さまざまなデータが次々と生成される自動運転。各種データの蓄積や分析、削除を繰り返すことで一定水準以上の精度を保持し、安全な走行を実現する。
その膨大なデータ処理には、タイムラグを極限まで抑え、幾度もの書き換え作業に耐える耐久性など、さまざまな条件を満たした高性能なストレージが求められることになる。
今回は、自動運転に利用されるストレージに求められる条件について考えてみよう。
記事の目次
■低遅延性:自動運転では一瞬の遅延が大きな誤差に
遅延性(レイテンシ)は、デバイスに対してデータ転送などを要求してから、実際にその結果が送られるまでの遅延時間を指す。
自動運転車は一般的に、カメラやLiDAR(ライダー)などのセンサー類が検知した情報と、ストレージに保存された高精細3Dマップやクラウド上のダイナミックマップなどを突き合わせ、自車位置や周辺の道路状況などを確認しながら走行する。
センサー類は絶え間なくデータを収集し続けており、走行に応じて刻々と変化し続ける状況に対応するためには、必要な情報を瞬時に引き出す能力が欠かせないのだ。
市街地を時速50キロメートルで走行する場合、自車は1秒間に13.8メートル前進する。たった1秒間で景色は流れてしまうが、仮にストレージの遅延が1秒だった場合、センサーの情報とダイナミックマップとの突合に大きな誤差を生じ、せっかくのシステムが台無しになってしまう。
ストレージには、一瞬の変化に対応する低遅延性が大きく求められるのだ。
■接続の安定性:遅延やシステム障害の原因に
ストレージの接続方式にはDASやNAS、FC-SAN、IP-SANなどいろいろあるが、いずれにしろ重要になってくるのが接続そのものの安定性だ。接続が途切れがちになると、その都度大きな遅延が発生する。場合によっては、システムの要求に全く応えられないことも想定される。
常にデータを処理し続ける自動運転においては、当然と言えば当然のことだが、接続が安定していないとシステムがそもそもの意味をなさないのだ。
■「いつでも動作する」性能:車載ストレージに堅牢性や耐久性は必須
パソコンにおけるHDD(ハードディスクドライブ)と、近年主流になりつつあるSSD(ソリッドステートドライブ)の比較でよく目にすると思うが、HDDは容量に対し比較的安価だが衝撃や熱に弱い。一方のSSDは衝撃に強くかつ発熱も少なく、高速で読み込み・書き込みが可能だが、HDDに比べ単価が高く、故障時のデータ復旧も困難な場合が多いとされている。
ストレージ比較には「つきもの」と言えるほど、衝撃や熱といった外部要因に対する壊れにくさが挙げられるが、自動運転車に積まれるストレージは、自動車の特性上、気温の変化や振動などの影響を大きく受けやすい。気温40度の環境下、砂利道や凹凸が激しい道路を走行する際にも的確に動作することが求められるため、より「どんな環境でも動作する」性能が重視されることになる。
物理的な堅牢性や温度耐性など、過酷な条件下で安定して動作する性能・品質が求められるのである。
また、書き込みに対する高い耐久性も求められるだろう。膨大なデータを取り扱うため、書き込み回数も相当数に上る。セルの欠損を抑えて容量を確保しながらどれだけ書き込み作業を繰り返すことができるか、保証できるかといった耐久性も求められる。
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■セキュリティ性:オンラインストレージのセキュリティ対策にも注意
重要なデータも多数含まれるストレージには、当然高いセキュリティ能力も求められる。データの暗号化技術やユーザーの機能利用権限など基本的なセキュリティ対策をはじめ、オンラインストレージにおいては、サイバー攻撃に対する厳格な要件が必須となる。
また、自動運転の重要な部分を担うストレージのセキュリティ対策が万全でも、エンターテインメント用のアプリで利用するオンラインストレージが脆弱では、そこから悪意あるハッカーが侵入するかもしれない。ストレージにおいても、セキュリティは万全の態勢で臨まなければならないのだ。
このほか、故障や劣化に対するセキュリティ機能なども必要となるだろう。走行中、急に一部の機能が停止したり、すべてのシステムにエラーが出たりすることも想定されるが、その原因を突き止めることと、そうした故障などを未然に防ぐ機能は非常に重要となる。
ストレージの場合、バックアップ機能は当然として、劣化による製品寿命が近付いた際や異常を感知した際などに、あらかじめドライバーや管理者らに通知する機能などがあると便利だろう。
■高信頼性:車両制御データが詰まったストレージに故障は許されない
自動運転においては、走行中でも安心してデータの記録や処理を委ねることができる高信頼性が求められる。パソコンなどにおいても、重要なデータが安々と消え去ることのないよう高い品質が求められるが、車両を制御する車載ストレージにおいては、絶対的な信頼性が求められると言っても過言ではないだろう。
万が一通信機器などに不具合が生じ、外部との接続が絶たれた場合でも、センサーや地図情報などをもとに安全に車両を停止させるためには、ストレージに地図情報が残っていなければならない。ある意味、最後の綱となるデータをしっかり保有しておかなければならないのだ。
モノである以上、劣化は避けられないが、「~年保証」などの保証条件を確実に満たす高い信頼性は必要性だ。また、セキュリティの項で触れたが、ストレージそのものに損傷の可能性がある場合、不具合が生じる前に警告を発するなど故障を未然に防ぐ機能も信頼性に影響を与える重要な要素となるだろう。
■同時アクセス性:複数の機器やタスクを同時に処理できる性能
自動運転においては、本格化するコネクテッドサービスをはじめさまざまなシステムがストレージにアクセスする。従来はカーナビゲーションでしか使用されなかったストレージが、車両制御やインタラクションなどにも必要とされることになるのだ。
複数のストレージを搭載して仕事を分担することもできるが、同一のストレージ上で遅延なく処理すべきタスクもあるため、複数の通信機器などがアクセスしても問題なく動作する同時アクセス性が必要となる。
例えば、道路交通に関する情報を5Gによる通信やV2V(車車間通信)、V2I(路車間通信)などで同時に受け入れ、処理する必要も出てくるだろう。センサー関連では、LiDARやカメラ、ミリ波レーダーといった各センサーのデータが同時に書き込まれることも想定しなければならない。これは、高性能なCPUやGPUだけでは追い付かない作業となる。
近年、CPUの高性能化に対し、ストレージの進化がなかなか追いつかない状況にあったが、SSDをはじめとしたフラッシュメモリ、そしてフラッシュストレージの台頭により、コンピューター全体のパフォーマンスが向上しており、こうした高機能な使用が可能な製品が実用化されている。
■大容量:2022年には自動車1台あたり2TB以上必要 進む大容量化
自動運転では、メインとなる自動運転OSをはじめ、高精細3Dマップや各種アプリケーションのソフトウェア、リアルタイムで更新される道路情報や車両制御に関するシステム情報など、多くのデータが取り扱う必要があり、ストレージに求められる容量も年々増加していくことになるとみられている。
香港に拠点を置く市場調査会社Counterpoint Research社によると、1台の自動車が必要とするストレージ容量は、2022年までに平均2TB(テラバイト)以上になるという。
膨大に膨れ上がるデータを、余裕をもって記録できる器の大きさも必然的に求められていくだろう。
■互換性:規格設定で開発を効率化
車載ストレージを効率よく開発するためには、業界を通じた互換性なども求められていくだろう。自動運転開発を手掛ける各社のチップに対応したストレージをその都度開発したり、確認したり――といった手間は、省略できるにこしたことはない。
新技術・新製品の開発が現在進行形で進む現在は難しいところもあるだろうが、一定の規格のもと互換性を高め、開発効率を上げたほうがコスト低減や製品普及における大きな糧となるのではないだろうか。
また、規格が定まることで、新興企業などもそれに合わせた自動運転関連製品・技術を開発しやすくなる。業界全体の最適化のため、一定の規格化を進めてもらいたいところだ。
■【まとめ】自動運転には、高性能、高品質、高信頼、大容量の最高級ストレージが必要
自動運転車には、パソコンなどで使用されるストレージよりいっそう品質の高い高性能モデルが求められることが分かった。
当面は、車載ストレージとクラウド上のストレージなどを両立させ、静的なデータや動的なデータをそれぞれ適したストレージに記録させる方法が主流となり、コネクテッドサービスにおけるエンターテインメントデータなどは、後付けなど拡張ストレージで対応する――といった手法が想定される。複数のストレージを仮想的に統合して1つの大きなストレージを構成する仮想化技術も導入されるだろう。
いずれにしろ、自動運転車が必要とするデータ量は間違いなく年々増加し、CPU・GPUを含め、求められる処理能力もさらに高いものになっていく。フロッピーディスクが過去の遺物となったように、ストレージもたゆまぬ開発のもと進化を続けているのだ。
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