中国で現在、自動配送ロボットのサービス実証が大きく加速しているようだ。EC事業者やスタートアップの競争が白熱し、中国内各都市で導入を目指す動きが活発化している。
この記事では、開発・サービス各社の動向について解説していく。
記事の目次
■Neolix:武漢や大連などで導入事例多数、小売に注力
Neolix(新石器)は中国スタートアップの中ではいち早く自動配送ロボットの製品化を実現した。百度(バイドゥ)の「Project Apollo(アポロ計画)」に参画しながら開発を進め、2018年に初号機「SLV10」を発表している。
アリババや中東のECプラットフォーマーNoonなどがNeolix製ロボットを導入することが報じられるなど徐々に注目度が高まったことに加え、新型コロナウイルスの影響によるコンタクトレス(非接触)需要の高まりが追い風となり、実用実証の取り組みに弾みがついた。Noonは5,000台を注文したことが報じられている。
2020年の資金調達ラウンドA+で2億元(約34億円 )、2021年にはシリーズBを完了するなど、これまでの総調達額は4,330万ドル(約58億円)と推定されている。着実に集まる資金をもとに、2020年に3世代目となる「X3」の量産を開始した。
X3はモジュール方式を採用しており、宅配から小売、パトロールなどさまざまな用途に活用できることが特徴だ。
公式情報が乏しいため全てを把握しきれないものの、これまでに武漢や大連、広州、上海、北京などで導入されている。
2021年1月には、上海の浦東新区に40台以上のフード販売ロボットを導入させたと発表したほか、同年5月には北京市から公道走行ライセンスを取得したことが明らかになっている。北京でのライセンス取得に際し、Neolixは150台以上の無人車両を導入してコンビニエンスストアサービスを行う計画としている。
このほか、北京冬季オリンピックでも会場内外でさまざまなサービスを展開したものと思われる。現状、宅配ではなく小売に重点を置いてサービス展開を図っているのが特徴で、着実にサービスエリア・導入台数を増加している。今後の動向に要注目の1社だ。
▼Neolix公式サイト
http://www.neolix.ai/
【参考】Neolixについては「自動運転コンビニ、中国Neolixが150台超展開へ!北京が免許交付」も参照。
■アリババ:3年以内に1万台まで拡大
EC大手アリババは、グループ内で物流事業を手掛けるCainiaoやクラウドコンピューティング事業を行うAlibaba Cloudなどとともに自動配送ロボットの開発を進めている。
Cainiaoは2018年、LiDAR開発企業のRoboSenseとともに無人配送ロボット「G Plus(ジープラス)」を発表した。その後、2020年にはAlibaba Cloudが研究機関であるDAMOアカデミーの技術を搭載した自動配送ロボット「Xiaomanlv(小蛮驢/シャオマンリュ)」を発表した。
一度に約50個の荷物を運ぶことができ、1回の充電で100キロ走行できるという。製造と運用にかかる総コストを業界平均の3分の1に抑えるなど、価格競争力にも自信を持っているようだ。
同年11月のEC販促イベント「グローバルショッピングフェスティバル」において、 浙江大学に22台のXiaomanlvロボットを配備し、11日間のイベント終了までに約5万個の商品を配達したという。
2021年3月には、Xiaomanlvを中国内の15大学に配備したことを発表したほか、同年9月には、計200台のロボットが52都市で20万人以上の消費者に100万個以上の荷物を配達したと発表している。その後もロボット配備数を増加しており、2022年3月末までに計500台を導入し、延べ1,000万個以上の荷物を配達したという。
2022年中に大学キャンパスや地域コミュニティに1,000台のロボットを配備し、3年以内に1万台まで拡大する計画としている。1万台を導入すれば、1日平均100万個の商品を配達可能になるという。
▼Alibaba公式サイト
https://www.alibaba.com/
【参考】アリババの取り組みについては「遂に出揃ったAmazonとAlibabaの宅配ロボ!勝つのはどちら?ともに自動運転技術を搭載」も参照。
■京東集団:中国内20都市以上で走行
ロジスティクス全体の自動化を推進する京東集団(JD.com)は、2016年に第1世代となる自動配送ロボットを開発した後、2018年にはスタートアップのGo Further AI(長沙行深智能科技)と開発した自動配送ロボット「超影1000C」を発表するなど自動運転技術の導入にも積極的だ。
コロナ禍においては、2020年2月に武漢の病院へ医薬品を配送するなど実用化に向けた取り組みが大きく進展し、107日間で1万3,000個を超える荷物を配送したという。その後もシェアを拡大し、2021年4月時点で中国内の20都市以上で走行しているという。
2022年には、コロナの感染が拡大する上海に約50台の屋内配送ロボットと100台以上の屋外向け配送車両を送っている。上海に送られたロボットは最大200キログラムの商品を積載し、1回の充電で100キロ走行できるという。
▼JD.com公式サイト
https://corporate.jd.com/
【参考】京東集団の取り組みについては「「自動運転×物流」のJDロジスティクス、香港で上場へ スマート物流システムを開発」も参照。
■美団:スマート店舗との連携も
ECプラットフォームやフードデリバリー事業などを手掛ける美団(Meituan)は、2018年に初の自動配送ロボット「Xiaodai」を発表している。その後、技術見本市「CES 2019」では自動配送ソリューション「Meituan Autonomous Delivery(MAD)」を紹介した。
注文プラットフォーム、ディスパッチシステム、道路ネットワークロジスティクスを組み込んだドライバーレス配送の包括的ソリューションで、自動配送ロボットやドローンなどさまざまなインテリジェントデバイスを使用し、あらゆるニーズに対応していくという。
「CES 2020」では、仏サプライヤーValeoと共同開発した自動配送ロボット「Valeo eDeliver4U」が世界初公開された。長さ2.80×幅1.20×高さ1.70メートルとロボットとしては大型で、車道を走行するタイプだ。
2020年2月には、北京市順義区や海淀区で自動配送ロボット「魔袋(MAD)」の運用を開始する計画であることが報じられた。同年5月には北京市から公道走行ライセンスを取得しており、生鮮食品EC「美団買菜」の商品を配送するようだ。
同年10月には、AIを活用したスマート小売店「MAI Shop」を北京に開設したことが報じられている。注文が入ると、ロボットが在庫棚の中から商品をピックアップし、自動配送ロボットに受け渡す。自動配送ロボットは半径3キロの範囲で注文者のもとへ商品を配送するという。
▼美団公式サイト
https://about.meituan.com/home
■Haomo Zhixing:自動車メーカー系スタートアップも参入
自動車メーカーの長城汽車からスピンオフした自動運転開発スタートアップHaomo Zhixing(毫末智行科技)も、自動配送ロボットの開発と実用化に積極的だ。
自動配送ロボット「Little Magic Camel」は全天候型のレベル4で、配送や小売り、スマートセキュリティなどさまざまなシナリオに対応できるという。
北京市内の閉鎖空間で配送実証を行っているようで、2022年6月時点で配送回数は6万回を超えたようだ。長城汽車がバックボーンとなっているためロボットの年間生産能力はすでに5,000台規模に達しているという。今後注目の的となりそうだ。
▼Haomo Zhixing公式サイト
http://www.haomo.ai/
■【まとめ】わずか2年でロボット実働数は数百台規模に
新型コロナウイルスが本格流行し始めた2020年初頭に試験導入する動きが出始めてからわずか2年。実働するロボット総数は数百台規模まで膨れ上がり、2022年中には軽く1,000台を超える見込みだ。計画ベースでは、2025年には1万台を超える。
導入される都市も増加しており、サービスも宅配から小売りまで多様化している。競争激化を背景に各社の取り組みはますます加速するものと見られ、Excelland TechnologyやYours Technologiesといったスタートアップも今後続々と頭角を現してくる可能性が高い。
多くの知見を蓄えた各社は、ビジネス化の観点から今後どういった戦略でロボット事業を展開していくのか。先行する中国の動向に要注目だ。
【参考】関連記事としては「レベル4自動運転車、「量産」は中国の独壇場か 百度も大量製造へ」も参照。