メルセデス、自動運転車のグローバル展開で中国でも独走態勢!

ドイツ・北米に続いてレベル3展開へ



ホンダに次いで自動運転レベル3を商用化した独メルセデス・ベンツが、海外攻勢を仕掛けているようだ。中国メディア「36Kr」によると、メルセデスは中国の関係当局との連携のもとレベル3の走行実証に着手したという。


同社は本国ドイツのほか北米へのレベル3導入も進めており、早くもグローバル展開に力を入れている。この記事では、レベル3をはじめとした自動運転に関するメルセデスの取り組みに迫る。

■メルセデスのレベル3に関する取り組み
中国でDRIVE PILOTの走行試験に着手

36Kr Japanによると、メルセデスは同社のレベル3システム「DRIVE PILOT」の走行試験を中国内で開始したという。

公式発表が見当たらないため詳細は不明で、メルセデスが直接実証を行っているのか、北京汽車との合弁Beijing Benz(北京奔馳汽車)を通じているのかなども分からないが、ドイツ、米国に続いて中国市場への導入を目指しているのは間違いないようだ。

世界で初めて自家用車にレベル3を実装したホンダは、2021年3月にレベル3システム「トラフィックジャムパイロット」を搭載したレジェンドを100台限定のリース形式で販売したが、今のところ追加販売などこれに続く市販化は行われていない。


国際承認のもと、2022年5月にドイツでDRIVE PILOT導入

一方、メルセデスは2021年12月にレベル3の国際的な承認を取得し、2022年5月にドイツ国内で販売する「Sクラス」とSクラスのEV版「EQS」に有料オプションの形でDRIVE PILOTを設定し、レベル3の実装を開始した。

国際承認は、「高速道路等における運行時に車両を車線内に保持する機能を有する自動運行装置に係る協定規則(UN-R157)」という国連欧州経済委員会(ECE)が定めた規則で、メルセデスによると、ECE締約国をはじめ英国や日本、韓国、オーストラリアの各州でDRIVE PILOTを実装することができるという。

北米ではネバダ州とカリフォルニア州にアプローチ

同年、北米市場へのレベル3導入も発表し、2023年1月までにネバダ州とカリフォルニア州の当局にレベル3認証に向けた申請を行っている。ネバダ州では、自動運転車に関する同州の要件「Nevada Chapter 482A」に準拠していることが確認されており、カリフォルニア州での展開は2023年後半を予定している。2024年モデルのSクラスとEQSにDRIVE PILOTをオプション設定するという。

【参考】メルセデスのレベル3に関する取り組みについては「米国勢、「初の自動運転レベル3」をメルセデスに奪われる展開」も参照。


そして冒頭の中国での実証開始につながる。メルセデスは着実にレベル3の国際展開を推し進めており、市販車におけるレベル3システムの国際展開における第一人者となる見込みだ。

ホンダは日本国内にとどまり、BMWやボルボ・カーズなどレベル3市販化を目指す各メーカーの動きが遅れている中、メルセデスが攻勢を仕掛けている状況だ。

【参考】ホンダのレベル3に関する取り組みについては「ホンダの自動運転戦略(2022年最新版) レベル3市販車「新型レジェンド」発売」も参照。

DRIVE PILOTは渋滞時限定のレベル3

DRIVE PILOTは、高速道路などにおいて最高時速40マイル(約64キロ)までの速度で動的な運転タスクをシステムが引き継ぐレベル3システムだ。要件を満たすと、ステアリングホイールに設置されたコントロールボタンでDRIVE PILOTを起動することが可能になる。

LiDARやカメラ、ミリ波レーダー、超音波センサー、水分センサーなど、30を超える各種センサーによってDRIVE PILOTが確実に運転タスクを担えるよう冗長性を高めている。

万一主要システムの1つに障害が発生した場合、DRIVE PILOTのシステムアーキテクチャが状況を的確に認識し、ドライバーへ運転を引き継ぐ。ドライバーが引き継ぎに応じない場合や緊急事態が発生した際は、後続車両に危険を及ぼさないよう安全に緊急停止操作を開始する。

■メルセデスの自動運転関連の取り組み
自動バレーパーキングもドイツで商用許可を取得

メルセデスの自動運転開発は、独サプライヤー・ボッシュと協業する場面が多い。両社は自動バレーパーキング(AVP)システムの共同開発を進めているほか、公道におけるレベル4においても米カリフォルニア州サンノゼでパイロットプログラムを行うことを過去に発表している。

AVPは駐車場内でレベル4を実現するシステムで、駐車場入り口などで降車し、スマートフォンアプリを使用するだけで事前に予約した駐車スペースに車両を自動運転で送ることができる。出発する時も同様で、ピックアップポイントでスマートフォンを操作することで車両を呼び出すことができる。

ボッシュインテリジェントインフラストラクチャシステムと、メルセデスの自動車技術を活用しており、駐車場にあるボッシュのセンサーが走行通路とその周辺を監視し、車両の誘導に必要な情報を提供する仕組みだ。

2019年にドイツ・シュトゥットガルトのメルセデスベンツ博物館の駐車場でAVPを運用する許可を取得し、その後、シュトゥットガルト空港のAPCOA駐車場で自家用車におけるAVPを実現している。2022年11月までに正式な商業運用許可を取得しており、「INTELLIGENT PARK PILOT」を搭載したSクラスとEQSで利用できるという。

中国ではテンセントと提携

中国においては、IT大手テンセント傘下のTencent Cloud Computingと戦略的パートナーシップを2022年7月までに結び、自動運転分野における協業を開始しているようだ。

中国におけるレベル3と結びつく取り組みかは不明だが、自動運転により生成される膨大なデータに対処するには、クラウドシステムなどが必須となる。同国におけるレベル3、レベル4を見越した戦略の一環だ。

【参考】自動バレーパーキングについては「自動バレーパーキング、空港で営業運用へ!ボッシュとベンツが準備開始」も参照。

■レベル3の国際基準
2022年に新基準策定、上限時速130キロに

レベル3の国際標準に関しては、国連自動車基準調和世界フォーラム(WP29)で議論が進められており、2020年6月に最初の国連協定規則が成立した。高速道路における時速60キロ以下での車線変更なしのレベル3走行が乗用車を対象に認められるようになり、ホンダのトラフィックジャムパイロットやメルセデスのDRIVE PILOTはこれに準拠する形で設計されている。

その後、2021年11月に対象車種がバスやトラックなどに拡大されたほか、2022年6月には上限速度を時速130キロに引き上げ、乗用車に限っては車線変更を可能とする改正が合意に達している。

各国の道路交通関連法規次第ではあるものの、この新基準が適用されれば、高速道路におけるレベル3は渋滞時などに限定されることなく平時にも使用可能となる。通常走行時、実用域での使用が可能となるのだ。

憶測だが、BMWなどの後続組の実用化が遅れているのは、この新基準を満たすよう改良を加えているからかもしれない。少なからず、一部メーカーはこの新基準の開発にシフトし、より実用性に優れたレベル3の市販化を見据えているものと思われる。

■【まとめ】新基準レベル3をめぐる動向にも注目

2023年中にBMWやボルボ・カーズなどが北米市場にレベル3を投入する見込みで、徐々にレベル3市場が熱くなってきているが、今後の注目はやはり新基準を満たすレベル3をどのメーカーがどの市場で実現するか――だ。

渋滞時限定のレベル3と実用域を満たすレベル3では、ユーザー目線においてその効用は段違いとなる。市場としては、法環境含め先行する日本やドイツ、そして北米の一部の州が有力となりそうだが、メーカーについては予測がつかない。

ホンダが再び動き出すのか、あるいは新たなメーカーが動き出すのか。今後の展開に要注目だ。

【参考】関連記事としては「自動運転、2社目の「レベル3提供」はメルセデスベンツ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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