デンソーの自動運転・LiDAR戦略まとめ 開発・提携状況を解説

総合力武器に新時代のサプライヤーへ


世界でも指折りの自動車部品メーカー・デンソー。トヨタグループの中核的存在として有名だが、その得意先はトヨタ、ダイハツ、日野のトヨタグループをはじめ、ホンダ、マツダ、スズキ、SUBARU、日産、三菱、いすゞ、FCA、GM、VW、AUDI、BMW、現代・起亜、ボルボ、ベンツなど、世界の主要自動車メーカーを網羅するグローバル企業だ。







自動運転時代の到来により大変革の真っ只中にある今、部品メーカーはどのように変わろうとしているのか。また、どのように変わらねばならないのか。部品メーカーの代表格であるデンソーの取り組みを通して、将来の在り方に近づいてみたいと思う。

記事の目次

■デンソーの自動運転ビジョン

2020年に向けて重点的に取り組む分野と課題を示した「長期方針」において、電動化、ADAS(高度運転支援システム)・自動運転、コネクテッド、FA(ファクトリー・オートメーション)事業を注力分野として定め、長年培ってきた研究開発やモノづくり、ヒトづくりという強みを生かして「第2の創業」を実現していくこととしている。

ADAS・自動運転では、すべての人が安心・安全に移動できるモビリティ社会を目指し、自動運転技術のリーディングカンパニーとして開発を推進する。また、先端技術の開発やリソーセスの拡充を目的として、大手企業やベンチャー企業など、パートナーとの連携を強化していく。

2020年度にはADAS分野で売上高2000億円、インフォメーション&セーフティシステム事業グループ全体で売上高1兆円を達成することを目標としている。

また、コネクテッドの分野では、エンドユーザー視点でのモビリティサービスの提供を視野に社外パートナーとの連携を積極的に進め、ユニークな技術や新たなビジネスモデルを持つベンチャー企業に出資していくほか、商用車を扱う運輸・旅客事業向けのコネクテッドサービス事業推進部を新設し、交通事故の低減や省燃費につながる運行管理などのサービス開発・提供を行っていく方針だ。

■デンソーの製品開発戦略

ADAS・自動運転の実現のために必要な「走行環境・認識」「HMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)」「情報通信」「車両運動制御」の4つの分野をすべて保有し、それらの協調を想定した開発ができること、またこれらの分野を支える「基礎研究」を合わせた総合力がデンソーの強みだ。

自動運転においては以下の5つのキーファンクションを設定し、製品開発を進めている。

周りを見る:ヒトの視覚能力を超える知覚実現へ

ミリ波レーダーや画像センサーなどの各種センサーを組み合わせることにより、ヒトの視覚能力を超える知覚の実現を目指している。悪環境下での安全な走行エリアの把握はもちろんのこと、死角や見落としの減少、誤認識による不要動作を防ぐなど、あらゆる状況を想定した開発を進めている。

LiDAR(ライダー)は、1996年に商用車向けに横にビームをスキャンするLiDARを商品化したのを皮切りに、翌年には乗用車向けに縦・横の2次元にビームをスキャンする製品を世界で初めて開発し、商品化している。

ミリ波レーダーは2003年に車載レーダーとして世界で初めてデジタルビームフォーミングと呼ばれる電子スキャン方式を採用した製品を開発し、商品化している。トヨタ自動車のミディアム・上級車向けの予防安全パッケージに画像センサーとともに搭載されている。

画像センサーは、高精度なレンズ歪み補正とステレオマッチング技術を組み合わせ、レンズの中心間隔を従来品の約半分となる80mmまで短縮するなど、世界最小(2016年11月時点)のステレオ画像センサーの開発に成功している。

周囲認識領域ではこのほか、周辺監視ECU(電子制御コンピューター)や走行支援ECUなど各種ECUも開発している。

先を読む:より早くより正確な先読み情報を

正確な現在位置を把握できるADASロケーターと、通信手段であるV2X・DCM(TCU)を組み合わせることにより、見えない前方の状況をより早く、より正確に伝えることを目指している。

V2X車載器では、1997年に高速無線LAN無線機のプロトタイプを開発し、2000年に技術基準適合証明を取得。2006年には、700MHz帯V2X実験機を試作し、国内における各社の通信実験に提供し、標準規格の策定に繋げた。

人とつながる:人とクルマのコミュニケーション

人とクルマのコミュニケーションを高めることで、ドライバーが安心してシートに身を委ねられるような移動空間の提供を目指している。

顔向きや開眼状況、視線などを検知するドライバーステータスモニター(DSM)では、常にドライバーの状態を見守り、突然の容体変化や眠気などを即座に感知する。 また、ドライバーの状態にあわせ、スムーズに自動運転から手動運転へと切り替えるシステムを開発している。

製品としては、DSMのほかHUD(ヘッドアップディスプレイ)やコンビネーションメーター、カーナビゲーションシステム、HMI制御ユニット、リモートタッチコントローラー、スマートECUなどが挙げられる。

社会とつながる:クルマと社会のコミュニケーション

クルマを社会のさまざまな情報網とつなげ、より快適で楽しい移動の提供を目指している。安全で快適な自動駐車をはじめ、クルマと公共交通機関との連携をスムーズに行うマルチモダール、最新の機能を実現するクルマのソフトウエアアップデートなど、さまざまなことが可能になる。

製品としては、DCM (TCU)やV2X 車載器、IVIシステム、車両運用システムなどが挙げられる。

もしもに備える:車を守る情報セキュリティシステム構築へ

未来の事故を未然に防ぐため、クルマの高度な情報セキュリティ化を進めていくこととしている。

自動運転においては、外部から指示系統にハッキングし、車をコントロールするなど新しい種類の交通事故が予想されるため、多層防御システムを提唱し、車を攻撃する情報操作の脅威から守ることを目指す。

また、世界で初めて2系統EPS(電動パワーステアリング)を開発。片側の系統に問題が発生しても、残り1系統でステア機能を維持するなど、万一に備えたシステム開発を行っている。

製品としてはこのほか、車輪速センサーやセキュリティカメラ、エアバッグECU、歩行者衝突検知センサ、タイヤ空気圧モニタECU、ゲートウェイECUなどが挙げられる。

■デンソーの開発拠点
東京支社:移転拡張し機能強化 総合的な開発拠点へ

安心・安全分野を中心とする先端技術開発の推進、新事業・新技術分野の開拓に向け、2016年1月に東京支社を移転、拡張した。最先端の技術トレンドの的確な把握や、官公庁や大学・研究機関などとのさらなる連携、高度人材の継続的採用などを行っているほか、エンドユーザー視点からの事業探索や、ユーザーニーズのタイムリーな調査分析などの活動も行っている。

デンソーアイティーラボラトリ(ITラボ):ソフトウェアの研究開発に特化

ソフトウェアの研究開発に特化した会社で、2000年に設立された。デンソーの枠にとらわれない自由な発想で研究を進めており、AIの研究では、デンソー基礎研究所とITラボのメンバーが集結し協同して研究を進めている。

デンソーテン:子会社化で一体的な開発体制構築

富士通テン株式会社の主要株主であるデンソー、富士通、トヨタ自動車が合意に基づき、2017年にデンソーが出資比率を10%から51%へ変更した。

両社一体となって共に成長していく想いを持って新社名をデンソーテンに変更し、グループ会社として車載ECUやミリ波レーダー、高度運転支援・自動運転技術および電子基盤技術の開発などにおける協業を強化し、事業の発展を図っていくこととしている。

エヌエスアイテクス:半導体IP設計の新会社

自動運転用半導体のキー技術となる半導体IPの開発・設計を行う新会社として2017年に設立。各種センサーや車外から入手した周辺環境の膨大な情報を高速かつ効率的に処理し、最適なクルマの動作を判断する新しいアーキテクチャーの次世代プロセッサーを開発する。

また、開発したプロセッサーは半導体IPとして幅広く車載用マイコン・SoCメーカーへライセンス販売している。

先端技術研究所:将来に向けた先端技術研究の体制強化へ

電動化や自動運転、コネクテッドなど、激動を迎える自動車業界において、先端研究を強化することを狙い、2017年に従来の基礎研究所を先端技術研究所へと名称変更し、最先端技術の研究領域における役割を明確化した。

次世代半導体、先端機能材料、HMI、バイオなどの研究を主に行っている。

Global R&D Tokyo:自動運転分野の新拠点 R&D機能集約へ

ADAS・自動運転やコネクテッド分野の研究開発を行う拠点として、2018年4月に東京都港区に開設した新オフィス。本社や東京支社のR&D機能の一部を移転・集結し、今後さらに人材採用を拡大し、2020年代前半にかけて研究開発機能を強化する予定。

新オフィスのR&D組織は、自ら先端技術開発に取り組むだけでなく、本社と共に世界のサテライトR&D拠点を総括し、開発をリードする。また、世界中の大学や研究機関、スタートアップ企業など、さまざまなパートナーと一緒に、各地域特性を生かした新しい技術開発を行うとともに、ビジネス構想を描き、迅速に具現化させ、よりユーザーのニーズに沿った競争力のある製品開発を推進することとしている。

シリコンバレーイノベーションセンター(SVIC):シリコンバレーとの接点

米国シリコンバレーのベンチャー企業や大学との共同開発をはじめ、シリコンバレーの特長を活かした研究開発を行う拠点として、2011年に設立された。世界のイノベーションの源泉である地で、トレンドの兆しをとらえ、活用に結びつけている。AIの分野では、アルゴリズム研究などの一翼を担っている。

北米の拠点(デトロイト、シリコンバレー、サンディエゴ):最先端地域で技術開発を推進

自動車産業が集積するデトロイトや、IT企業と革新的事業モデルが集積する西海岸(シリコンバレー、サンディエゴ)において、現地の道路環境や交通事情を見極めつつ、社会のニーズに応えるため、現地のカーメーカーはもちろん、カーネギーメロン大学やマサチューセッツ工科大学などトップ大学や先端企業との共同研究・開発を通して最先端技術開発に取り組んでいる。

欧州の拠点(ミュンヘン、アーヘン、リンダウ、ヨーテボリ):最新の業界動向を取り入れた技術開発

世界に先駆けて安全規制の強化が進む欧州において、ドイツやスウェーデンで技術開発を行っている。ドイツのリンダウでは、安全分野の技術開発を強化するため、欧州における最先端の画像認識技術の開発拠点としてデンソーADASエンジニアリングサービス社を2016年に設立し、センシング技術の開発強化を加速している。

アジアの拠点 :シンガポールで行政と連携した共同研究

シンガポールでは行政と企業、研究機関が連携した共同研究や実証実験が積極的に行われており、デンソーもシンガポール科学技術庁と連携した共同研究を行っている。

■提携・協業状況
東芝:画像認識システム向けAI技術(DNN-IP)で共同開発

株式会社東芝とADASや自動運転技術の実現に向け、両社がそれぞれ自主開発を行ってきた画像認識システム向けのAI技術(DNN-IP:Deep Neural Network-Intellectual Property)に関し、共同で開発を行うことについて2016年に合意している。

また、2018年には、東芝デジタルソリューションズ株式会社と東芝情報システム株式会社と資本提携に関する契約を締結し、戦略パートナーとして組込ソフトウェア事業やIoTを活用したモノづくりなどにおける協業関係や資本関係の強化検討を進め、競争力を強化していく構えだ。

ソニー:車載用画像センサーにソニーのイメージセンサーを搭載

デンソーが開発する車載用画像センサーに、ソニーセミコンダクターソリューションズ社のイメージセンサを搭載することで、カメラの高性能化を実現している。

夜間における歩行者認識が可能となり、重大な事故につながる可能性が高い夜間の歩行者事故の低減を図っている。

NEC:AIやIoTを活用した自動運転分野で協業

ADASや自動運転およびモノづくりの分野で協業を開始することを2016年に発表。デンソーが自動車市場で培った高度な技術力・モノづくりの力と、NECがICTによる事業で培ったAIやIoT、セキュリティなどの先進技術とシステム構築・運用の豊富な実績を生かし、安全・安心を実現する製品の共同開発を行うこととしている。

FotoNation:顔画像処理とニューラルネットワーク技術で協業

米Xperi Corporation傘下のFotoNation(本社:アイルランド)と、車室内検知分野の共同技術開発を開始することを2017年に発表している。

これまで自社で培ってきた車載環境における認識のロバスト性向上技術とFotoNationの先進的な顔画像認識やニューラルネットワーク技術を融合し、デンソーが商用車向けに提供している先進安全製品「ドライバーステータスモニター」の性能を飛躍的に向上させ、自動運転時の運転権限移譲のための状態判定など、乗用車市場への今後の拡大を見据えた次世代型製品開発を加速することとしている。

■デンソーの重要関連ニュース

提携・協業のほか、新会社設立の動きも近年際立っており、エンジニアなど人材の強化も積極的に起こっているようだ。

マツダ・トヨタ自動車:電気自動車の共同技術開発契約を締結

電気自動車の基本構造に関する共同技術開発に向けた契約を締結し、共同技術開発を効率的に進めるために新会社「EV C.A. Spirit」を2017年に設立している。

新会社では、マツダの一括企画やモデルベース開発、トヨタのTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)、デンソーのエレクトロニクス技術など各社の強みを持ち寄り、開発手法そのものを見直して各社のリソーセスをクルマ本来の価値追求に費やすことで、それぞれのブランド独自の付加価値のあるクルマを追及していく。

イーソル株式会社・NEC通信システムと車載用電子システムのソフト開発の強化に向け合弁会社設立

車載用電子システムを開発するデンソーと、車載分野で実績が豊富な組込みソフトウェアの開発を行うイーソル社、ネットワークシステムや組込みシステムに関する大規模ソフトウェアを開発するNEC通信システム社の3社で、車載用電子システムの基本ソフトウェアや関連ツールの開発を行う合弁会社「株式会社 オーバス」を2016年に設立し、開発・販売体制を整えることとしている。

NECプラットフォームズと車載用情報通信機器を開発する合弁会社を設立

メーター、ヘッドアップディスプレイ、車載通信機など、車載用の情報通信機器を開発する合弁会社「株式会社デンソーネクスト」を2017年に設立した。

新会社では、自動車部品の開発に精通したデンソーの技術者と、IT・ネットワーク技術に精通し自動車部品の開発経験もあるNECプラットフォームズの技術者が、NECの玉川事業場(神奈川県川崎市)において共同で製品開発を行う。

NRIセキュアテクノロジーズとサイバーセキュリティ事業に向け合弁会社を設立

NRIセキュアテクノロジーズと、車載電子製品のセキュリティ診断を中心としたサイバーセキュリティ事業を行う合弁会社「株式会社NDIAS」(エヌディアス)を設立することに合意した。新会社は2018年12月に設立する予定。

野村総合研究所グループのセキュリティ事業の中核を担うNRIセキュアが培ってきた金融システム、重要インフラや民生機器の分野において培ったセキュリティ診断、コンサルティング事業のノウハウをいかし、ホワイトハッカーとして自動車の開発段階から量産後に必要となる対応まで一貫した車載電子製品のセキュリティ診断およびコンサルティング業務を行っていくこととしている。

自動車メーター用ソフトウェア開発に向け中国・光庭と合弁会社設立へ

自動車向けソフトウェアの設計・開発を行う中国の光庭(本社:湖北省武漢市)と、合弁会社「電装光庭汽車電子有限公司」を設立することに合意した。新会社は2018年12月に設立する予定。

両社はこれまでも中国における開発パートナーとして、メーター向けソフトウェアの共同開発を行っており、光庭の持つノウハウや開発リソーセスを生かし、現地で求められるニーズに応じた次世代のデジタルメーターの製品化を加速する構えだ。

トヨタ自動車グループ4社でソフトウェア開発に向け新会社設立

デンソー、アイシン精機、アドヴィックス、ジェイテクトの4社で、自動運転時にセンサーやブレーキなどを一括制御する「統合ECU(電子制御ユニット)」と呼ばれるソフトウェアの開発を行う新会社の設立を発表している。新会社は2019年3月の設立を目指している。

自動運転技術開発に向け人材を大規模社内公募

自動運転分野での競争力を高めるために、同分野の研究開発により多くの人材を配置する方針を2018年9月28日までに発表した。具体的には、社内公募で同分野に携わる約100人を公募する。

■コーディネーター的役割も

デンソーはここ数年、提携や協業、新会社設立の動きが際立って多い印象で、自社の強みと他社の持ち味を生かした新たな開発体制を急速に整えている。しかし、決して他社に依存するわけではなく、自社内部の開発体制も適材適所に集約しており、トヨタ自動車同様にモビリティ社会の大変革・パラダイムシフトに備えた組織再編を進めているようだ。

自動運転車は自動車メーカー単体では成り立たず、高いセンシング技術を持った事業者やIT事業者、通信事業者、コンテンツ事業者など各分野に高い能力を持った事業者の協力が必要不可欠で、提携や買収なども盛んに行われ始めているが、デンソーが両社の間に入ることで開発から組み込みに至るまでの技術的な標準化が図られ、生産性の向上や低コスト化につながる可能性がある。

総合部品メーカーとして、こういったコーディネーター的役割も今後求められるのかもしれない。







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