モビリティの活用において、人の移動と同様重要視されるのがモノの輸送だ。タクシーやバスなど人の移動を担う自動運転モビリティの開発が盛んだが、負けず劣らず自動運転トラックや自動配送ロボットの開発なども世界各国で推し進められている。
この記事では、小売配送に着目し、サービス実証を含め実用化域に達している小売×自動運転の取り組みを紹介していく。
記事の目次
■楽天×西友×パナソニック
藤沢市やつくば市でサービス実証
早くからロボットやドローンを活用した配送サービス実現に取り組んでいた楽天は、西友とともに神奈川県横須賀市内で配送実証を行っている。2021年3月には、西友馬堀店から公道を走行して地域住民に商品を配送するサービス実証にも着手した。
配送エリアは馬堀海岸の200×120メートルの範囲内の住宅地で、同エリアから約5キロ離れた横須賀リサーチパークからロボットを遠隔監視する。配送可能な商品は約400点に及ぶという。
ロボットは、パナソニックが開発した「X-Area Robo」を使用している。同ロボットは、2022年4月に完全遠隔監視・操作型(フルリモート型)の公道走行許可審査に合格しており、従来ロボット近傍に配置していた保安要員なしでの走行を可能にしている。
パナソニックによると、同年5月から藤沢市内の商業施設から住民に商品を配送するサービス実証を行うほか、サービスプラットフォーム「X-Area」を活用し、焼き立てパンや野菜などを配送するサービス実証も行う予定としている。
また、楽天とパナソニック、西友の3社は、2022年5月から茨城県つくば市でもロボット配送サービスを開始している。つくば駅周辺の約1,000世帯を対象に、注文から最短30分で配送するオンデマンド配送を実現するという。
【参考】楽天×西友×パナソニックの取り組みについては「自動配送、「早さ」も追求!最短30分、楽天などが展開」も参照。
■ZMP×ENEOS×エニキャリ
小売27店参加の本格実証に着手
ロボット開発を手掛けるZMPは2021年2月、ENEOSホールディングスとデリバリーサービスのエニキャリとともに東京都中央区佃・月島エリアで自動宅配ロボット「DeliRo(デリロ)」を活用したデリバリー実証実験を行った。
エニキャリが注文・宅配プラットフォームを構築し、エネオスのサービスステーションを拠点に協力店舗の商品を宅配した。協力店舗は、磯丸水産、缘 台湾タピオカ専門店、喫茶パーラーふるさと、東京メロンパン、築地日進、のりまき屋、松屋、ミニストップポケット、焼肉スタミナ苑、ローソンの10店に上る。
2022年2月には、デリロを2カ所の設置拠点に配備し配送可能エリアを拡大する形で実証第2弾に着手している。注文可能な小売店も27店に増加しており、本格的なサービスインを見越した取り組みと言えそうだ。
【参考】ZMPなどの取り組みについては「ガソリンスタンドが自動運転宅配ロボの拠点!複数店舗の商品配達で実証実験」も参照。
■ソフトバンク×セブン‐イレブン・ジャパン
ビル内における無人配送の実証
ソフトバンクとセブン‐イレブン・ジャパン、及びソフトバンクグループ内でロボット関連事業を手掛けるアスラテックは、ソフトバンク本社が入居する「東京ポートシティ竹芝オフィスタワー」で、ビル内における無人配送の実証を2021年4月から本格的に実施している。
香港のRice Roboticsが開発した屋内向け配送ロボット「RICE(ライス)」を活用し、同ビル6階に入居するセブンイレブン店舗から上階のソフトバンク社員を対象に注文商品を配送する内容だ。
高層オフィスビルやマンションなどは上下の移動に時間を要するケースも多く、こうしたビル内における配送需要もしっかりと抑えておきたいところだ。
▼Rice Robotics公式サイト
https://www.ricerobotics.com/ja/
【参考】ソフトバンク×セブン‐イレブン・ジャパンの取り組みについては「「高層ビル×直営コンビニ」、自動運転宅配の普及で最有力!」も参照。
■Waymo×J.B. Hunt
パートナーシップ拡大し家具を配送
自動運転タクシーで先行する米Waymoは、自動運転トラックによる配送サービス「Waymo Via」の実用化にも力を入れている。
2021年にトラック輸送を手掛けるJ.B. Hunt Transport Servicesとパートナーシップを結び、テキサス州で貨物を輸送するパイロットプラグラムを実施した。総計86万2,000ポンド(約390トン)超の貨物を輸送したという。
2022年初頭に両社は自動運転輸送の実現に向けた長期ビジョンのもとパートナーシップを拡大し、同年6月にJ.B. Huntの顧客である家具・インテリア系ECを手掛けるWayfairを交え、6週間にわたり自動運転や配達、貨物の積み下ろしなど全般に渡るデータを収集し、評価・検証を進めていくことを発表した。
▼Waymo公式サイト
https://waymo.com/
▼J.B. Hunt公式サイト
https://www.jbhunt.com/
▼Wayfair公式サイト
https://www.wayfair.com/
【参考】WaymoとJ.B. Huntの取り組みについては「Google系Waymo、自動運転トラックで家具配送」も参照。
■Nuro×Kroger・Walmart
スーパーマーケット大手の商品を配送
車道を走行する小型の自動運転車(自動走行ロボット)の開発を進める米Nuro。これまでに米カリフォルニア州、テキサス州、アリゾナ州などで公道実証を行っており、配送パートナーも小売り大手のKroger(クローガー)やWalmart(ウォルマート)、宅配ピザ大手のDomino’s Pizza(ドミノ・ピザ)、薬局チェーン大手のCVS Pharmacy、セブン&アイ・ホールディングス傘下の米国法人7-Elevenなど着実に拡大している。
Nuroは2018年、Krogerとパートナーシップを結び、アリゾナ州スコッツデールで食料品を宅配するパイロットプログラムを開始した。配送料金5.95ドル(約700円)を徴収する有料サービスだ。
当初は乗用車を改造したセーフティドライバー付きの自動運転車で宅配を進め、課題を抽出した。配送回数が1,000回超となった年末に自動走行ロボット「R1」を導入し、後方から乗用車で追跡・監視しながらR1の無人走行を見守った。翌年にはテキサス州ヒューストンにもサービスを拡大している。
Walmartとは2019年12月にパートナーシップを交わし、ヒューストンでパイロットプラグロムに着手することが発表されている。
▼Nuro公式サイト
https://www.nuro.ai/
【参考】Nuro×Krogerの取り組みについては「米スーパー大手クローガー、自動運転車で無人宅配へ 元Google技術者のスタートアップが協力」も参照。
■Nuro×Domino・CVS
飲食や医療品の配送にも着手
ドミノ・ピザとは2019年6月に提携が発表されている。ドミノはクイックデリバリー企業として自動運転技術を最大限に活用し、デリバリーイノベーションの実現を目指している。
現在ヒューストンの一店舗で無期限のパイロットを実施している。一般的な配達と同様の有料サービスで、利用者はスマートフォンに送られてくるPINコードを使用して商品を受け取る仕組みだ。
また、Nuroはコロナ禍に差し掛かった2020年5月にCVS Pharmacyとの提携を発表し、ヒューストンで処方箋や日用品などを配送する取り組みにも着手している。
【参考】Nuro×Dominoについては「米Nuroの自動運転モビリティ、2019年内にドミノピザの配達開始へ」も参照。
■Nuro×セブン-イレブン
コンビニとのパートナーシップも
近々では、コンビニエンスチェーンを展開する米セブン-イレブンとの提携を2021年12月に発表している。カリフォルニア州マウンテンビューでオンラインストア「7NOW」からの購入を対象に自動運転車による配送を開始している。
■Cruise×ウォルマート
アリゾナ州やフロリダ州など3エリアでサービス展開
自動運転タクシーの開発を主力とするGM傘下のCruiseも、2020年11月にウォルマートとパートナーシップを結び、アリゾナ州スコッツデールで宅配パイロットを開始している。
自動運転タクシーの車両をそのまま使用し、後部座席に商品を乗せて配達しているようだ。Cruiseによると、スコッツデールのほかアリゾナ州チャンドラー、フロリダ州フェニックスでもサービスを提供している。
ウォルマートは2021年にCruiseの資金調達ラウンドに参加しており、両社の取り組みはまだまだ拡大しそうだ。
▼Cruise公式サイト
https://www.getcruise.com/
【参考】Cruise×ウォルマートについては「自動運転開発のGM Cruise、3兆円企業に!ウォルマートも出資」も参照。
■Gatik×ウォルマート
無人車両でミドルマイル配送を実現
自動運転トラックの開発を手掛ける米Gatikは、ウォルマートとミドルマイル配送に取り組んでいる。両社は2019年にパートナーシップを結び、バンタイプの自動運転車両を活用してウォルマートのメイン倉庫から各店舗に商品を配送する実証に着手した。
セーフティドライバー同乗のもと7万マイル(約11万キロ)以上の走行を重ねて安全性を確認し、2020年中には無人走行も開始している。ミドルマイルとなるハブアンドスポークを担う珍しい取り組みだ。
▼Gatik公式サイト
https://gatik.ai/
【参考】Gatik×ウォルマートの取り組みについては「米Walmartがついに完全無人の自動運転配送!Gatik社と共同で2021年から」も参照。
■Starship Technologies
配送回数300万回を突破
自動配送ロボット実用化の先駆け的存在の米Starship Technologiesは、2016年のパイロットプログラム着手以来、右肩上がりで導入が進み、世界で350万回の配送を達成している。
サービスは2022年7月現在、米国や英国、ドイツ、デンマーク、フィンランド、エストニアで提供されており、1日1万回の配送が行われる規模に達しているという。
小包や食料品、洗濯物、薬、花など、配達用コンテナ内に収まるものなら何でも配達可能だ。パートナー企業の全貌は不明だが、世界各地の生活協同組合(Co-op)や小売業の英Tesco、フードサービスを手掛ける仏Sodexo、小売大手の米Save Martなどが提携しているようだ。
▼Starship Technologies公式サイト
https://www.starship.xyz/
【参考】Starship Technologiesの取り組みについては「自動運転導入は大学キャンパスから!?米で100大学導入計画」も参照。
■Neubility×コリアセブン
コンビニから配送実証 2022年に取り組み拡大へ
韓国では、自動走行ロボットの開発を手掛けるスタートアップNeubilityと韓国のセブンイレブンが手を組み、2021年にソウル特別市の瑞草区内で配送実証を開始している。3ヶ月間の実証期間中にサービスエリアを半径300メートルまで拡張し、運営台数も増やしていく計画としている。ロボットは最終的に3台導入したようだ。
2022年10月からは、3カ月間に渡り多数店舗で多数のロボットを活用した近距離配送サービスモデルに挑戦する予定としている。
▼Neubility公式サイト
https://www.neubility.co.kr/
【参考】Neubility×コリアセブンの取り組みについては「韓国と米国のセブンイレブン、自動配送ロボや自動運転車で無人配送に挑戦」も参照。
■中国における取り組み
BtoB配送や移動販売が加速中
中国では、BtoCタイプの宅配ではなく、BtoB配送や移動販売用途で自動走行ロボットが活用されるケースが多い。
BtoB配送は、コロナ禍において病院への医薬品配送などで大きく需要を伸ばした。また、北京冬季オリンピックを契機にNeolixが無人ロボットを活用した移動コンビニエンスストアサービスを拡大している印象だ。
EC大手アリババは、大学構内をメインに自動配送ロボットを配置し、限定エリア内でサービス実証を加速している。
▼Alibaba公式サイト
https://www.alibabagroup.com/en/global/home
【参考】中国における取り組みについては「自動配送ロボット、中国で「爆発的拡大」の予兆」も参照。
■【まとめ】レベル4法施行で車道走行タイプの注目も高まる
米国では短距離・中距離の宅配サービスやミドルマイル輸送などでも自動運転配送サービスが実用化域に達し始めているようだ。
一方、日本では歩道を走行する小型ロボットによる宅配サービスが中心となっているが、今後、レベル4を可能にする法律が施行されれば、車道を走行するタイプの自動運転配送車・ロボットへの注目も高まり、実用化を目指す動きが加速するものと思われる。
日進月歩で進化する技術とサービスの動向に引き続き注目だ。
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