自動運転研究に力を入れている世界の20大学まとめ

有力企業創業者を輩出する名門から国内6大学まで



最先端技術を研究開発する拠点として、また人材を育成する場として欠かせない学術研究機関の大学。世界各地で最新の技術を競い合う企業の背後には、何らかの形で大学が関わっている場合が多い。


専門的かつ高度な技術を学ぶ環境を備えた大学は、自動運転分野においても各企業と共同研究を進め、また多くの経営者を生み出している。

今回は、自動運転の研究に力を入れている世界の20大学をピックアップし、紹介していこう。

■米国
マサチューセッツ工科大学(マサチューセッツ州)

研究分野において誰もが一目置くだろう名門マサチューセッツ工科大学(MIT)。モービルアイ創業者のAmnon Shashua (アムノン・シャシュア)氏や米Cruise Automation創業者のKyle Vogt(カイル・ヴォグト)氏らが籍を置いていたほか、NuTonomy(2017年に米Aptivが買収)やOptimus Rideなど同大学からスピンオフしたスタートアップも数知れない。トヨタの北米開発拠点TRIやデンソーの北米開発拠点、米NVIDIAなど自動車関連各企業との共同研究も数多い。

AIやロボット工学、グラフィクス、計算理論などを研究分野とする同大最大の研究所「コンピュータ科学・人工知能研究所(CSAIL)」には1000人規模の研究者が名を連ねており、自動運転分野における研究発表ももはや日常化しているレベルだ。



スタンフォード大学(カリフォルニア州)

自動運転開発が盛んなシリコンバレーに位置するスタンフォード大学は、長い歴史を誇る人工知能研究所「SAIL」のほか、自動車関連の研究を目的とした自動車研究センター「CARS」などで自動運転研究を進めている。

CARSは2008年、次世代自動車の研究開発の一大拠点として設立され、トヨタをはじめとした世界の自動車メーカーが賛同し、これまでさまざまな研究が行われてきたという。

設立時のメンバーには、Google Xの創設者で数々の自動運転プロジェクトを率いた実績を持つSebastian Thrun(セバスチャン・スラン)氏らが名を連ねている。

また、同大はグーグルの創業者Larry Page(ラリー・ペイジ)氏が在籍していたことでも知られ、同大休学中の1998年にグーグルが設立されている。

カーネギーメロン大学(ペンシルベニア州)

米ペンシルベニア州にあるカーネギーメロン大学では、2019年6月に自動運転技術の研究所が設立されることが発表されている。フォード傘下の自動運転開発企業Argo AIが携わって設立される形で、Argo AIの創業者で現CEO(最高経営責任者)のBryan Salesky氏が、かつて同大学のナショナル・ロボティクス・エンジニアリング・センターに所属していたことが背景にある。

カーネギーメロン大学は、米自動車メーカーの米GMやライドシェア世界大手の米ウーバーなどの民間企業とともに自動運転技術の共同研究をしていることでも知られる。カーネギーメロン大学に関して言えば、自動運転OS「Autoware」を開発する日本のティアフォー社の創業者・加藤真平氏も研究院として所属していたことで知られている。

ミシガン大学(ミシガン州)

米国の自動車産業を長く支えてきたデトロイトを有するミシガン州。名門ミシガン大学も当然のように自動車分野の研究が盛んで、交通研究所(UMTRI)をはじめ、州政府の意向のもと次世代技術の研究拠点として「モビリティ・トランスフォーメーション・センター」を設置し、その中核実験施設として市街地や郊外の道路を再現したミニタウン「M City」を2015年に建設している。

M Cityは民間各社参加のもと運営しており、フォードやGMをはじめ、トヨタやデンソー、ホンダなど59の企業がパートナーに名を連ね、同施設で実験を行っている。現在21のプロジェクトが進められているという。

【参考】ミシガン大学については「ミシガン州「自動運転の街」で復活へ 5G配備の”住めない街”も」も参照。

バージニア工科大学(バージニア州)

バージニアの州立大学であるバージニア工科大は、交通研究所「Virginia Tech Transportation Institute(VTTI)」の中に次世代の自動車システムの研究を行う先進自動車研究センターや自動車両システムセンター、安全システムセンター、持続可能なモビリティセンターなどさまざまな拠点を設け、研究開発を進めている。

先進自動車研究センターでは、コネクテッド技術による車車間通信(V2V)や路車間通信(V2I)技術の研究や、車載アクティブトラフィックおよびデマンド管理(ATDM)システムのヒューマンファクター評価、また、自動車両システムセンターでは、自動運転レベル2~3の自動運転コンセプトのヒューマンファクター評価などが行われているようだ。

オハイオ州立大学(オハイオ州)

オハイオ州立大学では、自動車研究センター(Center of Automotive Research/CAR)に自動運転の研究が進められている。衝突切迫安全大学交通センターやシミュレーターラボ、ドライビングダイナミクスラボなどの施設が備わっているようだ。

同州では2019年に官学民共同で自動運転の実験施設「SMARTCenter」を開設しており、州を挙げて自動運転開発に本格着手した格好となっている。

こうしたプロジェクトの研究拠点となる同大の取り組みは、今後ますます加速する可能性が高そうだ。

【参考】オハイオ州の取り組みについては「オハイオ州にカモン!自動運転の実験場開発に官民で4500万ドル拠出」も参照。

クレムソン大学(サウスカロライナ州)

サウスカロライナ州に位置する公立のクレムソン大学の国際自動車研究センター(CU-ICAR)では、市場を継続的に分析して業界パートナーや業界リーダー、自動車会社を調査し、テクノロジーと研究開発分野を決定しているという。

現在はパワートレインや車両エレクトロニクス、材料、車車間通信、性能、HMI、システム統合などの領域で研究を進めているようだ。

■ヨーロッパ
ミュンヘン工科大学(ドイツ

ディーゼルエンジンを発明したルドルフ・ディーゼル氏をはじめノーベル賞受賞者を17人輩出している歴史の深い大学で、自動車大国らしく自動車技術研究所も設置している。

研究所では、主にビークルダイナミクスと制御システム、自動運転、ビークルコンセプト、EVコンポーネント、スマートモビリティの5分野で研究が進められており、自動運転分野では、車両とインフラストラクチャの相互連携を可能にする新しいシステムを開発するプロジェクト「IMAGinE」をフォルクスワーゲンやダイムラー、BMW、ボッシュ、コンチネンタルといった独自動車企業とともに進めているほか、ドライバー支援システムや自動運転のシミュレーションのための革新的検証方法の研究や安全性評価などの研究を行っているようだ。

アーヘン工科大学(ドイツ)

ノルトライン・ヴェストファーレン州アーヘンに位置するアーヘン工科大学は、1世紀以上の歴史を持つ自動車研究所(IKA)を持つ。2016年に最新のドライビングシミュレータ―を収容する施設をオープンさせ、2019年には研究領域を車両コンセプトとHMI、車両構造、運転力学と音響、エネルギー管理と運転、車両インテリジェンスと自動運転、交通心理学と受容性――の6分野に再編し、将来のモビリティの課題に向け研究を進めている。

なお、2018年にはキャンパス内に新設する駐車場にボッシュの自動駐車システムが導入されることが発表されている。

ケンブリッジ大学(イギリス)

英国が誇る名門ケンブリッジ大学も、自動運転に関する研究成果がたびたび発表されている。

2019年には、無人の自動運転車が協調動作することにより交通量を35%改善できると発表されたほか、2018年には、同大の研究チームが創設したスタートアップ企業「Wayve(ウェイブ)」がAIの深層強化学習を活用し、20分足らずの学習で自動運転車が車線を守って走行する取り組みに成功している。

【参考】Wayveの取り組みについては「ケンブリッジ大学Wayve、強化学習でAI自動運転車が20分で走行技能習得」も参照。

アジア
清華大学(中国

中国トップクラスの理工科大学である清華大学は、AI技術を中心に自動運転分野の研究を進めているようだ。脳知能研究所をはじめインテリジェントコネクテッドビークルアンドトランスポーテーションリサーチセンター、インテリジェント無人システム研究センター、人工知能研究所、ビッグデータ研究センターなどの研究機関を持つほか、ダイムラーやトヨタなどとの共同研究施設も有する。

トヨタは同大と1998年から技術講座を開催するなど共同研究を進めており、2019年4月には、「清華大学-トヨタ連合研究院」の設立を発表した。自動運転の研究に加え水素の積極的な利活用など、中国のエネルギー問題や社会課題の解決に寄与する研究に5年間にわたって共同で取り組みこととしている。

ダイムラーも2018年に協力関係を強化し自動運転などの分野で共同で研究開発を進めていくことを発表している。

香港科技大学(香港)

香港科技大学も自動運転の関連技術の研究に力を入れている。同大学はロボット研究所を有し、2017年11月には香港で初となるゴルフカート型の自動運転車を開発したことが発表されている。その中心人物となったのが、電子・コンピュータ工学部の劉明教授だ。

劉明教授は2019年5月には、自動運転技術を導入した自動運転電動車椅子を劉明教授が開発したことも報じられている。

香港科技大学の技術者は、自動運転開発にも力を入れる画像AI解析ベンチャーのSenseTime(センスタイム)で活躍していることでも知られる。また過去には、ホンダのコネクテッド技術開発をアリババとともに支援することが発表されている。

シンガポール国立大学(シンガポール)

スマートシティに留まらぬ「スマートネーション」戦略を推進するシンガポール。国家レベルでスマートシティ化を図る一大構想で、その主要研究拠点の一つがシンガポール国立大学(NUS)だ。構内を活用した自動運転バスの実証なども盛んだ。

国家的AIプログラム「AI Singapore」の事務局も担っており、AI人材の育成やAIエコシステムの構築などを進めている。2018年には配車サービス大手のGrabと共同でAI研究所「Grab NUS AI Lab」を開設したほか、米マイクロソフトとAI人材育成に関する締結も結んでいる。

南洋理工大学(シンガポール)

NUSに負けず劣らず、南洋理工大学(NTU)も自動運転の研究に力を入れている。構内の一角に自動走行車のテストセンター「Centre of Excellence for Testing & Research of AVs–NTU (CETRAN) 」とテストサーキット「CETRAN Test Circuit」を造成し、民間各社を交えながら研究と実証を重ねている。

AI研究も盛んで、日本経済新聞とオランダの学術出版大手エルゼビアが分析・調査した2012~2016年のAI研究の論文引用ランキングによると、NTUはマイクロソフトに次ぐ2位となっている。なお、3位は中国科学院で、米グーグルは8位、NUSは13位となっている。

2018年には中国のアリババとAIの共同研究所を開設したほか、2019年には香港のセンスタイムと人材育成プログラムの設立を発表している。

■日本
東京大学/モビリティ・イノベーション連携研究機構

自動運転を中心とした革新的なモビリティ研究の日本における最先端の総合的な研究組織を目指し、「モビリティ・イノベーション連携研究機構 (UTmobI)」を2018年に柏キャンパスに新設した。

イノベーションのデザインやビッグデータ解析、HMIの基礎研究を推進し、学の連携・融合によるモビリティ・イノベーションに資する知の体系化と地域社会実装を推進することとしている。

埼玉工業大学/自動運転技術開発センター

2016年に「ものづくり研究センター」を新設して次世代自動車プロジェクトを立ち上げ、自動運転に関する研究開発を進めている。2019年4月には、工学部情報システム学科にAI専攻を新設し、AI人材の育成にも力を入れている。

同年5月には、私立大学初となる自動運転技術の全学的な研究組織「自動運転技術開発センター」を設立し、自動運転技術の実用化に向けた研究・開発を強化することを発表した。

同年8月には、自動運転AI(AIPilot/Autoware)を搭載した自動運転バスの実験車両の開発を発表しており、研究を加速している印象だ。

【参考】埼玉工業大学については「埼玉工業大学、「自動運転技術開発センター」の新設を発表」も参照。

群馬大学/次世代モビリティ社会実装研究センター

群馬大学は2016年に管制・遠隔運転室やデータセンター、シミュレーション室などを備えた次世代モビリティ社会実装研究センターを開設し、自動運転技術を用いた社会システムの研究に力を入れている。

2020年に限定地域における完全自動運転の実用化を目指すこととし、MaaS含め研究や実証を積み重ねている。

【参考】群馬大学については「自動運転で存在感!群馬大学の取り組みまとめ」も参照。

名古屋大学/モビリティ社会研究所

持続的にモビリティに関するイノベーションを起こすセンターとして2011年にグリーンモビリティ連携研究センター(GREMO)を設立。その後、2014年に未来社会創造機構を設立した際にGREMOを引き継ぐ形でモビリティ領域を設定し、2019年4月に新しいGREMO(モビリティ社会研究所)を開設した。

ドライビング・シミュレーターや実走行データ収集装置、駆動評価装置、3D造形システム、実験車両などを備え、先進的な研究開発を進めている。

同大発ベンチャーとして知られるティアフォーが自動運転OS「Autoware」で世界を相手に活躍するほか、ラストワンマイルのルート最適化に取り組むオプティマインドが2019年10月までに資金調達Aラウンドで10億円を調達するなど、研究開発能力の高さは折り紙付きだ。

明治大学/自動運転社会総合研究所

自動運転技術の社会実装化に際し、法体系の整備や保険関連の制度設計、地域社会への対応といった社会科学的な課題の解決・改善策を探る学際的な研究組織として2018年に「自動運転社会総合研究所」を設立している。

2019年3月に香川県小豆島で実証実験を実施したほか、長崎県対馬市と連携協定を交わし同年8月に実証を行うなど、取り組みを活発化している。

金沢大学/新学術創成研究機構(自動運転ユニット)

革新的な研究成果を生み出し、新しい学問分野・学問領域の創成につながる学際的な研究を推進することを目的に2015年に設立した新学術創成研究機構における研究領域の一つとして、市街地走行が可能な自動運転知能の構築とその地域交通への活用施策について研究する自動運転ユニットを設置している。

国内の大学の中では、自動運転車の市街地における公道走行実験に最も早く着手した大学でもある。

■【まとめ】研究開発の拠点として、人材育成の場としていっそうの活躍を

名門大学がずらりと並ぶ形となったが、高度な研究体制を敷いているからこそ名門たり得る……という証左であると言えよう。

シンガポールのように国策としてAI開発に力を入れている大学の躍進も目覚ましい。AI教育に関しては日本全体で見ると一歩遅れている感は否めないが、各大学の取り組みは目を見張るものがある。

研究の根底を支える立場として、また将来を担う人材を育成する場として、自動運転分野におけるいっそうの研究・活躍に期待したい。

【参考】関連記事としては「自動運転、読んでおきたい論文15選」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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