ボッシュの自動運転・LiDAR戦略まとめ 日本や海外での取り組みは?

デンソーとの覇権争いの行方は?



ボッシュのフォルクマル・デナーCEO=出典:ボッシュ社プレスリリース

ドイツの自動車部品供給メーカー大手のボッシュ(本社:シュトゥットガルト/最高経営責任者:フォルクマル・デナー)。世界の自動車市場で日本のデンソーと覇権を争う世界最大級のサプライヤーだ。

日本同様自動車大国として知られるドイツが誇る名門会社は、グローバル化と自動運転開発の波が押し寄せる今、どのような戦略で次の時代を見据えているのか。その取り組みに迫った。


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■ボッシュの自動運転関連の取り組み
開発拠点は世界に125カ所以上

モビリティソリューションをはじめ、電動工具などの消費財、スマートエネルギーやビルディングテクノロジーなど幅広い事業分野を持つボッシュ。その開発拠点は世界125カ所に及ぶ(2017年時点)。

2018年4月には、自動運転やAI(人工知能)、センサーなどの開発を進める一大拠点を新たに米シリコンバレーに開所した。投資金額は3600万ユーロ(約47億円)。

これまでシリコンバレー北端側のパロアルトに置かれていた技術開発センターを、敷地面積や施設規模を拡大してサニーベルに移転した形。センターのスペースは従来より約40%広い約1万平方メートルに拡大され、最大300人が研究開発に従事できる規模になったという。

ボッシュは米国で研究開発活動を展開するにあたり、スタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校といった米国の有名大学と長年にわたり提携関係を構築しているほか、ピッツバーグのカーネギーメロン大学の近隣やボストンのマサチューセッツ工科大学(MIT)の向かいにも事務所を設置しているという。



日本国内での取り組み:2015年に実証実験スタート

ADAS(先進運転支援システム)・自動運転の開発にたずさわるエンジニアの数は約4000人に達しており、現在はドイツ、アメリカ、日本、中国の4カ国で公道試験を含む自動運転の開発を行っている。

日本では2015年に公道試験を開始しており、2016年にシステム開発部門を新設。自動運転に必要な製品ごとに存在する既存の組織の枠組みを超え、連携した開発体制を構築している。

2017年には、車載カメラおよびレーダーを使用した自車位置推定技術「ボッシュ・ロードシグニチャー」の開発に取り組んでおり、レーダーをベースにした自車位置推定による自動運転を日本の公道で実現した。

この技術は、量販車の車載カメラやレーダーといった車載センサーから得た情報を使用し、自動運転用高精度マップに必要なローカリゼーションレイヤーを作成するもの。このレイヤーをマッププロバイダーの高精度マップに統合したものを配信された自動運転車両は、車載センサーから入手した物体の情報とローカリゼーションレイヤーから得た関連情報を比較することで、自車位置を推定することができる。

日本は衛星情報が受信できないトンネルが多く、立体的に複数の階層で構成された高速道路など特有の道路環境を持っており、このような各国の開発で得られた知識や経験を各地のエンジニアたちが共有することで、全世界をサポートすることが可能な体制を整えていくこととしている。

ダイナミックマップ関連:インクリメントPと協業

ダイナミックマップ関連では、ボッシュはオランダの位置情報サービス大手HERE Technologies(ヒア・テクノロジーズ)の株式5%を2018年1月に取得し協業を進めているほか、日本ではパイオニアの100%子会社でマッププロバイダーのインクリメントP社と協力して実証実験を行っている。

このほか、交通情報プロバイダーのオランダTomTom社と2015年から提携関係を構築している。また、2017年4月には中国インターネット大手の百度(Baidu)などと高精度マップ作成に向けた提携協定を結んでいる。

2018年8月には、ボッシュ・グループ傘下のベンチャーキャピタル「Robert Bosch Venture Capital(RBVC)」が、HDマップの開発を手掛ける米スタートアップ企業「ディープマップ(DeepMap)」に出資したことも発表されている。

通信分野:NAV Allianceへ参加

ドイツ自動車メーカー大手のフォルクスワーゲン(VW)、通信用半導体開発を手掛ける米アクアンティア、ドイツ自動車部品大手のコンチネンタル、米半導体大手エヌビディアの4社とともに、自動運転車のネットワーキング・通信の標準化を目指す業界団体「NAV Alliance」を発足させた。

NAVは「Networking for Autonomous Vehicles」の略称。自動運転車の開発において各社が別々の通信規格で開発を進めた場合、各社の車両間での通信が複雑化し、開発費用も業界全体で高まることが予想される。NAV Allianceに参加する企業はこうした課題に共同で取り組む。

NAV Allianceは今後も多くの企業が加入することを望んでおり、自動運転業界全体で「標準化」への取り組みを加速していく構え。

■ボッシュのLiDAR関連の取り組み

ボッシュが2016年に開発中の自動運転車を公開した際、車両にはミリ波レーダーやステレオカメラ、LiDARなどのセンサー類が複数搭載されていたが、LiDARのみ自社製品ではなかったという。センサー類の開発を総合的に手掛けるボッシュとしては、各センサーが補完し合って周辺の環境をより正確に把握するセンサーシステムの構築に向け、LiDARを正式にラインナップに加えるタイミングを長らく図っていたものと思われる。

このLiDAR技術の確立に本格着手する契機となったのが、3D Flash LiDAR技術を持つ米スタートアップのTetraVue社だ。 RBVCが2017年2月、TetraVue社へ1000万ドル(約11億円)の投資を完了したことを発表し、技術提携が始まった。

TetraVue社は、時間と距離を計測して標準のCMOSセンサーで光学的強度を探ることができる「ライトスライサー」技術の特許を持っており、より幅広い距離にわたり超高解像度のイメージを捕捉できるできるという。データ転送時の遅延も小さく高い信頼性を発揮するほか、低コストも図れるなど、車載システムとしての要求を満たすと評価された。

TetraVue社はまた、2018年1月に米ラスベガスで開催されたCES2018において、高精細な「4D LiDAR」技術を発表している。HDビデオの解像度をレンジデータと統合し、業界初の長距離4Dモーションキャプチャーを可能としており、物体の位置や動きなどを100倍のリアルタイムデータで処理する能力を有するという。

2017年夏ごろには、ボッシュがLiDARの量産化を始める方針といった報道がなされており、高い技術を誇るMEMSセンサーを用いたLiDARの開発を加速化している模様だ。

■ボッシュの最近のニュース
事故データ解析ツールで世界一 日本にも本格導入

事故発生時の車両の状態を記録するEDR(Event Data Recorder・イベントデータレコーダー)と、EDRからデータを取り出すためのツールであるCDR(Crash Data Retrieval・クラッシュデータリトリーバル)の分野でも、世界のリーディングを走っている。

ボッシュのCDRは2017年時点で自動車メーカー17社、51ブランドのEDRに対応しており、世界一を誇る。2017年末より日本国内でもCDRのハードウェアとデータ解析トレーニングをパッケージで提供開始しており、国内の自動車メーカーをはじめ科学警察研究所や警視庁などの警察組織、損害保険会社などさまざまな企業や機関がCDRの導入を進めているという。

ダイムラーと自動運転実験へ ライドシェア実証実験も開始

自動車メーカー大手ダイムラーと、自動運転車両によるシャトルサービスの実証実験を米カリフォルニア州のシリコンバレーで2019年後半から行うことを2018年7月に発表した。

両社は完全自動運転車の開発に向け2017年4月から協業しており、独シュトゥットガルト近郊やシリコンバレーの開発拠点において共同作業を進めている。

実験車両は、ボッシュが開発したセンサーやコントロールユニットを組み込んだバッテリー駆動のダイムラー車を使用する。センサーから送られる膨大な量のデータを処理するAI(人工知能)プラットフォームには、米半導体大手エヌビディア製品が採用されている。

また、2018年11月には、両社がサンノゼで自動運転車両のオンデマンドライドシェアサービスの実証実験を開始したことも発表されている。

ダイムラーのメルセデス・ベンツSクラスの自動運転車両を使用し、市街地とサンノゼ西部の間に位置するサンカルロス・スティーブンスクリークの特定のユーザーコミュニティにサービスを提供する計画で、カーシェアやライドシェア、マルチモーダルプラットフォームといったモビリティサービスをどのようにインテリジェントに結びつけることができるかなど検証することとしている。

【参考】ダイムラーとの協業については「ボッシュ&ダイムラー、エヌビディアAIで自動運転実験へ 米シリコンバレー」も参照。ダイムラーの自動運転戦略については「ダイムラーの自動運転戦略まとめ 計画や提携状況を解説」も参照。

整備工場向けADASエーミングツールを発売

ボッシュは2018年10月から、一般整備工場向けにADASエーミングツールを発売すると発表した。補正整備を正確かつ効率的に行うためのツールで、作業トレーニングや一定の作業精度を保つための環境整備の監査・測量なども定期的に提供する。

ADASの新車搭載率は2016年時点で約66%まで増加しており、修理の際の微妙なズレや誤装着がシステム停止などの原因になっている。

今回発表したエーミングツール「SCT415・P アシストポール」「ターゲットボード」は、高い汎用性により輸入車・国産車問わず幅広い車種、システムに対応が可能で、今後発売される新車種や新システムへの拡張も可能という。

■多岐に及ぶ戦略的パートナーシップで自動運転の早期実現へ

他の企業と戦略的パートナーシップを結び、多くのパイロットプロジェクトと研究プロジェクトを展開する姿が目立ち、その範囲は高性能センサーやネットワーク化された車載システムの開発をはじめ、高精細デジタルマップの作成、市街地での完全自動運転システムにまで及んでいる。

こういった協業は、自動運転の実現は一社で完結しないことを物語っており、開発時における相乗効果のみならず、自動運転における安全性の確立や早期実現を果たすために必須の取り組みとなっている。

ライバル社のデンソーも経営体制の強化に向け組織改革を推し進めており、この巨大サプライヤー2社による覇権争いは、今後も長く続きそうだ。

【参考】デンソーの戦略については「デンソーの自動運転・LiDAR戦略まとめ 開発・提携状況を解説」も参照。


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