「ブレインオフ」とは?自動運転レベル4に相当(2023年最新版)

レベル4ならドライバーは寝ることができる?



自家用車におけるADAS(先進運転支援システム)機能の1つとして、手放し運転を可能にする「ハンズオフ」が浸透し始めてきた。また、このハンズオフ技術をいっそう進化させ、よそ見が可能になる「アイズオフ」も市場化を始めている。


このアイズオフが、俗に自動運転レベル3と言われる初歩の自動運転技術となる。現段階における自家用車の自動運転関連技術としては最高峰に位置付けられている技術だ。

では、このアイズオフをさらに進化させるとどうなるのか。答えは、自動運転レベル4に相当する「ブレインオフ」だ。

ブレインオフとはどのような状態・技術を指すのか。その謎に迫っていこう。

【参考】関連記事としては「自動運転レベルとは?(2023年最新版)」も参照。


【参考】関連記事としては「自動運転、レベル4とレベル5の違いを解説(2023年最新版)」も参照。

■ブレインオフとは?
ブレインオフは「脳を休ませる」

「ブレインオフ(brain-off)」を単純に訳すと、「脳のスイッチを切る」ことを意味する。言い換えれば、「脳を休ませる」ことになる。ブレインオフと同様に用いられる言葉として「ブレイン・フリー」や「ドライバー・フリー」があり、「脳(運転手)を自由にさせる」といった意味合いで捉えても良さそうだ。

自動車を手動運転する際、ドライバーは視覚を中心に感覚を研ぎ澄まし、周囲の状況を把握しながら走行する。進行方向の車両や歩行者、道路や信号の状況、現在位置などを常に把握し、これらの情報を脳で解析しながら安全な走行を実現している。

言うまでもないことだが、走行中に脳を休ませる・自由にさせるといった行為は即事故につながるため厳禁だ。運転においては「脳」の機能が必須となるのだ。


この脳を休ませるためには、これに代わる機能を備えなければならない。それがAI(人工知能)であり、自動運転システムだ。

自動運転システムはカメラやLiDARなどのセンサーが目の役割を担い、そしてAIが脳の役割を担うことで運転操作を代替する。この自動運転システムが一定の精度・完成度に達することで、人間による手動運転を必要としない自動運転を行うことが可能になる。

自動運転により、従来のドライバーが脳を使うことなく安全走行を行うことができる状態・レベルが「ブレインオフ」となるのだ。

■ブレインオフが可能な自動運転技術の水準
レベル2相当のADAS「ハンズオフ」

では、実際にブレインオフが可能となる自動運転の水準はどのようなレベルなのか。

自動運転技術の基礎となるADAS(先進運転支援システム)が高度化すると、まず「ハンズオフ」運転が可能になる。

手動運転において、車両の前後の動きを支援するアダプテッドクルーズコントロールと左右の動きを支援するレーンキープアシストといったシステムが一定水準に達することで、運転中のドライバーがハンドルから手を離すことが可能になるのだ。

ただし、あくまで運転支援システムのため、ドライバーは常に車両周囲の状況に目を配らねばならず、必要に応じて即座にハンドルを握り、車両を制御しなければならない。これは自動運転レベル2(レベル2+)の段階であり、自動運転ではない。

【参考】ハンズオフについては「「手放し運転」が可能な車種一覧(2023年最新版)」も参照。

ハンズオフが進化しアイズオフへ
レベル3搭載のホンダの新型LEGEND=出典:ホンダプレスリリース

この技術を磨き上げ、さらに高度化していくと「アイズオフ」運転が可能になる。運転中、ドライバーは進行方向の監視を行うことなく、「目をはなす」ことが可能になるのだ。例えば、走行中にスマートフォンや車載ディスプレイを操作することなどが許される。

このアイズオフが自動運転の入り口となる。道路の種別や走行速度など、一定条件を満たせば自動運転が可能となり、ドライバーは車両周囲の常時監視義務を免れる。一般的に、このアイズオフが可能な技術水準を自動運転レベル3(条件付運転自動化)と呼ぶ。

ブレインオフとアイズオフの違いは、脳を休ませることができるかどうかだ。アイズオフは目を休ませることができるものの、脳を休ませることができない。その理由は、自動運転が条件付きなためだ。

自動運転が可能な条件・領域=ODD(運行設計領域)を満たしていても、自動運転システムの作動状況によりドライバーに手動運転を要請(テイクオーバーリクエスト)することがあるのだ。この要請が発せられたら、ドライバーは直ちに車両周囲の状況を把握してハンドルを握り、運転操作を行わなければならない。

つまり、アイズオフにおいては、システムの要請に応じてすぐに運転を行える態勢をとっていなければならないため、ブレインオフ=脳を休ませることはできないのだ。

アイズオフが進化しブレインオフへ

このアイズオフ(レベル3)の技術がさらに進展し、手動運転要請が行われない技術領域に達すると、ブレインオフが可能になる。一般的に、ブレインオフが可能な技術水準を自動運転レベル4(高度運転自動化)と呼ぶ。

レベル4は、ODD内においては自動運転で走行を完結することが求められる。手動運転要請は原則認められず、万が一走行継続が不可能となった場合は、自動で車両を停止し、安全な状態を保つことが求められる。

つまり、レベル4による自動運転中においては、ドライバーに運転が要請されることがないため、ブレインオフ=脳を休ませることができるのだ。

■ブレインオフとODD
自動運転サービスではドライバーレス走行が可能に

バスやタクシーといったサービス用途であれば、走行経路のすべてをODDに収めることで、ドライバーレスの無人による運転が可能になる。ODD内においては原則ドライバーが不要となるからだ。

サービス事業者は、管制センターのような拠点から遠隔監視を行う。運行管理や不慮の事故などに迅速に対応することが主目的のため、常時監視する必要もなく、1人が複数台を同時に管理することも可能になる。

現在、各地で実用化に向けた取り組みが進められている自動運転バスなどの多くは、このレベル4に相当する。

自家用車では高速道路が第一段階に?

自家用車においては、現在一部の車種がアイズオフ=レベル3を可能にし始めた段階だが、並行してレベル4実用化に向けた取り組みも進められている。

自家用車の場合、レベル3同様基本的に手動運転と自動運転が混在することになる。ODD内のみ自動運転が可能となるが、平時は手動運転が必要となるからだ。このため、従前どおり運転免許を保有するドライバーが必要となる。

どのような条件下で自動運転を可能とするかは開発各社によるところだが、おそらく多くの場合レベル3の延長線上として高速道路をはじめとした自動車専用道路をODDとするものと思われる。

高速道路は走行速度こそ速いものの障害となる歩行者などの混入がなく、複雑な交差点もない。比較的自動運転を実現しやすい環境にあるのだ。

課題は、万が一の際の安全確保だろう。何らかの原因により自動運転が継続困難となった際、車両を安全に停止することが求められるが、高速道路の路肩(路側帯)は道路交通法の定めにより原則駐停車禁止となっている。

故障時などやむを得ない場合は例外となるが、ハザードを点灯し、三角表示板や発煙筒などで後続車に存在を知らせるなど、追突事故を防ぐ措置が求められる。可能であれば、乗員は安全に留意しながら車両を離れ、ガードレールなどの外側に避難することも推奨されている。

自動運転でどこまで対応できるかに焦点があたるが、すべてに対応することは困難であると思われる。できればパーキングエリアなどまで退避する安全性能が欲しいところだが、どういった基準で実用化の道を開いていくのか、要注目だ。

■ブレインオフ(レベル4)におけるセカンダリアクティビティ
レベル4では寝ることが許されるか?

ブレインオフ=レベル4では、ドライバーにどこまでのセカンダリアクティビティ(運転以外の行為)が許されるのか。

今のところ明確な定めはないものの、ドライバーレスを実現可能な技術水準のため、普通に考えれば車内でさまざまな行為を行えるように思える。

スマートフォンなどの操作はもちろん、ゲームや仕事、食事などもある程度許容されるのではないだろうか。すぐに手動運転に戻る必要がないため、ドライバーには比較的自由なセカンダリアクティビティが認められ、移動時間を有効活用できるのではないだろうか。

しかし、不安要素はある。例えば、天気の急変だ。急なゲリラ豪雨などにより、一時的に自動運転システムがODDを外れることも考えられる。天候条件もODDの構成要素として重要な位置を占めているが、天気の急変には逆らえない。

こうした際、自動運転システムはテイクオーバーリクエストを発しつつ、車両を安全に停止するよう制御を始めるものと思われるが、あくまで故障ではないため、高速道路走行時であれば路肩に車両を停止するのは明確な違反となる。

可能であればドライバーがテイクオーバーリクエストに応じ、ハンドルを握る方が望ましいことは言うまでもない。

こうした点を考慮すると、自家用車におけるレベル4のセカンダリアクティビティには意外と重い制限が課せられる可能性もありそうだ。睡眠など、まさに「脳を休ませる」ような行為は禁止事項となるかもしれない。

そう遠くない将来、国内の有識者会議や国連自動車基準調和世界フォーラム(WP29)などで基準が明確化されるものと思われるが、インテル傘下のモービルアイは早ければ2024年にも中国市場でレベル4自家用車を発売する計画を明かしている。

モービルアイが定めるODDや国際基準策定に向けた動きなど、要注目だ。

【参考】モービルアイの取り組みについては「自動運転で未知の領域!「市販車×レベル4」にMobileyeが乗り出す」も参照。

■【まとめ】自家用車におけるレベル4 議論の行方に注目

レベル4は大半がサービス用途として開発が進められているため、ブレインオフを意識することはしばらくなさそうだが、自動運転における各レベルの特徴を端的に表すものとして、ハンズオフ、アイズオフなどとともにしっかりと覚えておきたい。

また、自家用車におけるレベル4がどのような形で実現するか、セカンダリアクティビティがどのように許容されるかも非常に興味深いところだ。各社の動向や国際基準の動向などに引き続き注目だ。

【参考】関連記事としては「「アイズオフ」とは?自動運転レベル3の段階」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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