ソフトバンクグループ傘下の半導体設計大手である英Arm(アーム)はこのほど、最新のArm Automotive Enhanced(AE)プロセッサー群とオートモーティブ向けの新しいバーチャルプラットフォームを発表した。AI(人工知能)対応自動車の開発を最大2年短縮する技術になると宣言している。
高パフォーマンスかつ低コストでエネルギー効率に優れたCPU(中央演算処理装置)などを設計・開発し、ライセンスを提供しているArmだが、自動運転開発企業にも多数採用され、その技術開発を後押ししている。今回の最新技術の発表により、自動運転開発はますますスピード感を増しそうだ。
Armの大株主であるソフトバンクグループにとっても、今回の発表は追い風となることは確実だ。
■自動運転車の開発を2年短縮可能な技術
今回のオートモーティブ市場向けのバーチャルプロトタイピング・ソリューションにより、Armのエコシステムは物理チップの完成を待つことなくソフトウェア開発に着手でき、開発期間を最大2年短縮可能になるという。
Armは初めて、Armv9ベースのテクノロジーをオートモーティブ向けに提供し、この最新世代のArmアーキテクチャがもたらすAIやセキュリティ、仮想化などの機能を自動車業界で活用できるようする。サーバークラスのNeoverseテクノロジーを車載向けにも投入するとともに、拡張性の高い新しいArmv9ベースのCortex-A製品も提供する。
具体的な製品ラインアップは5つで、一連の構成可能なシステムIPにより、Armのシリコンパートナーは拡張性のある高性能車載SoCを提供可能になるという。
■最新技術5つの概要
発表した製品を1つひとつ詳しく見ていこう。
「Arm Neoverse V3AE」は、Neoverseテクノロジーをオートモーティブ分野に初めて導入し、AIアクセラレーション対応の自律走行とADAS(先進運転支援システム)のワークロード向けにサーバークラスの性能を提供する。
「Arm Cortex-A720AE」と「Arm Cortex-A520AE」は、Arm初となる車載用途に特化したv9ベースCortex-Aプロセッサーだ。Arm Cortex-A720AEは幅広いソフトウェア定義型自動車(SDV)アプリケーション向けに、業界トップの持続的パフォーマンスとSoC設計の柔軟性を提供する。Arm Cortex-A520は、業界トップの電力効率と機能安全を通じて、車載ユースケースに幅広く対応する。
また「Arm Cortex-R82AE」は、最高性能のリアルタイム・プロセッサーとして、機能安全向けのリアルタイム処理に初めて64ビット演算を提供する。「Arm Mali-C720AE」は、最も高負荷のコンピュータービジョンとヒューマンビジョンのユースケースに最適化された、構成可能なISPだという。
これらの新技術は、すでにMarvellやMediaTek、NVIDIA、NXP、ルネサス、Telechips、Texas Instrumentsなどに採用されているようだ。
■Arm Compute Subsystemsは2025年提供開始
今回発表した最新のArm Automotive Enhanced(AE)プロセッサー群とオートモーティブ向けの新しいバーチャルプラットフォームは、導入初日から利用できるものになるという。
オートモーティブ向けの「Arm Compute Subsystems(CSS)for Automotive」は今後、最先端のファウンドリー・プロセスに対応し、性能や消費電力、実装面積に最適化されたArm AE IPの事前統合済み・検証済みの構成を提供していく。オートモーティブ向けCSSの第1弾は、2025年中に提供を開始する予定だ。
Armは新しい自動車技術開発において、日本の自動運転スタートアップであるティアフォーと協業することも発表している。Amazonのクラウドサービス「Amazon Web Service(AWS)」上で配備されるArmアーキテクチャを採用した仮想的なコンピューティング環境と、ティアフォーが開発するプラットフォーム「Web.Auto」を統合させるという内容になる。
【参考】関連記事としては「英半導体大手Arm、自動運転分野でティアフォーと協業」も参照。
英半導体大手Arm、自動運転分野でティアフォーと協業 | 自動運転ラボ https://t.co/m8n3ZIAoq6 @jidountenlab
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) March 18, 2024
■ソフトバンクグループの中でも存在感を示すArm
Armは、自動配送ロボットの開発を手掛ける米Nuroともパートナーシップを結んでいる。次世代の自動運転システム「Nuro Driver」の開発において、Arm の最先端のArm Automotive Enhancedテクノロジーを活用していく。
Armは2016年にソフトバンクグループに買収され、同グループ傘下となった。2023年9月には、米ナスダック市場に再上場を果たした。今回最新のオートモーティブ向けテクノロジーを発表したことにより、自動運転開発業界での地位はますます高まりそうだ。
ソフトバンクグループ側としても、Armの躍進は非常にポジティブなトピックだ。今後のArmの株価上昇はソフトバンクグループの投資パフォーマンスを向上させ、ソフトバンクグループ自体に対する注目度も高まることから、同社の株価上昇も後押しすることになりそうだ。
孫正義会長は2022年11月の決算説明会で「私はArmに没頭する」と語り、さらには自動車がデジタル化することを念頭に「あらゆるものがデジタル化されていく、コンピューティングされていく。そうすると、Armの活躍の場は爆発的に広がっていくでしょう」と述べている。
また、ソフトバンクグループのエグジット前の投資のセクター別内訳を見ていくと、ビジョンファンド1ではトランスポーテーション(交通)が535億ドル中173億ドルで首位となっている。Armの半導体は孫氏が注力する姿勢を明確にしているAIと交通の両分野にまたがる超重要企業であると言えるということを、改めて認識しておきたい。
【参考】関連記事としては「孫氏が宣言「私はArmに没頭する」 自動運転で爆発的成長へ」も参照。