多くのデータを生成・解析する自動運転車。カメラなどから取得したセンシングデータやV2Xによって取得した道路交通情報などを絶えず収集・解析しながら道路上を走行する仕組みだ。開発分野では、周囲の状況を検知するセンサー機器やデータを解析するAI技術が花形として注目を集めているが、根本的に重要となる要素はほかにもある。データを記録するストレージだ。
膨大なデータを取り扱う自動運転車は、データなしでは無人走行できないのは言うまでもなく、大容量のストレージが必須となる。また、データの書き換えも継続的に行われるため、高い耐久性も求められる。
ストレージは言わばデータという血液を循環させる「心臓」のようなもので、円滑にデータを蓄積・送受信するためにはストレージそのものが高機能化されなければならない。
自動運転においてはストレージにどのような性能が求められるのか、解説していく。
記事の目次
■自動運転向けストレージに求められる性能
自動運転車は大量のデータを扱う
自動運転は、LiDARやカメラなどのセンサーが取得したデータをもとに車両周囲の状況を認識・解析し、AIが車両を制御する。同時に、GPSなどによる位置情報や5Gなどの移動通信システム、V2V(車車間通信)、V2I(路車間通信)によって交通に関するさまざまな情報を取得し、より正確かつ安全な走行を実現する。
カメラなどのセンサーは常時作動しており、リアルタイムでデータを収集・解析しながら走行する。収集・解析したデータは、必要に応じてクラウドにも送信する。また、車両が正常に制御されているかどうかなどもEDR(イベントデータレコーダー)に常時記録されている。
このほか、高精度三次元地図に各種交通情報を随時付加するダイナミックマップなども、データは相当な量に上るものと思われる。
このように、自動運転車においては多くの情報・データが常時記録されているのだ。扱うデータ量が膨大なため、必要なデータは随時クラウドに送信するなど保存し、その他のデータは一定期間経過後、あるいはストレージ容量がいっぱいになり次第上書きを繰り返す。ドライブレコーダーのイメージに近い作業だ。
フラッシュメモリの大容量化と書き換え耐性が必須に
自動運転車は1台1日当たり数テラバイト~数百テラバイトものデータを活用すると言われている。仮に100テラバイトを使用する場合、容量1テラバイトのフラッシュメモリだと単純計算で100回上書き利用することになる。フラッシュメモリ1テラバイト×10枚でも、1枚当たり10回だ。
最近搭載が増加しているドライブレコーダーも、一見正常に作動しているように見えるものの、記録メディアが破損しているケースがある。幾度もの上書きや環境温度などが主な要因のようだ。
同様に、自動運転システムが正常に作動していても、記録の段階でエラーが発生すればすべてが台無しになりかねない。バックアップシステムはもちろんのこと、フラッシュメモリそのものの大容量化や、幾度もの書き換えに耐える強い耐久性が求められるのだ。
なお、汎用フラッシュメモリの代表格であるSDカードには、1つのセルに1ビットデータを記録するSLC(Single Level Cell)、2ビットのMLC(Multi Level Cell)、3ビットのTLC(Three Level Cell)といった複数の書き込み方式がある。近年では4ビットのQRC(Quad level cell)も登場したようだ。
従来フラッシュメモリの耐久性の課題は一般的な見識として、SLC、MLC、TLCと多値化が進むにつれて劣るとされてきた。しかし、日々進化を遂げているフラッシュメモリでは多層化技術によって耐久性の課題を克服している。現在では多くの製品が従来の2次元フラッシュメモリから耐久性の高い3次元フラッシュメモリを採用するようになった。
一般ユーザーとしては容量や読み書き速度のみに目を向けがちだが、耐久性に大きく関わるフラッシュメモリの技術、特に3次元フラッシュメモリを採用した製品であるかにも注目したいところだ。
【参考】関連記事としては「【対談】車載ストレージ、タクシーのデータビジネス下支え!ウエスタンデジタル×JapanTaxi(深掘り!自動運転×データ 第7回)」も参照。
自動車特有の過酷な環境から守る堅牢性
パソコンなど室内向けの環境と異なり、自動運転車の車内は実質室外環境となる。フロントガラスに設置したドライブレコーダーの記録メディアが炎天下の熱で故障するケースは多々ある。また、エリアによっては氷点下を下回るケースもある。車内は雨風をしのげるものの、風が吹き抜けない分状況によっては室外・車外よりも過酷な環境に置かれることは珍しいものではない。
さらに、自動車につきものなのが振動だ。大きな振動のみならず、細かな振動は常時発生している。こうした振動もフラッシュメモリの弱点となるため、高い堅牢性が求められる。
ストレージが誤作動を起こしたら?
万が一のエラーが許されない自動運転においては、ドライブレコーダー向けのフラッシュメモリ以上に高い読み書き速度や高耐久性が求められるのは必然だろう。
自動運転中にストレージが誤作動を起こした場合、どうなるのか。根幹をなす自動運転システムに直結するストレージにおいては、最悪の場合、自動運転システムが機能しなくなり、走行不可に陥る。EDRなどの記録向けでは、事故発生時など万が一の際に自動運転システムが正常に作動していたかどうかを検証することが困難になり、責任の所在があいまいになる。
通常はバックアップシステムに切り替えるなど安全走行を継続する手法が採用されているものと思われるが、より完全な自動運転を実現するためには、バックアップに頼らない最善の機器を導入すべきであるのは言うまでもないことだろう。
■自動運転実証においても高信頼のストレージが重要
国内でも実用化を見据えた自動運転の実証実験が増加傾向にあり、特にバス関連が熱を帯びている。2020年度には、社会実装に向けた国の事業として滋賀県大津市(大津市、京阪バス)、兵庫県三田市(神姫バス)、福岡県北九州市・苅田町(西日本鉄道)、茨城県日立市(茨城交通)、神奈川県横浜市(神奈川中央交通)で中型自動運転バスの公道実証実験が行われる予定で、一部地域ではすでに乗客を乗せて運行している。
また、ソフトバンク子会社のBOLDLYは、羽田空港に隣接した「HANEDA INNOVATION CITY(HICity/エイチ・アイ・シティ)」の敷地内で小型の自動運転バス「NAVYA ARMA(ナビヤアルマ)」を使用した定常運行を2020年9月に開始したほか、茨城県境町でも2020年秋に公道路線運行を開始する予定だ。
実用化の際はもちろん、実証段階においても車両に搭載するストレージ選びは重要だ。特にバスの場合、乗用車タイプに比べLiDARやカメラなどのセンサーは多く搭載される。移動サービス向けの運行管理システムなども含め、より多くのデータを生成するのだ。
実証や検証を正確に行うためには、生成・通信されるデータが万全の状態で記録されなければならない。ストレージにもしっかりと気を配らなければならないのだ。
■【まとめ】熱気帯びる自動運転向けストレージ開発
フラッシュメモリ技術の研究開発は日々進んでおり、ストレージも年々高性能化が図られている。近い将来、その用途として多くのデータを扱う自動運転分野が大きな注目を集めることになり、自動運転向けストレージの開発も熱を帯びてくるものと思われる。
すでに自動運転での利用を見据えた開発・製品化を進めている企業もあり、ストレージ選びの際は開発体制などにもしっかり注目しておきたいところだ。
ストレージ開発大手の米Western Digitalでは現在、検証用に車載用フラッシュストレージを無償提供するプログラムを実施している。利用目的に応じて5製品の中から利用目的に応じて選択することができ、車載システムの開発に携わる企業にとっては非常に有用なキャンペーンだ。
プログラムについての詳しい内容は「検証用フラッシュストレージの無償提供プログラム」から確認できる。
>>【特別対談】「大容量×信頼性」、車載業界屈指の半導体メーカーが見据える自動運転の未来
>>特集第1回:自動運転車のデータ生成「1日767TB」説 そのワケは?
>>特集第2回:桜前線も計測!"データ収集装置"としての自動運転車の有望性
>>特集第3回:自動運転車の最先端ストレージに求められる8つの性能
>>特集第4回:【対談】自動運転実現の鍵は「車載ストレージ」の進化にあり!
>>特集第6回:自動運転の安全安心の鍵は「乗員のリアルタイムデータ」にあり
>>特集第7回:【対談】車載ストレージ、タクシーのデータビジネス下支え!
>>特集第8回:自動運転、車載機器の最重要5パーツをピックアップ!
>>特集第9回:AI自動運転用地図データ、どこまで作製は進んでいる?
>>特集第11回:改ざん阻止!自動運転業界がブロックチェーン導入を歓迎すべき理由
>>特集第12回:自動運転時代はクラウドサービス企業の成長期
>>特集第15回:日本、自動運転レベル4はいつから?ODD拡大ではデータの網羅性も鍵
>>特集第16回:日本、自動運転タクシーはいつ実現?リアルタイムデータ解析で安全走行
>>特集第17回:【対談】自動運転、ODM企業向け「リファレンス」の確立が鍵
>>特集第18回:パートナーとしての自動運転車 様々な「データ」を教えてくれる?
>>特集第19回:自動運転車の各活用方法とデータ解析による進化の方向性
>>特集第20回:自律航行ドローン、安全飛行のために検知すべきデータや技術は?
>>特集第21回:自動運転車、AIの「性格」も選べるように?人の運転データを学習
>>特集第22回:【対談】2020年代は「タクシー×データ」で革新が起きる!
>>自動運転白書第1弾:自動運転領域に参入している日本企業など一覧
>>特集第23回:自動運転に必須の3Dマップ、どんなデータが集積されている?
>>特集第24回:解禁されたレベル3、自動運行装置の作動データの保存ルールは?
>>自動運転白書第2弾:自動運転関連の実証実験等に参加している日本企業一覧
>>特集第25回:自動運転、企業の垣根を越えて共有させるべきデータ群は?
>>自動運転白書第3弾:自動運転業界における国内の主要人物一覧
>>特集第26回:コロナで早期実現!?自動運転宅配サービスに必要なデータは?
>>特集第27回:自動運転業界、「データセット公開」に乗り出す企業たち
>>特集第28回:自動運転と「データ通信」の実証実験、過去の事例まとめ
>>特集第29回:自動車ビッグデータの活用に取り組む「AECC」とは?
>>特集第31回:自動運転におけるデータ処理は「クラウド側」「エッジ側」の2パターン
>>特集第32回:自動車×ビッグデータ、自動運転領域を含めた活用事例まとめ
>>特集第33回:自動運転の「脳」には、車両周辺はどうデータ化されて見えている?
>>特集第34回:自動バレーパーキングの仕組みや、やり取りされるデータは?
>>特集第35回:検証用に車載用フラッシュストレージを提供!Western Digitalがキャンペーンプログラム
>>特集第36回:自動運転、「心臓部」であるストレージに信頼性・堅牢性が必要な理由は?
>>特集第37回:自動運転レベル3の「罠」、解決の鍵はドラレコにあり?
>>特集第38回:自動運転時代、ドラレコが進化!求められる性能は?
>>特集第40回:AEC-Q100とは?車載ストレージ関連知識
>>特集第41回:自動運転で使う高精度3D地図データ、その作製方法は?
>>特集第42回:ADASで必要とされるデータは?車載ストレージ選びも鍵
>>特集第43回:V2X通信でやり取りされるデータの種類は?
>>特集第45回:自動運転の実証実験で活用されるデータ通信規格「ローカル5G」とは?