を可能とする新たな領域に入るため、各社がどのような判断を下すか注目が集まるところだ。

■【まとめ】自賠法や製造物責任法の方向性明示 具体化の段階へ

自動車損害賠償保障法においては、民事上、自動運転車による事故は原則所有者が負うこととなる。セキュリティ対策に瑕疵がなく、ハッキングを受けたことによって起きた事故については政府保障事業で対応することが妥当であるとしている。

また、ソフトウェアの不具合が原因で事故が発生した場合については、製造物責任法の解釈に基づき自動運転車の車両としての欠陥と評価される限り、自動車製造業者は製造物責任を負うこととしている。

こうした事故原因を明確にするために必要となる作動状態記録装置に関しては、改正道路交通法で設置が義務付けられたほか、国際議論の結果を待って具体的な様式などが定まるものと思われる。

現在は、これらの指針のもと個別具体的な案件を想定し、「想定外」がなくなるまで深掘りする作業が進められているものと思われる。

自動運転においては、すでに改正された道路交通法や道路運送車両法をはじめ、民法や製造物責任法、自動車損害賠償保障法、道路法、刑法、国家賠償法などさまざまな法律が関わる。必要に応じて順次改正を要することになるが、その根底では自動運転の仕組みだけでなはなく責任の在り方も深くかかわっており、これらを明確にしていかなければならないのだ。

海外、特に米国において公道実証中の自動運転車が起こした事故から学ぶ部分も多い。本来注目するべきものではないが、責任の在り方を検討する事例としてしっかり把握しておきたいところだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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