高速通信を可能にする第5世代移動通信システム「5G」の商用化がスタートした。自動運転の実現に必須と言われる通信方式だが、最近では「ローカル5G」というワードもよく耳にするようになった。
ローカル5Gとは何か。自動運転の実証実験においてすでに活用が検討されているローカル5Gについて解説していく。
■ローカル5Gとは?
「5G」は携帯電話やスマートフォンの移動通信システムで、高速かつ低遅延、多数同時接続が特徴だ。NTTドコモやソフトバンク、KDDI、楽天といったキャリアがサービスを提供しており、これを5G、またはパブリック5G、キャリア5Gと呼ぶ。
対して「ローカル5G」は、地域や産業の個別ニーズに応じて企業や自治体といったさまざまな主体が柔軟に構築できる5Gシステムを指す。キャリアによるエリア展開が遅れている地域においても導入可能で、使用用途に応じて自立したネットワークを構築可能なほか、他の場所の通信障害や災害などの影響も受けにくく、セキュリティ上のメリットもあるという。
5Gの早期普及に力を入れる総務省は、ローカル5G導入に向け2019年12月にガイドラインを発表している。これによると、当面は「自己の建物内」または「自己の土地内」での利用を基本とし、建物や土地の所有者が自らローカル5Gの無線局免許を取得、あるいは依頼を受けた者が免許を取得し、システム構築することも可能としている。
電波法上の手続きとしては、基地局は個別の免許申請が必要だが、端末は包括免許の対象として手続きを簡素化している。また、電気通信事業法上、ローカル5Gを実現するサービス形態により電気通信事業の登録または届出が必要としている。
原則としてキャリア事業者はローカル5Gの免許を取得できず、キャリアが自社サービスの補完としてローカル5Gを用いることは禁止されているが、一般事業者のローカル5G事業を支援することは可能としている。
なお、ソフトバンクはネットワークを仮想的に分割するネットワークスライシング技術を使用し、企業や自治体ごとに5Gネットワークを構築するサービス「プライベート5G」の提供を2022年度に開始する予定としている。
■地域課題解決型ローカル5Gなどの実現に向けた開発実証
総務省は2020年2月、「地域課題解決型ローカル5Gなどの実現に向けた開発実証」に係る提案を募集し、全国から174件の応募があった。このうち、観光・文化・スポーツに関する提案が最多の41件に上った一方、インフラ・モビリティが24件、自動運転技術を含む一次産業(農業)も25件寄せられた。
このうち2020年度に19件が事業に着手する。自動運転関連では、一般社団法人ICTまちづくり共通プラットフォーム推進機構が「自動運転車両の安全確保支援の仕組みの実現」について群馬県前橋市で実証を行うほか、農業分野でNTT東日本が「自動トラクター等の農機の遠隔監視制御による自動運転の実現」を北海道岩見沢市、関西ブロードバンドが「農業ロボットによる農作業の自動化の実現」を鹿児島県志布志市でそれぞれ取り組む。
前橋市では、市や機構、群馬大学、日本電気、NTTドコモがコンソーシアムを組み、自動運転車両に搭載したカメラや路側カメラで撮影した映像を用いた自動運転の継続の可否の判断支援や、遠隔監視センターからの自動運転車両の遠隔監視・操縦管制に関する実証、路上における電波伝搬特性評価、公道におけるキャリア5Gを活用した実用性の検証、遠隔監視・操作・路車間協調通信のローカル5G環境下での性能評価などを行う予定だ。
【参考】関連記事としては「地域課題解決へ、ローカル5G×自動運転 総務省が決定した実証実験の内容は?」も参照。
■自動運転分野におけるローカル5Gの活用
自動運転分野においても有効活用が見込まれるローカル5G。通信エリアが限定されるためスポット性が強く、広範な運用には向かないようだが、スマートファクトリーの構築や農業分野における自動運転などには最適だ。
もちろん、通常の自動運転においても敷地内での実証や実用化をはじめ、公道上の交差点など特定のスポットでローカル5Gを活用して高速データ通信を行うなど、使い方次第でさまざまな実証を行うことができそうだ。
日経新聞によると、自動運転の社会実装に積極的な静岡県も沼津市内での実証にローカル5Gを活用する予定のようだ。
沼津市では、自動運転の課題となっている路肩駐車車両の追抜きや右折時の対策として、カメラなどにより横断中の歩行者や路上駐車の状況を解析し、リアルタイムで車両に提供する実証を行う予定で、ここにローカル5Gを導入する。
スマートファクトリー関連では、NTTコミュニケーションズとDMG森精機が無人搬送車に人協働ロボットを搭載した自律走行型ロボット(AGV)の遠隔操作などを行う共同実験を2020年5月から行っている。
一方、三井不動産とNECネッツエスアイは2020年12月から、日本橋室町三井タワー内でXRや映像・音声認識技術などを活用したリアル・バーチャル両方のワークプレイスの設置や、ロボットや次世代サイネージを活用したテナント向けサービスの提供やオフィスビル管理などについて実証実験を行う。この中で、自律走行型案内ロボット「YUNJI SAIL」なども活用する予定だ。
農業関連では、NTT東日本が前述した岩見沢市で、複数台の自動運転トラクターを遠隔監視下で無人状態で自動走行させる実証などを行う。一方、関西ブロードバンドは志布志市で、農機ロボットに搭載した高精細カメラで撮影した画像を使った遠隔監視下での無人自動走行実証を行う。
■【まとめ】早期5G導入で自動運転実証も活性化
自動運転サービスに必須となる遠隔監視や遠隔制御などにおいては膨大なデータがやり取りされることになり、5Gをはじめとした高速通信は欠かせないものとなる。
ローカル5Gで広範囲をカバーすることは難しそうだが、要所要所で活用することで実証成果を挙げることは十分可能だ。キャリア5Gが普及するまでの間、地域を選ばず利用できる高速通信としても有用で、先進事例を参考に、今後も導入を図る動きが続々と出てきそうだ。
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