トヨタのCASE戦略とは?コネクテッド、自動運転、シェアリング・サービス、電動化

試験研究費、全体の半分以上に



出典:トヨタプレスリリース

次世代のモビリティ業界の在り方を示すCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング・サービス、電動化)。世界各国の自動車メーカーが相次いで事業戦略にCASEという単語を用いるようになり、各分野において開発競争が激化している。

こうした業界の流れは、モビリティカンパニーへの変革を目指すトヨタ自動車も例外ではない。2019年5月に開かれた2019年3月期決算発表会の席上、同社の小林耕士副社長がCASEに向けた試験研究費について「現在は(全体の)4割弱、近いうちに5割に」と言及しており、この発言を基に試算すると、5000億円規模の資金が投じられる見込みだ。


クルマの在り方・概念を変えていくCASEは、今後もその注目度を高めていくことになるだろう。そこで今回は、トヨタにおけるCASEの取り組みについてまとめてみた。

■C(コネクテッド): コネクテッドサービス「T-Connect」拡大へ

コネクテッド分野では、多様なモビリティサービスとの接続機能を備えた統一プラットフォーム「モビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)」の構築を2016年から進めているほか、2018年6月発売の新型クラウンとカローラスポーツに車載通信機(DCM)を標準搭載し、コネクテッドサービス「T-Connect」を本格スタートさせている。

「T-Connect」は、事故発生時など有事の際に緊急通報する「ヘルプネット」や離れた場所にあるマイカーを見守る「マイカーSecurity」、警告灯点灯時に適切なアドバイスを提供する「eケア」、故障の際などにJAFに円滑に取り次ぐ「ロードアシスト24」、音声認識システムでナビと会話可能な「エージェント」などの各サービスを備えている。

DCMの標準装備化は進んでおり、2019年9月にフルモデルチェンジしたファミリーセダン「カローラ」やワゴンタイプの「カローラ ツーリング」などにも搭載されている。


また、2019年7月には、一般財団法人トヨタ・モビリティ基金が赤磐市、岡山大学、岡山県、赤磐警察署等とともに岡山県赤磐市において、道路維持管理の新たな手法を考える協議会を設立し、コネクテッドカーを活用した道路の維持管理に関する実証実験を開始すると発表している。

コネクテッドカーから取得される車両挙動ビッグデータの活用をはじめ、公用車に搭載したドライブレコーダー画像の活用、上下水道や橋梁など既存の行政インフラデータの活用方法の検討、災害対応NPOなどが収集する災害状況画像・位置などの情報の活用方法の検討を進める方針だ。

■A(自動運転):東京モーターショーや2020東京五輪に注目
TRIが先進技術を開発

AI(人工知能)の研究など先進的な自動運転開発は、2016年1月に米シリコンバレーを拠点に開設したTRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)や、2018年3月に東京都に開設したTRI-AD(トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント)が担っている。

米ラスベガスで開催されたCES2019では、開発を進める運転支援機能「ガーディアン」と自動運転技術「ショーファー」についてTRIのギル・プラット最高経営責任者(CEO)が言及したほか、最新型の自動運転実験車「TRI-P4」を披露した。

ガーディアンは、ドライバーによる手動運転において自動運転車が人を守る度合いを示す高度安全運転支援技術を指し、ドライバーの運転ミスや他者による交通ルールの無視といった外的な要因に対しアクセルやステアリングなどを自動制御し、ドライバー・車両を守る技術だ。

一方のショーファーは、ドライバーに代わって自家用車などの運転タスクを担う全自動運転システムを指し、運転者による監視やフォールバックがなくてもあらゆる状況下で安全な運転を可能にする自動運転レベル4以上を目標に開発を進めている。

国内を拠点とするTRI-ADは、TRIとの連携強化やトヨタグループ内の人材育成、研究から開発まで一気通貫のソフトウェア開発を実現するため、エンジニア1000人規模の体制構築を進めている。自動運転分野全般でエンジニア不足が指摘される中、国内外から応募が殺到しているようで、2019年9月時点で400人規模に達している。

【参考】CES2019でのギル・プラットCEOのスピーチについては「全文掲載:トヨタがCES 2019で述べた自動運転戦略の哲学とは?」も参照。TRI-ADについては「応募の嵐を生む、トヨタ自動運転子会社TRI-ADのオフィス哲学」も参照。

横の連携強化の動きも

トヨタは、デンソーと次世代の車載半導体の研究および先行開発を行う合弁会社の2020年4月の設立を目指すなどグループ内における開発力強化を図るほか、他社との提携も拡大している。

国内では、資本提携関係にあるスバルと2019年9月に新たな業務資本提携に合意し、コネクテッド領域での協調や自動運転分野での技術連携をはじめ、EV専用プラットフォームやEV車両開発にも取り組んでいく方針を明かした。

海外では、デンソーとソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)とともに、自動運転ライドシェア車両の開発と実用化を加速するため、米配車サービス大手Uberの自動運転開発部門Advanced Technologies Group(Uber-ATG)に合計10億ドル(約1120億円)の出資を行うと2019年4月に発表している。

また、中国の自動運転スタートアップPony.ai(小馬智行)も2019年8月にトヨタと自動運転技術の開発などで協業すると発表している。自動運転タクシーの商用サービスの開発と実用化が加速する中国で注目の一社だ。

【参考】ウーバーとの提携については「トヨタやソフトバンク、米ウーバーの自動運転部門に1120億円出資」も参照。

コンセプトモデルを東京モーターショーや東京五輪でお披露目

トヨタの自動運転技術は、2019年の東京モーターショーや2020年の東京オリンピック・パラリンピックの舞台で大々的に披露される予定だ。

まず、CES2018で発表した次世代のモビリティの在り方を象徴するコンセプトモデル「e-Palette」の東京2020仕様が、五輪の選手村で選手や大会関係者らの移動を支える。

トヨタの車両制御プラットフォームに専用開発した自動運転制御ハードウェアやソフトウェア、カメラやLiDARなどのセンサーを搭載し、高精度3Dマップと運行管理による低速の自動運転レベル4を実現するという。

自動運転時に歩行者とのコミュニケーションができるよう、アイコンタクトのように車両の状況を周りに知らせるフロント・リアランプも採用している。

また、東京五輪前後の2020年6月~9月に東京都MEGAWEBなどで開催される「トヨタYUIプロジェクトTOURS 2020」では、「クルマと人」「クルマと社会」の新しい関係を提案するコンセプトカー「LQ」の試乗体験会が開催される。

モビリティエキスパートとして機能するAIエージェント「YUI」を搭載するほか、レベル4相当の自動運転機能や、パナソニックと共同開発した無人自動バレーパーキングシステムなども備えている。

e-Palette、LQとも東京モーターショーに出展されており、次世代モビリティの粋に一足早く触れることができる。

【参考】五輪仕様のe-Paletteについては「自動運転レベル4のトヨタ「e-Palette」、五輪仕様車の詳細は?」も参照。LQについては「トヨタ「LQ」を徹底解説!自動運転時代の愛車に」も参照。

■S(シェアリング/サービス):異業種含めた提携拡大 シェアリング事業にも本格着手
MONETコンソーシアムや配車サービス大手との提携など他社との連携を強化

シェアリングやサービス分野では、ソフトバンクとともにMaaS(Mobility as a Service/移動のサービス化)事業などを手掛けるMONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)を2018年9月に設立し、企業間連携組織「MONETコンソーシアム」に参加する各企業や地方自治体などと様々な事業に着手している。

トヨタのMSPFとソフトバンクのIoTプラットフォームを連携させ、車や人の移動などに関するさまざまなデータを活用することによって需要と供給を最適化し、移動における社会課題の解決や新たな価値創造を可能にする未来のMaaS事業を進めている。

MaaSを象徴するe-Paletteを活用した事業にも将来的に着手する見込みだ。

また、米Uberや中国のDidi Chuxing(滴滴出行)、東南アジアのGrabといった配車サービス大手との結びつきも深めており、DiDiとは2019年7月に中国におけるMaaS領域での協業拡大に合意したことが発表されている。ライドシェアの運転手向けの車両関連サービスを展開する新会社を広汽トヨタ自動車有限会社(GTMC)とともに合弁で設立する方針だ。

Grabには、トヨタが2018年12月に発表した配車サービス車両向けトータルケアサービスを、Grabが保有する車両1500台に提供している。車両に搭載された通信型ドライブレコーダーからMSPFに収集される走行データを、Grabとトヨタ、トヨタ販売店などが相互に活用していく。

グループでもシェアリング事業の実証や導入加速

トヨタグループとしては、カーシェアリングサービス「TOYOTA SHARE」やサブスクリプションサービス「KINTO」を相次いでスタートしている。

TOYOTA SHAREは東京都、茨城県、広島県、福岡県、熊本県の1都4県にステーションを設置し、安全機能搭載車やウェルキャブ(福祉車両)などを気軽に利用できるほか、一部のステーションでは借りたステーション以外に返却可能なワンウェイ方式での利用も可能だ。

なお、現在のTOYOTA SHAREは2019年10月末にサービスを終了し、より使い勝手を向上した新サービスへ移行するようだ。

KINTOは月定額でトヨタ車を利用できるサブスクリプションサービスで、3年間で1台のトヨタ車に乗ることができる「KINTO ONE」と、3年間で6種類のレクサスブランド車を乗り継ぐことができる「KINTO SELECT」の2種類のサービスが用意されている。いずれのサービスも任意保険の支払いや自動車税、登録諸費用、車両の定期メンテナンスが定額でパッケージ化されている。

また、実証実験では、駐車場やカーシェアリング事業などを手掛けるパーク24と2015年4月から、小型のパーソナルモビリティを活用したシェアリングサービス「Times Car PLUS TOYOTA i-ROAD Drive」や「Times Car PLUS × Ha:mo」を進めているほか、2018年10月からは、西日本鉄道とスマートフォン向けマルチモーダルモビリティサービス「my route(マイルート)」の実証実験を福岡市で行っている。

トヨタ車体製の超小型EV「COMS(コムス)」を利用したシェアサービス「Ha:moRIDE(ハーモライド)」などは、各地で導入を見据えた実証などが進められており、新たなシェアサービスとして今後注目が高まりそうだ。

■E(電動化):EV導入に向け共同開発加速

トヨタは2017年、2030年の新車販売においてHVとPHVで450万台以上、EVとFCVで100万台以上、計550万台以上をEVとする目標を発表し、取り組みの幅を広げている。

その取り組みは2019年にも大きく加速しており、2019年1月にパナソニックと車載用角形電池事業に関する新会社設立に向けた事業統合契約と合弁契約を締結したほか、3月には宇宙航空研究開発機構(JAXA)と燃料電池車(FCV)技術開発など国際宇宙探査ミッションでの協業の可能性を検討していくことについて合意した。

4月には、EVの普及に向けた取り組みの一環として、モーター・PCU(パワー・コントロール・ユニット)・システム制御などの車両電動化関連の技術について、トヨタが保有している特許実施権を無償で提供するとともに、EVの開発・製造に向けてトヨタが保有するパワートレーンシステムを活用する際に技術サポートを実施すると発表している。

また同月には、中国の上海国際モーターショーで「C-HR」「IZOA」のEVモデルを世界初披露した。トヨタブランドとして中国初投入となるEVで、2020年に販売を開始するという。

5月には、東京大学とTRENDE株式会社とともに、ブロックチェーン技術を活用して電力網につながる住宅や事業所、EV間での電力取引を可能とする次世代電力システム(P2P/電力取引)の共同実証実験を実施することを発表した。

6月には、スバルと中・大型乗用車向けのEV専用プラットフォームと、CセグメントクラスのSUVモデルのEVを共同で開発することに合意した。

7月には、中国の寧徳時代新能源科技(CATL)と新エネルギー車(NEV)用電池の安定供給と発展進化に向けた包括的パートナーシップを締結し、電池の供給をはじめ新技術の開発、品質の向上、リユースやリサイクルなど幅広い分野における検討を開始している。

また同月、中国の比亜迪股份有限公司(BYD)ともEVの共同開発契約を締結しており、2020年代前半にトヨタブランドでの中国市場導入を目指し、セダンや低床SUVタイプのEV開発とその車両などに搭載する電池の開発を進めていくこととしている。

トヨタにおける主力はHVやPHVのイメージが強いが、これらの高効率化を図るとともに本格的なEVの実用化に向け大きく前進しているようだ。

■【まとめ】パートナー企業の輪拡大 モーターショーなどで先端技術をお披露目

各分野とも明らかに取り組みを強化しており、この流れはしばらく続きそうだ。また、スタートアップをはじめとした各社への投資にも積極的で、パートナー企業の輪も大きく拡大している印象だ。自動運転開発をはじめ、モビリティを通じた異業種とのさまざまな連携にも今後注目していきたい。

また、CASEに関する技術開発の近々の集大成は、東京モーターショーや東京五輪などの舞台でお披露目される。同社の先端技術に触れるまたとないチャンスだ。この機会にぜひ足を運んで次世代モビリティの一端に触れ、未来の自動車社会や移動サービスの在り方を想像してみてほしい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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