OEM生産が主流だった自動車業界に変化が訪れようとしている。自動運転業界では今後、ODMが主流になるというのだ。自動車生産の現場で一体何が起ころうとしているのか。
自動車の生産過程の変化を紐解くべく、ODMの中身をはじめ自動運転分野におけるODMの潮流について解説していこう。
【参考】関連記事としては「主要ODM企業、自動運転領域での動きを解説」も参照。
■ODMとは?
ODMはOEMの発展系として位置付けられるのが一般的で、依頼主の注文に応じて他社ブランドの製品を生産するOEM(Original Equipment Manufacturing)に対し、ODM(Original Design Manufacturing)は製品の設計を含めて生産するケースを指す。
OEMが依頼主の注文にすべて依存するのに対し、ODMは設計を伴うことが特徴で、製品の企画・開発から行い、他社ブランドへ提案するケースも一般的だ。
例えば、トヨタ自動車のパッソは一般的にダイハツ工業のブーンのOEM供給車と言われているが、パッソの企画開発をトヨタが主導していればOEMであり、逆にダイハツがブーンのトヨタバージョンをトヨタに企画・提案して実現したものであれば、パッソはODM供給車となる。
第三者から見ると判別は難しいが、パソコンやスマートフォン市場ではODM生産が当たり前のように行われており、ホンハイ(鴻海精密工業)などの台湾企業に代表されるように、OEM生産で礎を築き、その後技術開発力を磨いてODMでさらなる躍進を遂げた例も多い。
■自動運転分野におけるODMの潮流
ではなぜ、自動運転分野においてODMが主流となるのか。
従来の自動車製造工程は多くが垂直統合型で、自社グループ内で開発・設計を行い、下請け企業に発注していた。下請け企業の武器は、言われた通りの部品を寸分の狂いもなく作り上げる精巧な製造技術で、日本の企業が特に秀でていた分野でもあった。
だが、徐々に電子制御される部品が増え、パソコンの普及とともにソフトウェア関連技術が大きな伸びを見せると、製造に占めるソフトウェア開発の比重も高まり、技術の高度化が強く求められるようになってきた。このソフトウェア開発が、OEMからODMへの流れを生むのだ。
従来のアナログ的な部品は開発の余地が限られているため、高い開発能力を持つ自動車メーカーが主導する形で、高い製造技術を持つ下請け企業にそのまま生産が委託されていたが、自動車にとって新規分野ともいえるソフトウェア開発は、自動車企業と比べIT・テクノロジー系企業の開発能力が高く、技術の高度化が求められるほど開発における自動車メーカーの主導権は相対的に弱まっていくことになる。
もちろん、自動車メーカーやティア1を中心にソフトウェア開発を専門とする部署や企業が次々と立ち上がり、グループ内における開発能力は飛躍的に増しているが、豊富な知識と経験を蓄積しているIT・テクノロジー系企業にはまだ追い付いていないのが現状だ。
コネクテッド技術の実用化が始まり、クルマのスマートフォン化・パソコン化が本格化し始めた昨今はその傾向が顕著に表れ始めており、通信やセキュリティをはじめ必要とされる最新技術がより多角化した結果、自動車メーカーが異業種メーカーの開発力に頼る場面が増加している。
これはつまり、自動車製造における異業種の参入機会が増加しているということだ。技術開発力を持つ異業種企業は自動車メーカーの良きパートナーとなり、ODM受注や自社製品・技術を売り込む機会が増加するのだ。
こうした流れは、自動運転の開発でいっそう進むことが予想される。自動運転に必須となるAI(人工知能)やLiDAR・カメラなどのセンサー類、画像や音声の認識・解析など、より深化した専門技術が求められるからだ。
従来の「クルマ」としての機能を保ちつつ、電動化によって内燃機関を中心に大きく構造が変化し、かつ自動運転システムにより制御される自動運転車は、もはやクルマという枠組みを超えたコンピュータ製品ともいえる。自動運転業界は、自動車業界とコンピュータ業界の両方で構成されるのだ。
今後は自動車メーカー以外の企業が直接自動運転車を製品化することも想定されるため、ODM需要は格段に伸びていくものと思われる。
■自動運転ODMの今後
近年、ODMによって大きく業績を伸ばしたのは、Foxconn Technology Group(フォックスコン・テクノロジー)に代表される電子機器メーカーで、台湾や中国の企業が多い。電子機器の受託生産を請け負うEMS(electronics manufacturing service)がパソコンやスマートフォンなどの製造において定着し、技術力を磨きながら大きな成長を遂げてきた。
このEMSの波が今後自動運転業界に訪れ、さらに多岐に渡る技術においてODMが盛んになるものと思われる。
国内EMS企業では、シークスが2019年2月、独サプライヤーのボッシュとカーマルチメディアの基板実装分野で協業することを発表している。ユー・エム・シーも国内外のティア1に車載用電子機器を供給しており、自動運転を含むCASE分野においても活躍が期待されるところだ。
富士通や日本電気(NEC)、日立といった総合エレクトロニクス系メーカーは、自動運転分野における独自開発をすでに進めており、今後、大きな躍進を遂げる可能性が高い。
また、カメラ・イメージセンサーなど尖った技術を持つソニーや、LiDAR開発を進める京セラやパイオニアなども、画像解析技術やセンサーフュージョン技術といった関連技術を含めた総合センサーシステムなどを提案することで、自動運転分野における存在感を飛躍的に高めることができそうだ。
自動運転システムにおいては、自動運転OS「Autoware(オートウェア)」の普及を図るティアフォーが台湾のODM大手クアンタ・コンピュータから2019年に出資を受けている。オートウェア自体はオープンソースだが、一般乗用車向け、低速モビリティ向けシステムなど製品化・提案していくことで、ODM依頼が殺到することも想定される。
OSやセンサーシステムといった自動運転における専門性の高い主要技術はモビリティ関連企業から引く手あまただ。自社ブランドとして商用化するほか、個別具体的な各社向けの提案力を強化することがODMにおける大きなポイントになりそうだ。
【参考】ティアフォーの動向については「自動運転開発のティアフォー、国内最大規模のシリーズA調達額をさらに積み増し」も参照。
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— 自動運転ラボ (@jidountenlab) August 24, 2019
■【まとめ】ODMは技術結集の一形態
自動車であり、コンピュータでもある自動運転車は、もはや一社の技術だけで作られるものではない。各社が有する技術の結集力が試されるのだ。この技術結集の一形態がODMだ。
高度な技術と効率の良い生産能力の両方を備えたODM型の取引こそ、自動運転の潮流に乗じる近道だ。第三者からはわかりにくいものだが、その波は間違いなく自動運転分野に押し寄せているのだ。
【参考】関連記事としては「自動運転、ゼロから分かる4万字まとめ」も参照。