自動運転、「全世界展開」成功の有望企業リスト

海外展開を目指す動きが活発化



モービルアイのアムノン・シャシュアCEO=出典:インテル

米国、中国を先頭に自動運転サービス実用化に向けた動きが加速し続けている。いち早く法整備を整えたドイツと日本をはじめ、その勢いは世界各国に広がり始めている。

これまで開発各社の大半は母国での実用化に注力してきたが、徐々に視野を広げ、世界展開を目指す動きが活発化してきた感を受ける。


海外展開を視野に事業を推し進める開発各社の動向をそれぞれ追ってみよう。

■積極的に海外展開する企業
Mobileye:日本やドイツ、欧州、中国、中東…積極的に海外へ進出

開発企業の中で、海外戦略を明確に推し進めている代表格は、インテル傘下のイスラエル企業、モービルアイだ。ADAS(先進運転支援システム)ソリューションやシステムオンチップ(SoC)で業績を伸ばし、米インテル傘下に収まった後も自動運転開発を加速している。

同社は2020年、アジア圏で自動運転タクシーを展開する計画を発表した。日本や台湾、ASEAN各国でロボタクシーの社会実装を進めていく計画で、日本では移動サービス事業を手掛けるWILLERとパートナーシップを結び、サービス化に向けた実証を進めていくとしている。

また、アラブ首長国連邦を拠点とする複合企業Al Habtoor Groupとも戦略的提携を交わし、ドバイで自動運転モビリティサービスの展開に向けコラボレーションを行っていくことも発表している。


アジア、ドバイともにサービスイン時期は2023年としている。

米国では、ミドルマイルやラストマイル向けの自動運転配送車の開発を進めるUdelvとパートナーシップを結び、技術見本市「CES 2022」でモービルアイの自動運転システムを統合した最新車両「Transporter」を発表している。こちらも2023年に商用展開を開始する予定としている。

欧州では、2021年に仏TransdevとLohr Groupと手を組み、自動運転シャトルの実用化に向け動き出している。フランスとイスラエルで公道実証を進め、2023年に公共交通網に自動運転シャトルを配備する計画だ。

ドイツでもサービスインに向けた取り組みを加速しており、モービルアイ自らが試験運用許可を取得し、公道実証を進めている。現時点ではセーフティドライバー付きだが、ドイツのすべての道路で走行可能という。


独企業関連では、サプライヤーのBENTELERが新たなモビリティブランド「HOLON」を立ち上げ、モービルアイの自動運転システムを活用した自動運転シャトルバスの開発を進めている。

2025年までに米国で生産開始することを目指しており、その後欧州とアジアのサイトに拡大していく予定という。

中国ではGeelyとパートナーシップを結び、同社のプレミアムEV(電気自動車)ブランドZeekrにレベル4システムを統合し、早ければ2024年にも中国市場で販売開始する計画としている。2023年には、上海郊外に自動運転専用のテストセンターを開設したことも明かされている。

同社の自動運転システム「Mobileye Drive」は、カメラのみで構成される自動運転システムと、ミリ波レーダーLiDARで構成される自動運転システムの両方を備えていることが特徴で、2種類のシステムを併載することで冗長性を高めている。その精度の高さも高評価を得ている。

モービルアイ自ら、あるいはパートナー企業とともに大きく動き出す可能性が高い2023年の動向に要注目だ。

▼Mobileye公式サイト
https://www.mobileye.com/

【参考】モービルアイについては「Mobileye(モービルアイ)と自動運転(2023年最新版)」も参照。

Cruise:米国皮切りにドバイや日本にも

2022年に米カリフォルニア州で自動運転タクシーサービスを開始したGM傘下のCruiseも、早くから海外展開を見越した取り組みを進めている。

ドバイでは、ドバイ道路交通局との契約のもと2023年に自動運転タクシーの運行を開始することを発表している。独占契約のもと2030年までに4,000台規模にフリートを拡大する計画で、レベル4車両「Origin」の導入を図っていく。

日本でも、GMとホンダとの提携のもと自動運転モビリティサービス事業を展開していくことに合意している。すでにシボレー・ボルトをベースにした試験車両で実証に着手しており、将来的にはOriginを活用した事業展開も目指す方針だ。

海外展開に積極的な自動車メーカー系企業としては、今のところ唯一の存在と言ってよい。GMが築いたネットワークやネームバリューを武器に、今後どのような展開を見せるか注目だ。

▼Cruise公式サイト
https://getcruise.com/

ティアフォー:自動運転の民主化を旗印に世界展開

国内では、自動運転ソフトウェア「Autoware」の開発などを手掛けるティアフォーが世界進出を強めている。

同社が2020年に発行したセーフティレポートによると、米国や中国をはじめ、エストニアや台湾、タイ・バンコク、イスラエル・テルアビブ、ベトナム・ハノイなどでAutowareを活用した実証が行われたという。

早くから自動運転ソフトウェアのオープンソース化に取り組み、Autowareの業界標準化を目指す国際団体「The Autoware Foundation(AWF)」を設立している点もポイントだ。

さらに、台湾のFoxconnグループが展開するEV開発プラットフォーム「MIH」における自動運転開発をティアフォーが主導している点も見逃せない。

今後、MIHのネットワークを通じてAutoware搭載車両が量産され、世界展開が一気に加速する可能性もありそうだ。

【参考】ティアフォーについては「自動運転、日本勢の新興ティアフォーとNVIDIAに接近の兆し」も参照。

Yandex:米国やイスラエル進出も現在は停止中

ロシアのウクライナ侵攻により世界展開は事実上停止されているが、ロシア企業Yandexも世界進出に積極的だった企業の1つだ。

2018年に米ネバダ州とイスラエルで公道走行ライセンスを取得し、ラスベガスやテルアビブで実証を行っている。自動配送ロボット「Yandex.Rover」も米ミシガン州などで導入されていた。

ロシアが今後どのような道を歩むのか、現状は国の方針に左右されざるを得ないが、将来、国際復帰した際はYandexもまた世界展開の道を歩み始めるかもしれない。

▼Yandex公式サイト
https://yandex.com/

【参考】Ynadexについては「Yandex、自動運転の年表!ロシアのGoogle、虎視眈々」も参照。

Neolix:車道走行タイプの自動走行ロボットではNeolixが先手

自動配送ロボットの開発を進める中国Neolixも世界進出に成功した1社に数えられる。歩道を走行するタイプのロボットは国境を越えやすいが、同社のロボットは一回り大きく、車道走行がベースとなっている。米Nuroに近い存在だ。

Neolixは、中東のECプラットフォーマーNoonと戦略的パートナーシップを締結し5,000台規模の受注があったことが報じられているほか、ドバイ道路交通局もデリバリーサービス用途で導入することを発表しており、正式にサービスインする日も近そうだ。

日本でも、京セラコミュニケーションシステムが配送実証に活用するなど、使い勝手が良いのかもしれない。

▼Neolix公式サイト
https://www.neolix.net/

WeRide:中東やシンガポールへの進出も

タクシーやバス、配送車両、清掃車両など自動運転モビリティの幅を拡大している中国WeRideは2022年、シンガポールの公共交通機関であるSMRTの子会社Stridesと協力覚書を交わし、シンガポールで自動運転車の商用運転を計画していることを発表した。

すでにシンガポールオフィスを開設しており、2023年中に実証に着手する見込みだ。また、WeRideの出資者であるシンガポールの投資機関K3 Venturesは、シンガポールをはじめ東南アジア市場におけるWeRideの進出をサポートする構えとしている。

このほか、サウジアラビアやアラブ首長国連邦の首都アブダビなどでも実証を行っている。サウジアラビアでは、同国のAI企業SCAIと組み、中東独特の交通環境下における自動運転の道を探ったようだ。

WeRideによると、これまでに5カ国25都市で自動運転実証を行っているという。今後、中国外への進出を強めていく可能性は高そうだ。

▼WeRide公式サイト
https://www.weride.ai/

Einride:欧州各国や米国に進出

無人の自動運転トラックの開発を手掛けるスウェーデン企業Einrideも海外進出に本腰を入れ始めているようだ。

同社は、自動運転や充電インフラ、接続ネットワークなどで構成されるインテリジェントプラットフォーム「Einride Saga」を、スウェーデンをはじめドイツ、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ、ノルウェーに拡大していく方針を発表している。

2022年には米国内での実証にも成功しており、海外攻勢をさらに強めていく可能性が高い。

▼Einride公式サイト
https://www.einride.tech/

NavyaやEasyMile:世界展開のパイオニア

アプローチが若干異なるが、自動運転車の世界展開という観点で言えば、自動運転シャトルを開発するNavyaとEasyMileのフランス勢がパイオニアとなる。

ともに2014年設立の両社は、Waymoよりも早く自動運転シャトルを完成させ、商用販売に踏み切っている。シャトルの出荷台数は、Navyaが2022年10月までに累計200台超、EasyMileも2021年時点で180台以上の納入実績を誇る。EasyMileによると、世界30カ国以上、300以上のエリアで走行したという。

車両の販売をベースに、導入に向けた準備や教育、アフターサービスを手掛けるビジネススタイルとなっており、モービルアイやCruiseなどが行おうとしているビジネススタイルとは異なるが、世界展開の面で業界をリードしているのは間違いなくこの2社だ。

▼Navya公式サイト
https://www.navya.tech/en/
▼EasyMile公式サイト
https://easymile.com/

【参考】NavyaとEasyMileについては「米中びっくり!フランス勢「自動運転シャトル」で存在感」も参照。

メルセデス・ベンツ:レベル3は独壇場に?

自家用車におけるレベル3の世界展開は、メルセデス・ベンツの独壇場となっている。ホンダに次いでレベル3を実用化した同社は、ドイツに続き北米、そして中国でのレベル3実装を目指しているようだ。

北米ではすでにネバダ州とカリフォルニア州にアプローチしており、2023年中に正式許可が下りる可能性がある。中国でもレベル3に向けた実証を開始したことが一部メディアで報じられた。

サービス用途のレベル4とは異なるが、レベル3の横展開にも注目だ。

【参考】メルセデス・ベンツについては「メルセデス、自動運転車のグローバル展開で中国でも独走態勢!」も参照。

■海外展開を視野に入れている企業
May Mobility:日本皮切りに世界進出も?

自動運転シャトル開発を手掛ける米May Mobilityも海外進出を視野に入れているものと思われる。同社はこれまで、インディアナ州やミシガン州、ミネソタ州、テキサス州などでサービス展開していたが、トヨタからの出資を機に日本国内での実証にも参加している。

すでに日本法人も設立し、2022年にはソフトバンクとも自動運転サービスの早期社会実装に向け業務提携契約を締結している。

米国、日本での展開を皮切りに世界進出を目指す動きが今後みられるかもしれない。

▼May Mobility公式サイト
https://maymobility.com/

【参考】May Mobilityについては「ソフトバンク、自動運転の米新興May Mobilityと提携」も参照。

AutoXやPony.ai:WeRideに続くか?

WeRide同様、AutoXやPony.aiといった中国系スタートアップの多くは、米シリコンバレーにも開発拠点を設け、米国内での実証にも力を入れている。

Pony.aiはカリフォルニア州以外にも、2022年9月にアリゾナ州ツーソンで自動運転実証を開始する計画を発表するなど、拡大していく意志を示している。

現状、中国内の各都市を開拓していくフェーズはまだまだ続きそうだが、WeRideの取り組みが引き金となり、各社が海外展開に本腰を入れ始めてもおかしくはない。

WeRideに続く海外進出例が出てくるのか、各社の動向に注目だ。

▼AutoX公式サイト
https://www.autox.ai/ja/index.html
▼Pony.ai公式サイト
https://pony.ai/

【参考】中国系スタートアップについては「中国の自動運転9大ベンチャーの一つ「WeRide」が進んでいる!」も参照。

Waymo:水面下で世界展開を模索?

自動運転タクシーで世界をリードするWaymoも、虎視眈々と世界展開を見据えているはずだ。

同社は2018年にアリゾナ州で世界初の商用自動運転タクシーサービスを開始した後、すぐに拡大路線に走ることなく慎重な事業展開を進めてきた。

しかし、2021年にカリフォルニア州でサービス実証に着手したほか、ニューヨークなどでもサービス化に向けた準備作業を進めるなど、ようやく米国内におけるサービス拡大にかじを切った印象だ。

海外展開は現時点で行っていないが、2020年にボルボ・カーズとパートナーシップを結んだ際、開発せ金者が「(この提携は)Waymo Driverを海外展開する道を切り開くのに役立つ」とコメントしている。

各国における開発動向や法環境などを総合的に勘案しながら、水面下で海外戦略を推し進めている可能性は十分考えられる。注目度ナンバーワンのWaymoが動き出せば、世界の開発各社が刺激され、市場が一気に動き出す可能性もありそうだ。

▼Waymo公式サイト
https://waymo.com/

【参考】Waymoについては「Waymoの自動運転戦略(2023年最新版)」も参照。

■【まとめ】2023年の各社の動向に要注目

WaymoやCruiseのように、自国内で一定レベルの自動運転サービスを実現しても、おいそれと他国に展開できるわけではない。国によって交通ルールや道路標識、国民の意識などが異なるため、国境を越えて単純に横展開することはできないのだ。

新たな交通ルールをAIに学ばせ、その国の仕様に作り替える作業は膨大なものとなる。しかし、こうした開発面で優位となる技術を有すれば、他社を出し抜くことも可能になる。

自動運転システムそのものの汎用性や改変のしやすさ、高い冗長性……など、さまざまな観点で技術を磨き、世界展開をいち早くものにするのはどの企業か。2023年の各社の動向に要注目だ。

【参考】関連記事としては「自動運転はどこまで進んでる?(2023年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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