自動運転技術は、タクシーや路線バスをはじめ、配送やスクールバス、カーシェアなどさまざまなモビリティサービスに活用される。新たなサービスとして生まれ変わる各モビリティを有効活用するためにはブラッシュアップが欠かせず、関連するさまざまなデータを収集し、分析する必要がある。
各モビリティサービスを最有効化するためには、どのようなデータをブラッシュアップしなければならないのか。データの活用方法を探ってみた。
記事の目次
■スクールバス:自宅住所データの解析で運行ルートを最適化
一定区域内における児童の登下校を担うスクールバスは、ODD(運行設計領域)が明確で低速運行も社会的に許容されやすいため、その意味で自動運転に適したサービスと言える。
自動運転スクールバスの場合、利用する各児童の自宅住所データを解析し、どのような運行ルートをたどれば最も効率的に回れるかを求める。特定の児童が欠席する情報を事前にキャッチすれば、リアルタイムで柔軟に運行ルートを変更するといったシステムも有用だ。
また、児童の安全性を高めるため、乗降車するポイントについても安全に車両を停車しやすい場所を選定するなど、ブラッシュアップすべき点はいろいろありそうだ。
保護者は、我が子が何時何分に乗車し、バスが現在どの辺りを走行しているかをスマートフォンからリアルタイムで把握することもできるだろう。
問題は、多くの児童が乗る車両が無人で良いのか?という点だ。厳しい安全基準を求められるスクールバスにおいては、一定の技能を持った運転手ではなくとも引率教師などの乗務員が必要かもしれない。
■配送トラック:配達指定時間データも組み込みルート最適化
宅配を担う自動運転配送トラックや宅配ロボットは、その日の配達先となる住所データをもとに最適なルートを解析するほか、配達指定時間もデータに組み込み、より効率的なルートを策定する。
配送におけるラストワンマイルは複雑かつ重要な課題であり、AIを活用して最適化を図るスタートアップ「オプティマインド」などが注目を集めている分野だ。
ドライバーではなくシステムが運行する自動運転配送トラックは、こうしたルート設定もすべてシステムが行わなければならないため、データ解析能力が必須となる。
また、自動運転システムが導入されてもなくならないのが再配達問題だ。対策として、料金の差別化や宅配ロッカーの活用などが求められるが、自動運転配送トラックが配達先に到着した際、何分間待って次の配達先へ向かうのが効率的か?といった点も多くの配達データをもとに算出するほか、一軒家や高層ビル、団地など配達先の種別によって待ち時間が若干変動することなども加味し、無駄のない配達ルート・時間設計を行う必要がありそうだ。
【参考】オプティマインドについては「ルート最適化AI開発のオプティマインド、トヨタなどから10億円を資金調達」も参照。
■タクシー:乗客が多そうな場所を過去データから解析
自動運転タクシーは基本的に特定のルートではなく一定エリア内をくまなく走行することになるため、乗車地から目的地までその都度最適なルートを提供すべく走行データをより多く集めて解析していかなければならない。
また、タクシードライバーが経験をもとに判断しているように、自動運転タクシーも時間帯や曜日、開催されているイベント、その日の天気などに合わせ、乗客が多そうな場所を過去のデータから解析し、より多くの客を運送できるようブラッシュアップしていくことこそタクシーの本質と言えるだろう。
さらに、(理解を得たうえで)乗客の性別や年代などをデータ化し、デジタルサイネージをはじめとしたタクシー広告の効果を高めていくのも一つの手だ。
現在、タクシー業界がさまざまな改革案を打ち出しているが、自動運転タクシーにおいてもダイナミックプライシングや相乗り運賃といった料金設定・サービスが当たり前の存在になっていく可能性が高い。こうしたサービスに向けたデータ解析も必要になりそうだ。
【参考】タクシー業界の改革案については「日本のタクシー業界、改革へ11案策定 ダイナミックプライシングや相乗りサービス」も参照。
■オンデマンドバス:需要の分布や時間帯などをデータ化し活用
予約に応じて運行経路やスケジュールを組み立てて運行するオンデマンドバス。地域の公共交通が抱える課題に対応するモビリティサービスの一種で、このオンデマンドバスへの自動運転技術の導入も強く求められている。
路線が固定されたタイプや起終点のみが固定され必要に応じて特定エリア内を柔軟に走行するタイプ、特定エリア内であれば完全に自由に走行可能なタイプなどがあるが、該当地域における需要の分布や時間帯などをしっかりとデータ化し、継続可能なサービスを提供するためブラッシュアップし続けて最適化した運営形態を確立しなければならない。
既存のオンデマンドバスにおいてもAIの活用が進められており、各地で実証が行われている。
【参考】AIオンデマンドバスについては「福岡市でAIオンデマンドバス運行の実証実験 ⻄鉄と三菱商事が新会社で」も参照。
■カーシェアサービス:需要層の分布や駐車場の最適配置をデータ解析で
右肩上がりで市場を賑わせるカーシェアにも、将来自動運転技術が導入される可能性がある。自動車の利用頻度がそこそこ高く、自家用車を所有するコストとタクシーを利用するコストの間で揺れ動いている層から支持を集めているが、自動運転カーシェアが誕生すれば、運転免許を持たない人や運転に不安を抱える高齢者なども気軽に利用できるからだ。
また、カーシェアの利便性を高めるワンウェイ方式(乗り捨て型)も、自動運転であれば車両自らが所定の場所に移動できるため導入しやすくなるメリットもある。
データとしては、利用が見込まれる需要層の分布とともに、カーシェア車両の拠点となる駐車場をどの場所に確保し、車両を何台配置するのが最適となるかを解析しなければならない。
このほか、ワンウェイ方式で乗り捨てられた車両は、リアルタイムで需要データを把握し、どこに向かうのが最適か判断して自律走行するとより効率性が高まりそうだ。
【参考】カーシェア事業については「点在型、広告、自動運転…タイムズカーシェアの挑戦が前衛的 パーク24グループにインタビュー」も参照。
■超小型モビリティ・マイクロモビリティ:人の流れ・動線などをデータ化して解析
多様化が進む超小型モビリティ・マイクロモビリティにも自動運転の波は押し寄せる。移動が困難な人を対象としたモビリティや都市におけるチョイ乗りモビリティ、観光型、車道を走行可能な比較的広い守備範囲を持つモビリティなど、それぞれの特性に応じた需要とともに、ステーション配置やワンウェイ導入の際の効率的な運用を図るため、人の流れ・動線などをデータ化して解析する必要がある。
歩道や敷地内、施設内を走行するモビリティなど多様化は今後ますます進んでいくものと思われる。すべてに自動運転技術が搭載されるわけではないものの、新たな移動をつかさどるモビリティとしてさまざまなデータを駆使して有効活用の道を探らなければならない。
■【まとめ】MaaS見据えたデータ活用を
各自動運転モビリティがそれぞれのデータを駆使してブラッシュアップを図るほか、今後重要性を増すのがMaaS(Mobility as a Service)の観点だ。MaaSを構成するモビリティとして他のモビリティとの連携をどのように効率的かつ効果的に行うかがカギを握る。「移動」の全体最適化を図ることが最終目標と言っても過言ではないだろう。
各モビリティのデータはMaaS構築に向けても有用で、それぞれのデータを統合して新たなデータを生み出し、解析していくことになる。データは宝の山なのだ。MaaSを見据えたデータの選別・収集・解析を今のうちから進めておくことを強くお勧めしたい。
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