自動運転、日本勢の新興ティアフォーとNVIDIAに接近の兆し

Foxconnの製造プラットフォーム舞台に



(左)ティアフォーの加藤真平氏=撮影:自動運転ラボ/(右)NVIDIAのジェンスン・フアン氏=エヌビディア社プレスリリース

米半導体大手NVIDIAと台湾のFoxconnが、自動運転開発に向けパートナーシップを結んだ。NVIDIAの高性能SoC(システムオンチップ)を搭載したECU(電子制御ユニット)をFoxconnが製造し、Foxconnが製造するEV(電気自動車)にNVIDIAのSoCやECUを搭載していく内容だ。

FoxconnはEV開発に向けたオープンプラットフォーム「MIH」を展開しており、自動運転開発においては日本のスタートアップ・ティアフォーが主体的に関わっている。


話を飛躍させると、Foxconnを介してNVIDIAとティアフォーが急接近していく流れとも言える。SoCや開発プラットフォームなどでシェアを拡大し続けるNVIDIAと、オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」の開発をリードするティアフォーの組み合わせは非常に興味深い。

この記事では、FoxconnによるEV開発や自動運転開発の動向について解説していく。

■NVIDIAとFoxconnの協業
FoxconnのEVにNVIDIA製品を統合

NVIDIAとFoxconnは、自動運転の車両プラットフォームの開発に向けパートナーシップを結んだ。提携の一環として、FoxconnはNVIDIA DRIVE OrinをベースにしたECUを製造するティア1となる。また、Foxconnが製造するEVには、高度な運転機能を実現するDRIVE Orin ECUとDRIVE Hyperionセンサーが搭載される。

Orin は254TOPS(毎秒254兆回の演算)の処理能力を誇るSoCで、2022年に生産を開始したばかりの高性能モデルだ。自動運転では、膨大な量のデータを瞬時に処理するデータ処理能力が求められるが、Orinはこの要件を満たす自動運転にしっかりと対応したSoCだ。


これまでに、SAIC(上海汽車集団)やボルボ・カーズをはじめ、EVメーカーのNIOやLi Auto、自動運転トラックの開発を手掛けるEinrideやKodiak、Plusなどが次世代車両向けにOrinを採用している。

一方、DRIVE Hyperionは自動運転車の開発プラットフォームで、Orin上でスケーラブルに構築されている。

Orinは、自動運転車で同時に実行される多数のアプリケーションとディープニューラルネットワークを処理するように設計されており、Hyperionは自動運転車を設計するためのモジュール式開発プラットフォーム・リファレンスアーキテクチャとして活躍する。

これらのソリューションを搭載することで、FoxconnのEVは比較的容易に自動運転化することが可能になるのだ。


【参考】NVIDIA とFoxconnの協業については「Foxconn、自動運転EVの受託生産開始へ!米NVIDIAと提携」も参照。

■Foxconnの取り組み
世界最大のEV開発アライアンス「MIH」設立

Foxconnは2020年、プラットフォームを介したEV開発アライアンスとなる「MIH」の立ち上げを発表した。従来の自動車産業特有の開発コストの高さや開発期間の長さ、リソース不足といった課題にイノベーションを起こすべく、ハードウェアやソフトウェアの技術をオープン化して新たな自動車開発・製造の仕組みを構築していく構えだ。

MIHには、2023年1月時点で2,700社を超える企業が参画している。自動車関連ではおそらく世界最多のグループだ。

参画企業は、MIHで培われた技術を活用してEVを容易に開発することが可能になる。また、FoxconnはEV製造に意欲的で、電気機器メーカーとしての枠を超えたサプライヤーとしての地位を築き始めている。

今後、新興EV分野においては、MIHがさまざまなEV開発をバックアップし、そしてFoxconn が工場となって各社のEVを製造する――といったビジネス展開が考えられる。

NVIDIAは現時点でMIHには参画していないものの、将来、Foxconnが製造するEVに広くNVIDIAのソリューションが搭載可能になり、自動運転を見据えたシステムの高度化を図ることができるようになるのかもしれない。

自動運転開発はティアフォーがリード

MIHでは、参画企業によるワーキンググループが2023年1月時点で14分野において立ち上がっている。パワートレーンやコネクティビティ、車体構造、クラウドサービス・開発プラットフォーム、セキュリティとOTA、自動運転などだ。

▼Working Groups|MIH
https://website2.mih-ev.org/en/groups/?page_name=WorkingGroups

この自動運転開発をリードしているのが、日本のスタートアップ・ティアフォーだ。同社が開発をリードするオープンソース自動運転ソフトウェア「Autoware」について、ティアフォーとFoxconnはEVプラットフォームへの採用を前提とした企画・開発を進めることで合意しており、自動運転のワーキンググループにおいてもティアフォーの社員が委員長を務めている。

同ワーキンググループでは、自動運転システムとADAS(先進運転支援システム)の開発要件と仕様の策定を進めている。具体的には、Autowareの開発キット「AWF Open AD Kit」の仕様とリファレンス実装を利用し、MIHプラットフォームを商用化するための設計図や機能、検証の要件などの定義化を進めているようだ。

出典:MIH公式サイト(https://website2.mih-ev.org/en/working-groups/autonomous-driving

2022年の年次報告によると、同ワーキンググループは現在メンバーと協力して自動運転システムのさまざまなインターフェースを開発し、オープンで互換性の高い標準インターフェースの構築を進めている。

カメラAPIやスマートカメラAPI画像検出、LiDAR API検出、レーダーAPI距離検出を含むさまざまなセンサーインターフェースを開発し、これらの標準APIインターフェースを介してデータが処理・融合され、道路状況などの識別や車両制御に関わる判断を行い、DbW(ドライブバイワイヤ)APIを介して車両のアクセルやブレーキ、ハンドルを実際に制御する。

また、車両がリアルタイムの道路状況と地図情報を取得するのに役立つMap APIも開発しており、GNSS API衛星ナビゲーションシステムとビークルダイナミックパーセプションIMU APIを組み合わせることで、車両の正確な位置情報を取得することが可能になる。道路状況と環境情報に加え、車両のバッテリー管理や監視システムと統合することで、走行距離の不安を排除する最も効果的なルート計画なども可能になるという。

現在、DbW API V1.0標準化インターフェースが完成し、技術委員会で煮詰めている。AutoWare OSSは、MIH DbW APIを採用・インポートし、開発アプリケーションとして正式にリリースしている。

【参考】MIHとティアフォーの関わりについては「自動運転EVを容易に量産できる未来!MIH×ティアフォーに秘める可能性」も参照。

NVIDIAとティアフォーが急接近?

上記の内容を踏まえると、将来Foxconnが製造を受託するEVにはティアフォーの自動運転ソフト(Autoware)とNVIDIAのソリューションの組み合わせが採用されることになりそうだ。

MIHの活動次第では、EVや自動運転市場でシェアを大きく拡大させていく可能性があり、今後の動向に要注目だ。

なお、ティアフォーとNVIDIAはすでにつながりがある。2017年にカナダで開催されたROS(Robot Opearationg System)関連の会議で、ティアフォー創業者の加藤真平氏がNVIDIAと自動運転実証向けの車両開発を手掛ける米AutonomouStuffとの協業に言及しており、NVIDIAの車載ボードを搭載した車両にAutowareが統合されているようだ。

■MIHの最新動向

MIHは2022年11月、プロジェクトX計画を発表した。EV開発を容易にするプラットフォームのPRの一環として、2023年末までにAセグメントの3人乗り小型EVをデモンストレーションモデルとして構築する予定としている。その後、6人乗りや9人乗りモデルも発表していく計画のようだ。

2023年1月6〜8日に開催された技術見本市「CES 2023」では、米オハイオ州にイノベーションハブを設立する計画を発表した。同州には米EVメーカーLordstown Motorsの車両を生産する工場をすでに有しており、その近くにイノベーションハブを新たに設け、サプライチェーンパートナーの参入を促す狙いだ。北米市場でどのような展開を図っていくのか、こちらも要注目だ。

■【まとめ】EV開発・製造のイノベーションに注目

EV製造過程においてどのようなイノベーションが実現するかに大きな注目が集まるところだが、2023年末までに発表予定のデモンストレーションモデルとともに具体的な中身も明らかになっていくものと思われる。

その中身次第では、EV業界、ひいては自動車業界の構図を大きく塗り替えるようなインパクトを放つ可能性もある。Foxconnがティア1サプライヤーとしての地位をどこまで高めていくのか、また自らが自動車メーカーとなって業界に本格参入していくのかなど、今後の動向に引き続き注目したい。

▼MIH公式サイト
https://www.mih-ev.org/en/index/

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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