
米自動車大手GMが、自動運転開発を再加速させるようだ。Cruise閉鎖に伴い解雇したエンジニアを再雇用し、開発部門を改めて強化していく方針だ。
まさかの自動運転タクシー事業再始動か?――と思われたが、自家用車の自動運転化を強化していく計画という。
自家用車市場においては、レベル2+の高度化・普及が目下の目玉となっているが、レベル3以上の動向も無視できない状況となっている。ここで後れを取れば本業において致命的となりかねず、GMの判断はある意味真っ当とも言える。
Cruise事業を振り返りながら、GMの最新動向と戦略に迫る。
記事の目次
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■GMの最新動向
元Cruiseエンジニア数百人を再雇用
ブルームバーグなどのメディアによると、テスラでAutopilot開発責任者を務め、Aurora Innovationを経て今年GMに入社したスターリング・アンダーソン氏が、従業員向けの社内会議で自動運転車開発強化に向け数百人規模の元Cruiseエンジニアの再雇用を目指す方針を語ったという。
アンダーソン氏は新製品開発責任者を務めており、GMの自動運転ビジョンを説明する中で、元Cruiseエンジニアの再雇用をはじめ人材を増強していく方針としている。後述するが、GMは2025年初め、Cruiseのエンジニアらの約半数にあたる1,000人を解雇していた。
Cruise時代に開発を進めていた自動運転タクシーではなく、個人向け、つまり自家用車の自動運転化を強化するという。
最終的にどのような形になるかは不明だが、メアリー・バーラCEOをはじめとする幹部の間でも、安全性の観点からADASの高度化や自動運転技術に対する思いは強い。現状、自動運転サービスは諦めても、本業の自動車販売に直結し、将来的な競争要因となる自家用車の自動運転化は必須なのだろう。
■GM・Cruiseの概要
ホンダも加わり3社で実用化計画
GMは2016年、自動運転開発強化を目的にスタートアップCruiseを買収した。買収額は10億ドル(約1,100億円)超と報じられており、当時の本気度がうかがい知れる。Cruiseは自動運転タクシーを軸としたレベル4開発に注力した。
2018年には、ソフトバンクグループの投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」から総額22億5,000万ドル(約2,500億円)の出資を受けたほか、ホンダからも7億5,000万ドル(約850億円)の出資を受け、今後12年にわたって事業資金約20億ドル(約2,240億円)が投じられるパートナーシップの締結が発表された。
自動運転分野におけるGM・Cruise・ホンダ連合の誕生だ。3社は、無人ライドシェアサービス=自動運転タクシー用の車両を開発し、世界展開を進めていく計画を発表した。
同年末、後に自動運転サービスで絶対的王者となるWaymoが自動運転タクシーを商用化しており、GM・Cruise陣営も当初は2019年中にローンチする予定としていたが、安全性を理由に延期した。
サービス化は遅れたものの、この間自動運転サービス専用のオリジナル車両「Origin(オリジン)」の発表(2020年)や、日本における自動運転サービス事業に向けたホンダとの合意(2021年)、ドバイでの自動運転タクシーの独占的運行契約の締結(同)など、実用化に向けた取り組みはどんどん進んでいた。
2021年6月に米カリフォルニア州でドライバーレス走行の許可をWaymoよりも先に取得し、実証を本格化させた。従業員らを対象にサービス実証を重ね、2022年2月に対象を一般住民に拡大した。6月にはカリフォルニア州公益事業委員会(CPUC)から有償サービスの許可も取得し、本格的な自動運転タクシーサービスを開始した。
2022年9月には、自動運転タクシーサービスを年内にアリゾナ州フェニックスとテキサス州オースティンに拡大していく方針を明かした。Waymoに追い付くためエリア拡大を急ぎ、攻勢をかけていく構えだったようだ。
人身事故を引き金にライセンス停止処分
サービス提供エリアの拡大とともに、事故・事案も増えていったようだ。交差点左折時に対向車と衝突する事故やバスに追突する事故などのリコール案件をはじめ、緊急車両の行く手を阻んだり、交差点で歩行者の進行を妨げたり、車道上で立ち往生したりとトラブル事例も増加していった。
その都度改善を重ねており、特筆する人身事故なども発生していなかった。自動運転システムそのものの精度は高まっていたものと推測されるが、急な拡大路線の影響が大きかったようだ。
そして2023年10月、重傷を伴う人身事故を起こしてしまった。サンフランシスコ市内を走行中、他車にはねられた女性がCruiseの無人車両の前に飛び出す形となり、急ブレーキが作動したものの間に合わなかったという。
もらい事故の要素が強く、ここで終われば厳罰は避けられた可能性が高かったが、問題はその後の対応だ。Cruiseの無人車両は、緊急退避行動として路肩に車両を寄せたが、その際女性を引きずったまま移動してしまった。
カリフォルニア州道路管理局(DMV)と同州公共事業委員会(CPUC)は10月24日、州内における同社の営業停止と無人自動運転走行許可の停止を発表した。この措置を受け、Cruiseは同州以外を含む全ての無人車両の走行を一時中止すると発表した。
当局に対するその後の対応にも不備があったようで問題は長引き、11月にカイル・ヴォグトCEOが辞任する事態にまで発展した。
Cruiseは安全運行体制を一から見直して出直すとし、GMのメアリー・バーラCEOも自動運転タクシー事業への投資の妥当性を訴えるなど、当初は擁護していた。
【参考】Cruiseの事故については「ホンダに激震!自動運転の提携先、米国で「人間同乗型」すら走行停止」も参照。
一からやり直すもGMが事業停止を決断
事故後、Cruiseはカリフォルニア州以外でも自動運転サービスを全面停止し、有人の公道実証に切り替え地道に一からやり直していた。2024年秋に正式な公道実証をカリフォルニア州で再開することを発表した。
しかし、親会社のGMが方針を転換し、状況は一変した。GMは2024年12月、自動運転タクシー事業への資金提供を停止し、CruiseとGMの技術チームを統合し、ADASの開発を優先すると発表した。
【参考】Cruise事業停止については「ホンダ、自動運転タクシー計画を「白紙撤回」か GM撤退による影響不可避」も参照。
自動運転戦略を再構築し、完全自動運転パーソナルビークル(自家用車)の実現に向け、まずはハンズオフ・アイズオンを可能にするADAS「スーパークルーズ」を強化していく方針だ。
Cruise事業は赤字が続いており、GMの2024年第3四半期決算においてCruiseは4億3,500万ドル(約670億円)の赤字を計上していた。第1〜3四半期累計では21億9,600万ドル(約3,300億円)の赤字だ。
前年同期は7億9,100万ドル(約1,200億円)の赤字で、第1〜3四半期累計20億3,000万ドル(約3,100億円)の赤字で、年間数千億円のペースで赤字を垂れ流していた。
自動運転タクシー事業がいつ花を咲かせるか不透明な中、さすがに業を煮やし事業断念を判断したものと思われる。
再編計画は2025年上半期に完了すると見込んでおり、年間10億ドル以上の支出削減が期待されるとしている。
Cruiseの従業員については、事故後の2023年12月に約4分の1に相当する900人がレイオフとなったことが報じられている。事業停止判断後の2025年2月には、半数にあたる約1,000人を解雇したとも報じられている。
おそらく、前段でサービス系スタッフらを中心にレイオフし、2025年に残るエンジニアを含めレイオフ・解雇したものと推測される。
【参考】エンジニアの解雇については「日本じゃ無理?GMの自動運転タクシー部門「1,000人を即解雇」」も参照。
ホンダや日本市場にも影響
GMによるCruise事業の停止は、ホンダや日本市場にも少なからず影響があった。GM・Cruise・ホンダは日本における自動運転サービス展開に合意しており、東京都内における自動運転タクシー計画を具体化していたためだ。
Cruiseが事故を起こした2023年10月、ホンダは2026年初頭を目標に東京都内のお台場エリアを皮切りに自動運転タクシーを開始することを発表した。ハンドルなどの手動制御装置を備えない「Origin」を導入し、中央区や港区、千代田区へと順次拡大を図っていく。最大500台までフリートを拡大する計画だ。
国も、事業者や関係省庁間で適切な情報共有を行うことができるよう自動運転開発・実装プロジェクト「RoAD to the L4」の下に「レベル4モビリティ・アクセラレーション・コミッティ」を設置し、一号案件としてホンダ勢の自動運転タクシー計画を取り上げていた。
しかし、Cruise事業停止とともにこの計画もご破算となった。すでに国内実証に着手していただけに、後味の悪い結末と言える。
ホンダとGMはEV開発などにおける協業は続いているものの、自家用車領域における自動運転技術については協定などを結んでいないものと思われる。今後、自動運転分野で新たな協業を行う日は来るのか、要注目だ。
【参考】ホンダの取り組みについては「ホンダの自動運転戦略まとめ レベル3車両発売、無人タクシー計画は?」も参照。
スーパークルーズの機能拡張やレベル3以上開発を促進
そして今回の再雇用だ。米国ではこうした動きは珍しくないのだろう。ポイントは、自家用車領域における自動運転化を推進する計画を再確認し、改めてゴーサインを出した点だ。
Cruise事業停止段階で、ハンズオフが可能なスーパークルーズの強化から将来的な自動運転化につなげていく方針が示されていたが、この計画を明確に裏付けるような人員増員により、開発体制を強化していくのだろう。
2025年5月の2025年第1四半期の株主向け報告では、より多くの機能を備えた次世代ソフトウェア定義車両プラットフォームの開発などとともに、スーパークルーズの機能の継続的成長や、レベル3、及びさらに高度な自律技術の開発を成長戦略の一環として力を入れていくとしている。
スーパークルーズは現在、カナダを含む北米121万キロの幹線を網羅しており、悪天候やトンネル内など除外要件はあるものの広いエリアでハンズオフ運転を可能にしている。キャデラックやシボレーなど傘下ブランド20車種以上に搭載されている点もポイントだ。
自家用車の自動運転競争に備える戦略か
自家用車部門の開発強化の背景には、テスラの存在があるのかもしれない。テスラは有料オプション「FSD(Full Self-Driving)」の開発に力を入れ、市街地を含む広い範囲でハンズオフ運転を可能にしている。
近年著しい進化を遂げており、レベル3も視野に収まり始めた印象だ。ただ、確実性に欠ける部分を解決しない限り自動運転は厳しい。走行可能な道路条件などODDを設定すればクリアできそうだが、現時点におけるテスラの方針とは相容れない。
道路条件を限定しなければ、現行規制上、各州から細かな許可を得なければならず、現実的ではない。そもそも、テスラはあくまでレベル5を見据えており、レベル3という過程を嫌う可能性も考えられる。テスラの今後の動向に注目が集まるところだ。
話を戻すが、テスラがADASを大幅に進化させる中、同じ北米を主戦地とするGMも遅れをとるわけにはいかない。GMの場合、幹線道路(高速道路)中心のスーパークルーズの延長線上にレベル3があるため、実用化に向けたハードルは下がる。
【参考】テスラの動向については「テスラのロボタクシー、「急がば回れ」の典型例!人間的AIに固執」も参照。
各州の許可は必要となりそうだが、一部禁止の州があったとしても、幹線限定であればODDを区切りやすく、実装しやすい。トランプ政権下、連邦政府が統一された許認可ルールを設ける可能性も示唆しており、レベル3市場の盛り上がりに期待が寄せられる側面もある。
テスラの動向は読みにくいが、技術の進化は間違いなく、自動運転化にかじを切れば大きな脅威となる。また、独メルセデス・ベンツは米国内で先行してレベル3を実装している。
最新技術の市場投入を開始した他社と自家用車領域で存分に渡り合えるよう、速めに追撃態勢を整えるべく力を入れる――とすれば、腑に落ちるところではないだろうか。
【参考】メルセデス・ベンツの動向については「自動運転レベル3、米国初展開は独メルセデス!テスラのメンツ丸つぶれ」も参照。
■【まとめ】まずは自家用車市場でシェアを確保
自家用車市場では現在、テスラと中国新興勢を中心に市街地も網羅したレベル2+の開発が大きく進展している。一方、メルセデスやBMW、ステランティスといった欧州勢はレベル3にかじを切り、北米市場も視野に入れている。
GMとしては、本業で後れを取るわけにいかず、サービス車よりも先に自家用車領域を進化させる必要に迫られたと言える。
いずれにしろ、自動運転技術は自家用車、サービス車双方で共有できる。技術とともに機が熟すれば、改めてサービス領域に進出すればよい。まずは目先の自家用車市場でしっかりとシェアを確保・拡大するのが重要なのかもしれない。
【参考】関連記事としては「自動運転タクシーとは?アメリカ・日本・中国の開発状況は?」も参照。