完全解明!自動運転×半導体、世界の有力企業11社一覧

NVIDIAとMobileyeを追いかけるのは?



出典:NVIDIAプレスリリース

自動運転のコア技術とされるAI(人工知能)。センサーが捉えたデータからさまざまな情報を読み込み、それぞれのシチュエーションに応じた判断を瞬時に下す脳の役割を担っている。

自動運転開発=AI開発と言っても過言ではないほどだが、こうしたAIの働きを左右する半導体技術も非常に重要だ。随時生成される膨大なデータをリアルタイムで処理することで自律走行を実現する自動運転においては、コンピュータの演算能力や低消費電力など性能面がことさら重視されるのだ。


AIとともに開発が加速し続けている半導体分野。自動運転分野での活躍が見込まれる11社(団体)をピックアップし、紹介する。

■NVIDIA(米国)

NVIDIA DRIVEシリーズで自動運転やEVメーカーを席捲

出典:エヌビディア社プレスリリース

半導体業界ではもはや押しも押されもせぬ存在となった米NVIDIA。株価は右肩上がりが続き、時価総額はマイクロソフトやグーグル(アルファベット)、アップルなどと肩を並べる域に達している。

パソコンやゲーム領域で培った半導体技術は、高速処理を要する自動運転分野でいっそう本領を発揮するかのように処理能力を高め続けている。

自動運転向けのNVIDIA DRIVEシリーズは、現在主力の「Orin」が254 TOPS(毎秒1兆回の演算)を記録しているほか、2025年からの利用が見込まれる次世代後継モデル「Thor」は1,000 INT8 TOPS、2,000 TFLOPSの性能を発揮するという。


パートナー企業には、メルセデス・ベンツやボルボ・カーズ、ヒョンデ、ジャーガーランドローバーをはじめ、BYDやNIO、ポールスター、Lucid Motors、Li Auto、XPengといったEV(電気自動車)系や新興勢も多数名を連ねている。

自動運転開発勢では、Pony.aiやTuSimple、Einride、Kodiak Robotics、Cruise、Momenta、Zoox、WeRide、Wayveなどが挙げられる。このほか、ティア1サプライヤーやLiDAR開発企業などNVIDIAソリューションを導入する裾野は広がる一方で、もはや業界におけるスタンダードと言っても過言ではないほどだ。

【参考】NVIDIAの取り組みについては「NVIDIA株、一段高へ期待感!車載半導体、自動運転向けで採用加速」も参照。

■Mobileye(イスラエル)

世界トップクラスの自動運転技術とSoCでシェア拡大

モービルアイのアムノン・シャシュアCEO=出典:インテル

ADAS(先進運転支援システム)ソリューションで高い実績を誇るインテル傘下のイスラエル企業・モービルアイがNVIDIAの対抗馬だ。ADAS領域で培った広いネットワークに、世界トップクラスとも言われる自動運転技術、そして高度な技術を実現するSoC「EyeQ」シリーズで世界シェアを伸ばす。


2022年に発表した「EyeQ Ultra」は176TOPsとNVIDIAに比べ処理能力は低いが、同社が開発したアルゴリズムを使用することで膨大な演算能力に依存することなく自動運転が可能で、低コスト・低消費電力を実現できる――といった方向性の違いによるものだ。

EyeQ Ultraのファーストシリコンは2023年後半、完全なオートモーティブ・グレードの生産は2025年を予定している。

また、ADAS向けの次世代シリーズ「EyeQ6L」「EyeQ6H」も発表している。EyeQ6Lは2024年4月に発売されたばかりだが、今後数年間で4,600万台の車両に搭載される予定という。価格を抑えつつ大きなパフォーマンスを発揮する量産車向けのSoCだ。

同社は「Mobileye SuperVision」や「Mobileye Chauffeur」といったADAS・自動運転を可能とするシステムも提供しており、ZEEKRやPolestar、第一汽車、ポルシェ、フォルクスワーゲングループなどが実装を計画している。

■Arm(英)

モビリティ企業、半導体企業双方を顧客に

出典:Armプレスリリース

ソフトバンクグループ傘下の半導体設計企業Armも、独自の設計技術で自動運転分野におけるシェア拡大を目指している。

知的財産権(IP)ベンダーとして自動車メーカーをはじめ半導体企業とも広くパートナーシップを結ぶビジネススタイルで、他社とは異なる道を歩んでいる。

自動車分野では、「Arm Automotive Enhanced(AE)プロセッサー」を武器に低消費電力と高パフォーマンスを両立し、各社のSoC開発をバックアップしている。

2024年3月には、最新のAEプロセッサー群とオートモーティブ向けの新しいバーチャルプラットフォームを発表した。開発サイクルを最大2年短縮でき、すでにMarvellやMediaTek、NVIDIA、NXP、ルネサスなどが採用しているという。

自動運転関連では、2024年に米Nuroや日本のティアフォーとそれぞれパートナーシップを組むなど、新たな動きも出ている。

モビリティ企業、半導体企業双方を顧客にできるArmのビジネスモデルに改めて注目だ。

【参考】Armの取り組みについては「半導体大手Armが宣言!AI自動運転車「開発を最大2年短縮」」も参照。

■Qualcomm(米国)

モバイル技術を自動車領域で発揮

モバイル向け半導体で高いシェアを誇る米クアルコムも、移動体通信分野で培った技術を武器に自動車領域での事業拡大を推し進めている。

「Snapdragon Rideプラットフォーム」は、ADASとコックピットの統合に最適化されたソリューションを実現するよう設計されており、将来の自動運転ソリューションの迅速な開発も可能にする。

プラットフォームには、車両制御、データ、クラウドサービスに至るまで高度なプロセスノード上に構築された基本要素が含まれており、開発者がより安全なエンドツーエンドのソリューションを構築できるよう設計されたAIベースのアプリケーションとツールが備わっている。

通信技術に強みを持っており、自動運転における重要要素の1つであるV2X関連でもアドバンテージを発揮しそうだ。

GMやBMW、フォルクスワーゲン傘下のCARIAD、ソニー・ホンダモビリティなどがクアルコム製品の採用を発表しており、まずはレベル2+やレベル3領域からシェアを拡大していきそうだ。

■AMD(米国)

Pony.aiが採用、デンソーもLiDAR開発でAMD使用

パソコン分野で一定のシェアを誇る米AMD(Advanced Micro Devices)もオートモーティブソリューションの展開を強化している。高性能CPUやGPU、FPGA、アダプティブSoCといった各種ソリューションで、車載インフォテインメントシステムをはじめADASや自動運転に至るまで広範に及ぶスケーラブルなポートフォリオを提供している。

「AMD Ryzen Embedded APU」などの組み込みプロセッサーや、「Zynq」「Versal」といったアダプティブSoCなどを主力に次世代モビリティ開発を支えている。

同社によると、スバルの最新アイサイトや百度アポロのサラウンドビューシステム、Continentalのレーダー、デンソーのLiDAR、アイシンの自動駐車支援システムなどにAMDソリューションが活用されているという(吸収したXilinx含む)。Pony.aiの自動運転システムにおけるセンサーフュージョンでも複数のAMDデバイスが使用されているという。

吸収合併したXilinxは、ZFと共同で自動運転開発を手掛けるなど同分野に力を入れていた。こうした企業を傘下に収めたことも強みとなっているようだ。

■Samsung(韓国)

Waymoから半導体設計受注した実績も

電子部品大手の韓国サムスンも自動運転分野を虎視眈々と見つめている。メモリやプロセッサー、イメージセンサーなどを武器に、コネクテッドカーや車内エクスペリエンス、インフォテインメントなどで容積を挙げる。

自動運転関連では、Waymoから自動運転車向けの半導体設計を受注したことを2021年に発表している。また、2023年には、同社が独自レベル4開発を進め、ドライバーレスによる公道走行を行っていることも韓国メディアに報じられている。

自動運転向けSoCで自動運転分野に本格進出することも十分考えられる。膨大な製品群や販売網を武器に、同分野で躍進する可能性は高そうだ。

【参考】Samsungの取り組みについては「サムスン、自動運転レベル4で「完全無人200キロ走行」完了」も参照。

■Horizon Robotics(中国)

香港市場上場へ

出典:Horizon Robotics公式サイト

中国勢では、スタートアップのHorizon Roboticsへの期待が高い。2024年に香港証券取引所に上場申請しており、今後の躍進に注目の1社だ。

同社は自動運転向けのAIチップ開発を主力としており、これまでにエッジAIプロセッサ「Horizon Robotics Journey」やロボットモビリティなどに適した「Horizon Robotics Matrix」、高精度地図向けの「Horizon Robotics NaviNet」、スマートコックピット向けの「Horizon Robotics Halo」などを製品化している。

自動運転向けには、Horizon MatorixシリーズやHorizon Journeyなどを展開している。Journey5は128TOPS、消費電力30Wに設計されており、自動運転を最も効率的に実現するソリューションとしている。

パートナーには、Pony.aiやLi Auto、BYD、Geely(吉利汽車)、上海汽車(SAIC)、長城汽車(GWM)、奇瑞汽車(Chery)、WeRideといった中国勢をはじめ、フォルクスワーゲンやアウディ、ボッシュ、コンチネンタルなどのドイツ勢も多く名を連ねている。

米中経済摩擦を背景に半導体分野の内製化を進める中国。国策のもと、こうした企業が一気に台頭する可能性は十分考えられるだろう。

■Blaize(米国)

システム効率を向上させる技術を保有

次世代半導体技術の開発を進める米スタートアップBlaize(旧ThinCI)も今後の躍進に期待が寄せられる。同社は独自のフルスタックハードウェアアーキテクチャとローコード・ノーコードソフトウェアプラットフォームを提供するプロバイダーで、エッジAI領域に強みを持つ。

電力を大量消費する従来のGPUやFPGAチップをBlaize GSPベースのプラットフォームに置き換えることで、システム効率を最大60倍向上させることができるという。

同社に対しては、デンソーが2016年、デンソー子会社で半導体IP開発などを手掛けるエヌエスアイテクス(2024年にデンソーが吸収)が2018年に出資している。

次世代の高性能半導体のキー技術を保有していると評価しており、データフロープロセッサーにおける計算領域最適化を図っていく方針だ。

■ルネサスエレクトロニクス(日本)

R-Carソリューションで自動運転開発を加速

車載マイコンで高い実績を誇るルネサスエレクトロニクスは、自動運転開発用途に特化した「R-Car自動車用SoC」をソリューション化している。

R-Carプラットフォームは、自動運転をはじめADASやコネクテッドゲートウェイ、車載インフォテインメント、コクピット、ダッシュボードなど幅広い車載アプリケーションに対応し、自動運転時代に向けた次世代車載コンピューティング向けに設計されている。

第5世代R-Carファミリ(R-Car Gen 5)は、今後数年間にわたり展開されるファミリで、Armベースのコンピューティングエンジンで構成されている。

ローエンドの車載制御用からゾーン・ドメイン向けの複雑なクロスオーバーマイコン、ハイエンドのSoC製品まで、完全なスケーラビリティを提供し、多様化するセグメントやグレードに対応するために必要な演算能力を大幅に向上させるという。

【参考】ルネサスエレクトロニクスの取り組みについては「ルネサス「1,000億円以上の商談獲得」 自動運転・ADAS向けAIで」も参照。

■Turing(日本)

完全自動運転EV実現に向け半導体チップの開発に着手

出典:Turingプレスリリース

完全自動運転車の開発・量産化を目指す新進気鋭の国内スタートアップであるチューリングは、半導体チップの独自開発も進めているようだ。

同社は2023年12月、2030年の完全自動運転EV車両の販売実現に向けた今後5年間の開発ロードマップを発表し、この中で自社製の半導体チップ・車載LLM推論アクセラレーターの開発を開始したことに触れている。

完全自動運転車を実現するマルチモーダルAIモデルやAI基盤モデルを車両内で動かすために専用チップが必要不可欠であるとし、半導体チップの開発を決定したという。現行の自動運転向けSoCが持つ推論能力の500倍の処理能力を目指す方針のようだ。

【参考】Turingの取り組みについては「Turing、完全自動運転EV「2030年10,000台」宣言 半導体チップも製造へ」も参照。

■ASRA(日本)

国内メーカーらが結集してSoC共同開発

自動車に使われている半導体の例=出典:自動車用先端SoC技術研究組合プレスリリース

海外勢に押されがちな半導体分野だが、国内で新たな動きも出ている。トヨタをはじめとする自動車メーカーや電装部品メーカー、半導体関連企業12社が集い、高性能デジタル半導体の車載化研究開発を行う「自動車用先端SoC技術研究組合(Advanced SoC Research for Automotive/ASRA)」を2023年12月に設立した。

参画企業は、トヨタのほかスバル、日産、ホンダ、マツダ、デンソー、パナソニックオートモーティブシステムズ、ソシオネクスト、日本ケイデンス・デザイン・システムズ、日本シノプシス、ミライズテクノロジーズ、ルネサスエレクトロニクスの12社で、2024年3月にスズキと日立Astemoも加わった。

チップレットと呼ばれる種類の異なる半導体を組み合わせた技術を適用し、自動車用SoCを研究開発する計画で、2028年までにチップレット技術を確立し、2030年以降の量産車への搭載を目指すとしている。

■【まとめ】抜きん出るNVIDIAとモービルアイ

NVIDIAとモービルアイが覇権を争う状況が続いているが、スタートアップの参入も多い分野であることから、新技術で業界地図を一気に塗り替えるようなことが起きても不思議ではない。また、そうした技術に早期着目し、大手が買収を仕掛け盛り返す……といったことも考えられる。

日本でもASRAやRapidusといった団体・企業が次々と立ち上がっており、業界の垣根を越えたパートナーシップやライバル同士が手を取り合う協調体制による半導体開発が際立ってきた。半導体大国復権なるか、要注目だ。

【参考】関連記事としては「自動運転ベンチャー、未上場企業一覧」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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