仮想通貨の流行とともに脚光を浴びたブロックチェーン技術。仮想通貨ブームが落ち着いてからもなおその技術に注目が集まっている。
自動車業界でも自動運転やコネクテッドカーの普及を見越してブロックチェーンを活用する取り組みが進められており、トヨタの北米開発拠点TRIや独フォルクスワーゲン、BMW、ダイムラーなどがそれぞれ研究を重ねているほか、2018年にはブロックチェーン技術を未来のモビリティに生かすための共同事業体「MOBI (mobility open blockchain initiative)」が設立され、世界各地の自動車メーカーや関連企業などが参加している。
各社が研究を進めるブロックチェーン技術。自動車業界・自動運転業界への導入について、その可能性を探ってみよう。
記事の目次
■ブロックチェーンの特徴
ブロックチェーンは「分散型台帳」とも言われるデータベースで、仮想通貨を実現するために生み出された技術だ。ブロックと呼ばれるデータの単位を生成し、これを鎖のようにつないでいくことによってデータを保管する。
詳細は省くが、ブロックの連結にハッシュ関数というものを利用するほか、ナンス値というものを加えることでデータの改ざんに要する作業を膨大にすると同時に検証しやすい仕組みを採用しており、事実上不正を困難なものにしている。
また、データはP2P(Peer to Peer)ネットワークで分散して共有 されているため、特定の管理者は存在せず、自律的に管理されている。第三者によるハッキングをはじめ、管理者による不正も防止することができるのだ。
ネットワーク上のデータベースにおいて、セキュリティの強化を図りデータの信頼性を高める点と、分散管理によるコストの低減効果などがメリットとなる。
その反面、現在のブロックチェーン技術はテキストデータなど比較的容量の小さいデータを対象としているため、画像データなど個々の容量が大きなものには向いていない。また、分散管理のため情報を記録するまでにタイムラグが生じるため、コンマ1秒を争うようなデータの保存にも向いていないようだ。
■自動運転車で改ざんされたらマズイものは?
自動運転車は従来のアナログ的なシステムの多くがデジタル化され、ネットワーク上で管理されることになる。将来的には、各車両の整備記録である車検証やオーナー情報などもデジタル管理されることが想定されるが、車両の登録情報をはじめ、こうした基礎的な情報が改ざんされることは絶対に避けなければならない。
また、コネクテッド化に伴い保険やロードサービス、カーナビ、給油、駐車場、エンターテインメントサービスなど、クルマにまつわるあらゆる情報がデジタル化され、増加することが見込まれる各決済機会の情報などもデジタル管理されることになる。
車両の走行履歴や行動履歴、決済履歴など、さまざまな情報がデジタル化され、ネットワーク上で管理される時代になるため、情報改ざんの余地を与えないデータマネジメントの重要性が飛躍的に増すことになるのだ。
このほか、自動車の製造過程における情報も、ブロックチェーン技術を導入することで安全に一元管理することが可能になる。不正な改ざんの余地なく、リコール時などにも速やかに対応できるシステムが構築できそうだ。
過去の走行データ
走行ルートや走行速度、アクセルやブレーキの使い方といった自動車の走行データは、すでにコネクテッドサービスによりデータとして扱われており、テレマティクス保険に代表される新たなデータサービス・データビジネスに利活用されている。
こうしたデータもテキストレベルのデータとして逐次記録することが可能で、ブロックチェーン技術を生かしやすいデータと言えそうだ。もしこれらのデータが改ざんされた場合、個々のオーナーはもちろん保険会社などが大損害を被る可能性もある。
また、ビッグデータとしてさまざまな場面で利用されることを想定すると、情報の正確性を担保する必要もありそうだ。
【参考】テレマティクスについては「自動車における「テレマティクス」とは?コネクテッド化で市場拡大」も参照。
ダイナミックマップのデータ
ダイナミックマップにもブロックチェーン技術介入の余地があるかもしれない。
ダイナミックマップは、高精度3次元地図をベースに道路や道路上の構造物、車線情報、路面情報といった静的情報をはじめ、道路工事や渋滞予測などの準静的情報(准静的情報)、観測時点における実際の渋滞状況や一時的な走行規制、落下物や故障車などの準動的情報(准動的情報)、移動体間で発信・交換される情報や信号現示情報、交差点内の歩行者情報などの動的情報がそれぞれ一定の頻度で更新されながらレイヤーされる仕組みとなっている。
1秒単位で情報が更新される動的情報などリアルタイム性が特に要求されるデータにはブロックチェーン技術は導入できないが、ベースとなる高精度3次元地図や静的情報に含まれる道路標識などは一定期間更新がなく、こうした部分にブロックチェーン導入の余地があるかもしれない。
速度制限をはじめとした道路標識などの情報は、自動運転車にとって自動車を制御する大きな指標となる。こうした情報も改ざんから守る必要がある。
【参考】ダイナミックマップについては「【最新版】ダイナミックマップとは? 自動運転とどう関係? 意味や機能は?」も参照。
セキュリティ関連のデータ・ソフトウェア
セキュリティに関連するデータやソフトウェアなども、当然ながら改ざんから守らなければならない重要なデータだ。ソフトウェアそのものはブロックチェーンに置き換えられないものと思われるが、セキュリティソフトに密接に関連したデータ群などにブロックチェーン技術を利用できるかもしれない。
セキュリティソフトの改ざんにより脆弱性が生じると、自動運転の根幹を揺るがしかねないほどの悪質な事件が発生する可能性もある。セキュリティにセキュリティを重ねるくらいの防御方法は必然だろう。
■国際的なコンソーシアムMOBIの取り組みは?
国際的なコンソーシアムのMOBIでは、自動車にまつわるシェアリングなどの取引・決済機会やサービスのプラットフォーム、トークン(デジタル権利証)の活用など多面的にブロックチェーン技術について研究しているようだ。
MOBIにはBMWや独ボッシュ、仏ルノー、米GM、米フォードなどをはじめ、日本からもホンダやデンソーらが参加している。将来、自動車業界におけるブロックチェーン技術の標準化や仮想通貨の導入など、データ環境や決済環境を一変させる大きな成果を上げる可能性もありそうだ。
■【まとめ】プラットフォームサービスや決済データベースへの導入も有力
現状のブロックチェーン技術においては、プラットフォームサービスや決済データベースへの導入などが有力だ。将来的に技術の革新が進み、より大きな個別データをリアルタイムに保存・参照できるようになれば、各自動運転車がLiDARなどのセンサーで取得した画像データなどの共有にも役立てることもできるかもしれない。
いずれにしろ、セキュリティ強化の視点から言えばブロックチェーン技術の導入促進は歓迎したいところ。各社の取り組みに期待したい。
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