自動運転とTOR(2022年最新版)

レベル3では必須技術に



自動運転と手動運転が混在する自動運転レベル3の実用化が加速している。一定条件下で自動運転を行うが、作動継続困難となる際にはドライバーに運転交代を要請する。いわゆる「テイクオーバーリクエスト(TOR)」だ。


この記事ではTORに焦点を当て、その必要性・重要性について解説していく。

■TORとは?
自動運転システムが運転交代を要求

TOR(テイクオーバーリクエスト/Take-Over Request)は、自動運転システムがドライバーに対し手動運転への運転交代を要請することを指す。テイクオーバーは「引継ぎ」を意味し、これをリクエスト=要求するものだ。同様の意味で「Request to Intervene(RTI)」が使用される場合もある。

TORは主に自動運転レベル3で使用される。レベル3は自動運転システムとドライバーが混在し、自動運転と手動運転が入れ替わる要素を含むためだ。


レベル3の自動運転システムは、例えば「高速道路を時速80キロ以内で走行中」といった具合で作動条件となるODD(運行設計領域)が明確に示される。このODDを満たす走行環境にある時、ドライバーは自動運転システムを作動させることができるのだ。

自動運転システム作動後、ドライバーはアイズオフ運転が可能になるなど一定のセカンダリアクティビティが許容される。その後、高速道路の出口が近付くなど走行する環境がODDを外れる際、またはODD内であっても何らかの理由で自動運転システムが作動継続困難と判断した際にTORを発し、ドライバーに手動運転を要請する。

レベル3においてTORが出された際、ドライバーは速やかにそのリクエストに応答し、運転操作を行わなければならない。TORに応じない場合、自動運転システムは緊急措置としてリスクを最小化するMRM(ミニマルリスクマヌーバー/Minimal Risk Maneuver)対応を行う。

【参考】関連記事としては「自動運転における「ミニマム・リスク・マヌーバー(MRM)」とは?」も参照。


TORはレベル3に必須

自動運転は、自動運転システムごとに開発者が任意で設定したODD内において作動する。ODDは、高速道路や一般道路など道路の種別による道路条件や、都市部や山間部、仮想的に任意で線引きした地理的境界線(ジオフェンス)内といった地理条件、天候などの環境条件、速度制限やインフラ協調の有無といったその他の条件で構成される。

これらの各条件を満たした際に自動運転システムは作動するが、1つでも条件から外れる状況になれば自動運転は継続不能となり、基本的に解除される。ドライバーの存在を前提としないレベル4の場合、自動運転システムは車両を路肩に停止するなど安全を確保するまで責任をもって自動走行を行う。

一方、レベル3はドライバーの存在を前提としているため、TORを発して手動運転を要請することになる。その意味で、TORの重要性は自動運転と手動運転が混在するレベル3で最も増すことになると言える。

【参考】ODDについては「自動運転とODD(2022年最新版)」も参照。

TORはどのように発せられるのか

自動運転システムがまもなくODDを外れると判断した際、またはODD内であっても作動継続が困難と判断した際などに、ドライバーに向けTORを発する。

多くの場合、警告表示や音声で手動運転への交代を要請し、それに応じない場合、徐々に音や表示点滅を強めるなどし、早期交代を促す。それでも応じない場合、システムは緊急措置として周囲の車両に注意喚起しながら減速を開始し、車線内や路肩などに停止する。リスク最小化に向けMRMを実行するのだ。

例として、ホンダ「レジェンド」に搭載されたレベル3システム「トラフィックジャムパイロット」を挙げると、まず通知音や音声で自動運転の終了を告知し、表示灯がブルーからオレンジに代わる。これに応じなかった場合、シートベルトを振動させるなど視覚、聴覚、触覚によって段階的に警告を強めていく。

それでも応じない場合は緊急時停車支援機能が発動し、ハザードランプとホーンで周辺車両へ注意を促しながら減速・停車を支援する。路肩がある場合は、左側の車線に向かって減速しながら車線変更を支援する。

【参考】関連記事としては「ホンダの自動運転、チーフエンジニアが「秘密」明かす」も参照。

また、自動運転システムによっては、ドライバーが正常な状態でないと判断した際にもTORを発し、手動運転を促すとともに緊急措置を行うことがある。分かりやすい例を挙げると、自動運転システム作動中にドライバーが運転席を離れるケースなどだ。

レベル3では、ドライバーはTORに対し迅速に応答する義務がある。この義務を果たせないと自動運転システムが判断した場合、ODD内であっても警告を発し、すぐに手動運転に移行できる体勢を求めるのは必然と言える。状況によってはゆっくりと自動運転を解除し、緊急措置として車両を停止させる必要もあるだろう。

こうした判断には、ドライバーモニタリングシステムが活用される。車内カメラでドライバーや乗員などを適時監視し、頭の傾きやまぶたの動きなどを検知する。居眠りなどの状態を確認した際は、警告音などを発する。

レベル3は、自動運転とはいえ完全なものではなく、TORに対しドライバーが迅速に応えることを前提としたシステムとなっている。この前提条件を崩す可能性がある行為に対してもしっかりと警告を発し、安全を確保しながら手動運転への移行や緊急停止などを行う必要がある。

レベル3以外で使用されることも

TORはレベル3に必然のシステムだが、それ以外のレベルでも使用されることがある。例えば、ハンズオフ運転を可能にする高度なレベル2だ。ハンズオフはハンドルから手を離した状態で運転することが可能なだけであり、運転主体・運転の権限はあくまでドライバー側にあるが、ハンズオフ終了時、運転支援を中断または弱めるためしっかりハンドルを握ってもらうよう、TORを発するケースがある。

また、レベル4も然りだ。レベル4はドライバーの存在を前提とせず、ODDを外れる際も自動運転システムが最後まで責任を持つものだ。

ただ、多くの場合、遠隔地などにいるオペレーターが万が一に備え迅速に監視・操作できる体制を整えている。実証はもちろん、サービスインしているものもまだまだ不確定要素が多く、遠隔監視・操作のレベル3と同様、自動運転システムがTORを発した際はオペレーターが迅速に介入できるよう備えているケースが多いようだ。

■【まとめ】レベル2へのTOR搭載も増加?

レベル3で必須となるTORだが、レベル2の高度化に伴いADAS(先進運転支援システム)車両への搭載が今後増加する可能性もある。ハンズオフなどの各機能を過信し、怠慢な運転を行うドライバーが存在するためだ。実際、海外では悲惨な事故が複数確認されている。

レベル2車両にドライバーモニタリングシステムやTOR、緊急停止システムを搭載するのも意義深いものとなりそうだ。コストは上がるものの、普及が進むことで技術の高度化が進み、ドライバーにとってもなじみのシステムとなってレベル3への移行につながりやすい。何より重大事故の減少につながる。

自動運転システムに付随する技術だが、交通事故抑制効果の観点からもその普及に期待が寄せられるシステムと言える。

【参考】関連記事としては「自動運転レベル3とは?」も参照。

■関連FAQ
    レベル3車両は市販されている?

    レベル3市販車は、2021年3月発売のホンダ「レジェンド」に初搭載され、その後2022年4月にメルセデス・ベンツが「Sクラス」などにオプション設定した。今後、BMWやボルボ・カーズなどが追随する予定だ。なお、レジェンドはリース限定100台で、すでに販売は終了している。

    レベル3はどういった条件で自動運転ができる?

    2020年の国際基準成立時は、高速道路渋滞時に時速60キロ未満、車線変更なしなどの条件が付されていたが、2022年までに速度上限130キロ、車線変更も可能となるなど、条件は緩和されている。今後登場するレベル3車両が、こうした基準をどこまでクリアするか注目が集まるところだ。

    レベル3で自動運転中、ドライバーは何ができる?

    運転操作以外にドライバーに許容される行為をセカンダリアクティビティという。法律上、レベル3では今のところスマートフォンやカーナビなどの閲覧・操作に限られる。やや厳しめに規制されている感が強いが、読書や食事など、どういった行為が許されるべきか、今後本格的な検討が始まる可能性が高い。

    TORを無視し、緊急停止した後はどうなる?

    TORを無視し続け車両が停止した際、システムはドライバーに異常があったものとみなし、関係機関に自動通報して救急車の手配などを行う。そのため、意図的に無視し続けた場合やぐっすりと居眠りをしてしまった場合、想像以上の大事となる。また、必ずしも安全な路肩などに停車されるとは限らず、場合によっては本線上で停止することもある。緊急停止システムはあくまで緊急時の措置であることを肝に命じる必要がある。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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