三井物産系の自動運転ベンチャー、第1期は9.3億円赤字 T2、続々と資金調達

自動運転トラックの物流ネットワーク構築へ



出典:官報

自動運転技術を活用した次世代物流システムの構築を進める株式会社T2(本社:東京都千代田区/代表取締役CEO:森本成城)の第1期決算公告(2023年3月現在)が、官報に掲載されている。

損益計算書(2022年8月30日〜2023年3月31日)によれば、最初の事業年度の当期純損失は、9億3,805万円であった。


同社は三井物産により設立された注目ベンチャーだ。ドライバー不足が深刻な問題になっている現在の日本において、レベル4自動運転トラックによる幹線輸送サービスの提供を行い、日本の物流の未来を支えることを目指した取り組みを行っている。

■決算概要(2023年3月31日現在)

賃借対照表の要旨(単位:千円)

▼資産の部
流動資産 1,668,149
固定資産 7,782
資産合計 1,675,932
▼負債及び純資産の部
流動負債 113,988
株主資本 1,561,943
資本金 1,250,000
資本剰余金 1,250,000
資本準備金 1,250,000
利益剰余金 △938,056
繰越利益剰余金 △938,056
負債・純資産合計 1,675,932

損益計算書の要旨(単位:千円)

販売費及び一般管理費 928,549
営業損失 928,549
営業外収益 292
営業外費用 9,141
経常損失 937,398
税引前当期純損失 937,398
法人税、住民税及び事業税 658
当期純損失 938,056

■Preferred Networksの技術提供を受けるT2

T2は、AI(人工知能)開発企業のPreferred Networks(PFN)の技術提供を受け、三井物産により2022年8月に設立された。これまでにも三井物産の事業構想力をもとに、PFNのもつ深層学習などのAI技術を活用し、実証実験を実施してきた。両社の技術力やノウハウを集約することを目指し、T2を設立するに至った。


現在、物流業界はドライバー不足という深刻な課題に直面している。その解決のため、主要物流拠点間を往復する「Lv4自動運転トラック幹線輸送サービス」の提供を目指している。AI技術と車両開発技術によりレベル4の自動運転を実現し、社会実装するという計画だ。

具体的には、LiDARやカメラによる高精度の物体認識と、自己位置推定、指令判断、車両制御といった要素において技術開発を行っている。

2022年11月にはT2初となる高速道路における乗用車の公道実証実験を開始、2023年4月には高速道路上での自動運転トラックの自律走行を成功させている。

■シリーズA追加ラウンドまでに60.7億円調達

出典:T2公式サイト

T2は資金調達も順調に行っている。2023年6月にプレシリーズAラウンドで12.5億円、さらに同年8月にシリーズAラウンドで35億円の資金調達を実施した。また同年10月には、シリーズA追加ラウンドにて7億円の資金調達を実施している。


2024年2月には、シリーズA追加ラウンドにおいて日本貨物鉄道(JR貨物)と東京センチュリーが資本参加したことを発表した。日本貨物鉄道とは貨物鉄道と自動運転トラックそれぞれの特性を生かしたモーダルコンビネーションの実現に向け、連携を強化する。

また東京センチュリーは約70万台の車両を保有しており、EV(電気自動車)や自動運転などの「次世代領域」をオート分野における将来の成長事業と位置づけ、高い技術力を有するスタートアップとの連携・協業を推進しているという。特に「物流の2024年問題」などの課題解決に寄与するため、新たなモビリティサービスの事業化にも注力しており、T2との互いの強みを融合した連携を強化する。

なおシリーズA追加ラウンドまでの資金調達総額は60.7億円にのぼる。調達した資金は、レベル4自動運転システムのさらなる開発や拠点の拡張、人員採用の強化などに活用されるようだ。

■自動運転トラックの物流ネットワーク構築に向け

2023年6月には、T2と三菱地所が資本業務提携し、レベル4自動運転トラックの物流ネットワーク構築に向け共同開発を行うことを発表した。

三菱地所は、京都府城陽市で次世代のモビリティを受入可能とする高速道路IC直結の「次世代基幹物流施設」の開発計画を進めており、敷地内にレベル4自動運転トラック発着拠点となるモビリティプール(車両を停車する場所)を設置する予定だ。

今後その機能をT2が活用するほか、レベル4自動運転トラックが建物内まで運行できる基幹物流施設の整備や、レベル4自動運転トラックと基幹物流施設を組み合わせた新サービスなどの共同開発を進めていくとしている。

三井物産と国内最強ユニコーンとの呼び声が高いPFNがタッグを組んだT2。資金調達や大手企業との提携も順調な印象で、第2期決算にも注目したい。

※官報に掲載された決算公告に関する記事は「自動運転・MaaS企業 決算まとめ」から閲覧頂くことが可能です。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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