ホンダの自動運転、チーフエンジニアが「秘密」明かす

世界初「レベル3市販車」誕生させた技術



出典:Ian Muttoo / Flickr (CC BY-SA 2.0)

「トラフィックジャムパイロット(渋滞運転機能)」=TJP=を開発し、世界に先駆けて量販車への自動運転レベル3搭載を実現したホンダ。2番手として追随したメルセデス・ベンツは1年遅れとなっており、その社会実装のスピード感と堅実さがいっそう際立っている。

技術開発力が高く評価されるホンダだが、その開発秘話が、公益財団法人「日本学術協力財団」が発行する「学術の動向」に収められている。







「世界で初めてレベル3の型式指定を受けた自動運転技術の概要」と題し、ホンダの先進技術研究所AD/ADAS研究開発室でエグゼクティブチーフエンジニアを務める波多野邦道氏と、第1ブロックチーフエンジニアを務める加納忠彦氏が著したレポートだ。

この記事では、同レポートの中身を紹介していく。(以下のURLからレポートの内容を確認できる。この記事ではレポートをサマリー的に解説するが、実際のレポートでは図表なども使用しながら説明されているので、以下のURLからぜひレポート本体も閲覧してみてほしい)

▼世界で初めてレベル3の型式指定を受けた自動運転技術の概要
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/27/2/27_2_70/_pdf/-char/ja

【参考】関連記事としては「自動運転レベル3とは?」も参照。

■TJP開発における技術的な要点

トラフィックジャムパイロットについてホンダは、公式サイトで以下のように説明されている。

ハンズオフ機能付車線内運転支援機能で走行中、渋滞に遭遇すると、一定の条件下でドライバーに代わってシステムが周辺を監視しながら、アクセル、ブレーキ、ステアリングを操作する機能。システムは先行車の車速変化に合わせて車間距離を保ちながら同一車線内を走行、停車、再発進します。ドライバーはナビ画面でのテレビやDVDの視聴、目的地の検索などのナビ操作をすることが可能となり、渋滞時の疲労やストレスを軽減させます。(出典:https://www.honda.co.jp/factbook/auto/LEGEND/202103/P07.pdf

また主な走行環境条件ついては、以下が挙げられている。

  • 高速自動車国道、都市高速道路及びそれに接続される又は接続される予定の自動車専用道路(一部区間を除く)
  • 強い雨や降雪による悪天候、視界が著しく悪い濃霧又は日差しの強い日の逆光等により自動運行装置が周辺の車両や走路を認識できない状況でないこと
  • 自車が走行中の車線が渋滞又は渋滞に近い混雑状況であるとともに、前走車及び後続車が自車線中心付近を走行していること
  • 自車の速度が自動運行装置の作動開始前は時速約30キロ以下、作動開始後は時速約50キロ以下であること
  • 高精度地図及び全球測位衛星システム(GNSS)による情報が正しく入手できていること
  • 正しい姿勢でシートベルトを装着していること
  • アクセル・ブレーキ・ハンドルなどの運転操作をしていないこと

上記の情報を前提に以下のレポートのサマリーを読んでいくと、理解が進みやすい。

自車位置推定と走路判定の技術

自動運転システムの作動条件となるODD(運行設計領域)において、走行環境条件として定めた道路状況や地理的状況を適切に判断するためには、高精度地図や衛星測位による位置情報だけではなく、複数の車載センサーも使用するという。

【参考】関連記事としては「自動運転とODD」も参照。

自車位置推定においては、さまざまな技術を活用して階層的に事項を比較することで走路の誤判定を回避し、高速道路や自動車専用道以外でのシステムの作動を確実に防止するとしている。

具体的には、GNSS(衛星測位システム)による絶対座標と高精度地図による白線や標識、カメラが映し出す白線や標識、タイヤの車輪速度や3軸G・3軸角速度を活用すると説明されている。

まず、自動運転ECU(Electronic Control Unit)内の処理においては、GNSSの情報と高精度地図を自車位置の特定に使用する。トラフィックジャムパイロットは、GNSS測位に加えて準天頂衛星システムみちびきのSLAS(サブメーター級測位補強サービス)とSBAS(衛星航法補強システム)に対応しており、精度の向上を図っている。

高精度地図は、ドライバー向けの一般ナビケーションで用いられる地図と比べ対地精度が非常に高く、道路上に存在する白線や路肩の位置、形状、種別に関する情報なども格納されている。

このGNSSと高精度地図によって特定した大局的な位置情報を、フロントガラス内側上部に搭載したカメラが映し出す白線の位置や形状、種別などとマッチングし、局所的な自車位置を特定する。

さらに、四輪の車輪速センサーや6軸慣性センサーを用いて自車の速度や角速度などの運動状態や走行軌跡を推定し、局所的な自車位置の精度を向上させて自車位置と走路判定を行う仕組みだ。

【参考】関連記事としては「自動運転向け地図・マップ解説」も参照。

また、地図ECUが処理したナビゲーション用の地図と位置情報の結果と比較することで、走路の誤判定を回避し、高速道路や自動車専用道以外でシステムが作動するのを確実に防止するという。

外界認識機能

自動運転システムには、自律して自車周辺における全方位の車両や静止物、道路構造物などの周辺環境を高精度かつ外的要因の影響を受けにくいロバスト性をもって認識することが求められる。この外界認識技術を担うのがカメラなどの各種センサーだ。

【参考】関連記事としては「自動運転車向けセンサー一覧」も参照。

外界認識システムは、カメラやミリ波レーダーLiDARといった異なる特性を持つ複数のセンサーで構成するのが一般的で、各センサーの特徴を組み合わせたり、シーンに合わせて使用するセンサーを選択したりすることで高精度認識を実現する。

単に同様のセンサーを複数配置する冗長化だけでなく、原理の異なるセンサーによって多重化を図ることで共通要因による性能限界へのロバスト性を持たせるとしている。

各センサーで認識する情報には、それぞれ検出原理に起因した誤差の分布が存在する。例えば、ミリ波レーダーは車両の前後方向における検出対象との相対速度や前後方向の位置精度が横方向に比べ優れている。一方、LiDARは検出対象の形状や横方向の位置精度が前後方向の精度に比べ優れた傾向にあるという。

これらの情報をそれぞれカメラで捉えた画像情報とフュージョンし、どの物体同士が同一物体であるかを判定することで、双方の優位性を生かした高精度の周辺環境認識が可能になる。

また、単一のセンサーでは周辺物体情報に瞬間的なノイズが混入することで生じる異常値が含まれる場合があるが、単一センサーだけではなく複数センサーを用いた異常値検出も実施することで、算出した周辺物体の移動経路の類似性を比較する判定を行うこともできる。

こうした高精度でロバスト性の高いセンサーフュージョン技術を構築し、さまざまな環境条件に適合させることで自動運転システムに求められる高い外界認識性能を実現している。

緊急時停車支援機能

自動運転システムによる運転とドライバーによる手動運転が混在するレベル3では、自動運転システムが手動運転要請(テイクオーバーリクエスト)を発した際は、ドライバーは直ちに運転操作を引き継がなければならない。

ドライバーに引き継がれないまま自動運転システムが限界に達した場合、その車両は正常な制御を失い、事故を起こす可能性が非常に高まる。このため、テイクオーバーリクエストが不成立となった場合、リスクを最小化し車両を停止することが求められる。レベル3では必須の技術だ。

ホンダは2017年、SIP-adus実証実験において運転交代に対応した制御継続と機能冗長設計が必要であることを提言しており、2020年の型式指定の際、この提言内容を緊急時停車支援機能として実現させたという。

テイクオーバーリクエストは、ドライバーが確実にリクエストを認知できるよう、視覚(表示)・聴覚(音)・触覚(振動)といった複数の手段を用いて通知する。リクエスト発出後、一定時間以内に応答しなかった場合に緊急時停車支援機能が起動する。ハザードランプを点滅させ、ホーンを吹鳴させるなど周囲に通知をしながら緩やかに減速し、最終的に自車を停車させる。

走行している自車線の左側に路肩などの十分な空間が存在する場合は、車線外に退避してから停車させる機能も備えている。故障が発生している際も作動するよう各機能を冗長構成としており、1系統が故障して機能失陥してももう1系統で機能継続が可能という。また、停止後も不用意に車両が動かないよう、自動でパーキングブレーキをかけ、シフトバイワイヤシステムによってシフトポジションを「P」に変更するほか、ヘルプネットでコールセンターへ接続する。外部からの救助へ配慮し、ドアロックの解除も行う。

■今後の課題

今後、運転交代要請を必要としないレベル4に向けた進化の過程を想定すると、走行可能な領域の拡大と実施可能な機能を拡張する個人の移動向けと、限定領域下で自動化レベルを向上させることでヒトの関与を少なくしていく移動サービスの両面からの取り組みがあるとしている。

機能追加の課題

現在のレベル3は走行環境条件を高速道路における渋滞時に限って実現したため、今後は速度上限の拡大や車線変更などへの拡張が期待される。技術的には、より遠方の障害物に対する認識技術の向上や、隣接車線へも対応した危険回避能力の向上などさまざまな状況に応じた安全性の担保が必要になるとしている。

走行環境拡張の課題

走行可能な地域や国を拡張するには、高精度地図の追加だけではなく、その地域特有の走行環境へ適合することが重要となる。一般道への拡張には、信号や交差点など複雑な走行環境への対応や、緊急車両の認識と路肩への退避、一次的な交通規制による警察官や警備員の誘導への対応など、さまざまな状況に対する認識・判断技術の構築が必要となる。

さらに、一般道には多種多様な交通参加者が存在するため、それぞれに対応した危険回避技術の構築が重要となる。状況によっては危険回避が困難な場合もあるため、そうした際の安全性の考え方も明確にして社会受容性を醸成することも不可欠としている。

レベル4実現に向けた課題

車内の運転者の存在を前提としないレベル4移動サービスに関しては、旅客運送業に係る制度がどのように影響するかを整理・検討していくことや、無人車両が運行される場合における運転者と運転免許の取り扱いを制度上どのように整理するか、危険回避などの安全性基準の明確化をはじめ、実際の交通環境下で遭遇するジレンマへの対応など、倫理的側面も考慮した社会受容性醸成の仕組みづくりが必要としている。

■【まとめ】技術開発はさらに加速

国土交通省は2022年6月、国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)でレベル3に関する国連協定規則が改正されたと発表した。上限速度が時速60キロから130キロに引き上げられるとともに車線変更機能の追加も可能になったという。この改正により、レベル3は渋滞時以外でも高速道路を走行することが事実上可能となった。大きな改正だ。

ホンダは今後、こうした改正に見合うよう「トラフィックジャムパイロット」を進化させていくことになるだろう。まずは80キロ走行の実現だろうか。海外展開も視野に入れれば、ODDの拡大なども必須となりそうだ。

市場化間もないレベル3だが、さらなる進化に向け研究開発はまだまだ続く。今後の開発動向に引き続き注目だ。

【参考】関連記事としては「ホンダの自動運転戦略」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)









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