VW(フォルクスワーゲン)の自動運転戦略とは? 開発の進捗やロードマップは?

コンセプトカー「ID.」2020年にも市場へ



VWのハーバート・ディエス最高経営責任者(CEO)=出典:フォルクスワーゲン公式ウェブサイト

大衆車から高級スポーツカー、バス、トラックに至るまで幅広いブランドが集結しているフォルクスワーゲン(VW)グループ。今や年間新車販売台数1000万台を超す世界最大級の自動車メーカーグループとなっている。

多彩なブランドが揃う同グループだが、スポーツカーブランドと大衆ブランドでは当然自動車に対する考え方が異なり、自動運転に対するアプローチなども当然異なるはずだ。


このバラエティー豊かな面々を統括するグループとして、いったいどのような戦略をとっているのか。また、ブランド各社の動向はどうなっているのか。中核のフォルクスワーゲンを中心に調べてみた。

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■VWのグループ概要
フォルクスワーゲン(グループ)の沿革

フォルクスワーゲンの起源は、第二次世界大戦を控えたナチス政権の国策に端を発する。国民車(フォルクスワーゲン)を作るため1937年に準備会社が設立され、翌1938年に製造会社となった。しかし1939年に大戦が始まり、軍用車両の製造に特化することとなった。

終戦後、イギリス軍の管理下で組織改編・工場が復興され、「ビートル」の愛称で知られる「フォルクスワーゲン・タイプ1」の本格生産が始まった。なお、ビートルは2003年の生産中止までに約2153万台が生産され、4輪乗用車の最多生産記録を持っている。また、設計はポルシェの生みの親であるフェルディナント・ポルシェ氏が手掛けている。

1960年に民営化され、1965年には現アウディの前身となるアントウニオンを買収。1990年ごろから組織の拡大路線が進み、シュコダ、セアト、ベントレー、ブガッティ、ランボルギーニなど次々と傘下に収めていった。2007年には、業務提携関係にあったポルシェと経営統合している。


現在はフォルクスワーゲンを筆頭にアウディなど12ブランドを抱え、グループ全体での自動車販売台数は世界1位となっている。

組織体制見直しへ グループ再編検討

ドイツに本拠地を構えるフォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェ、バスを手掛けるMAN、フォルクスワーゲン商用車をはじめ、イタリアのランボルギーニ、ドゥカティ(2輪車)、スペインのセアト、チェコのシュコダ、イギリスのベントレー、フランスのブガッティ、スウェーデンのスカニアの計12ブランドがグループに名を連ねている。

グループの経営に関しては、2018年4月に行われた取締役会・監査役会で大幅な見直しを行うことを決議しており、各ブランドを「Volume(ボリューム)」「Premium(プレミアム)「Super Premium(スーパープレミアム)」の3グループに編成し、経営合理化を進めていく方針を打ち出している。また、トラック・バス部門の上場に向けた準備も計画しているという。

また、グループ全体の戦略「TOGETHER – Strategy 2025」では、高度に自動化された運転機能を2021年から競合他社を上回る形で市場に出すこととしており、アウディの指揮のもと、グループ全体の自動運転システムを開発する企業が設立されているという。


グループとして2017年に発表した自動運転コンセプトカー「SEDRIC」(SElf DRIving Car/自動運転車両)は、自家用・共用モビリティ向けユニバーサルコンセプトとして自動運転レベル5を備えたEVで、2018年には最新バージョンとなる「SEDRIC School Bus(セドリック スクールバス)」も発表している。すべての操作をボタンやボイスコントロール、スマホアプリで行うことができ、ドアーツードアの移動を可能にするという。

他社との提携状況は?

フォルクスワーゲングループとしてさまざまな自動車関連会社と提携や協業などを行っており、2018年6月には米フォード社と商用車の共同開発を柱に協業していくことが発表されている。

また、自動運転におけるネットワーク・通信の標準化に向け、2018年7月までに通信用半導体開発を手掛ける米アクアンティアやドイツ自動車部品大手のボッシュとコンチネンタル、米半導体大手エヌビディアの4社と業界団体「NAV Alliance」を発足させている。自動運転業界全体で通信の標準化を加速する構えだ。

■VWグループ各社の自動運転戦略の概要
フォルクスワーゲン:自動運転EVコンセプトカー4種を発表 2020年にも市場へ

e‐モビリティ(電動化)、自動運転、コネクティビティ、新しいモビリティサービスといった未来の主要なテクノロジーに対して、2022年末までに340億ユーロ(約4兆3600億円)以上を投資すると発表している。

2017年秋に発表した電化に関するロードマップでは、2022年末までにEVの生産拠点を16カ所に拡大し、2025年までに最大で300万台のEVを生産し、グループ全体で80モデルの新しい車両を市場に導入する計画を発表している。これに向け、すでに欧州や中国のバッテリーメーカーとパートナーシップ契約を締結している。

フォルクスワーゲンの未来のパーソナルモビリティに対する取り組みを体現したコンセプトカーは「ID.(アイディー)」モデルと呼ばれ、これまでにコンパクトEVの「ID.」、バスタイプの「ID.BUZZ」、SUVタイプの「ID. CROZZ」、そして未来的なインテリアと操作コンセプトを盛り込んだ最新の「ID. VIZZION」の4種が発表されている。

「ID.BUZZ」発表時に公開された自動運転機能「ID.Pilot」は、ドライバーがハンドルから手を離すと同時にシステムが運転を引き継ぎ、車内の照明は集中しやすい白色から暖かくリラックスした雰囲気のものへと変化するという。車両の状況はタブレットやAR(拡張現実)ヘッドアップディスプレイで確認することができ、超音波センサーやレーダーセンサー、両サイドとフロント・リヤカメラによるサポートにより、他の車や交通状況を把握する。交通データは常にクラウド経由でアップデートされ、データとして蓄積されるという。

また、「ID. VIZZION」は、数多くのアシスタンスシステムを備えた「デジタルショーファー」により、ステアリングホイールや目に見える操作類を使わずにクルマを制御することを想定しており、ドライバーをはじめとした乗員は、ボイスコントロールやジェスチャーコントロールによって、個人的な好みを学習し各乗員に個別に対応可能なバーチャルホストとコミュニケーションを取ることが可能という。

これらのコンセプトモデルは、まず2020年にコンパクトクラスのEV「ID.」を発売し、その後間もなくしてSUVの「ID. CROZZ」、「ID. BUZZ」を続けて発売する予定という。

なお、現行車種については、「Golf」シリーズや「Passat」、「New Arteon」「Golf Variant」「Golf Alltrack」「Passat Variant」「Tiguan」「Golf Touran」など多くの車種に最新の自動運転レベル2の技術を搭載している。

コネクテッドの分野では、2018年10月までに米マイクロソフト社とクラウドの基礎技術や基盤の確立に向け提携することが発表されている。

アウディ:グループ内では自動運転開発の先頭を走る

自動運転レベル3搭載の「Audi A8」を2017年に発売するなど、フォルクスワーゲングループの中でも先陣を切って自動運転の実現化を進めている。

今後は、より高機能化したレベル3の「ハイウェイパイロット」を2020年から2021年に導入する予定で、出入制限のある高速道路において制限速度内のハンズフリー走行が可能になり、車線変更や追い越しも可能になるという。

このほか、2017年のフランクフルトモーターショーで発表した「Audi Aicon(アイコン)」をベースにした完全自動運転EVを、2021年に発表することとしている。ステアリングやペダル類を排除し、ラウンジのようなインテリアデザインが特徴で、当初は都市間を結ぶシャトルとして公道における試験走行を開始し、2020年代の半ばに自動運転車として生産を開始する予定という。

【参考】アウディの自動運転戦略については「アウディの自動運転戦略まとめ 車種一覧やA8が備える機能」も参照。

ポルシェ:新型マカンや911にADAS搭載

最新のADAS(先進運転支援システム)を搭載した新型改良モデル「ポルシェ・マカン(Porsche Macan)」を2018年8月までに中国・上海市で発表しているほか、「911」の新モデルにも、高速道路の走行時に車線を維持する先進運転支援システムを装備する計画を発表している。

その一方、自動運転技術の導入には慎重な姿勢も示している。ポルシェ幹部の一人は、人間が運転することを前提にした技術搭載がポルシェの方針であることを表明しており、最終的には運転手が自動運転と手動運転を選べるようにすることも念頭にしているようだ。

【参考】ポルシェの自動運転機能については「ドイツ・ポルシェ、部分自動運転搭載の新型マカン発表 911の新モデルにも」も参照。

ランボルギーニ:新型ウルスにADAS搭載

超高級路線のランボルギーニは、新型SUVの「Urus(ウルス)」に最新のセーフティー&アシスタンス・システムを搭載した。「アーバン・ロード」「ハイウェイ」「フルADAC」の3つの異なるADASパッケージが取り扱われている。完全自動運転に対しては、ポルシェ同様否定的な立場をとっているようだ。

ベントレーなどその他のブランドも追随

ベントレーは、最新の「ベンテイガV8」に、アダプティブクルーズコントロール、ナイトビジョン、ベントレーセーフガードプラス、ハイビームアシストといった機能を搭載している。また、新型の「コンチネンタルGT」には、アダプティブクルーズコントロールなどのほか、歩行者警告やレーンアシスト、ベントレーセーフガードプラス衝突防止システムといった安全装備がオプションとして用意されている。

一方、セアトとフォルクスワーゲングループは2018年7月、中国のJAC(安徽江淮汽車集団)と3社で自動運転技術などを開発する研究開発センターの設立を発表している。新たな拠点では、自動運転のほかEVやコネクテッド機能などについても開発を進める予定という。

このほか、シュコダも2017年の上海モーターショーで自動運転レベル3を搭載したSUVタイプのEVコンセプトカー「ビジョンE」を発表している。

■アウディが先陣 フォルクスワーゲンは商用車から先行か

自動運転技術の開発や実用化においては、乗用車部門ではアウディが突出する形で先陣を切っており、他のブランドがそれに追随する状況だ。

フォルクスワーゲンやフォルクスワーゲングループは、シャトルバスなど商用車部門に力を入れているイメージがある。乗用車はアウディの技術からアプローチを図り、レベル4、5の商用車の早期実用化に向け開発を加速している印象だ。

一方、高級スポーツカーメーカーは当然ながら「運転の楽しさ」を優先する傾向があり、独自路線を貫く構えを見せている。

いずれにしろ、世界最大の自動車メーカーグループならではの幅広い開発能力と販売・生産能力は同業他社にとっては脅威で、協業を進める中国市場をバックにますます勢力を拡大する可能性もある。

また、法整備や通信、インフラ整備における標準規格化などの面においても強い影響力を持ちうることから、今後もさまざまな分野で主導権争いに加わるグループであることに間違いないだろう。


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