【対談】「自動運転×法律」、日本は進んでる?遅れてる? 佐藤典仁弁護士と自動運転ラボが最前線について語る

解禁へ向けた法改正の舞台裏





国土交通省に出向し法改正に携わった佐藤典仁弁護士(右)と自動運転ラボを運営するストロボ代表の下山哲平(左)=撮影:自動運転ラボ

自動運転領域で覇権を握るための各社・各連合による開発競争が激化している。一方で自動運転を社会実装するためには法整備が不可欠で、世界的にもルール作りに向けた動きが一層目立つようになってきている。技術の開発が企業同士のレースなら、ルール作りは国同士のレースだ。

今回の特別対談のテーマは「自動運転×法律」。国土交通省で自動運転実用化に向けた法改正に携わった森・濱田松本法律事務所の弁護士・佐藤典仁氏に登場頂き、自動運転ラボを運営する株式会社ストロボの代表取締役である下山哲平との対談の模様をお届けする。







【参考】日本では2019年5月、自動運転レベル3を解禁する改正道路交通法と改正道路運送車両法が国会で相次いで成立している。詳しくは「改正道路交通法が成立 自動運転レベル3解禁へ」「改正道路運送車両法が成立 自動運転車の安全性確保へ制度整備へ」も参照。

記事の目次

【佐藤典仁氏プロフィル】さとう・のりひと 大手法律事務所の森・濱田松本法律事務所に入所後、アメリカ留学(Northwestern University School of Law〔LL.M. 〕, Kellogg School of Management〔Certificate in Business Administration〕修了)、ドイツの大手法律事務所Hengeler Muellerでの執務を経て日立製作所に出向し、インフラ、IoTなどの分野に関わる。森・濱田松本法律事務所復帰後、自動運転やドローンなどの案件にも携わった後、国土交通省自動車局で執務。「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」のとりまとめ、自動運転の実用化に向けた法改正などに携わる。

【下山哲平プロフィル】しもやま・てっぺい 大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。

下山 今回は自動運転の社会実装に法律という視点から切り込み、ディスカッションさせていただきたいと思います。

佐藤氏 よろしくお願い致します。

■ブレスト、委員会…法改正までの道のり
Q 佐藤弁護士の今までのご経歴や国土交通省で取り組まれたことについて教えてください。

佐藤氏 弁護士になってから10年ほど経ちました。その間、海外留学でアメリカに1年間、研修でドイツの法律事務所で1年間執務しまして、帰国後、日立製作所に出向しました。その際に、世の中のIoTへの大きな流れを肌で感じるとともに、事務所としても「ロボットと法研究会」を立ち上げて本格的な活動を開始していましたので、自動運転やドローンなどの領域に携わっていくようになりました。そして今から2年ほど前、政府が2020年に自動運転を実現するという動きの中で国土交通省自動車局のポストを頂き、2年2カ月間、企画調整官として執務していました。

自動運転の実現に向けて法的に整理する必要があるのは、交通ルールを定める「道路交通法」、自動車の保安基準などを定める「車両法」(道路運送車両法)、事故の責任関係、特に損害賠償責任について定める「自賠法」(自動車損害賠償保障法)の3つです。このうち道路交通法は警察庁の管轄となりますので、私は国土交通省で車両法と自賠法に携わりました。

まず、自賠法に関する「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」の取りまとめを主に担当しました。2018年度は自動運転の安全な導入に向けた車両法の改正に関わりました。いわゆる自動運転システムの保安基準化や、先進技術に関する整備の安全性確保のための措置、ソフトウェアのアップデートに関する許可制度などです。そして改正案は2019年5月に国会で成立しました。

Q 自動運転のような今までにない技術に関する法律をゼロから作っていくというのは、どのような作業工程になるのですか?

佐藤氏 まずはブレインストーミングをして措置が必要になると思われる事項などを挙げていきます。場合によっては法律が国民の権利を制約することにもなりますので、「法律によってしばる以外に方法はないのか」といった観点も含めて検討し、内閣法制局によるあらゆる角度からの審査を経て法律案としてまとめられ、閣議決定され、国会に提出されるという流れです。

下山 法律では「危ない」と考えられることを制限する必要があると思いますので、技術的な観点で危険なポイントを把握することも必要かと思います。つまり、自動運転技術を開発している自動車メーカーなどの意見も聞く必要があると思いますが、そのような場は設けられたのですか?

佐藤氏 自動運転では、「自動運転等先進技術に係る制度整備小委員会」が開催され、自動運転に関わられている大学教授、ジャーナリストの方などが集まって議論し、オブザーバーの日本自動車工業会などから意見を聞きながら議論が進められました。

■自動運転の国際ルール作り、日本が世界をリード
Q 日本は国際的な自動運転のルール作りをリードしていると言われていますが、実際のところを教えて下さい。

佐藤氏 まず大前提として自動車は国際流通商品ですので、安全基準については、国際的な基準調和が必要になります。統一的な国際基準がないと、日本の基準に従って作った自動運転車両がそのままでは海外で走れない、またはその逆のケースもあり得ます。

自動車の国際基準は国連の「自動車基準調和世界フォーラム(WP.29)」で議論されています。自動運転技術についても、各種会議体があるのですが、その全ての検討会で、日本は議長や副議長などの重要な役職を務めて基準づくりをリードしています。

下山 国際舞台におけるルール作りで日本がリードしているのですね。ただ日本の場合、国がリーダーシップを発揮して日本の産業を引っ張っていると認識している方は少ないと思います。業界では自動運転への取り組みがすごく早いのは中国と言われています。実際に国土交通省の中にいた立場から見て、日本の法整備に対する取り組み具合はいかがでしょうか。

佐藤氏 先ほど申し上げたとおり、国際基準については、グローバル視点で見たときに、日本はリーダーシップを取って議論を進めています。国・政府全体としても2020年には高速道路での「自動運転レベル3」を実現するというロードマップに沿って取り組んでいますので、積極的だという評価はできると思います。

また、国際的な安全基準作りは関係者も多いですので非常に時間が掛かりますが、国内では現在進行形で各メーカーが開発を進めていることから、先に一定の方向性を示す必要があります。そこで、国交省は、2018年秋に世界で初めて自動運転実現に向けた安全目標を設定した、自動運転車の安全技術ガイドラインを発表しました。

【参考】自動運転レベルの定義については「自動運転レベル0〜5まで、6段階の技術到達度をまとめて解説」も参照。

Q ガイドラインではどのようなことが規定されていて、実際の安全基準にどうつながっていくのでしょうか?

佐藤氏 ガイドラインでは、たとえば、「ODD」(Operational Design Domain ※日本語では「運行設計領域」などと訳される)という走行環境条件を設定して安全確保すべきと示されています。

これは、自動運転システムが現時点ではあらゆる道路環境等で自動運転ができる技術水準に至っていないので、一定の条件をつけることで、安全性を確保するものです。例えば、「高速道路・時速60キロ以下・渋滞時」といった状況でのみ自動運転を使える、といった具合です。改正車両法では、このODDを自動車メーカー等が設定し、国土交通大臣が妥当かを判断することとなりました。

保安基準としては、このようなODD内で歩行者やほかの車に危険を及ぼす恐れがないとか、ODDの範囲外では作動しないといった内容が定められていくことが予定されています。また、ODDの範囲外に出る場合には人間に運転を引き継がなければいけませんので、引き継ぎの警報を発することや、引き継ぎがされない時に安全に停止することなども、保安基準として定められると想定されています。

下山 今お話しいただいたガイドラインというのは、レベル3のみが対象ですか?

佐藤氏 ガイドラインはレベル4も対象にしています。

下山 レベル4は、いわゆる自動運転専用レーンや高速道路など特定エリアにおいてのみで完全自動運転が認められるという段階のことを指します。レベル4においてその特定エリアから外れる瞬間の判定方法としてはGPS(全地球測位システム)やETC(自動運転収受システム)が考えられると思いますが、その点については議論されていますか?

佐藤氏 特定のエリアにいるかを判断するのは基本的にはGPSを活用した方法です。

■配送ロボットは「自動車」? 新しいカテゴリの整備は必要か
Q システムが主体となるレベル3以上の自動運転車では、事故を起こした際の責任は誰が負うのでしょうか?

佐藤氏 まず、現行の自動車事故の損害賠償責任は自賠法という法律に定められています。自動車を運転するにあたっては自賠責保険に必ず加入する必要があり、事故を起こした場合には原則的に車の所有者が責任を負い、自賠責保険で賠償金を支払う形で被害者救済をします。

自動運転では、人が運転操作をする部分は減るかもしれないですが、運行全体を支配しているという点は変わりませんので、自賠法上の責任については、「所有者(運行供用者)の責任を維持する」という結論を2018年の3月に取りまとめました。

Q 今後は物流領域やラストワンマイル領域で人が乗車しない自動運転ビークルも増えてくると考えられていますが、その場合の賠償責任の議論はあるのですか?

佐藤氏 基本的には人が乗車してなくても、公道を走る以上は「自動車」という扱いになります。例えば現在のタクシーは車両を所有しているタクシー会社さんが自賠責保険に入っていますが、将来それがロボットタクシーになったとしても、所有者が保険に入るという意味では変わりはありません。

そういう意味でいうと、自動運転の配送ロボットに関しても誰かが所有をしていて運行を支配していることになりますので、所有者が賠償責任を負うのは変わらないと思います。「自動車」ではないと整理をして歩道上を走行するということになればまた話は変わってくると思いますが。

下山 従来の法律だとどれだけ低速であろうが車輪が付いて移動すると自動車扱いになるということですね。ただ、スーパーマーケットのショッピングカートくらいの大きさで、極端な話、ネギ1本だけ背負って近くのスーパーから軒先まで届けてきてくれるというラストワンマイル車両を自動車と同じ法律で縛るのか、という観点もありますよね。そういった今までにない新しい車両の定義みたいものも必要になってくると思います。

【参考】関連記事としては「ラストワンマイル向けの物流・配送ロボット10選」も参照。

佐藤氏 おっしゃる通り、分類が難しいものもあると思います。新しいカテゴリが出てもいいのかなと個人的には思っていますが、今の法律の枠組みの中では自動車として整理されています。少し話は違いますが、立ち乗りの電動キックボードが現行の法律上は原動機付自転車になる、というのと似たような話です。

下山 こうした小型のラストワンマイルロボットは、ドライバーを乗せずに時速20キロ以下の低速で走らせると、死亡事故が限りなくゼロに近くなるのだそうです。そういう意味で言えば安全で走らせやすいですし、実用化した時のメリットも大きいため、社会実用性も高いです。こうした理由から、自動運転分野におけるラストワンマイル用の配送ロボットの普及性は最も高いと言われています。

しかし、ラストワンマイルロボットについては法整備やガイドラインを作るにあたってリーダーシップを取る人が現れていません。日本だけでなく世界的にみても同じで、あくまでも実証実験までに留まっています。街中をロボットが動き回ることになるので、法整備も大変なのかもしれませんが。

佐藤氏 確かに現在の配送ロボットの実証実験では、誰かが必ず1人はつき、いつでも緊急停止できるような態勢で行っている状況ですから、このままサービスを開始してもあまり意味がありませんよね。

■自動運転実証実験、申請無しでも公道を走れる!?
Q 自動運転を実現に向けて公道での実証実験が各地で行われています。実証実験のやりやすさという面では、世界と比べて日本は進んでいますか?

佐藤氏 実証実験については今の法律の枠組みでもレベル4相当までできるようになっていますので、世界から見れば驚かれるレベルまで進んでいると思います。車内にドライバーが乗らない遠隔型やハンドルがない車両などの特殊なものは許可等が必要なケースもありますが、基本的には、運転者として安全運転義務などの義務を負うドライバーが車内にいるのであれば公道を走れます。実際、東京都内でも自動運転タクシーの公道営業実証実験なども行われています。

下山 運転席には人が乗っているものの、普通に自動運転で東京の路上を走っていますからね。

佐藤氏 自動運転で公道を走ったら実際にどういう挙動が起きるのか、といったことも検証できますので、自動運転実現に向けて実証実験しやすい環境というのは既に出来上がっている状況です。

下山 ちなみに自動運転の実証実験をやる時は、当然申請が必要になりますよね?

佐藤氏 実験の内容によります。

下山 申請しなくても勝手に公道を走ってもいいということですか? 例えば各自動車メーカーさんが実施しているような大規模な実証実験でも、申請無しで行えるということでしょうか?

佐藤氏 警察庁のガイドライン上は、大規模な公道実証実験などを行う場合には、警察に事前に連絡をするべきという形にはなっていますが、運転者が乗っていて、その人が安全運転義務などの義務を履行し、全責任を負う形で、何かあればすぐにハンドルを握って操作できる状況であれば、法律上は申請等をしなくても公道で実証実験を行えます。ハンドルがないとか、遠隔操作で走らせる場合は道路使用許可などの申請が必要ですが、そうでなければ、法律上は規模に関係なく申請は必要ありません。

下山 ドライバーが搭乗している実証実験を行うハードルは法的観点では比較的低いということですね。最近は今まで自動運転と関わりのなかった企業が実証実験に参加するケースが増えてきているのですが、そういった企業も自分たちで準備さえできれば、実証実験をきっかけに自動運転領域に参戦するということもできそうですね。

Q 自動運転の実用化に向けて、今の日本ではまだできないこととはどのような点でしょうか?

佐藤氏 レベル4以上のサービス実用化は難しいですね。法改正では車両法についてはレベル3とレベル4まで含めているのですが、道路交通法はレベル3までの対応となっています。

下山 レベル4以上については、ちょっと実証実験をやってみるという段階までしかできないということですね?

佐藤氏 そうですね。レベル4に関してはまだサービスを完全に開始できるような法整備をしている国はありませんので、世界的に見て出遅れているというわけではないのですが、今後取り組むべき部分ではありますね。

■「混在」によるストレス、人間側が変わるべき点も
Q 自動運転車は制限速度を超過しませんので、流れにのっている手動運転の運転手からみれば、邪魔に感じるかもしれません。このテーマについてはどうお考えですか?

佐藤氏 そもそも人間がルールを守っていないということが問題と言えるかもしれませんね。例えばドイツでは、市街地では制限速度を超過している人はあまりいません。取り締まりのスピードカメラがたくさん付いているということもありますが、スピードを出すと危ないということをちゃんと認識して走っているのが大きな理由です。

日本では法定速度と実際に流れている道路の速度にギャップがあるというのは事実だと思いますが、ルールを厳格に守る自動運転が加わるのを契機に、法定速度を違反したら厳格に取り締まっていく必要もあると個人的には思います。

今の日本では横断歩道の前に人がいても一時停止している人ってほとんどいない状況ですよね。そういうところから変えていく必要がありますね。

下山 確かに、ストレスが発生するから守らなくていいということでは本末転倒ですから、ルールをしっかり守る方向に持っていくことが必要かもしれませんね。

Q 最後に、テクノロジーと法律に詳しい弁護士という立場の佐藤さんから見て、自動運転に対する日本の取り組み姿勢を評価していただけますか。

佐藤氏 日本人の国民性として、自動運転車が一つ大きな事故を起こすとすべてストップしてしまうこともあり得るような保守的な面もあるので、拙速に進めるべきではないと考えています。政府は、立てた目標を達成するために取り組むべきことに取り組んでいますし、むしろ、世界と比べても先行する形で、自動運転の実現に向けて着実に歩みを進めているのではないかと私は思っています。

下山 本日はありがとうございました。

佐藤氏 ありがとうございました。

■対談企画を終えて

知られざるルール作りの裏側に関する話はどれも興味深いものだった。また国際基準を決める場で日本が音頭を取っているという点も着目すべきことだろう。いずれにしてもレベル3を解禁する道交法改正で日本は着実に一歩前進した。自動運転の実用化のカウントダウンは既に始まっていることを改めて感じさせた。







関連記事